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第 7 章 聴解学習ビリーフに関する因子分析

7.1.2 因子間の相関関係

89 さに関連する因子と解釈できるため、「中国語による有利さ」と命名した。

第7因子(α=.508、3項目)は、聴解の過程において、「一字一句の理解」、「個人的に間 違い訂正」、「大量語彙・文法の記憶」のような言語の正確さを重視する項目に対して大き な因子パターンを示す。日本語の言語的な正確さの志向に関連する因子と解釈できるため、

「正確さ志向」と命名した。

90 表 7.3 「聴解学習」ビリーフ因子間の相関関係

因子1:聴解の

効果に影響する 要素への注目

因子2:聴解学

習の動機や目 的の保持

因子3:伝統的

な学習方法と考 え方の是認

因子4:教師と

補助教材への 期待

因子5:テキスト

の深い理解の希 望

因子6:中国語

による有利さ

因子7:正確さ

志向

因子1:聴解の効果に影

響する要素への注目 ― .124 .035 .430 ** .297 ** .186 ** .153 * 因子2:聴解学習の動機

や目的の保持 ― .031 .247 ** .271 ** .117 .189 **

因子3:伝統的な学習方

法と考え方の是認 ― -.052 .114 .124 .262 **

因子4:教師と補助教材

への期待 ― .320 ** .159 * .061

因子5:テキストの深い

理解の希望 ― .150 * .214 **

因子6:中国語による有

利さ ― .172 **

因子7:正確さ志向 ―

*p<.05、 **p<.01

91 更に、各因子間の類似性を明らかにするために、spss19を用いてク各因子の下位尺度得 点に対してクラスター50分析を行った。「聴解学習」ビリーフの7因子を分類したデンドロ グラムを図7.3に示す。

図 7.2 「聴解学習」ビリーフ因子に関するクラスター分析の結果

表7.2示すように、「テキストの深い理解の希望」因子は「伝統的な学習方法と考え方 の是認」を除き、「正確さ志向」因子は「教師と補助教材への期待」因子を除く全てのビ リーフ因子と統計的に有意な相関関係を持ち、しかも、正の相関関係を持っていることが 明らかになった。そのうち、「テキストの深い理解の希望」因子は「教師と補助教材への

期待(r51 =.320)」、「聴解の効果に影響する要素への注目(r =.297)」、「聴解学習

50 クラスター分析(cluster analysis)は、多変量解析の一つであり、ケースがそれぞれ持つ 変数の類似性に基づき、それらを分類する。クラスター分析には「階層的方法」と「非階層 的方法」がある。前者は変数の類似性に基づき、ケースを十字に分類する。後者はケースを あらかじめ決めた数のクラスターに分類する。本研究では前者を用いた。階層的方法は分類 過程を「デンドログラム」といわれる図に表す。

51 r:相関係数

92 の動機や目的の保持(r =.271)」と「弱い相関」52が見られる。また、「正確さ志向」因 子は「伝統的な学習方法と考え方の是認(r =.262)」、「テキストの深い理解の希望(r =.214)

とは「弱い相関」を持っている。

さらに、図7.3の「聴解学習」ビリーフ因子に関するクラスター分析の結果から、Ⅰ(因

子2、因子5、因子1、及び因子4)、Ⅱ(因子6、因子7、及び因子3)の2つのクラス

ターが構成されている。すなわち、因子「聴解の効果に影響する要素への注目」、「聴解 学習の動機や目的の保持」、「テキストの深い理解の希望」、と「教師と補助教材への期 待」の類似度が高く、因子「中国語による有利さ」、「正確さ志向」、と「伝統的な学習 方法と考え方の是認」の類似度が高いことが見られた。

7.1.2.1 「聴解学習」ビリーフ因子の間における学習者の回答の分布

本節は、前述の相関関係の結果の中で、より高い相関関係を占める因子、及び中国人日 本語学習者の「聴解学習」ビリーフの特徴を表す因子の間に学習者の回答はどのような分 布をしているか視覚的に確認するため、SPSS19.0 を用いて学習者の散布図を作った。以 下では、①因子 1「聴解の効果に影響する要素への注目」と因子 4「教師と補助教材への 期待」、②因子 5「テキストの深い理解の希望」と因子 4「教師と補助教材への期待」、

③因子3「伝統的な学習方法と考え方の是認」と因子7「正確さ志向」、④因子5「テキス

トの深い理解の希望」と因子 7「正確さ志向」の 4 組の散布図を取り上げる(図 7.3~図 7.6を参照)。それぞれについて分析を行う。

52 相関係数の絶対値が、.7より大きければ「強い相関」が、.4より大きければ「中程度の相関」

が、.2より大きければ「弱い相関」があるとされる。一方、相関係数が絶対値で.2以下の場 合は通例「相関なし」と判断する。(石川 2011)

