第 3 章 中国の大学における日本語の聴解教育の現状
3.2 中国の大学における日本語の聴解教育の実態
3.2.4 聴解教育の実際の例―3 人教師に対するインタビュー調査
3.2.4.2 調査結果
以下の項目についてインタビューを行った。①聴解授業の一週間あたりの時間数;②使 用している聴解の教科書;③聴解授業の指導法、及びその指導法についての考え;④学習 者の聴解能力を向上させるための聴解指導法。
インタビューで得られた結果を以下にまとめる。
①聴解授業の一週間当たりの時間数
3大学で日本語の聴解授業は週にどのぐらいの時間が当てられているかを表3.6にまとめ た。
表 3.6 1 週間当たりの聴解授業の時間数(()内はコマ数、1コマ45分)
1年 2年 3年
A大学 6(8) 4.5(6) 3(4)
B大学 3(4) 3(4) 3(4)
C大学 3(4) 3(4) 1.5(2)
表3.6に示したように3大学とも1年次から聴解授業が設けられているが、A大学では1
39 年次から3年次までの聴解授業の時間数が週に1.5時間(2コマ)で減っている。C大学は では、1年次、2年次とも週に3時間(4コマ)の聴解授業が行われているが、3年次では 1.5時間(2コマ)に減っている。B大学では1、2、3年次とも3時間(4コマ)の聴解授 業が設けられている。3大学で4年になると聴解授業がなくなり、その代わりに「同時通訳」
の授業が開設されている。
ここで、注目したいのは C 大学における聴解授業のクラスの分け方。C大学では、新学 期が始まる際に、各学年の聴解授業は前期の聴解試験の成績に基づき、レベル別でクラス を分けている。その理由については、「以前の聴解授業では、学習者の聴解能力が異なるた め、教師は少し難しい内容を導入しようとすると、聴解能力があまり高くない学習者にと って難しすぎて、学習意欲もなくなった。逆に、少し易しい内容を導入する際に、聴解能 力の高い学習者も不満を持っているようである。そのために、本校の聴解授業は、学習者 の聴解能力のレベル別で行われている」とのことだった。これは従来の聴解授業のやり方 と異なり、中国の日本語聴解教育の分野における新たな試みと言える。
以上のことから、中国の大学で行われている聴解授業は大学によってまちまちであるこ とが分かった。現行の『教学大綱』では、聴解の到達目標について詳しく定められている が、聴解の学習時間に関する基準は設けられていない。そのため、3大学で開設している聴 解授業の時間数はまちまちである。
3年次になると聴解授業の週の時間数が減っている理由について、「学習者は3年次にな ると、日本文学、日本歴史、翻訳のような授業が増えるため、聴解授業の時間数を減らさ なければならない。」と教師A、Cは述べている。さらに、教師Aは「学習者は3年次にな ると、就職の準備をするために、聴解授業より、日本語翻訳、ビジネス日本語のような実 用的な授業が重要だと思う。そのため、学校側もカリキュラムを設置する際に、聴解授業 の時間数を減らす方針を定める。」と指摘している。
②使用している聴解の教科書
今回のインタビュー調査で、3大学で使用している教科書について尋ねたところ、A大学 は、中国で出版された教科書を利用している。B大学は、1年次に日本で作成された教科書、
2年次になると日本で作成された教科書と日本語能力試験の対策問題、3年次では本大学の 教師が作成した教科書を使っている。C大学では1、2年次はB大学と同じ、3年次では日 本語能力試験の対策問題の他、映画やアニメを利用していることがわかった。(3 大学で使
40 っている教科書の詳しくは附録4を参照)
③聴解授業の指導法、及びその指導法についての考え
3 大学の教師が担当している聴解授業の指導法は、表3.7にまとめる。表 3.7を見ると、
教師Aと教師Bの聴解授業において、共通している部分が多く見られた。それは、「単語の 解説―テキストに関する質問の回答―テキストの解説」というボトムアップ式のパターンで あり、学習者の参加が少ないことである。そして、B大学とC大学における3年生の聴解 授業では、日本語能力試験の対策の内容が導入されていることがわかった。また、教師 C の聴解授業は、日本の映画を利用し、様々な形の練習をさせ、学習者の参加が多いことが わかった。
さらに、自分の聴解指導法について、担当教師の考えや意見を聞きとった。まず、教師A は「現在の聴解授業は、伝統的な指導方法が主であり、単語、文法の説明、テキストの翻 訳、練習問題の解説などのような順番で行っている。このような授業では、学習者と教師 の間にコミュニケーションが少なく、学習者の学習意欲も低下していると思う」と述べた。
それに対して、教師B は「他の教師の指導法については知らないが、自分の指導法は最善 だと思う」と述べた。そして、教師 C は「現行の聴解授業では、学習者を自ら授業活動に 参加させる活動を取り入れているが、学習者の参加する意欲があまりないので、タスクの 完成度も高くない。その活動の効果も理想的とは言えない。学習者の学習意欲を向上させ る方法が見つからなくて困っている」と語った。
41 表 3.7 3 人教師が担当している聴解授業の内容
教師A 教師B 教師C
教 科 書
高等学校日语教材
『初级日语听力教程』
大连大学日本语言研 究中心策划『大学日语 听说教程』
・映画「それでも僕はやってい ない」
・アニメ「隣の山田君」
・N1模擬試験と過去問題の練習
学年 1年生 3年生 3年生
日 本 語 能 力
初級 中・上級 中・上級
授 業 の 内 容
①単語の音声を聞か せ、解説する
②テキストの音声を 聞かせ、質問につい て答えさせる
③テキストの中の文 法項目を説明する
④文単位で聴かせ、テ キ ス ト の 内 容 を 翻 訳する
⑤テキストの全体を 聞かせ、リピートさ せる
⑥日本のドラマを見 せる
①単語の音声を聞か せ、解説する
②テキストの音声を 聞かせ、質問につい て答えさせる
③テキストを翻訳す る
④ 日 本 語 能 力 試 験 N1、N2の模擬試験 をやらせ、解説する
⑤日本のドラマを見 せ、内容を口頭で要 約させる。その後翻 訳する
①映画「それでも僕はやってい ない」の全体を見せる
②映画について感想を話し合う
③ 各 シ ー ン に つ い て 解 説 す る
(単語、文の翻訳)
④説明したシーンを繰り返し、
一部のセリフをリピートさせ る
⑤映画全体の解説の後、グルー プでロールプレイをさせる
⑥日本語能力試験 N1 の模擬試 験や過去問題を宿題としてや らせる
④学習者の聴解能力を向上させるための聴解指導法
聴解授業の担当教師として、学習者の聴解能力を向上させるための聴解指導法について、
教師Aは、「日本のニュース、ドラマ、番組のようなものを見せたり、聴かせたりするのが 最も効果があると思う。しかし、現在の聴解授業は、教材の内容を中心にして行われてい
42 るため、他の補助教材の内容を解説する時間がほとんどないため、実現するのが難しいと 思う。そのため、聴解教材の中では日本のドラマやニュースのような内容を導入するのが 良いではないか。」と述べた。教師 B は、「日本のドラマ・番組のような日常生活に近いも のを見せたり、聴かせたりするのが効果的である。」と語った。そして、教師 C は、「ロー ルプレイのような学習者が自ら参加できる教室活動が効果的だと思うが、学習者の学習意 欲を高めるために、学習者の関心を持っている場面の選択や教師の指導方法が重要な役割 を果たしていると考える。」と述べた。