第 4 章 酵素触媒によるポリ(カーボネート‐ウレタン)のケミカルリサイクル 95
4.4 結果・考察
4.4.4 酵素触媒を用いたポリ(カーボネート‐ウレタン)の分解
4.4 結果・考察 157
内エステル交換反応では、ポリマー分子中のカーボネート結合が酵素によって認識され基質酵 素複合体を形成した後、ポリマー分子自身が末端に有する水酸基により求核攻撃を受けて分子 内環化が起こる。このとき、他の分子からの求核攻撃を抑制するために希釈条件を必要とする。
Fig. 4.23 (b)でカーボネート結合がBのC-Oで切断される場合は、末端構造によって生成物 が異なる。Rが水酸基のときは分子内エステル交換反応により環状オリゴマーが生成する。一 方、Rがカーボネートエステル基のときは、カーボネートエステル基は求核剤にならないため に脱離成分が求核剤として働き、元のPCUのまま変化しない。
PCU (3,6)の分解反応で反応温度、酵素濃度、反応時間及びポリマー濃度について検討を行
い、最適条件を求めるとともに分解挙動の解析を行った。
さらに分解生成物の構造解析及び単離を行い、再重合に用いるモノマーを得た。また、ジウ レタン部位のアルキル鎖の長さが異なるPCU (3,4)、PCU (3,5)及びPCU (3,6)の分解性に ついて比較した。
4.4 結果・考察 159 (1)反応温度
PCU (3,6)の分解反応の至適温度を求めるため、80 〜130℃で分解反応を行い、得られる
分解生成物の分子量分布をSECにより解析した。反応温度変化による分解生成物の分子量分 布変化の傾向を示すために、100 wt%のリパーゼCAを用いてPCU (3,6) (4 mg/mL)の分解 反応を80 ℃, 110及び130℃で6時間行い、得られた分解生成物のSECチャートをFig. 4.24 に並べて示す。
b) 80oC-degradation
Retention time (min) 5
0 10 15
oligomer a) Intial polymer
c) 110 oC-degradation
d) 130 oC-degradation Mw = 20,000 Mw/Mw = 2.0
Mw = 6,400 Mw/Mw = 5.4 Mw = 800 Mw/Mw = 2.2
Fig. 4.24: SEC profiles of the degradation products of PCU (3,6) at 80℃, 110 and 130
℃. Reaction conditions: A mixture of PCU (3,6) with Mw = 20,000 (2 mg) and lipase CA (2 mg) was stirred in anisole (0.5 mL) for 6 h.
80℃で分解を行ったとき、20%の転化率でオリゴマーへ分解されたが、大部分のポリマーは 残存した。反応系を観察すると、不溶のポリマーが存在した。溶解した比較的低分子量のポリ マーは分解されてオリゴマーへ変換されたが、不溶のポリマーが未反応のまま残存したと考え られる。110℃で分解を行ったとき、ポリマーは全て分解されて分散値の小さいオリゴマー
(Mw = 800、Mw/Mn= 2.2)が分解生成物として得られた。110℃ではリパーゼCAが触 媒活性を有しており、溶解したポリマーは迅速にオリゴマーにまで分解されることが示された。
一方、130 ℃で分解を行ったとき、ポリマーは溶解したものの分散値の大きいポリマー(Mw
= 6,400、Mw/Mn = 5.4)が分解生成物として得られた。アニソール中のリパーゼCAの熱安 定性については第4.4.2節で示したように、110℃以上では温度の上昇に伴って活性が低下す るので分解性が低下したと考えられる。90 ℃, 100及び120℃での結果をふまえると、80 〜 110℃の温度範囲では温度上昇に伴って残存ポリマーが減少し生成オリゴマーの分子量が低下 し、110℃以上では温度上昇に伴って分解生成物の分子量及び分散値が増加した。これらの結 果から、分解反応の至適温度は110℃であることが示された。
(2)酵素濃度
至適酵素濃度を求めるために25 wt% 〜 200 wt%の酵素濃度範囲で110℃、6時間分解反 応を行い、得られた分解生成物の分子量分布をSECにより解析した。その結果をFig. 4.25に
示す。25 〜75 wt%の酵素濃度のとき、酵素濃度の増加に伴って生成オリゴマーの分子量及び
分散値は低下する傾向がみられたが、生成オリゴマーの分子量はMw = 2,000 〜4,000程度ま でしか低下しなかった。このとき、高分子量のポリマーは残存しなかったが、低分子量のオリ ゴマーにまでは分解されなかった。100 〜 200 wt%の酵素濃度のときも、酵素濃度の増加に 伴って生成オリゴマーの分子量及び分散値は低下する傾向がみられ、生成オリゴマーの分子量
はMw = 500 〜 800程度まで低下し、分解反応が収束する傾向がみられた。酵素濃度を高め
ることによってポリマーの分解速度を増加することができることが示された。これらの結果か ら、分解反応の至適酵素濃度は200 wt%であると決定された。
Lipase CA (wt%)
Molecular weight
0 5000 10000 15000 20000
0 50 100 150 200
Fig. 4.25: Effects of concentration of lipase CA on molecular weight of the degradtion products. Reaction conditions: A mixture of PCU (3,6) withMw = 20,000 (2 mg) and lipase CA was stirred in anisole (0.5 mL) at 110℃ for 6 h. ●;Mw,▲;Mn.
