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i

目次

第

1

章 序論

1

1.1

はじめに

. . . . 1

1.2

グリーンケミストリーの推進

. . . . 2

1.3

グリーンポリマーの創成

. . . . 2

1.4

生分解性ポリマー

. . . . 4

1.5

バイオプロセスによるポリマー合成

. . . . 5

1.5.1

発酵法によるポリマー合成

. . . . 5

1.5.2

酵素触媒重合法によるポリマー合成

. . . . 5

1.6

ケミカルリサイクル

. . . . 7

1.6.1

従来法によるケミカルリサイクル

. . . . 7

1.6.2

酵素触媒によるケミカルリサイクル

. . . . 7

1.7

本論文の研究内容

. . . . 8

第

2

章 酵素触媒によるポリ(グリシドール

)

の合成と生分解性評価

11 2.1

緒言

. . . 11

2.1.1

はじめに

. . . 11

2.1.2

エポキシドヒドロラーゼ活性を利用したエポキシドの開環反応

. . . 11

2.1.3

化学法によるグリシドールの開環重合

. . . 13

2.1.4

ポリエーテルの生分解

. . . 14

2.1.5

酵素触媒によるグリシドールの新規開環重合とポリグリシドールの生分 解性評価

. . . 15

2.2

試薬・機器

. . . 16

2.2.1

試薬

. . . 16

2.2.2

機器

. . . 19

2.3

実験方法

. . . 20

2.3.1 Rhodococcus sp. NCIMB11216

の培養と休止菌体の調製

. . . 20

2.3.2 Rhodococcus sp. NCIMB11216

の休止菌体及びリパーゼによるグリシ ドールの加水分解反応

. . . 21

(2)

2.3.3 Rhodococcus sp. NCIMB11216

の休止菌体及びリパーゼによるグリシ

ドールの開環重合

. . . 22

2.3.4

ポリグリシドールの末端構造解析

. . . 25

2.3.5

リパーゼによる各種エポキシドの開環重合

. . . 27

2.3.6 BOD

法によるポリ(グリシドール)の生分解性評価

. . . 28

2.4

結果・考察

. . . 32

2.4.1

酵素触媒によるグリシドールの開環重合

. . . 32

2.4.2

リパーゼによるエポキシドの開環重合

. . . 39

2.4.3

ポリ(グリシドール)の生分解性評価

. . . 40

2.5

結言

. . . 41

第

3

章 酵素触媒によるポリアスパラギン酸の合成と生分解性評価

43 3.1

緒言

. . . 43

3.1.1

はじめに

. . . 43

3.1.2

ポリアスパラギン酸の工業的合成法

. . . 44

3.1.3

ポリアスパラギン酸の生分解性

. . . 45

3.1.4

ポリアスパラギン酸の環境低負荷型合成法

. . . 46

3.1.5

酵素触媒によるポリアスパラギン酸の合成と生分解性評価

. . . 48

3.2

試薬・機器

. . . 49

3.2.1

試薬

. . . 49

3.2.2

機器

. . . 51

3.3

実験方法

. . . 53

3.3.1

L

-

アスパラギン酸ジエチルの化学合成

. . . 53

3.3.2

酵素触媒によるポリ

(

L

-

アスパラギン酸エチル

)

の合成

. . . 55

3.3.3

ポリ

(

アスパラギン酸ナトリウム

)

の調製

. . . 62

3.3.4

ポリ(アスパラギン酸ナトリウム)の生分解性評価

. . . 65

3.4

結果・考察

. . . 70

3.4.1

プロテアーゼ

BS

によるL

-

アスパラギン酸ジエチルの重合

. . . 70

3.4.2

ポリ(L

-

アスパラギン酸エチル)のけん化

. . . 89

3.4.3

ポリ(アスパラギン酸ナトリウム)の生分解性

. . . 91

3.5

結言

. . . 93

第

4

章 酵素触媒によるポリ(カーボネート‐ウレタン)のケミカルリサイクル

95 4.1

緒言

. . . 95

4.1.1

はじめに

. . . 95

4.1.2

ジイソシアナートを用いる従来のポリウレタン合成法

. . . 96

4.1.3

脱イソシアナート法によるポリウレタンの新規合成法

. . . 97

(3)

