第 2 章 酵素触媒によるポリ(グリシドール ) の合成と生分解性評価 11
2.4 結果・考察
2.4.1 酵素触媒によるグリシドールの開環重合
2.4 結果・考察 33 性体が生じ、一級及び二級水酸基を有する2量体 (A)と一級水酸基のみを有する2量体(B)が 生成される。これらの2量体がグリシドールに求核攻撃を行うこと及びグリシドールがこれら の2量体の末端エポキシドに求核攻撃を行うことによって分子鎖が伸長する。
仮に、Scheme 2.8中の2量体 (A)の一級水酸基の求核攻撃によりグリシドールのエポキシ 環のaの結合が開裂される場合は、繰り返し構造が1,4-ユニットで構成された3量体が生成す る。2量体 (A)の二級水酸基の求核攻撃によりエポキシ環のaの結合が開裂される場合には、
1,3-/1,4-ユニットの二種類の繰り返し構造で構成された3量体が生成する。これらの他にも、
2量体 (A)の一級又は二級水酸基の求核攻撃によりグリシドールのエポキシ環のbの結合が開 裂される場合は、繰り返し構造が1,4-/1,3-ユニット又は1,3-ユニットで構成された3量体が生 成する。また、2量体 (B)の求核攻撃によりグリシドールのエポキシ環のa又はbの結合が開 裂される場合は、繰り返し構造が1,3-/1,4-ユニット又は1,3-ユニットで構成された3量体が生 成する。
このように、グリシドールの開環重合は求核剤の種類とエポキシ環の開環位置の組み合わせ が多様であることから、生成ポリマーの主鎖構造は1,3-及び1,4-ユニットがランダムに並んだ 構造となる。いずれの組み合わせの場合も、末端構造にエポキシド末端を有するポリマーが生 成されると考えられる。ただし、グリシドールが系内の微量の水によって加水分解されて生じ るグリセロールも求核試薬として作用し、その場合には末端に水酸基を有するポリマーが生成 される。また、オリゴマーの側鎖の水酸基が求核攻撃を行う場合には、分岐を有するポリ(グ リシドール)が生成される。
酵素触媒によるグリシドールの開環重合では、酵素スクリーニング及び経時変化について検 討を行い、重合条件の検討及び重合挙動の解析を行った。
(1)酵素スクリーニング
Rhodococcus sp.菌株及びリパーゼを用いてグリシドールの開環重合を行い、重合活性の比較
について解析を行った。同時に、エポキシドヒドロラーゼ活性について比較を行うために、グ リシドールの加水分解反応を行った。加水分解は、10%グリシドール水溶液中にグリシドール
に対して10 wt%の酵素及び休止菌体を用い、30 ℃、1日間行った。重合は、バルク条件下、グ
リシドールに対して10 wt%の酵素及び休止菌体を用い、40 ℃、3日間行った。リパーゼとし ては、Candida antarctica由来固定化リパーゼ(リパーゼCA)、Candida rugosa由来リパー ゼ(リパーゼCR)、porcine pancreas由来リパーゼ(PPL)、Pseudomonas fluorescens由来 リパーゼ(リパーゼAK)、及びPseudomonas sp.由来リパーゼ(リパーゼPS)の5種類を用 いた。グリシドールの開環重合における酵素スクリーニングの結果を加水分解の結果と併せて Table 2.3に示した。
Table 2.3: Enzymatic hydrolysis and ring-opening polymerization of glycidol.
