第 4 章 酵素触媒によるポリ(カーボネート‐ウレタン)のケミカルリサイクル 95
4.4 結果・考察
4.4.5 酵素触媒による環状カーボネート‐ウレタン (3,6) モノマーの開環重合 . 169
これまでに酵素触媒を用いた重縮合によるPCU (3,6)の合成及び分解を行い、PCU (3,6)が 酵素分解性に優れ、速やかに環状オリゴマーへ変換されること
が明らかになった。そこで、ケミカルリサイクルを志向して、PCU (3,6)の酵素分解で主生 成物として得られた環状1量体をモノマーに用いて開環重合を行い、元のポリマーへ再変換す ることを試みた。
開環重合は、環状1量体(500 mg/mL)とリパーゼCA (9.6 mg; 12 wt%)をアニソール溶液 中、2日間攪拌することにより行った。反応温度の影響を検討するために90 〜 130℃の温度 範囲で反応を行い、生成ポリマーの分子量及び収率を測定した。その結果をFig. 4.33に示す。
Temperature (oC)
Mw/MnMw Yield (%)
0 10000 20000 30000 40000 50000
0 20 40 60 80 100
90 100 110 120 130
1 2 3 4
Fig. 4.33: Effects of temperature onMw and yield of PCU (3,6). Reaction conditions: A mixture of cyclic monomer (80 mg) and lipase CA (9.6 mg) was stirred in anisole (0.16 mL) at 110℃ for 2 d. ●;Mw,▲; yield.
110℃で反応を行ったとき、高分子量化したポリマー(Mw = 42,000、Mw/Mn = 2.1)が収 率93%で得られた。90 〜110℃では反応温度の増加に伴ってポリマーの分子量及び収率が増 加し、120℃以上では反応温度の増加に伴ってポリマーの分子量及び収率は減少した。110℃ 以下のときは、高温になるにつれて重合生成物の溶解性が向上するために高重合度のポリマー が得られたのに対して、120℃以上ではリパーゼCAの失活のために重合性が低下したと考え
られる。これらの反応温度が重合性に及ぼす影響は、第4.4.2節 Fig. 4.11に示した重縮合の 場合と同様の傾向がみられた。
環状(カーボネート‐ウレタン) (3,6)モノマーの開環重合によって得られたポリマーの分子 量(Mw = 42,000、Mw/Mn = 2.1)はジエチルカーボネートとジウレタンジオール(3,6)の重 縮合によって得られたポリマーの分子量(Mw = 23,000、Mw/Mn = 2.3)の約2倍であり、重 縮合と比較して開環重合では高重合度のポリマーが得られることが明らかになった。
開環重合で高重合度のポリマーが得られた要因は反応機構から推察される。ここで、リパー ゼCAを用いた環状(カーボネート‐ウレタン) (3,6)モノマーの開環重合の反応機構をScheme 4.14に示す。
Cyclic (carbonate-urethane) (3,6) monomer
Enzyme-activated monomer (EAM) CO(CH2)3OCNH(CH2)6NHCO(CH2)3O
O O O
Diurethanediol (3,6) EAM +
EAM +
OH Lipase
OCO(CH2)3OCNH(CH2)6NHCO(CH2)3OH
O O O
Lipase
H2O
+ HOCO(CH2)3OCNH(CH2)6NHCO(CH2)3OH
O O O
HO(CH2)3OCNH(CH2)6NHCO(CH2)3OH
O O
CO2
Diurethanediol (3,6)
CO(CH2)3OCNH(CH2)6NHCO(CH2)3OH
O O O
HO(CH2)3OCNH(CH2)6NHCO(CH2)3O O
O OH
Lipase
OH Lipase Initiation
Formation of enzyme-activated monomer
Propagation
Scheme 4.14: Mechanism of lipase-catalyzed ring-opening polymerization of cyclic carbonate-urethane (3,6) monomer.
