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第 7 章 聴解学習ビリーフに関する因子分析

7.2 聴解学習ストラテジービリーフに関する因子分析

7.2.2 因子間の相関関係

104 のような記憶ストラテジー(項目2,3)、及び言語的・非言語的手掛かりを使う補償スト ラテジー(項目 17、19,20)に関連する項目に対して大きな因子パターンを示す。学習 者の多様な「能動的」な聴き方を重視している姿勢が窺える。さらに、項目 23 がメタ認 知ストラテジーの一つであるが、聴解教科書以外の様々な「生」教材の必要性を重視する ものでるため、学習者の積極的な聴き方にも通じる。

これらのことから、因子1には、聴解学習の効果に役に立つ様々な聴き方の「能動性」

を求める傾向が見られるため、因子1を「能動的な聴き方志向」と命名した。

第2因子(α=.826、9項目)は、「聴解学習を計画する」のようなメタ認知ストラテジー

(項目21、22)、「他人との協力」、「質問」「自分の不安の減少」、「勇気づけ」のような社

会情意ストラテジー(項目28、29、30、32、33、34、35)に関連する項目に対して大き な因子パターンを示すため、「メタ認知と社会情意ストラテジー志向」と命名した。

105 推測」、「音声と文字の結びつけ」、「要約」、「全体の分析」、「聞き流し」などの聴き方に肯 定的なビリーフを持っている学習者は、「他人との協力」、「質問」「自分の不安の減少」、「勇 気づけ」などの聴き方に肯定的なビリーフを有している学習者が多いことがわかった。聴 解ストラテジービリーフに共通する2因子の間に密接な相関関係を持っていることが窺え る。

7.2.2.1 聴解学習ストラテジービリーフ因子の間における学習者の回答の分布

本節では、聴解学習ストラテジービリーフに関する2因子の間に学習者の回答はどのよ うに分布しているかについて分析する。分析方法は 7.1.2.1 と同じである。その結果は図 7.9で示す。

図 7.9 聴解学習ストラテジービリーフ因子の間における学習者の回答の散布図

表7.7で示しているように、因子1「能動的な聴き方志向」と因子2「メタ認知と社会情 平均値3.95

平均値4.02

106 意ストラテジー志向」の間に強い正の相関があることがわかる(r=.581 p<.01)。図7.9 でも、強い相関が示されている。この相関関係から、学習者は様々な能動的な聴き方に対 する希望が高ければ高いほど、メタ認知と社会情意ストラテジーへの志向も強い。このよ うな傾向の中に、因子2に対して中間の態度を抱いている学習者は因子1に強く支持して いる、及び因子2に対して強く否定していながら、因子1に対して賛成している学習者が 一部存在することが見られた。

7.2.2.2 聴解学習ストラテジービリーフ因子に関する学習者の傾向

本節では、7.1.2.2の分析方法を用い、聴解学習ストラテジービリーフに潜在する2因子 における学習者の回答の分布を解明する(図7.10を参照)。それに基づき、中国人日本語 学習者の聴解学習ストラテジービリーフの特徴を見だす。

図 7.10 聴解学習ストラテジービリーフ因子に関する学習者の賛否比率

図7.10で示すように、ほとんどの学習者は2因子に対して「強く賛成」、「賛成」のよう な態度を持っている。このことから、近年日本語教育分野で導入されている様々な聴解学 習ストラテジーが含まれている新たな教授法について、中国人日本語学習者は積極的に受 け入れる姿勢が考えられる。言い換えれば、中国で行われている日本語聴解教育では、新

107 しい教授法を受け入れる素地(ビリーフ)が既に備わっていることを解明した。しかし、

まだ一部の学習者は能動的な聴き方志向に肯定的な態度を抱いているのに、メタ認知社会 情意ストラテジー志向に対して否定的な考えを持っている。したがって、教師は実際の聴 解教育の現場では、このような個別的な学習者グループに対して、「学習者同士で協力する」

とか「他人と話し合う」のような聴解学習ストラテジーを導入する際に、その一部の学習 者は抵抗的な心理が生まれ、教室活動に参加する意欲もなくなる可能性がある。そのため、

このような個別のグループに対して、彼らが持っている聴解学習ストラテジービリーフの 特徴を把握する必要があると考える。

以上は、中国人日本語学習者の聴解学習ストラテジービリーフの全体的な傾向が明らか にしたが、次では今回の調査対象者を学年別と大学別でそれぞれの聴解学習ストラテジー ビリーフの要素に関してどのような相違を表すかについて分析する。

7.2.3 学年別と大学別で差が出た聴解学習ストラテジービリーフの要素

聴解トラテジービリーフの要素に学年や学校により差がでるかを検証するために、7.1.3 と同じ分析方法を用いる。その結果は表7.8と表7.9で示す。

表 7.8 学年別の平均値、標準偏差、及び分散分析の結果

M SD M SD M SD M SD

能動的聴き方志向 4.02 0.50 4.01 0.43 3.98 0.50 4.08 0.57 0.83 メタ認知と社会情意ストラテジー志向 3.95 0.56 3.95 0.54 3.94 0.50 3.97 0.64 0.09

因子 合計 1年 2年 3年 F値

表 7.9 大学別の平均値、標準偏差、及び分散分析の結果

M SD M SD M SD M SD

能動的聴き方志向 4.02 0.50 3.94 0.50 4.06 0.50 4.06 0.50 1.53 メタ認知と社会情意ストラテジー志向 3.95 0.56 3.89 0.56 4.04 0.52 3.93 0.60 1.66

因子 合計 A校 B校 C校 F値

108 上記の結果から、学年別であっても、大学別であっても、聴解学習ストラテジービリー フ因子得点の比較で統計的に有意差が見られなかった。しかし、2 因子の下位尺度得点の 平均値から、全体の学習者はこの2因子に対してやや高い評価をしていることが見られる。

このことから、中国人日本語学習者は聴解学習ストラテジーに潜在する要素である「能動 的な聴き方志向」と「メタ認知と社会情意ストラテジー志向」に対して肯定的なビリーフ を有していることが窺える。さらに、それに基づき、今までの聴解学習ストラテジーに関 する先行研究で観察されなかった、或は使用頻度が低いと報告されているメタ認知と社会 情意ストラテジーに関する指導が可能であると考えられる。

7.3 「聴解学習」ビリーフと聴解学習ストラテジービリーフの関連

本研究は「聴解学習」ビリーフと聴解学習ストラテジービリーフの間に関連性があるか どうかを検証するために、各因子の下位尺度得点を利用し、その得点について重回帰分析 を行った。その結果は表7.10で示す。

表 7.10「聴解学習」ビリーフと聴解学習ストラテジービリーフの重回帰分析結果

B1 B2 B3 B4 B5 B6 B7

β β β β β β β

S1 -.042 .034 .141 * -.016 -.009 .055 -.150 * .037

S2 .009 .054 -.071 -.092 -.032 .150 * -.061 .034

「聴解学習」ビリーフ因子 聴解ストラテジービリーフ因子

B1:聴解の効果に影響する要素への注目 S1:能動的聴き方志向

B2:聴解学習の動機や目的の保持 S2:メタ認知と社会情意ストラテジー志向

B3:伝統的な学習方法と考え方の是認 B4:教師と補助教材への期待 B5:テキストの深い理解の希望 B6:中国語による有利さ B7:正確さ志向

*p< .05

β:標準変回帰係数 R2:重決定係数

R2