4.4 結果・考察 161 (3)経時変化
110℃、200 wt%の酵素濃度で分解反応を行い、得られた分解生成物の分子量分布の経時変
化をSECにより解析した。分解生成物の分子量の経時変化ををFig. 4.26に示した。
Time (h)
Molecular weight
0 5000 10000 15000 20000
0 5 10 15 20 25
Fig. 4.26: Time course of the degradation of PCU (3,6). Reaction conditions: A mixture of PCU (3,6) withMw = 20,000 (2 mg) and lipase CA (4 mg) was stirred in anisole (0.5 mL) at 110℃. ●;Mw,▲;Mn.
PCU (3,6)の分解反応は速やかに進行し、反応開始6時間後には分散値の小さいオリゴマー
(Mw = 500、Mw/Mn = 1.9)にまで完全に分解された。この結果から、分子設計し合成した
PCU (3,6)は有機溶媒中での酵素分解性に優れることが示された。ここで、分解生成物の分子
量分布の経時変化の傾向を示すために、Fig. 4.27に分解開始1、8及び24時間後に得られる分 解生成物のSECチャートを並べて示す。
分解開始1時間後には分散値が非常に大きい低分子量化したポリマー(Mw = 7,100、Mw/Mn
= 10.7)が生成した。このとき、24時間後に主成分として得られる低分子化合物のピークA
(保持時間16.4 分)がすでに現れた。8時間後にはポリマーピークは完全に消失し、分散値の 小さいオリゴマー(Mw = 500、Mw/Mn = 1.8)にまで分解された。24時間後には、分解反 応はさらに収束し、ピークAに相当する低分子化合物を主生成物とする分解生成物が得られ た。これらの結果から、分子設計し合成したPCU (3,6)はリパーゼCAによって迅速に分解さ れて、モノマー程度の分子量を有する低分子化合物を主生成物とするオリゴマーへ変換される ことが示された。
Retention time (min) 5
0 10 15
a) Initial polymer
c) 8 h-degradation b) 1 h-degradation
d) 24 h-degradation Mw = 20,000 Mw/Mw = 2.0
Mw = 7,100 Mw/Mw = 10.7
Mw = 500 Mw/Mw = 1.8
Mw = 400 Mw/Mw = 1.7
Peak A (R.T. = 16.4 min)
Peak A
Peak A
Fig. 4.27: SEC profiles of the degradation products of PCU (3,6) at 0, 1, 8 and 24 h.
Reaction conditions: A mixture of PCU (3,6) withMw = 20,000 (2 mg) and lipase CA (2 mg) was stirred in anisole (0.5 mL) at 110℃.
(4)分解生成物の構造解析
24時間後に得られた分解生成物の主生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて 単離した。得られた化合物をSECを用いて解析した結果、16.4分に保持時間を有する単峰性 のピークが得られ、このピークはFig. 4.27中のピークAと一致した。
次いで、単離した主生成物の詳細な構造解析をMALDI-TOF MS及び1H NMRを用いて 行った。分解生成物及び分解生成物から単離した主生成物のMALDI-TOF MSをFig. 4.28に 示す。
得られたスペクトルを解析した結果、分解生成物では環状1量体の分子量に相当するピーク が主成分として検出されたほか、環状2及び3量体の分子量に相当するピークも検出された
(a)。このとき、直鎖状1及び2量体の分子量に相当するピークも非常にわずかであるが検出 された。このことから、分解生成物は主として環状オリゴマーであり、なかでも環状1量体が 主生成物として含まれることが示唆された。分解生成物から単離した主生成物では環状1量体 の分子量に相当するピークのみが得られた(b)。
4.4 結果・考察 163
369.4 [M + Na+]
(cyclic, m = 1) 715.8 [M + Na+] (cyclic, m = 2)
1062.2 [M + Na+] (cyclic, m = 3) 689.8 [M' + Na+]
(linear, m = 2) 343.4 [M' + Na+]
(linear, m = 1)
(a) Degradation products of PCU (3,6)
(b) Cyclic (carbonte-urethane) (3,6) monomer 369.4 [M + Na+]
(cyclic, m = 1)
[m/z]
400 600 800 1000
CO(CH2)3OCNH(CH2)6NHCO(CH2)3O m
O O O
Cyclic (carbonate-urethane) (3,6) oligomer : M = 346.4 m
Linear (carbonate-urethane) (3,6) oligomer : M' = 346.4 (m - 1) + 320.4 CO(CH2)3OCNH(CH2)6NHCO(CH2)3O H
O O O
HO(CH2)3OCNH(CH2)6NHCO(CH2)3O m-1
O O
Fig. 4.28: MALDI-TOF mass spectrum of the degradation products of PCU (3,6) and cyclic (carbonate-urethane) (3,6) monomer isolated from the degradation products by sil-ica gel column chromatography. m = degree of the oligomerization of carbonate-urethane unit.
