第 3 章 拡張感度解析に基づく複数地点間の託送経路特定手法
3.2. 経済負荷配分
3.2.1. 静的経済負荷配分
静的経済負荷配分は、ある時間断面における火力発電機の最も経済的な運用を決定する問題で あり、ネットワークを考慮しない最適化問題である。一般に、静的経済負荷配分のことを単に経 済負荷配分あるいはELDと呼ぶ。最初に火力発電機の特性について述べ、その後、等λ法による ELDについて述べる。
(1) 火力発電機の特性
図2.1は、火力発電所の一般的な運転特性を示したものである。縦軸の値F(P)[円/h]は、
出力P[kW]に対する毎時の燃料費を表している。この特性は、出力Pの二~四次関数で近
似されることが経験的に知られている。ここで、燃料消費率Cを式(3.2-1)のように定義す る。
[ /kW h] P
C = F 円 ⋅ (3.2-1)
燃料消費率は単位出力当りの燃料費であり、値が小さいほど発電効率が良いことを示す ものである。図3.2-1に示すように、燃料消費率は一般に出力の増加に従って小さくなり、
定格出力付近で最小となる。すなわち、燃料費が一次式である場合を除き、発電効率は出 力Pに依存して異なるのである。
88
図 3.2-1 発電機の燃料費特性
(2) 等増分燃料費則(等λ法)によるELD
図3.2-2に示すように、負荷PDをもつ単一母線に接続されているm機の火力発電機の運 用コストを考える。ここで、発電機iの燃料費特性関数Fiが有効電力出力Piに関する関数 で与えられると仮定する。総燃料費FTは、時間当たりのコスト(貨幣単位/h)で換算され た各発電機の燃料費の総和として式(3.2-2)で表すことができる。
図 3.2-2 負荷PDの単一母線に接続されたm機の火力発電機
89
∑ ( )
=
= m
i
i i
T F P
F
1
(3.2-2)
ネットワークは考慮せずに単一母線で発電機と負荷が接続されていると仮定している ので、需給バランス制約は一つの方程式で表すことができる。すなわち、送電損失を無視 すると需給バランス制約は式(3.2-3)となる。
∑
=
= m
i i
D P
P
1
(3.2-3)
ただし、PDは全ての負荷の合計である。ELDは、式(3.2-3)の有効電力の需給バランス制約 を満足しつつ、式(3.2.2)の総燃料費FTを最小化するような各発電機の有効電力出力ベクト ルPを決定するものであり、式(3.2-4)、式(3.2-5)のように定式化できる。
∑ ( )
=
= m
i i i
T F P
F Minimize
1
(3.2-4)
Subject to 0
1
=
−
∑
= m
i i
D P
P (3.2-5)
式(3.2.4)が目的関数、式(3.2-5)が制約条件、Pi(i=1,2,…,N)が決定変数である。この問題は、
目的関数が非線形であることから、等式制約付き非線形計画問題という数理計画問題とみ なすことができ、最適解はラグランジュの未定乗数法によって求めることができる。この 方法を一般的に説明すると、
( )
( )
( )
( )
n n m
n n
n
x x x
x x g
x x g
x x g
x x x f
, , ,
0 ,
,
0 ,
,
0 ,
, , , ,
2 1
1 1 2
1 1
2 1
L L L
L L
L
決定変数:
制約条件:
目的関数:
=
=
=
(3.2-6)
式(3.2.6)の原問題を、新たに変数λ1, λ2,…λm(ラグランジュ乗数)を導入し、式(3.2.7) のような制約条件のない問題に変換する。
( )
m n
m n
x x x
x x x L
λ λ λ
λ λ λ
L L
L L
, , , , , ,
, , , , , ,
2 1 2
1
2 1 2
1
決定変数:
目的関数:
(3.2-7)
ここで、Lはラグランジュ関数であり、式(3.2-8)のように定義されている。
( )
(
x x n xn)
gm(
x xn)
mg(
x xn)
f x x x L
, , ,
, ,
, ,
, , , , , ,
1 1
1 1 2
1
2 1 2
1
L L
L L
L L
λ λ
λ λ λ
+ + +
≡
(3.2-8)
90
原問題の式(3.2-6)において最適解であるための必要条件は、式(3.2-7)におけるそれと等 価であることが知られている。したがって、あるx1, x2,…, xnが原問題の式(3.2.6)の最適解 であるための必要条件は、式(3.2-9)として与えられる。
0, , 0, 0, , 0
1 1
∂ =
= ∂
∂
= ∂
∂
= ∂
∂
∂
m n
L L
x L x
L
λ
λ