Entry Enzyme origin Hydrolysisa) Ring-opening polymerizationb) Conv./% Conv./% Mw Mw/Mn
1 Pseudomonas fluorescens c) 40 99 900 2.2
2 Pseudomonas sp. d) 30 99 470 1.5
3 Porcine pancreas lipase e) 22 63 ≤300 1.4
4 Candida antarctica f) 9 15 ≤300 1.2
5 Candida rugosa g) 18 8 ≤300 1.3
6 Rhodococcus sp. h) 36 99 440 1.5
7 Blank 5 5 — —
a) A mixture of glycidol 55.9 mg (0.75 mmol) and enzyme 5.6 mg (10 wt%) was stirred in 1 mL of water at 30℃ for 1 d.
b) A mixture of glycidol 223.4 mg (3.0 mmol) and enzyme 22.2 mg (10 wt%) was stirred in bulk at 40℃ for 3 d.
c) Lipase AK. d) Lipase PS. e) PPL. f) Lipase CA. g) Lipase CR. h) Resting cells of Rhodococcus sp. NCIMB.
Table 2.3より、エポキシドヒドロラーゼ活性を有することが報告されているRhodococcus sp.休止菌体以外にも、スクリーニングを行ったリパーゼの多くがグリシドールの加水分解及 び開環重合を促進させた。水溶液中で比較的高いグリシドール加水分解活性を示したリパーゼ AK (entry 1)、リパーゼPS (entry 2)、PPL (entry 3)、及びRhodococcus sp.休止菌体(entry 6)は、水分量制限下での重合活性も高い傾向がみられた。ただし、リパーゼCR (entry 5)は PPLと同程度のグリシドール加水分解活性を示したものの、重合活性はほとんどみられなかっ
2.4 結果・考察 35 た。Fig. 2.6に、リパーゼAK及びRhodococcus sp.の休止菌体を用いたときに得られたポリ (グリシドール)のMALDI-TOF MSををそれぞれ示した。
800 1600
800 1600
2400 [m/z] 0.00
0.02 r.i .0.04
0.00 0.02 r.i .0.04
1000 1
800 100 A
B A
B A
B
[m/z]
B B B
Peak A: m/z = 74.1 n + Na+
Peak B: m/z = 74.1 n + 18 + Na+ OH Gly n-1 O
O
Gly OH HO n
Gly n : O
OH O
OH
m n
a) Poly(glycidol) obtained by using lipase AK
b) Poly(glycidol) obtained using resting cells of Rhodococcus sp.
A
A
A O
O OH
Glyn
+ Branched structure and
700
Fig. 2.6: MALDI-TOF MS of polyglycidol (a: Tabel 2.3 Entry 1, b: Tabel 2.3 Entry 6).
Fig. 2.6のMALDI-TOF MSで検出されたピークを解析した結果、いずれも末端にエポキ
シドを有するポリ(グリシドール)及び環状体の分子量に由来するピーク (Peak A)が主として 得られた。第2.3.3節 Fig. 2.2に示した再沈殿により精製を行ったポリ(グリシドール)の1H NMRより、末端エポキシドに由来するピーク(2.52及び2.57 ppm)が得られていることから も、水分量制限下でグリシドールの開環重合によって得られたポリ(グリシドール)は末端にエ ポキシドを有することが確認された。
また、精製ポリマーの末端エポキシドをアルカリ条件下で加水分解し、生成物の1H NMR及
びMALDI-TOF MSの解析を行うことにより、ポリ(グリシドール)の末端構造及び環状構造
の詳細な解析を行った。第2.3.4節 Fig. 2.6に示したポリ(グリシドール)の加水分解による生
成物の1H NMRより、元の精製ポリマーの1H NMRで検出された末端エポキシドに由来する
ピーク(2.52及び2.57 ppm)が完全に消失したことが確認された。したがって、エポキシドが
加水分解されて末端に水酸基を有するポリマーへ変換されたことが確認された。このポリマー のMALDI-TOF MSを解析した結果、Fig. 2.7に示すように、加水分解後には水酸基末端を有 するポリマーに由来するピーク(ピークB)が増加したが、末端にエポキシドを有するポリ(グ リシドール)及び環状体の分子量に由来するピーク(Peak A)も検出された。加水分解後のポ
リマーの1H NMRで末端エポキシド由来のピークが全く検出されていないことから、加水分
解後のMALDI-TOF MSで検出されたPeak Aは環状構造に由来するピークであることが示
された。
1000 1100 [m/z]
1000 1100 [m/z] A
B A
B A
A A A
B
B B B
1N NaOH 80 oC, 18 h
OH Gly n-1 O
O Peak A: m/z = 74.1 n + Na+
OH Gly n HO
Peak B: m/z = 74.1 n + 18 + Na+
O
O OH
Glyn
(Peak A)
(Peak B) (Peak A)
O
O OH
Glyn
(Peak A)
Fig. 2.7: MALDI-TOF MS of polyglycidol before and after hydrolysis using 1N NaOH.
