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第 8 章 結論と今後の課題

8.3 今後の課題

本研究では、1.2 で挙げた研究課題①、②を通じて、中国人日本語学習者の聴解学習ビ リーフの傾向を明らかにし、聴解教育を改善するための基本的な研究をしたが、今後さら に研究を発展させるために、次の4点を今後の課題として挙げておきたい。

①教師と学習者の聴解学習ビリーフの比較検証。

中国における日本語教育の現場では、教師の役割が不可欠であり、教師の聴解に関する ビリーフは教師の指導法に影響を与えると考えられる。したがって、教師と学習者の聴解 学習に関するビリーフの差が生じた場合、聴解の学習効果に影響を与える可能性がある。

より効果的に学習活動を促すためには、学習者と教師の持つ聴解学習に関わるビリーフの 違いを明らかにすることが重要であると考える。そのため、今後、教師を対象とする聴解 学習ビリーフに関する調査を行い、それを学習者の聴解学習ビリーフと比較することによ り、聴解教育に対して有益な示唆を得られると考える。

②聴解学習ストラテジーの実態調査。

今回の聴解学習ストラテジービリーフ調査を通じて、学習者の聴解学習ストラテジーに 関するビリーフの傾向を把握することができたが、実際の聴解教育現場で学習者はどんな

119 聴解学習ストラテジーを使用しているか、観察する必要がある。実際に使用する聴解学習 ストラテジーと聴解学習ストラテジービリーフとの間に差が存在するかどうかについて検 証することにより、聴解学習ストラテジービリーフは実際の聴解学習ストラテジーの使用 状況に対してどのような影響を与えるかを明らかにすることができると考える。

③調査票の充実と質的調査。

今回の調査で利用した聴解学習ビリーフ調査票はHorwitz(1987)のBALLI調査票、

及び聴解に関する先行研究(尹2001b、2005)、横山(2008)などを参考に作成したもの である。調査票における言葉遣いや、分類の仕方により、得られた調査結果は異なってく るため、今後より信頼性の高い調査を行うためには、各調査票の項目について再検討する 必要があると考える。

さらに、今回は調査票を用いて量的調査により、中国人日本語学習者の聴解学習ビリー フの全体的な特徴を見だし、ビリーフに影響する要素を明らかにした。しかし、学習者の 持つビリーフは心理的なものであり、個人的な要素の影響が大きいため、個々の学習者の ビリーフの特徴を見だすために、量的調査には限界がある。そこて、今後、中国人日本語 学習者の聴解学習ビリーフの特徴をより詳しく調べるために、個人に対する質的調査が必 要であると考える。

④中国人日本語聴解能力が低い要因の解明。

本研究のきっかけとなったのは中国人日本語学習者の聴解能力が他の言語能力と比べ、

相対的に低いと多くの研究で指摘されていたことである。その問題を改善するために、先 行研究では学習者の聴解プロセスの解明や、聴解学習ストラテジーに関する指導法の検証 に注目していた。しかし、この問題の根本的な要因は、学習者の聴解学習に対するビリー フにあるのではないかと考え、学習者が抱く聴解学習に関するビリーフを解明することが 聴解教育の前提となる必要があるという観点から、本研究を始めた。

本研究では、中国人日本語学習者の聴解能力の低い問題を解決するには、直接に検証で きなかった。しかし、このような学習者の聴解学習に関するビリーフの傾向を把握するこ とは、現行の聴解指導法や、教室活動の改善につながることができる。それにより、彼ら の聴解能力を向上させるために一助になると考える。今後、中国人日本語学習者の聴解能 力に影響する要素を深く探り、彼らの聴解能力の問題の原因を明らかにする。

120 今後の研究として、上記の課題についてさらに追及すると考える。

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