第 3 章 拡張感度解析に基づく複数地点間の託送経路特定手法
3.3. 拡張感度解析と託送経路特定
93
94
( ) ( ) ( X , U , X , U ) = 0
G φ ϕ
(3.3-1)ここで、
X:従属変数ベクトル(2N×1) U :操作変数ベクトル(M×1)
( )
Xφ :従属変数Xにより決まる関数
( )
Uϕ :操作変数Uにより決まる関数 である。
操作変数U及び従属変数Xは第2章で定義したとおりである。新たに操作変数Uおよび従属変 数Xにより決まる関数を考えることにより、系統の諸特性を取り扱うことができる。
式(3.3-1)で表される電力系統(N ノード)がある運用条件で運転されていた時、その状態で系 統内の調整設備がΔU だけ変動し、系統状態もΔX だけ変化したとする。前章と同様に、初期潮 流状態を中心に式(3.3-1)をテイラー展開すると、式(3.3-2)が得られる。
( ∂ G / ∂ X ) Δ X + ( ∂ G / ∂ U ) Δ U + ( ∂ G / ∂ φ ⋅ ∂ φ / ∂ X ) Δ X + ( ∂ G / ∂ ϕ ⋅ ∂ ϕ / ∂ U ) Δ U = 0
(3.3-2)従って、感度行列は式(3.3-3)から計算される。
[
G X G X] [
G U G U]
U X
Sm ≡∂ /∂ =−∂ /∂ +∂ /∂φ⋅∂φ/∂ −1⋅ ∂ /∂ +∂ /∂ϕ⋅∂ϕ/∂ (3.3-3) 式(3.3-3)は、電力潮流方程式が式(3.3-1)で表されるときの感度行列を与えている。関数ベクトルG の操作および従属変数ベクトルに関するヤコビ行列GX、GUは式(2.3-14)の場合と全く同様に計算 することができる。電力潮流方程式中に系統の特性を表すφ
( )
X 、ϕ( )
U を追加したことによる影 響が式(3.3-3)に修正項として表れる。式(3.3-2)からも明らかなように、関数φ( )
X 、ϕ( )
U が従属変数ベクトルおよび操作変数ベクトルに関して一階微分可能な関数であれば、容易に感度行列は計 算される。式(3.3-3)により、電力系統の色々な特性を考慮した感度行列を求めることができる。
3.3.2. 発電振替係数
次に、発電振替係数を導出する。この係数により発電所間の出力配分(3.2 節の経済負荷配分 を含む)を一般的に取り扱うことができる。
2.3-3項で述べたように、託送経路特定手法では操作変数として発電機有効出力を扱う。操作変 数として発電機端子電圧、発電機無効電力、その他の調相設備を扱っている場合には問題ないが、
発電機有効出力を扱う場合には需給の不平衡に対する考慮が必要となる。はじめに系統内の有効 電力にアンバランスが生じた場合を考える。
いま、電力系統内の第 l 発電機の有効出力をΔPl[p.u.]だけ増加させたとき、周波数の過渡的変
95
動がおさまった後の定常的周波数偏差Δfは式(3.3-4)で表される。
l G L
i i
R L
l P
K K f R K P
f P
l i
i
+ Δ
= + ⋅
= Δ
Δ
∑
≠
1
0
(3.3-4)
Δf :定常的周波数偏差[Hz]
Pl
Δ :第l発電機有効出力の変化量[p.u.]
KL:負荷特性定数[p.u./Hz]
KG:発電機特性定数=
∑
≠ ⋅
l i
i
i i
R
f R
P
0
Ri
P :第l発電機定格容量[p.u.]
Ri:第l発電機調定率[p.u.]
f0:定格周波数[Hz]
∑
≠ ⋅
l i
i
i i
R
f R
P
0
:発電機特性定数[p.u./Hz]
式(3.3-4)で表される系統に生じた周波数偏差Δf に対して調速機の応動によって、他の各発電機 の有効出力は式(3.3-5)で表されるΔPklだけ変化する。
f f R P P
l R kl
l ⎟⎟Δ
⎠
⎞
⎜⎜⎝
⎛
− ⋅
= Δ
0
(3.3-5)
Pkl
Δ :第l発電機の有効出力変化による第k発電機有効出力の変化量 式(3.3-4)、式(3.3-5)より式(3.3-6)が得られる。
l kl l
i i
R L
l R
kl P K P
f R K P
f R P P
m i
i
k ×Δ =− ×Δ
⎟⎟
⎟
⎠
⎞
⎜⎜
⎜
⎝
⎛
⎟⎟
⎠
⎞
⎜⎜
⎝
⎛ + ⋅
⎟⎟⎠
⎜⎜ ⎞
⎝
⎛
− ⋅
=
Δ
∑
≠ 0
0
(3.3-6)
Kklは第 l発電機有効出力をある量だけ操作した時の第 k 発電機の出力変化量を示す係数であ り、発電振替係数である。式(3.3-6)を用いることにより、系統内に発生した需給の不平衡分が各 発電機の特性や負荷特性に従って分担され、新たな平衡状態に移行する状況を表現できる。
以上より、有効電力にアンバランスが生じた場合の発電振替係数は式(3.3-6)のKklで表わすこ とができることがわかる。しかし、託送の場合、需要家の負荷量と発電所の供給量は同じため、
有効電力にアンバランスは生じない。従って、次に有効電力がバランスしている場合の発電振替 係数を導出する。
96
