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第 7 章 聴解学習ビリーフに関する因子分析

7.1.1 因子構造

学習者の「聴解学習」ビリーフに潜在する要素を探り出するために、SPSS19.0を用いて

「聴解学習」ビリーフの56項目に対し因子分析を行った。因子の抽出には重み付けのない 最小二乗法42を用いた。因子数は、固有値431以上のものが18個あったが、スクリープロッ ト44の減衰状況(図7.1を参照)により判断し因子数は7因子とした(7因子の累積寄与率45

は42.34%である)。プロマックス回転46を行った結果、因子パターン47が0.35 に満たなか

42 因子抽出法には、主成分分析、主因子法、重み付けのない最小二乗法、重み付き最小二乗法、

最尤法がある。本研究は重み付けのない最小二乗法を用いて、解釈できる結果が得られたた め、重み付けのない最小二乗法で因子を抽出した。重み付けのない最小二乗法の特徴は、「元 のデータと因子分析のモデルから算出される共分散行列の間の差を最小にするように行うこ とである」(松尾2010、p.45)

43 固有値は、因子分析の初期解を出すときに、出てくる数値であり、各因子の全項目に対する 支配度を表す数値である。

44 スクリープロットとは、初期解の固有値を降順で並べた折れ線グラフである。この折れ線で 傾斜が緩やかになっている部分のことをスクリーと言う。このスクリーが始まる前までの固有 値の数を因子数とすることをスクリー基準と言う。

45 因子寄与率とは、ある因子で説明できる割合である。累積寄与率は、因子寄与率を因子が増 えるごとに累計していった値である。いくつまでの因子によってデータが説明できたかどうか を示す指標として利用される。

46 因子分析には、バリマックス、クォーティマックス、プロマックスなどの回転方法があり、

本研究はバリマックス回転を用いて、解釈できる結果が得られたため、バリマックス回転方法 を利用した。

85 った21項目を分析から削除し、35項目で再度重み付けのない最小二乗法とプロマックス回 転による因子分析を行った。8回の反復で回転が収束した。抽出した因子を構成する項目間 の信頼性を確認するために、クロンバックのα係数48を求めた結果、7因子ともに0.5以上 の数値であった。プロマックス回転後の最終的な因子パターンを表7.1に示す49

図 7.1 「聴解学習」ビリーフ因子のスクリープロット

47 因子パターンとは、回転後の質問項目と因子の関係を表す数値である。

48 クローンバックのα係数は、信頼性を示す係数である。因子分析をした後に、ある因子に関 わると思われる変数の間でどの程度相関があるか(内的整合性)を見るために使われるもの である。