目次

iii

4.1.4

ポリウレタンの従来法によるケミカルリサイクル

. . . 98

4.1.5

ポリウレタンの生分解性

. . . 100

4.1.6

生分解性とケミカルリサイクル性を兼ね備えたポリ(カーボネート

-

ウ レタン)の分子設計

. . . 102

4.1.7

酵素触媒による新規ポリ(カーボネート

-

ウレタン)の合成とケミカル リサイクル

. . . 104

4.2

試薬・機器

. . . 106

4.2.1

試薬

. . . 106

4.2.2

機器

. . . 110

4.3

実験方法

. . . 111

4.3.1

ジウレタンジオール

(x,y)

の合成

. . . 111

4.3.2

酵素触媒によるジウレタンジオール

(x,y)

とジエチルカーボネートの重 縮合

. . . 117

4.3.3

酵素法によるポリ(カーボネート‐ウレタン)

(x,y)

の分解

. . . 123

4.3.4

酵素触媒による環状カーボネート

-

ウレタン

(3,6)

モノマーの開環重合

. 126 4.3.5

ジウレタンジオール

(3,6)

の生分解性評価

. . . 127

4.4

結果・考察

. . . 133

4.4.1

ジウレタンジオール

(x,y)

の合成

. . . 133

4.4.2

酵素触媒によるジウレタンジオール

(x,y)

とジエチルカーボネートの重 縮合

. . . 134

4.4.3

ポリ(カーボネート‐ウレタン)の熱特性

. . . 152

4.4.4

酵素触媒を用いたポリ(カーボネート‐ウレタン)の分解

. . . 157

4.4.5

酵素触媒による環状カーボネート‐ウレタン

(3,6)

モノマーの開環重合

. 169 4.4.6

ジウレタンジオール

(3,6)

の生分解性評価

. . . 172

4.5

結言

. . . 174

第

5

章 酵素触媒によるポリ(エステル‐ウレタン)のケミカルリサイクル

175 5.1

緒言

. . . 175

5.1.1

はじめに

. . . 175

5.1.2

生分解性とケミカルリサイクル性を兼ね備えたポリ(エステル‐ウレタ ン)の分子設計

. . . 176

5.1.3

酵素触媒による新規ポリ(エステル‐ウレタン)の合成とケミカルサイ クル

. . . 177

5.2

試薬・機器

. . . 179

5.2.1

試薬

. . . 179

5.2.2

機器

. . . 182

5.3

実験方法

. . . 183

(4)

5.3.1

酵素触媒によるジウレタンジオール

(x,y)

とジカルボン酸エチルの重縮合

183

5.3.2

環状エステル‐ウレタン

(x,y,z)

モノマーの合成

. . . 186

5.3.3

酵素触媒による環状エステル‐ウレタン

(x,y,z)

モノマーの開環重合

. . 194

5.3.4

酵素触媒によるポリ(エステル‐ウレタン)

(2,6,4)

の分解

. . . 200

5.3.5

ポリ(エステル‐ウレタン)

(2,6,4)

の生分解性評価

. . . 201

5.3.6

ポリ(エステル‐ウレタン)

(2,6,4)

の引張強度測定

. . . 202

5.4

結果・考察

. . . 203

5.4.1

酵素触媒による環状エステル‐ウレタン

(x,y,z)

モノマーの合成

. . . 203

5.4.2

酵素触媒をによる環状エステル‐ウレタン

(x,y,z)

モノマーの開環重合

. 207 5.4.3

ポリ(エステル‐ウレタン)

(x,y,z)

の熱特性

. . . 218

5.4.4

酵素触媒によるポリ(エステル‐ウレタン)

(x,y,z)

の分解

. . . 228

5.4.5

ポリ(エステル‐ウレタン)

(2,6,4)

の生分解性評価

. . . 236

5.4.6

ポリ(エステル‐ウレタン)

(2,6,4)

の引張強度

. . . 237

5.5

結言

. . . 238

第

6

章 総括

239

本論文に関する研究発表

255

謝辞

259

(5)

v

略号

本章で用いた略号と化合物、酵素及び測定法の名称との対応を以下に示す。

Table 1:

略号と化合物、酵素及び測定法の名称との対応

略号

:

化合物、酵素及び測定法の名称

BOD : Biochemical oxygen demand

DA-lipase CA : Deactivated lipase CA

DMF : N,N-Dimethylformamide

DMI : 1,3-Dimethyl-2-imidazolidinone DSC : Differential scanning calorimetory

Gly : Glycidol

GPE : Glycidyl=phenyl=ether

Lipase AK : Lipase from Pseudomonas fluorescens

Lipase BC : Immobilized lipase from Burkholderia cepacia Lipase CA : Immobilized lipase from Candida antarctica Lipase CR : Lipase from Candida rugosa

Lipase PS : Lipase from Pseudomonas sp.

