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第 7 章 聴解学習ビリーフに関する因子分析

7.1.3 学年別と大学別で差が出た「聴解学習」ビリーフの要素

この節では、学習者は日本語学習の経験により、「聴解学習」ビリーフの要素に差を調べ るために、7.1.2の因子の下位尺度得点を利用し、学年別の平均値の差について一次元配置 分散分析を用いて検定した。その結果は表7.4に示す(網かけの部分は、有意差がある項 目である)。

99 表 7.4 学年別の平均値、標準偏差、及び分散分析の結果

M SD M SD M SD M SD

聴解の効果に影響する要素へ

の注目 3.73 0.56 3.79 0.54 3.74 0.58 3.65 0.56 1.33 聴解学習の動機や目的の保持 3.66 0.57 3.68 0.62 3.67 0.56 3.62 0.52 0.26 伝統的な学習方法と考え方の

是認 2.75 0.54 2.61 0.47 2.86 0.54 2.76 0.59 4.51 * 教師と補助教材への期待 4.03 0.55 3.97 0.55 4.03 0.56 4.09 0.54 0.84 テキストの深い理解の希望 3.66 0.50 3.70 0.46 3.58 0.54 3.70 0.49 1.59 中国語による有利さ 3.27 0.95 3.32 1.00 3.42 0.83 3.08 0.99 2.83

正確さ志向 3.21 0.71 3.23 0.57 3.09 0.69 3.30 0.84 1.84

*p< .05

因子 合計 1年 2年 3年

F値

表7.4で示すように、一次元配置分散分析によって学年別の「聴解学習」ビリーフの要 素を比較した結果、有意差が認められたのは「伝統的な学習方法と考え方の是認」因子の みである(F(2,241)=4.51, p.05)。さらに、学年別の平均値から見ると、2年生(M=2.86)

は他の学年(1年生M=2.61;2年生M=2.76)よりやや弱い否定の傾向が見られた。

この結果から、「聴解学習」ビリーフの要素として「伝統的な学習方法と考え方の是認」

因子が抽出されたが、図7.8で示すように、この因子に対して「反対」と「強く反対」の

学習者は66%を占め、全体の傾向として、学習者はそれに対して否定的な態度を抱いてい

ることが言える。また、学年別で差が生じたのは、中国の大学で日本語を主専攻とする学 習者が2年後期に入り、日本語能力試験1級、2級や「大学日本語専攻四級試験」53の受 験準備が始まっていることが考えられる。今回の調査期間は4月から6月で54、2年生の 学習者は受験準備のため、聴解の授業では、教師を中心に行ったりし、翻訳したりするの が効率であると思われている学習者は他の学年よりやや多いのであろう。このことから、

学年別のカリキュラムの設定、および教育方法は、「聴解学習」ビリーフの要素である「伝 統的な学習方法と考え方の是認」に影響を与えることが窺える。

53「大学日本語専攻四級試験」は、中国の教育部高等学校外国語専攻教学指導委員会日本語組 により実施される全国的な日本語専攻試験である。「大学日本語専攻四級試験」の対象者は、

日本語を主専攻とする2年生である。毎年6月に行う。

54 中国の教育期間では、毎年の新学期は9月からで、上半期は9月~来年の1月、下半期は3 月~7月である。

100 表 7.5 大学別の平均値、標準偏差、及び分散分析の結果

M SD M SD M SD M SD

聴解の効果に影響する要素へ

の注目 3.73 0.56 3.65 0.55 3.70 0.56 3.82 0.57 2.04 聴解学習の動機や目的の保持 3.66 0.57 3.67 0.52 3.60 0.64 3.71 0.53 0.75 伝統的な学習方法と考え方の

是認 2.75 0.54 2.72 0.56 2.69 0.52 2.83 0.55 1.66 教師と補助教材への期待 4.03 0.55 3.97 0.48 3.92 0.57 4.21 0.54 6.93 * テキストの深い理解の希望 3.66 0.50 3.70 0.49 3.62 0.49 3.66 0.52 0.43

中国語による有利さ 3.27 0.95 3.26 0.94 3.13 0.92 3.43 0.97 2.15

正確さ志向 3.21 0.71 3.32 0.62 3.11 0.67 3.20 0.82 1.77

*p< .05

C校

F

因子 合計 A校 B校

表7.5で示すように、一次元配置分散分析によって大学別の「聴解学習」ビリーフの要 素を比較した結果、有意差が認められたのは「教師と補助教材への期待」因子のみである

(F(2,241)=6.93, p.05)。さらに、大学別の平均値から見ると、C校(M=4.21)は他 の学校(A校M=3.97;B校M=3.92)よりやや強い肯定の傾向が見られた。

4.2 で紹介した通り、今回の調査対象校では、それぞれの日本語教育の年数や規模が異 なり、特に3.2.4で述べたC校で行っている聴解教育は学習者のレベル別でクラスを分け て聴解授業を行うのが特徴であるため、「教師と補助教材への期待」因子において差が出た と考えられる。

この結果から、各大学で実施している聴解授業の指導方法の違いにより、学習者の教師 と教育内容への期待度が変われることが言える。

以上のことから、「聴解学習」ビリーフの要素の中で、「伝統的な学習方法と考え方の是 認」因子と「教師と補助教材への期待」因子の2因子は、各大学で各学年でのカリキュラ ムの設定や、聴解授業の指導方法の違いによる影響を受けることがわかった。言いかえれ ば、学習者に適する聴解のカリキュラムの設定や指導方法を実施することにより、聴解学 習方法や考え方、及び教師と教育内容に対する態度や観念を変えることができると考えら れる。

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