49 質問項目は各因子において、因子パターンの値の大きいものから順に並べた。数値の太字は 因子パターンが0.35以上を示すものである。

86 表 7.1 「聴解学習」ビリーフの因子分析結果

α係数 F1 F2 F3 F4 F5 F6 F7

第1因子:聴解の効果に影響する要素への注目 35.省略や同音異義語が聴解の効果に大きく関わる。

.757

.852 .019 .074 -.01 9

-.20 5

.022 -.03

36.接続詞・副詞・助詞が聴解の効果に大きく関わる。 .633 -.01 9

4

.106 -.01 5

-.07 7

-.03 8

.301 34.話し手側の性別や、話すときの態度及び文末表現などが聴解の効果に大きく関わ

る。

.625 -.06 1

.146 -.01 7

.087 .088 -.12

33.日本語と中国語の語順・拍などの相違が聴解の効果に大きく関わる。 .554 -.03 6

7

.074 .059 .087 -.00 4

-.07

39.日本語・日本文化に関する背景知識が聴解の効果に大きく関わる。 .454 .014 -.23 5

3

.128 .055 .084 .065

37.外来語が聴き取りにくい。 .357 -.08

2

.053 .066 .065 -.04 4

.047 第2因子:聴解学習の動機や目的の保持

13.将来日本に留学したり、出張したりするために、聴解を学習する。

.765

-.211 .668 .102 .028 .090 .053 -.00

12.会話能力を向上させるために、聴解を学習する。 .052 .648 -.08 5

7

-.01 4

-.05 2

-.09 2

.116

11.聴解能力を向上させるために、聴解を学習する。 .105 .599 -.13

4

-.22 0

.129 -.06 0

.089

14.日本人の友達を作るために、聴解を学習する。 -.13

6

.569 .010 .015 -.02 0

.109 .137 17.日本語のアニメ・ドラマ・音楽などをもっと理解しやすく、楽しむために、聴解

を学習する。

.059 .562 -.09 4

.046 -.06 0

.010 -.00

16.希望する職業につくために、聴解を学習する。 -.06 5

7

.557 .113 .214 -.01 5

.038 -.17

15.聴解は試験(能力試験・学校の試験)科目の一つであるため、学習する。 .099 .436 .257 .023 .013 -.09 8

4

-.27 第3因子:伝統的な学習方法と考え方の是認 1

41.聴解の授業では学生同士の意見交換や討論などは時間の無駄である。

.686

.005 -.02 0

.663 -.02 7

-.02 3

-.07 7

.065

40.教室活動は教師を中心に行うのが効果がある。 .209 .022 .555 -.09

3

.013 .001 .109

47.テキストの内容を聴く前に、何も提示なしで直ちに聴くのは効果がある。 -.07

3

.097 .533 .140 -.17 3

-.02 0

.239

38.中国語の聴解能力が高ければ、日本語の聴解能力も高い。 .107 -.03

2

.526 -.113 .211 .029 -.08 1

87

4.数学や科学が得意な人は外国語を学ぶことは得意ではない。 -.01

8

-.01 7

.421 .154 -.00 2

.000 .138

50.教師がテキストの内容を中国語に翻訳するのは効果がある。 .249 .058 .417 -.10

4

.164 .026 .107

23.女性は男性より、若者は年寄より聴解能力が高い。 -.07

0

-.17 6

.397 .216 .199 .061 -.06 第4因子:教師と補助教材への期待 2

55.中国人の教師は日本で留学・生活した経験があるべきである。

.726

.076 .050 .048 .731 -.07 3

-.04 8

-.00

54.教師は正しい日本語の発音ができるべきである。 .058 .051 -.21 9

5

.629 .066 -.06 2

.080

56.教師は効果的な聴解の指導をすべきである。 .177 -.00

8

-.20 1

.552 .134 -.05 4

.049

53.(聴解授業を担当する)教師は日本人の教師に教えてほしい。 -.07

9

-.03 7

.166 .505 -.05 1

.108 .047

51.授業では教科書以外のものを見たり聴いたりするのは効果がある。 .099 -.01

8

.093 .358 .188 .048 -.06 第5因子:テキストの深い理解の希望 0

45.聴解の授業では語彙・文法の詳しい説明は効果がある。

.584 -.03 4

-.16 1

.067 -.00 7

.568 -.117 .323

44.聴いたテキストを丸暗記するのは効果がある。 -.10

9

.056 .259 -.02 9

.548 -.06 9

.023

46.聴く前にテキストに関する文化背景を紹介するのは効果がある。 .122 .033 -.15

8

.023 .458 -.01 9

-.15

43.教師の読み上げる日本語を聴きながら、書きとり練習するのは効果がある。 .010 .096 .091 .084 .395 .051 .058 1

42.繰り返しテキストの音声を聴くのは効果がある。 .022 .156 -.12

7

.033 .361 .073 .123 第6因子:中国語による有利さ

10.日本語の中で漢字が含まれているので、他の外国語より学習しやすい。

.782 .004 -.011 -.09 5

-.00 4

-.01 3

.907 -.01

9.中国人には他の外国語より日本語が学習しやすい。 .064 .031 .074 .030 -.09 8

3

.692 .112 第7因子:正確さ志向

24.一字一句の意味を理解できないと内容が理解できない。

.508 -.13 3

-.03 3

.312 .089 .104 .052 .554

48.間違ったところを個人的に訂正するのは効果がある。 .148 .080 .174 .093 -.02

1

-.00 7

.491

20.聴解を学習するのに最も重要なのは大量の語彙・文法を覚えることである。 -.02

6

.108 -.09 3

-.16 2

.319 .076 .429

(Fは因子factorの略語)

88 抽出された因子に高い負荷を示している項目の内容を参考にし、命名と解釈を行った。

第1因子(α=.757、6項目)は、聴解学習効果に関わる要素として、「省略」、「同音異義 語」、「語順」、「接続詞・副詞・助詞」、「外来語」のような日本語言語的特徴、話し手の「性 別」「態度」「文末表現」の特徴、母国語との相異、背景知識が挙げられる項目に対して大 きな因子パターンを示す。聴解の効果に関わる様々な要素への注目に関連する因子と解釈 できるため、「聴解の効果に影響する要素への注目」と命名した。

第2因子(α=.765、7項目)は、聴解学習の動機や目的として、「留学・出張」、「言語能 力の向上」のような「道具的動機づけ」、「就職」、「試験の合格」のような「エリート主義」

の要素を含む動機づけ、及び「友達作り」、「文化理解」のような「統合的動機づけ」が挙 げられる項目に対して大きな因子パターンを示す。多様な聴解学習の動機づけや目的を持 っている項目に関連する因子と解釈できるため、「聴解学習の動機や目的の保持」と命名し た。

第3因子(α=.686、7項目)は、「一方的に聴く練習」、「教師主導型教室活動」、「事前活 動なしの教室活動」、「翻訳」のような伝統的な学習方法、及び「母国語の聴解能力との関 連」、「学科と外国語学習の関連」、「性別・年齢と聴解能力の関連」のような従来の観念に 関する項目に対して大きな因子パターンを示す。伝統的な学習方法と考え方について肯定 的な傾向に関連する因子と解釈できるため、「伝統的な学習方法と考え方の是認」と命名し た。

第4因子(α=.726、5項目)は、聴解授業を担当する教師に対して「留学経験」「発音」

「教授法知識」、また、「ネイティブスピーカー」の要求に関する項目、及び「教科書以外 の補助教材の使用」の項目に対して大きな因子パターンを示す。教師と教科書以外の補助 教材に対する期待に関連する因子と解釈できるため、「教師と補助教材への期待」と命名し た。

第5因子(α=.584、5項目)は、学習ツールであるテキストに対して、「語彙・文法の説 明」、「丸暗記」、「書きとり練習」、「反復練習」、及びテキストに関する「背景知識の紹介」

などのような項目に対して大きな因子パターンを示す。学習者のテキストの語彙、文法、

内容に関して深く理解しようとする姿勢に関連する因子と解釈できるため、「テキストの深 い理解の希望」と命名した。

第6因子(α=.782、2項目)は、日本語を学習する際に、母語である中国語の影響で日 本語学習に有利であるという項目に対して大きな因子パターンを示す。中国語による有利

89 さに関連する因子と解釈できるため、「中国語による有利さ」と命名した。

第7因子(α=.508、3項目)は、聴解の過程において、「一字一句の理解」、「個人的に間 違い訂正」、「大量語彙・文法の記憶」のような言語の正確さを重視する項目に対して大き な因子パターンを示す。日本語の言語的な正確さの志向に関連する因子と解釈できるため、

「正確さ志向」と命名した。