Lipase RM : Immobilized lipase from Rizomucor miehei MALDI-TOF MS : Matrix-assisted laser desorption ionization

time-of-flight mass spectrometry

PCU : Poly(carbonate-urethane)

PEU : Poly(ester-urethane)

PPL : Lipase from Porcine pancreas

SEC : Size exclusion chromatography

T

c

: Crystalization temperature

T

g

: Glass transition temperature

T

m

: Melting temperature

ThOD : Theoretical oxygen demand

(6)
(7)

1

第

1

章

序論

1.1

はじめに

20

世紀初頭に始まった合成高分子の開発によって数々の発明がなされ、優れた性質と機能を もつ高分子素材が数多く創出されている。高分子化学工業の急速な発展によって生み出された 多彩な高分子素材は、われわれの生活の利便性を飛躍的に向上させ、文明社会に大きな革新を もたらしている。

2000

年の高分子材料の世界の生産量は

1.7

億トンに達しており、生産量は今 後も増加し続け

2010

年には

2.6

億トンになるとの予測もされている。将来的にも、高分子材料 は日常生活と密接に結びついた身近な材料である。

しかしながら、生産されている合成高分子の多くは自然環境下で分解されないために、不要 になった大量のプラスチック廃棄物をどのように管理して処理するかが世界規模で大きな社会 問題となっている。プラスチックの他にも、界面活性剤やビルダーの材料として用いられる水 溶性ポリマーは、使用後、下水や河川を通じて広く拡散されるので広範囲にわたる水質汚染が 危惧されている。

近年、地球規模での環境問題に対する関心が高まるにつれて、高分子材料に対して利便性だ けでなく、環境調和も強く求められる傾向が急速に高まってきている。使用時には従来の性質 や機能性を有しつつ、廃棄後には自然環境中に蓄積されずに速やかに分解される高分子材料が 求められるなか、自然環境中に存在する微生物により分解される生分解性ポリマーが注目され ている。生分解性ポリマーは微生物によって分解、さらに資化されて最終的に水と二酸化炭素 にまで完全に酸化されて自然界の物質循環に組み込まれる。また、プラスチックのように回収 可能な高分子材料については、リサイクルを行うことにより有限炭素資源を有効利用し、最終 的に廃棄する場合には生分解されることが理想とされる。

高分子材料に対する環境調和の観点は、廃棄後の処理だけでなく、原料、合成プロセスにも 向けられており、高分子材料の全ライフサイクルで環境に与える負荷が最小になるような新規 グリーンポリマーの創成が期待されている。

(8)

1.2

グリーンケミストリーの推進

これまでに化学技術は社会に豊かな物質文明を築くことに多大な貢献をしてきた反面、石油 資源の大量消費及び大量廃棄による資源の枯渇と環境汚染を引き起こし、社会不安の原因をも たらしている。これらの課題を克服し、持続的な発展が可能な社会を支える環境に調和した化 学技術への進展が必要不可欠である。近年、世界規模でみられる化学全般の新たな展開の特徴 は、グリーンケミストリーの概念に基づいた研究開発が推進されていることである。具体的に は、化学製品の全ライフサイクルを通して資源とエネルギーの消費及び環境負荷が最小限にな るように予め設計された研究開発が活発に行われている1–3)。環境調和を志向したグリーンケ ミストリーの概念は次世代型の製品開発プロセスの基盤となり、社会的利益を生み出すことが 期待される。

