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子どもの被虐待経験 1 子どもが虐待を受けた内容

「非行相談のおよそ4件に1件の割合で虐待経験がある」

○ 子どもが経験した虐待のうち、「身体的虐待」が最も多く10%(120件)で あり、次いで「ネグレクト」(養育放棄・怠慢)が9.6%(115件)となって います。

解説

○ 今回調査した子どもの被虐待経験については、非行相談を受理した後、児童福祉 司が実施した面接調査等の社会診断で、虐待が認められた内容を複数回答によって 抽出しています。

(虐待に関する通告や相談として受理したケースとは異なります。)

○ 調査した非行相談のうち、児童虐待の事実があり種類を確認できたのは全部で 約25%(300件)であり、虐待はあったが種類を特定できないものを含めると 約3割(362件)でした。

(1人の子どもが複数の虐待を受けている場合、虐待の種類ごとに計上)

○ 全非行相談件数1,199件のうち虐待があったものについては、「なし」と「不 明」を引いた件数の290件(約24%)であり、受理した非行相談のおよそ4件 に1件の割合となります。

○ 児童虐待と非行の関連性については、非行相談があった子どもには虐待を経験し た子どもがかなり多いことが十分に推定できます。虐待の種類をみると、身体的な 虐待とネグレクト(養育の放棄・怠慢)が大半を占めます。

児童相談所の取組

○ 児童相談所は非行相談の場合でも、生育歴における虐待の有無に配慮して援助方 針を決定し、援助を進めています。

図1-23 子どもが虐待を受けた内容

※ 虐待なしと不明を合わせた909件を除く。児童虐待:P30(注)1参照

3.1 3.4 3.1

9.3

57.2 43.4

0 10 20 30 40 50 60 70

その他 その他の家族 継養母 継養父 実母 実父

合計=362(複数回答)

2 虐待をしていた大人

「虐待者は実母と実父が多い」

○ 虐待者の内訳は「実母」が約57%、「実父」が約43%に上ります。

○ 「実母」と「実父」の両方が、虐待を行っているケースも含まれていることが推 定されます。

解説

○ 東京都の平成15年度の児童虐待相談では、主たる虐待者が実母の場合が 66.4%で実父は20%でした。これと比較すると、非行相談の場合は「実父」

の占める割合が高いことがわかります。

児童相談所の取組

○ 子どもの中には幼少の時期に親から不適切な養育を受け、やがて虐待の要素が強 まり、不良行為や非行に至ったケースが多数あることから、児童相談所は家庭の状 況や子どもの生育歴などについて総合的に診断し、福祉の立場から支援する内容の 決定を行っています。

図1-24 虐待をしていた大人

※ 対象:虐待があった 290 件

10~12歳 25.9%

0~6歳 19.0%

7~9歳 18.3%

13~15歳 7.2%

不明 29.3%

16歳以上 0.3%

合計=290

3 虐待を受けた年齢

「10~12歳が最も多く約26%に上る」

○ 子どもが認識した、虐待を受け始めた年齢については、「10歳~12歳」がピ ークになっています。

○ 7歳から12歳の子どもの占める割合が全体の約44%を占めます。

解説

○ 非行相談があった子どもは中学生が大半であり、虐待を受けた年齢や期間は記憶 によるところもあってばらつきが見られます。子どもによっては親が養育を放棄し た状態が続いており、非行相談を受け付けた時点でもネグレクトの疑いがある場合 も少なくありません。

○ 子どもが成長・発達する過程で、子育ての不安感と夫婦関係や経済状況など、家 庭が不安定になるような出来事が重なって虐待が始まり、その繰り返しによって子 どもが非行に走ったことも推測されます。

○ 東京都の児童相談所の統計によると、平成15年度に相談(非該当児童を除く)

があった被虐待児童は0歳から学齢前までが全体の約33%を占めています。年齢 が低い子どもについての通告等が多い児童虐待相談との違いが分かります。

図1-25 虐待を受けた年齢

※ 対象:虐待があった 290 件

3年以上 48.6%

不明 14.9%

1年以上 3年未満 23.4%

3ヶ月未満 5.1%

3ヶ月以上 1年未満

8.0%

合計=290

4 虐待を受けていた期間

「1年以上も虐待を受けていた子どもは約72%おり、そのうち3年以上の長期は 約49%に上る」

○ 虐待があった290件の非行相談のうち「3年以上」虐待を受けている件数が 約49%を占めています。

○ これを「1年以上」に広げてみると、約72%に上りました。

解説

○ 非行相談があった子どものうち被虐待経験がある子どもの多くは、1年以上の長 期間にわたって虐待を受けていたことがわかります。

○ ただし、虐待体験は通告されるレベルのものではなかったことから、表面化せず 潜伏し、長期化したことが推測できます。

○ なお、東京都の児童相談所の統計によると、15年度の児童虐待相談のうち、虐 待を受けていた期間が3年以上の割合は約14%、1年以上では約35%です。

長期間の被虐待経験は子どもの心身の成長に深刻な影響を与え、子どもを非行へ 追いやったり、非行が改善しない要因になることが考えられます。

図1-26 虐待を受けていた期間

※ 対象:虐待があった 290 件

事例 5

性的虐待を受け、非行を重ねた後に精神面が不安定になったEさん(女子:中学2年 生)の事例

事例の概要

○ Eさんの母親は父親の暴力により、Eさんが3歳のときに家出をしました。そ れ以降、父親は内縁関係の女性にEさんの養育をさせていましたが、父親の暴力 のために養育する女性は次々と変わっていきました。父親はEさんに対して小学 6年生の頃から、性的な関係を強要するようになりました。

○ 中学1年の時に、Eさんの異変に気付いた学校の担任教員から児童相談所に相 談が寄せられました。児童相談所は父親から事情を聞いたところ、Eさんへの性 的虐待の事実を認めたため、児童養護施設に入所となりました。

援助の展開

○ Eさんは児童養護施設で生活の安定が得られて落ち着きを取り戻すにつれ、父 から性的な虐待を受けてきたという事実が心の傷となり、ふさぎ込んだり、涙を 流して悲しむことが多くなりました。そして、一緒に生活している寮の子どもた ちや施設職員との人間関係もうまくいかなくなり、自暴自棄になって、万引きな どの非行を繰り返しました。

○ 児童福祉司は施設職員やEさんと相談した結果、Eさんが自己を振り返り、自 己を律するための援助が必要であると判断して児童自立支援施設への措置変更 を決断しました。Eさんも生活環境を変えて、非行から立ち直る決意をしました。

○ しかし、児童自立支援施設入所後も無断外出や喧嘩、甘えと暴言を吐くことを 繰り返しました。「いらいらする。死にたい。」などの激しい感情を伴う訴えがあ ったため、精神科医師の診察を受けて服薬を開始しました。被害妄想的感情を抱 き、過呼吸、頭痛などの身体症状も出て、統合失調症の診断を受けました。平行 して児童心理司のカウンセリングも開始しましたが、その後も「人間が怖い」「一 時的に記憶が無い」といった症状が続き、無断外泊やリストカットが頻発して病 院の精神科に入院して治療をすることとなりました。

援助のポイント

○ 被虐待経験によるEさんの心の傷が深く、家庭からの支援が期待できないケー スであることから、児童相談所と児童福祉施設が連携してEさんの援助を行ない ました。

○ 医療との連携が不可欠になったことから、Eさんの毎日の健康状態について施 設職員は留意し、服薬についても毎回細かい確認を行いました。そして児童福祉 司と施設職員とが緊密に連絡を行い、Eさんの健康の把握に努めました。