93 図 7.3 因子 1 と因子 4 の間に学習者の回答の散布図

図 7.4 因子 5 と因子 4 の間に学習者の回答の散布図 平均値4.03

平均値3.73

平均値4.03

平均値3.66

94 図 7.5 因子 3 と因子 7 の間に学習者の回答の散布図

図 7.6 因子 5 と因子 7 の間に学習者の回答の散布図 平均値3.21

平均値2.75

平均値3.21

平均値3.66

95

①因子1「聴解の効果に影響する要素への注目」と因子4「教師と補助教材への期待」

表7.3で示したように、因子1「聴解の効果に影響する要素への注目」と因子4「教師と 補助教材への期待」の相関は最も高く正の相関関係が見られる(r=.430 p<.01)。図7.3 を見ても、正の相関関係が示している。すなわち、全体の傾向としては、学習者は聴解の 効果に影響する要素を注目すればするぼど、教師と補助教材に対する期待も高くなる。し かし、この図の中でも、聴解の効果に影響する要素をそれほど注目していないのに、教師 と補助教材への期待も高いというような学習者も一部存在していることも分かった。

②因子5「テキストの深い理解の希望」と因子4「教師と補助教材への期待」

表7.3でわかるように、因子5「テキストの深い理解の希望」と因子4「教師と補助教 材への期待」の間にやや弱い正の相関があることがわかる(r=.320 p<.01)。図7.4にも その弱い相関関係を示されている。学習者はテキストを深く理解しようという希望が強く なるほど、教師と補助教材に対する期待が高くなる。しかし、彼らの中では、テキストを 深くすることを希望していなくても、教師と補助教材への期待が高いという一部の学習者 がいることもわかった。

③因子3「伝統的な学習方法と考え方の是認」と因子7「正確さ志向」

表7.3で明らかなように、因子3「伝統的な学習方法と考え方の是認」と因子7「正確さ 志向」の相関は有意であるが、前述の因子1と因子 4の相関(r=.430 p<.01)、因子5 と因子4の相関(r=.320 p<.01)に比べ弱い相関である(r=.262 p<.01)。図7.6にも 弱い相関が示されている。従来の伝統的な学習方法や考え方に賛成する学習者は、「聴解 学習」の練習の正確さを強く求めるという傾向が確かに存在するのだが、それは決して強 い傾向ではなく、「伝統的な学習方法と考え方の是認」因子3に対して強い傾向をしなが らも、「正確さ志向」因子に対して弱い傾向を持つ学習者、またその逆の学習者も存在す ること、またどちらにも中立的である学習者も少なからずいることもわかる。

④因子5「テキストの深い理解の希望」と因子7「正確さ志向」

表7.3から明らかなように、因子5「テキストの深い理解の希望」と因子7「正確さ志向」

の間に正の相関関係は見られるが、弱い相関であった(r=.214 p<.01)。図7.7を見ても、

学習者の回答の分布がやや散らばっていることがわかる。このことから、テキストの語彙

96 や文法、内容を深く理解したいという志向が強い学習者が、必ずしも「一字一句の意味を 理解できないと内容が理解できない」「間違ったところを個人的に訂正するのは効果があ る」「聴解を学習するのにもっとも重要なのは大量の語彙・文法を覚えることである。」と いうような正確さ志向が強いというわけではないことが推測できる。また、語彙や文法に こだわる学習者がいたとしても、その量にこだわる傾向と内容や意味理解などの質にこだ わる傾向必ずしも一致しないという解釈もできる。

7.1.2.2 「聴解学習」ビリーフ因子に対する学習者の傾向

前述の分析では、「聴解学習」ビリーフの7因子に対して、各学習者がどのぐらいの強 さでその因子をもっているかを調べるため、各学習者の因子尺度得点を計算した。そして さらにその得点をもとに、因子間での相関をみた。特に有意な相関がみられた因子同士の 関係については、散布図でその関係性を確認した。本節では、再び各因子に着目し、学習 者の「賛成」「反対」の傾向を詳細にみることによって、「聴解学習」に関するビリーフの 特徴を探ることにする。

分析方法は以下の通りである。7.1.2で算出し各因子の下位尺度得点を利用し、その得点 について、5.00~4.00は「強く賛成」、3.99~3.01は「賛成」、3.00は「中間」、2.99~2.00 は「否定」、「1.99~0」は「強く否定」とする。その結果は図7.7のように示す。

97 図 7.7 「聴解学習」ビリーフ因子に関する学習者の賛否比率

図7.7で示すように、第4因子「教師と補助教材への期待」に対して「強く賛成」と「賛 成」の比率は最も高く、97%である。その次に、第1因子「聴解の効果に影響する要素へ の注目」と第2因子「聴解学習の動機や目的の保持」、及び第 5因子「テキストの深い理 解の希望」である。一方、第 3 因子「伝統的な学習方法や考え方の是認」に対して、「反 対」する学習者は61%、「強く反対」する学習者は5%もいる。次に、第7因子の「正確さ 志向」について、「反対」するのは32%であり、「強く反対」の比率は19%にのぼる。

この結果から、学習者は第4因子「教師と補助教材への期待」に対して最も肯定的な考 えや意識を持っていることが見られた。したがって、聴解の授業において、教師は学習者 が望ましい教授法や教室活動を行うことにより、学習者の「聴解学習」ビリーフのほかの