1.3

グリーンポリマーの創成

ポリマー分野にもグリーンケミストリーの概念は確実に浸透している。これまでに、自然界 の微生物によって分解され、生物圏の物質循環型システムに組み込まれる生分解性ポリマーは 環境に適合した理想的な材料として開発されてきた4–7)。廃棄後に生分解されて自然環境に害 を及ぼさない性質はグリーンケミストリーの概念に合致することから、生分解性ポリマーには

「グリーンポリマー」という呼称がつけられている8, 9)。グリーンケミストリーの観点は廃棄後 の生分解性だけでなく、ポリマー原料、合成法、さらにはケミカルリサイクル性に至る全ライ フサイクルに向けられている。再生可能で持続性を有する生物資源を出発原料として合成され るバイオベースポリマー10, 11)や発酵法や酵素触媒重合など環境低負荷型プロセスによって合 成されるポリマー12, 13)、及びケミカルリサイクル性ポリマー9, 13)もグリーンケミストリーの 概念に合致することからグリーンポリマーとして認識されている。

有限炭素資源の有効利用と地球環境負荷物質低減の観点から、再生可能資源とバイオプロセ スを利用した環境低負荷型ポリマーの創成と持続型ケミカルリサイクルの構築へ向けて様々 な研究開発がなされている。グリーンケミストリーの概念に基づいて設計されたグリーンポリ マーに求められる要点を以下にまとめた。

1.

ポリマー原料として再生可能資源の利用

2.

重合触媒として生体触媒の利用

3.

ケミカルリサイクル性の付与

4.

生分解性の付与

理想的なグリーンポリマーは、原料、合成プロセス、使用後のケミカルリサイクル、及び自 然界に廃棄後の生分解に至る全ライフサイクルで環境に与える負荷が最小限になるように設計 された循環型ポリマーである。理想的なグリーンポリマーの概念について

Fig. 1.1

に示した。

(9)

1.3

グリーンポリマーの創成

3

Degradation Polymerization

Enzyme

Monomer Polymer

Biodegradation Chemical recycling

CO

2

, H

2

O Renewable resouces

Fig. 1.1: Enzymatic chemical recycling and biodegradation of green polymer.

日本では石油総輸入量の約

1

割が化学原料として使用されているが、有限な石油資源に依存 しない化学産業への変換が求められている。そこで再生可能資源として注目されているのが植 物由来の原料であり、石油資源の代替として期待されている。再生可能資源を出発原料として ポリマーを合成することにより、石油資源に依存しないポリマー合成が可能となる。さらに、

ポリマー廃棄物を炭素資源としてとらえ、使用後のポリマーを再びポリマーの原料へ変換する ケミカルリサイクルを行うことにより、持続的に炭素資源を循環させることができる。熱分解 など従来法によるケミカルリサイクルでは、高温高圧条件を必要とするエネルギー多消費型で あるが、ポリマー合成及び解重合の触媒として酵素などの生体触媒を利用することにより、省 エネルギー型の環境低負荷プロセスを構築することができると考えられる。また、深刻な社会 問題に発展している廃棄プラスチック問題を改善するために、ポリマーが最終的に自然界に廃 棄された場合には生分解される必要がある。

このように、再生可能資源から合成されるポリマーのケミカルリサイクルを可能な限り行い、

最終的に生分解させることによって、理想とされる循環型ポリマーが創成される。全ての条件 を満たすことは困難ではあるが、再生可能資源の有効利用、バイオプロセスによるポリマー合 成、ケミカルリサイクル、及び生分解性ポリマーについて、それぞれで研究開発が活発に行わ れている。これらの研究領域の発展と融合により、グリーンポリマーの創成に向けてさらなる 進展が期待される。

本研究では、バイオプロセスによるポリマー合成へのアプローチとして多種多様な酵素触媒 重合の開発を行い、得られたポリマーの酵素法によるケミカルリサイクル及び生分解について 検討を行った。これらの検討を通して、グリーンポリマーの創成に向けた研究開発を行った。

以下に、生分解性ポリマー、バイオプロセスによるポリマー合成、及びケミカルリサイクルに 関する知見を記す。

(10)