LL (3.2-9)
この方法を上述の経済負荷配分問題に適用すると、ラグランジュ関数は式(3.2-10)のよう に定義される。
( )
⎟⎠
⎜ ⎞
⎝
⎛ −
+
=
∑
= m
i i
D
T P P
F P
L
1
,
λ λ
(3.2-10)最適解であるための必要条件は、m+1個の決定変数(各発電機出力とラグランジュ乗数)
に対する式(3.2-10)の一階微分が 0 になることである。すなわち、式(3.2.11)、式(3.2-12)を 満たすP1, P2,…, PNおよびλが最適解となる。
( ) ( ) (
i N)
P P F P
P L
i i i i
, , 1 , 0
= L
=
∂ −
= ∂
∂
∂ λ λ (3.2-11)
( )
, = −(
1+ 2 + +)
=0∂
∂
N
D P P P
P P
L L
λ
λ
(3.2-12)ここで、式(3.2-12)は、需給バランス条件そのものであるから、最適な発電機の出力配分は、
需給バランス条件を満たしつつ、式(3.2-13)を満足するような解として求めることができる。
FP
( )
P(
i N)
i i
i = =1,L,
∂
∂ λ (3.2-13)
ここで∂F/∂P は、現在の発電機出力を微少増加させたときに、燃料費がどの程度増加す るかを示すものであり、増分燃料費と呼ばれている。式(3.2-13)は、この増分燃料費がすべ ての発電機において等しいとき、最も経済的な出力配分ができるということを示している。
この原理を等増分燃料費の原則(等λ則)と呼ぶ。図 3.2-3 は最適解における状態を表し ている。横軸は各発電機の出力Pi(i=1,…,N)であり、縦軸は増分燃料費dFi/dPi(i=1,…,N)であ る。
91
図 3.2-3 等増分燃料費の原則の概念図
いま、図に示すように、あるλを仮定して横軸に平行に直線を引くと、この直線と各発 電機の増分燃料費曲線との交点Pi(i=1,…,N)が求められる。それぞれの交点においては、明 らかに式(3.2-13)式が満たされている。また、求められた各 Piの値を合計したとき、負荷 PDに等しくなっていれば、式(3.2-12)の需給平衡条件を同時に満足し、最適解となる。
また、λは負荷の値が微少増加したとき、系統全体のコストがどれだけ増加するかを表す ものであり、その意味で、λを系統増分費と呼ぶ。λは負荷需要の大きさに依存して決ま り、負荷が増加すればλの値も増加する。
ところで、火力発電機の出力には、発電所の燃焼系の安定性や発電機の電機子巻線にお けるジュール熱などによって決まる式(3.2-14)のような固有の上下限制約がある。
P
i min≤ P
i≤ P
i max( i = 1 , L , N )
(3.2-14)この場合、出力が上限値あるいは、下限値に達していない発電機群については、これま でと同様に、式(3.2-13)を満足することが最適解の条件となる。
一方、上限値あるいは下限値に一致している発電機がある場合については、その発電機 の増分燃料費が必ずしもλと等しくなくても、最適解になることに注意を要する。不等式 制約を考慮した場合の最適解の条件は、式(3.2-15)のように表される。増分燃料費特性を図 3.2-4に示すように変化すると考えることにより、上下限制約を考慮した出力配分を行うこ とができる。
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図 3.2-4 上下限制約を考慮した増分燃料費
( )
( )
(
min)
max
max min
i i i
i
i i i
i
i i i
i i
P P P
F
P P P
F
P P P P
F
=
∂ ≥
∂
=
∂ ≤
∂
≤
≤
∂ =
∂
λ λ λ
(3.2-15)
次に発電機出力λ,Piを導出する。発電機iの燃料費特性関数Fiが有効電力出力Piに関す る式(3.2-16)の2次関数として与えられるとする。
Fi
( )
Pi =α
i +β
iPi +γ
iPi2, i =1,L,m (3.2-16) 式(3.2-13)より式(3.2-17)を得る。
β
i+ 2 γ
iP
i− λ = 0 , i = 1 , L , m
(3.2-17)式(3.2-14)を満足するようなλは式(3.2-18)で与えられる。
∑
∑
=
=
+
= m
i i
m
i i
i
PD
1 1
2 1
2 γ
γ β
λ (3.2-18)
したがって、発電機のiの最適な発電量は式(3.2-19)で計算できる。
P i m
i i
i , 1, ,
2− = L
=
γ β
λ (3.2-19)
93