「非行相談後の子どもの成長点は情緒の安定、親子関係の改善、社会性の向上」
○ 子どもの内面の成長を表す「情緒の安定」が20%に上っています。
○ 次に親子の関係の再構築や修復を示す「親子関係の改善」が約19%でした。
解説
○ 一般的に子どもの成長を表わす表現として「しっかりしてきた」、「落ち着いた」
という言葉をよく用いますが、児童相談所の様々な取組や子ども自身の努力の結果、
子どもが得る「情緒の安定」は正にこのような成長を表しています。
○ 振り返って見れば、非行の要因として親子関係に関するものが多数ありましたが、
非行相談を重ねた結果、「親子関係の改善」が子どもの成長として認められること は、親子が協力して非行を克服したことに他なりません。
図1-42 非行相談後の子どもの成長点
※上位7項目
事例 7
ネグレクト(養育放棄・怠慢)による虐待が原因で家出外泊や盗みなどの非行を行っ たG君(男子:小学5年生)の事例
事例の概要
○ G君は母親と内縁の夫の3人で暮らしていました。母親は内縁の夫に強い心理 的依存関係があり、内縁の夫が体調を崩すと激しいストレスに襲われました。次 第にG君を温かく受け入れることがおろそかになりました。
○ 十分な食事を用意せず放任したために、G君は時々家出外泊をし、空腹からお にぎりを万引するなどして補導されたこともあり、警察でも問題となっていまし た。母親はG君の家出外泊と万引の原因が自分と内縁の夫の養育態度にあること に気が付かないまま、G君を連れて児童相談所に相談にきました。
援助の展開
○ 母親の話では、G君の家出外泊は下校途中か土曜、日曜の午前中にいなくな り、見つかるのも自宅近くという特徴がありました。一般的に小学校低・中学 年で顕著な非行を伴わない帰宅渋りは、家庭での虐待や極端な居心地の悪さに よることが多いと言われています。
○ 児童福祉司と児童心理司がG君と母親の面接を重ねて心を解きほぐし、母子 関係の改善を試みましたが、母親の養育態度に変化はありませんでした。また、
内縁の夫への依存関係も改善されませんでした。児童福祉司は母親に対し、養育 態度がネグレクトによる虐待のレベルに達していることを説明し、面接を中心と した援助を続けました。
○ しかし、児童相談所の通所指導ではG君への養育態度の改善が認められず、ま た今後の改善も望めないため、児童福祉司はやむを得ず当面の母子関係改善より も、G君の健康維持と安全な生活の確保を優先する援助指針を決定しました。家 庭と調整した後に児童を一時保護し、児童養護施設に入所させた上で親子の再統 合を進めることとしました。
援助のポイント
○ 児童福祉司と児童心理司が協力して面接を実施し、母親の内縁の夫に対する依 存関係の整理と養育態度の改善を試みました。
○ G君に対する養育の怠慢と放棄の状態が虐待のレベルにあることを母親に説 明し、G君の健全な育成のために児童養護施設への入所と親子再統合の目標を確 認しました。
非行防止のポイント 1
非行相談の調査・分析は児童相談所の現場で働く児童福祉司、児童心理司を中心に、
多くの職員の協力を得て行いました。調査結果や事例から分析を進める過程では、「子 どもの非行防止を図るためには何が必要なのか」について繰り返し議論を行い、その結 果を、子どもの非行を防止するためにポイントとなる関わりや取組としてまとめました。
1 子どもに対する保護者の支援
○ 非行相談には早期の対応が欠かせません。「これくらい」という、安易な気持ち で子どもの非行を見過ごすのではなく、その非行をいかに改善していくかという視 点で、保護者が対応していくことが必要です。
○ 特に「自宅」がたまり場になっている場合は、保護者が児童相談所や関係機関と 連携をして、子どもの行動をきちんと把握することが非行防止を図る上で有効です。
○ また、家庭内暴力がある場合は、保護者は子どもの暴力が日常化し、深刻化する 前に早期に児童相談所に相談することが必要です。児童相談所では育成相談として 家庭内暴力に関する相談を受け付けています。
○ 一方、子どもに非行改善の兆しが見えたときには、評価して「誉めていく」こと が重要です。誉められることは子どもの自信となり、より効果が現れることがあり ます。子どもの行動を、否定的に見るのではなく、少しの改善についても見逃さず 評価していくことが大切です。
2 地域の協力
○ 大人が子どもに干渉せず関わりを持たない状況では、地域で子どもの非行を防ぐ ことは困難です。幼少時から地域の大人が子どもに身近な存在として、つながりを 持つことが求められています。顔見知りの子どもに普段から声をかけるなど、日頃 からの温かい関係づくりが必要です。
○ また、子どもの初回非行の時に地域で十分な対応をすることが必要です。非行を 初めて行った時に大人が毅然とした対応をすれば、その後の子どもの再非行は防げ るかもしれません。最近は「家出外泊」や「万引」などを軽く見る社会の風潮があ るように思えます。間違った行為はきちんと正す大人の姿勢が問われています。
○ 早期の虐待発見・対応は、将来の子どもの非行防止に繫がると言えます。現在、
地域においては児童虐待防止区市町村ネットワーク(注)1を構築していますが、よ り一層の取組の充実が求められています。
○ 身近な地域で立ち直りを支援する人たちや関係機関との連携の充実が望まれま す。そのためにも非行児童に対応するノウハウを地域で蓄積することが必要です。
(注)1 児童虐待防止区市町村ネットワーク
児童虐待の早期発見、迅速かつ的確な対応及び防止を図ることを目的に、地域の関 係機関による児童虐待防止協議会を設置し、検討を行っている。
今後、改正児童福祉法に基づく要保護児童対策地域協議会へ移行することが求められ
3 児童相談所の専門性の強化
○ 児童相談所は子どもや親を処罰する機関ではなく、相談援助機関であることをこ れまで以上に都民に広報していく必要があります。また、児童福祉法の改正に伴い、
身近な自治体である区市町村においても、非行相談への対応が求められています。
○ 非行の背景には虐待経験が潜んでいることが多いとの認識を持ち、より一層子ど もの心情や保護者との関係に配慮した丁寧な関わりを行うことが児童相談所には 必要です。表面化した非行問題だけにとらわれず、十分なアセスメント(注)1を行 うことが援助の第一歩となります。
○ 非行相談を行う上での大きな課題として、子どもとの関係形成が難しいことが 上げられます。時には、子どもと児童福祉司が対立したままこう着状態になるこ ともあります。このような場合、保護者の協力を得ることが不可欠であり、児童 相談所は保護者と一体となってねばり強く子どもとの関わりを続けていくことが 必要です。
○ 生活指導を的確に実施できる「一時保護」の充実が求められています。一時保 護所は、虐待相談ケース等の増加により平成16年度は恒常的に満員の状態であ り、非行児童の生活指導を目的にした「一時保護」は困難な状態でした。しかし、
調査結果から生活指導の効果が明らかであり、一時保護所の一層の充実が必要で す。
(注)1 アセスメント
子どもの援助方針等を決定し、具体的な援助を行うための事前の調査や評価のこと。
「海にすむ黄金の魚たち」(児童自立支援施設 入所児童の作品)