1.4

生分解性ポリマー

生分解性ポリマーは自然界に存在する酵素の作用により分解、さらには資化されることから、

地球環境にとって理想的なポリマーとして開発されてきた4, 6, 7)。生分解性ポリマーは合成法 により微生物産生系、天然物系、化学合成系の

3

種類に分類され、それぞれ実用に向けた開発 がなされている14, 15)。

微生物産生系ポリマーとしては、水素細菌

Ralstonia eutropha

など多数の原核生物によっ て、糖や植物油から生合成されるポリ(ヒドロキシブチレート)(

PHB)

が挙げられる5)。生合 成によって分子量約

60

万の

PHB

が得られるが、

PHB

合成酵素の遺伝子を導入した組み換え 大腸菌を用いることによって

2000

万を越す超高分子量の

PHB

が合成されている16)。また、

効率的生産や共重合体の合成など幅広く研究開発されている。

天然物系としては、エステル化澱粉、澱粉

/

化学合成系、酢酸セルロース、キトサン

/

セルロー ス

/

澱粉が挙げられる。

化学合成系としては、ポリ乳酸、ポリ(

²-

カプロラクトン)、ポリ(ブチレンサクシネート)、 ポリ(ブチレンアジペート)、ポリ(ブチレンサクシネート

/

アジペート)など脂肪族ポリエステ ルの他、ポリ(ブチレンアジペート

/

テレフタレート)やポリ(エチレンテレフタレート

/

サクシ ネート)など芳香族系のポリエステルが挙げられる。ポリエステル以外では、水溶性ポリマー であるポリ(ビニルアルコール)が挙げられる。化学合成系の特徴としては、その多くが脂肪 族ポリエステルであり、ヒドロキシカルボン酸から、又はジオールとジカルボン酸から合成さ れることが挙げられる。ポリエステルの生分解は微生物が産生する加水分解酵素によるエステ ル結合の加水分解により進行することが広く知られている。ポリマー原料に着目すると、これ らのポリマーの多くが、原料を石油資源に依存せずに再生可能資源へ転換する傾向にあること が特徴的である。ポリ乳酸は澱粉から発酵法により得られる乳酸をモノマーに用いて合成され、

再生可能資源から合成されるポリマーとしても注目されている。実際に、米国

Cargill Dow

社 により、

2002

年から年産

14

万トンのポリ乳酸が本格的に供給されている。また、

1,4-

ブタンジ オールやアジピン酸など多くの化合物へ誘導されるコハク酸も発酵法による工業生産が可能に なっている。脱石油資源の観点から、発酵法による原料の生産は重要視されており1, 2, 17)、今 後ますますこの傾向は強まると考えられる。再生可能資源を原料に用いたポリマー合成のさら なる進展が期待される。

生分解性ポリマーの現在の課題としては、生分解性を維持しつつ、その物性や加工性を向上 させることが挙げられる18)。生分解性ポリマーの用途拡大へ向けて、高性能化及び高機能化、

さらにプラスチックだけでなく、水溶性の生分解性ポリマーの開発が研究課題となっている。

(11)

1.5

バイオプロセスによるポリマー合成

5

1.5

バイオプロセスによるポリマー合成

酵素法により合成されたポリマーは生分解性を有することが期待されることから、近年、酵 素を重合触媒に用いる試みが活発になされており、実用的技術としての展望が開けつつある

5, 12, 13, 16, 19–23)。酵素触媒重合は大別して、発酵系を用いる

in vivo

合成法と、特定の酵素系を

用いる

in vitro

合成法がある。

1.5.1

発酵法によるポリマー合成

in vivo

合成法により得られるポリマーの特徴は、一般に立体規則性をもつ均一な構造を有

し、高分子量体であることが挙げられる。先述した

PHB

5, 16)の他に、ポリアミノ酸であるポ リ(

γ-

グルタミン酸)24–26)及びポリ(

²-

リジン)27, 28) が知られている。側鎖の官能基を有す るポリ(

γ-

グルタミン酸)及びポリ(

²-

リジン)は、吸水性ゲルや凝集剤などへの利用が期待さ れる機能性ポリマーである。発酵法によるポリマー合成は、立体規則性を有する高分子量のポ リマーを得られる点で優れている。その反面、発酵法による合成が可能なポリマーは微生物が 有する生合成経路に適用可能なものに限られるため、生合成されるポリマーの種類及び分子設 計に限定があることが難点として挙げられる。

