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第 7 章 聴解学習ビリーフに関する因子分析

7.4 第 7 章のまとめ

110 教育はほとんどテキストを中心とするものであるため、テキストは学習過程における役割 が非常に重要であり、テキストの全部を理解することは学習に効果があると考えているた め、「テキストへの深い理解」因子は他の因子と深い関連を持っている。今後、学習者の学 習効果を改善するためには、学習者のテキストへのこういった傾向に基づき、テキストの 内容を充実し、テキストを作成する際に、効果的な聴解学習ストラテジーに関する練習を 考案するのがよいと考える。

また、「正確さ志向」因子が多くの因子と相関が見られる理由は、現行の聴解教育では聴 き取りの正確さを求められているボトムアップ式の教育方法が挙げられる。この「正確さ 志向」の因子は聴解学習において、一字一句の聴き取りに注目し、全体的な流れや内容へ の予測のような能動的な聴き方を防げるおそれがあると考える。

さらに、学習者の日本語学習歴、大学別によって「聴解学習」ビリーフの要素に差が生 じるかを明らかにするために、一次元配置分散分析を行った。その結果、3 大学のカリキ ュラムの設定や聴解の指導方法の影響で、学年別では「伝統的な学習方法と考え方の是認」

因子に有意差が出たことが明らかになった。また、3 大学で行われている聴解教育の指導 方法が異なることで、大学別で「教師と補助教材への期待」因子に有意差が生じた。この 結果から、教育側が学習者に適する聴解のカリキュラムや指導方法を制定することにより、

学習者の「聴解学習」に対するビリーフに影響する要素を変えうることが考えられる。

次に、聴解学習ストラテジービリーフでは、「能動的な聴き方志向」と「メタ認知と社会 情意ストラテジー志向」の2因子が抽出された。しかし、各因子では学年別や大学別で有 意差がなかった。

また、「聴解学習」ビリーフと聴解学習ストラテジービリーフの関連性を調べた結果、「伝 統的な学習方法と考え方の是認」因子と「能動的聴き方志向」因子、「中国語による有利さ」

因子と「メタ認知と社会情意ストラテジー志向」因子との間に統計的に有意な正の相関が 見られた。しかし、重決定係数R2の値から、聴解学習ストラテジービリーフの2因子は、

各「聴解学習」ビリーフ因子の3.7%、3.4%分しか説明できないため、検定は有意ではな いと言える。

これらの結果から、「聴解学習」ビリーフの要素と聴解学習ストラテジービリーフの要素 の間には、統計的に有意な相関関係がないことがわかった。つまり、「聴解学習」ビリーフ を支えている各要素は、聴解学習ストラテジービリーフの要素と関連性はないと言える。

111 そのため、「聴解学習」ビリーフは聴解学習ストラテジービリーフに影響しにくいことが窺 える。言いかえれば、中国人日本語学習者は新たな聴解学習ストラテジーを教えられる際 に、「聴解学習」ビリーフからの影響が少ないため、聴解学習ストラテジーに関するビリー フと合っているものが受け入れやすいのである。

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