分解生成物から単離した主生成物の末端構造の有無を1H NMRにより解析した。単離した 主生成物の1H NMRの1.6〜2.2 ppmの拡大図をFig. 4.29 (a)に示す。ここで、水酸基末端 を有する場合の比較としてジウレタンジオール(3,6)の1H NMRの1.6 〜 2.2 ppmの拡大図 を4.29 (b)に併せて示す。単離した主生成物では、1.67 ppmにヒドロキシプロピル末端中の メチレン由来ピーク(b)は検出されず、ヒドロキシプロピル末端がカーボネート結合を形成し たときに得られるメチレン由来ピーク(a)が1.86 ppmに検出された。この結果から、単離し た主生成物は水酸基末端を有さないことが明らかとなった。MALDI-TOF MS及び1H NMR による解析結果から、単離した主生成物は環状1量体であることが明らかとなった。
[ppm]
1.6 1.8
2.0
[ppm]
1.6 1.8
2.0 O NHCOCH2CH2CH2OCO
O
NHCOCH2CH2CH2OH O
a)
b)
Fig. 4.29: Expansions of -OCOOCH2CH2CH2- from the 300 MHz 1H NMR spectrum of cyclic carbonate-urethane (3,6) monomer (Fig. 4.7)and HOCH2CH2CH2- from the 300 MHz1H NMR spectrum of diurethanediol (3,6) (Fig. 4.2).
(5)ポリマー濃度
ポリマー濃度がPCU (3,6)の分解反応に及ぼす影響について検討するために、3〜20 mg/mL のポリマー濃度で110℃、アニソール溶液中、1日間分解反応を行い、得られた分解生成物の 分子量分布を比較した。その結果をFig. 4.30に示す。
PCU (mg/mL)
Molecular weight
0 500 1000 1500 2000 2500
0 5 10 15 20
Fig. 4.30: Effects of initial PCU (3,6) concentration on molecular weight of the degradtion products. Reaction conditions: A mixture of PCU (3,6) withMw = 20,000 and lipase CA (4 mg) was stirred in anisole at 110℃for 24 h. ●;Mw,▲;Mn.
4.4 結果・考察 165 ポリマー濃度の増加に伴って分解生成物の分子量は増加する傾向がみられた。7 mg/mL以 下のポリマー濃度のときに分散が小さいオリゴマー(Mw = 300 〜 600、Mw/Mn = 1.5 〜 2.1)が得られたのに対して、ポリマー濃度が10 mg/mL以上のときには分散値の大きいオリ ゴマー(Mw = 1,200 〜2,300、Mw/Mn = 4.9 〜 5.2)が得られた。この理由として、希釈 条件下ではFig. 4.23 (a)に示される分子内エステル交換反応により分解反応が進行するが、ポ リマー濃度が高くなるにつれてFig. 4.23 (b)に示される分子間エステル交換反応も進行しや すくなることが挙げられる。
高ポリマー濃度条件下で得られた分解生成物のMALDI-TOF MSでは、直鎖状オリゴマー の増加が確認されたものの主生成物は環状オリゴマーであった。これは、分解生成物中の比較 的低分子量体の大部分は分子内エステル交換反応により環化しているが、他のオリゴマーから 求核攻撃を受けて分子間エステル交換反応が起こると、分子量が増加し、直鎖状オリゴマーに なるためであると考えられる。このような環鎖平衡はポリマー濃度に依存するので、分散値の 小さい環状オリゴマーを分解生成物として得るには低ポリマー濃度で分解反応を行う必要があ ることが示された。
(6)分解条件のまとめ
分解反応について各反応条件項目で検討を行った結果の要約をTable 4.13にまとめた。
Table 4.13: Enzymatic degradation of PCU (3,6) 反応条件項目 : 結果の要約
反応温度 : 反応温度の上昇に伴って残存ポリマーが減少し、110℃のときに分散値 の小さいオリゴマー(Mw = 800、Mw/Mn = 2.2)まで完全に分解さ れた。しかし、120℃以上では酵素の失活のために分散値及び分子量が 比較的高いオリゴマー(Mw = 6,400、Mw/Mn = 5.4)までしか分解 されなかった。
酵素濃度 : ポリマーに対して100〜200 wt%の酵素を用いたときに、分解生成物 の分子量はMw = 500〜800程度まで低下し、分解反応が収束する傾 向がみられた。酵素濃度の増加とともに分解速度が増加する傾向がみ られた。
反応時間 : 分解反応は速やかに進行し、24時間後には環状1量体を主生成物とす る分解生成物が得られた。
ポリマー濃度 : 7 mg/mL以下のときに分散値の小さい環状オリゴマー(Mw = 300〜 600、Mw/Mn = 1.5 〜2.1)が得られた。分子内エステル交換反応を 促進するには希釈条件を必要とした。