2.4 結果・考察 37 ポリマー主鎖構造に関しては、1H NMRの各ピークが3.3〜 4.0 ppmに重なるために同定 及び定量することが困難であった。そこで、13C DEPT NMRにより分子構造解析を行った結
果、第2.3.3節 Fig. 2.3に示したように、エポキシ環の開環位置の違いに起因する二種類の繰
り返し構造の他にポリマー分子中に分岐構造が含まれることが確認された。13C DEPT NMR の帰属はSunderらによる報告に従った67, 69)。しかし、13C DEPT NMRのスペクトルから も二種類の繰り返し構造及び分岐の定量を行うことは困難であった。13C DEPT NMRスペク トルの解析により、ポリ(グリシドール)の末端の水酸基だけではなく、側鎖の水酸基も求核 的に攻撃を行うことが明らかになった。
(2)重合の経時変化
グリシドールの開環重合の触媒として休止菌体及びリパーゼをスクリーニングした結果、リ パーゼAKを用いたときに分子量900のポリ(グリシドール)がほぼ定量的に得られた。した がって、重合の検討はリパーゼAKを用いて行った。
バルク条件下、5 wt%のリパーゼAKを用い、30 ℃でグリシドールの開環重合を行い、生 成ポリマーの分子量及びモノマー転化率を測定し、重合挙動の解析を行った。その結果をFig.
2.8に示す。
Time (hour)
Mw/MnMw Conversion (%)
0 200 400 600 800 1000 1200
0 20 40 60 80 100
0 40 80 120 160
1 1.5 2 2.5
Fig. 2.8: Time course of ring-opening polymerizaiton of glycidol using lipae AK. Reaction condtions: A mixture of glycidol 223.4 mg (3.0 mmol) and lipase AK 11.1 mg (5 wt%) was stirred in bulk at 30℃.
Fig. 2.8より、反応開始48時間後にモノマー転化率がほぼ100%に近づき一定になった後 も、生成ポリマーの分子量は増加し、144時間後に分子量1200程度のポリ(グリシドール)が 生成した。これは、重合初期に得られたポリ(グリシドール)がエポキシド末端を有すること による。つまり、モノマーが消費された後は、ポリマー末端のエポキシドに他のポリマーの水 酸基が求核的に攻撃を行うことによる分子間反応が進行し、ポリマー鎖が伸長されると考えら れる(Scheme 2.9 a)。
一方、分子内環化反応によりポリマー末端のエポキシド及び水酸基が消費されると反応は停
止する(Scheme 2.9 b)。この分子内環化反応は、酸触媒を用い、開始剤を添加しないでグリシ
ドールの開環重合を行った場合にも進行することが確認されている69)。酵素触媒によるグリシ ドールの開環重合で得られたポリ(グリシドール)の1H NMR及びMALDI-TOF MSの構造 解析の結果からも環状構造の存在が確認されており、分子内環化反応によって重合が停止され ることが示された。
Gly OH n-1 O
O
OH Gly n-1 O
O
OH Gly m R
O
O OH
Glyn
OH Gly m+n R
a) Intermolecular reaction
b) Intramolecular cyclization
R = O
O or OH
Scheme 2.9: Intermolercular and Intramolecular reactions of poly(glycidol).
2.4 結果・考察 39