環状モノマーの開環重合の開始反応では、酵素によって活性化されたモノマー(EAM)が系 内の水分子による求核攻撃を受けて開環し、続く脱炭酸を経てジウレタンジオール(3,6)が生 成される。次いでジウレタンジオール(3,6)はEAMに求核攻撃して分子鎖の伸長反応が起こ る。ジウレタンジオール(3,6)の量が少ない程分子鎖数が減少するので、その後の分子間エステ ル交換反応では重合生成物の分子量が比較的高分子量で平衡状態となり、高重合度のポリマー が得られることになる。したがって、環状モノマーの加水分解を引き起こす水分子量が小さい
4.4 結果・考察 171 ほど生成ポリマーの分子量は高分子量化すると考えられる。しかし、本研究で用いたリパーゼ CA中の水分量を定量することは困難であったので、リパーゼCAを使用前に五酸化二リン存 在下、常温で6時間減圧乾燥することで酵素中の水分量を一定にした。
以上のように、開環重合では求核試薬の量を制限することによって高重合度のポリマーが得 られたと推察される。
また、分解生成物として得られた環状オリゴマーを原料に用いて開環重合を行ったときも、
重縮合で得られるポリマーと比較して高分子量化したポリマー(Mw = 36,000、Mw/Mn = 2.1)が収率89%で得られた。環状1量体を原料に用いたときより分子量の低下がみられるが、
環状1及び2量体を主成分とし環状3量体と直鎖状1及び2量体をわずかに含む分解生成物も 再重合の原料となることが明らかになった。
4.4.6 ジウレタンジオール (3,6)の生分解性評価 (1) BOD法による生分解試験
ソフトセグメントにカーボネート結合を含むポリウレタンは、酵素によってカーボネート部 位が優先的に加水分解されることが報告されている161, 184)。一方、ウレタン結合は非常に安定 であるので酵素的に加水分解されるのが困難であることが知られている。これらの結果を本研 究で合成したPCU (x,y)に当てはめてみると、カーボネート結合が加水分解されてジウレタン
ジオール(x,y)が遊離することになる。そこで、PCU (x,y)のジウレタン部位の生分解性を評
価した。BOD法によるジウレタンジオール(3,6)の生分解試験の結果をFig. 4.34に示す。
Cultivation time (d)
Biodegradation (%)
0 20 40 60 80 100
0 10 20 30 40 50 60
Fig. 4.34: Biochemical oxygen demand (BOD) biodegradation of diurethanediol (3,6) and aniline using activated sludge at 25℃. ○; diurethanediol (3,6),△; aniline.
本来、生分解試験は28日間行って評価を行うが、28日後にも生分解率の増加がみられたの で試験期間を延長した。分解試験開始10日後くらいからジウレタンジオール(3,6)の生分解率 は上昇し始め、28日後には約30%、45日後には生分解性の指標とされる60%に達した。分解 微生物が馴化に要する10日間程度の誘導期の後にジウレタンジオール (3,6)は資化され始め、
通常の生分解性化合物よりも長時間を要したが最終的には完全に生分解されることが明らかに なった。
4.4 結果・考察 173 (2)ジウレタンジオール(3,6)資化菌の単離
BOD法による分解試験後の培養液中にはジウレタンジオール(3,6)資化菌が存在することが 推察された。そこで、分解試験後の培養液を植種源とし、ジウレタンジオール(3,6) (0.2 wt%) を唯一の炭素源としてpH 7, 30℃で集積培養を行うことによってジウレタンジオール (3,6)資 化菌の単離を行った。
その結果、平面培地上に黒いコロニーを形成する菌株KS319を単離することができた。得 られた菌体のpH依存性について検討を行った。pH 4 〜 9で5日間培養を行い、得られた培 養液のOD660値を測定した結果をFig. 4.35に示す。
pH OD660
0 0.4 0.8 1.2 1.6
3 4 5 6 7 8 9 10
Fig. 4.35: Effect of pH on the growth of a diurethanediol (3,6)-assimilating microbe KS319.
単離したKS319菌株はpH 5〜 6のときに最も良好に増殖することが示された。また、pH
8以上の塩基性条件下では増殖するのが困難である。