系統内の第 l 発電機の有効出力を ΔPl[p.u.]だけ増加させたときの周波数の定常的偏差 Δf は式 (3.3-4)で表されるが、この需給の不平衡を打ち消すためには、他の発電機出力を減少させること が必要となるが、その振替方法は次に述べるものが適切であると思われる。
周波数偏移Δfが他の発電機の調速機応動によって打ち消されるためには式(3.3-7)が成立する必 要がある。
∑
Δ= Δ
k kl
m P
P (3.3-7)
式(3.3-7)は第 l 発電機出力の増加分を他の発電機の出力を減少させることによって吸収すれば よいことを示しており、このように発電振替が行われれば周波数偏異Δf=0となるはずである。Δf
=0 であれば負荷特性 KLの影響はなくなる。従って、式(3.3-6)において ⎟⎟
⎠
⎞
⎜⎜
⎝
⎛
∑
⋅≠m i
i
i i
R
L R f
K P
0
≪ が成り
立つので、需給が保たれるためには第k発電機の分担量を式(3.3-8)とすれば式(3.3-7)が成立するこ とになる。
l kl l
i i
R l
R
kl P K P
f R
P f
R P P
m i
i
k ×Δ =− ×Δ
⎟⎟
⎟
⎠
⎞
⎜⎜
⎜
⎝
⎛
⎟⎟
⎠
⎞
⎜⎜
⎝
⎛
⎟⎟ ⋅
⎠
⎜⎜ ⎞
⎝
⎛
− ⋅
=
Δ
∑
≠ 0
0
(3.3-8)
もし全発電機について調定率Riが等しいとすれば、式(3.3-8)は式(3.3-9)のようになる。
l kl l
i R
kl P P K P
P k ×Δ =− ×Δ
⎟⎟
⎟
⎠
⎞
⎜⎜
⎜
⎝
⎛
−
=
Δ
∑
(3.3-9)式(3.3-8)のように発電振替が行われる場合には、第 l 発電機の操作による需給の不平衡分は他 の発電機の定格容量や調定率に従って、それぞれの発電機に振替えられることになり、また、式 (3.3-9)のようにすれば、発電機の定格容量に比例して振替が行われることになる。さらに、特定 の発電機のひとつが系統内の需給不平衡分をすべて調整するように運用するのであれば、その発 電所に対する発電振替係数Kkl =1と与えてやればよい。第2章で提案した手法は、発電所が1箇 所の場合を想定しているため、このケースに相当する。このように式(3.3-8)の発電振替係数Kklを 用いることにより、発電所間の出力配分を一般的に取り扱うことができる。
3.3.3. 電力潮流方程式の修正法
発電振替係数Kklを導入した感度を算出するために電力潮流方程式にKklを含めた表現式を作
97
る必要がある。第 l 発電機の有効出力を ΔPlだけ増加させると、電力潮流方程式は次のようにな る。
(1) 第l発電機ノードの潮流方程式
( )
( ) ( )
{ }
∑
− + −+
Δ +
−
= ⋅
−
α α lα
θ
lθ
α lαθ
lθ
αl
l set l m l
B G
E E
P P
C g
sin cos
1 2
(3.3-10)
+=
∑
+ ⋅{ (
−)
−(
−) }
α α lα
θ
lθ
α lαθ
lθ
αl
set l l l
B G
E E
Q D g
cos sin
2
(3.3-11)
(2) 第k発電機ノードの潮流方程式
( )
( ) ( )
{ }
∑
− + −+
Δ
⋅
−
−
= ⋅
−
α α kα
θ
kθ
α kαθ
kθ
αk
l kl set k k k
B G
E E
P K P
C g
sin cos
1 2
(3.3-12)
+=
∑
−{
⋅(
−)
−(
−) }
α α kα
θ
kθ
α kαθ
kθ
αk
set k k k
B G
E E
Q D g
cos sin
2
(3.3-13)
(3) 他ノードの潮流方程式 式(2.3-4)、式(2.3-5)
3.3.4. ヤコビ行列GX
、
GUの修正法ここではGX及び GUの修正法について述べる。従属変数ベクトル Xに関するヤコビ行列 GXは 2.3.3節と同じである。操作変数ベクトルUの要素として、Plを考えるので、Uに関するヤコビ行 列GUの要素は次式のようになる。
(1) n=l(第l発電機ノード)のとき 2 1 2 1 =−1
∂
= ∂
∂
∂ − −
l l n
P g U
g (3.3-14)
2 2 =0
∂
=∂
∂
∂
l l n
P g U
g (3.3-15)
(2) n=k(第k発電機ノード)のとき kl
l k
n K
P g U
g =
∂
= ∂
∂
∂ 2 −1 2 −1 (3.3-16)
2 2 =0
∂
= ∂
∂
∂
l k n
P g U
g (3.3-17)
98 (3) n≠l, kのとき
2 1 =0
∂
∂ − U gn
(3.3-18)
2 =0
∂
∂ U g n
(3.3-19)
上述の GX,GUを用いて式(3.3-3)の方程式から感度行列が得られる。式(3.3-1)中のϕ
( )
U が式(3.3-12)中の修正項−Kkl ⋅ΔP、式(3.3-3)中の∂g/∂ϕ⋅∂ϕ/∂UがKklに対応している。
得られた感度行列を用いて式(2.3-55)から線路電力潮流感度を計算することにより、託送経路の 特定に必要な線路電力潮流感度を計算することができる。