1.5.2

酵素触媒重合法によるポリマー合成

特定の酵素を用いる

in vitro

合成法では、酵素の基質になり得る範囲で目的に合わせたポリ マーの分子設計が可能である。これは酵素触媒重合法の特徴であり、ポリマーの分子構造に制 限がある発酵法とは異なる点である。このため、酵素触媒重合法も生分解性ポリマーに多様性 をもたらす有用な合成法として注目されている。酵素触媒重合に利用される酵素のなかで、加 水分解酵素は特別の補因子や補酵素を必要としない。さらにその可逆性を利用することができ れば、ポリマーの合成と分解を制御し、ケミカルリサイクルへの適用も可能である。

1980

年代に油脂加水分解酵素であるリパーゼがポリエステルの合成に有力な触媒となりうるこ とが明らかにされて以来29)、ジカルボン酸(エステル)とジオールの重縮合

(Scheme 1.1 a)

、ヒ ドロキシ酸(エステル)の重縮合

(Scheme 1.1 b)

、及びラクトン類の開環重合

(Scheme 1.1 c)

を 中心にリパーゼによるポリエステルの合成について幅広く研究が行われている12, 13, 19–23, 30–33)。

(12)

HO R3 OH C R1 O

C O

R3 O

n R2OH

+ +

Lipase C R1 C

O OR2 O

R2O

C R1 O

O n + R2OH Lipase

HO R1 C O

OR2

C R1 O

O n Lipase

C O

O R1

a) Polycondensation of dicarboxylate and diol

b) Polycondensation of hydroxycarboxylate

c) Ring-opening polymerization of lactone

Scheme 1.1: Enzyme-catalyzed polymerization.

ジカルボン酸(エステル)とジオールの重縮合はモノマーの種類と組み合わせを変えること により多様なポリエステルを合成することができる合成法である。しかし、高分子量のポリ マーを得るには、縮合により生じる低分子量の副生成物を反応系から除去する必要がある。そ れに対して、ラクトン類の開環重合は高分子量のポリマーを得ることに優れた合成法である。

これは、副生成物が生じないために逆反応がないので、重合が促進されるためである。また、

リパーゼを触媒に用いることによって、従来の化学法では重合が困難な

16

員環程度の中 〜 大 員環ラクトンの開環重合を行うことが可能である34–37)。化学法による開環重合では環の歪が 重要な要因であり、環サイズが大きくなるにつれて環の歪が小さくなるので重合性が低下する。

それに対して、酵素法では基質となり得る範囲でアルキル鎖が適当な長さを有していれば、基 質は酵素によって活性化されて開環重合が進行する。

このように、リパーゼによるポリエステルの合成は多様性に富んでおり、様々な応用へ展開 されることが期待される。特に、リパーゼが中 〜 大員環ラクトンの開環重合を効果的に触媒 する特徴を活かして、効率の良いケミカルリサイクルの構築へ展開が期待される。

(13)

1.6

ケミカルリサイクル

7

1.6

ケミカルリサイクル

1.6.1

従来法によるケミカルリサイクル

現在、廃プラスチックのリサイクルはマテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル、サーマ ルリサイクルの

3

つの方法で行われている。これらのなかで、廃プラスチックをポリマー原料 に変換するケミカルリサイクルは、省エネルギーな方法が確立されれば、劣化が生じない持続 型の理想的なリサイクルプロセスとなり得る。

これまでに行われているケミカルリサイクルはエネルギー多消費型であり、高温・高圧条件 を必要とする。例えば、ポリ乳酸の熱分解によるラクチドへのモノマー化リサイクルでは、

270

℃以上の高温条件が必要とされる。ポリ(エチレンテレフタレート)(

PET

)のエチレングリ コール及びテレフタル酸(エステル)へのモノマー化リサイクルでは、

200

℃、

20 - 70

気圧の 高温高圧条件が必要とされる38)。

PET

のケミカルリサイクルに代表されるように、ポリマーの分解反応はグリコール分解やメ タノール分解などアルコール分解により行われることが多い。ポリエステルのアルコール分解 で生じるジカルボン酸エステルは、そのままポリマー原料として用いるか、またはジカルボン 酸にまで精製された後にポリマー原料として用いられる。これらを用いて重縮合が行われ、再 び

PET

に再生されるまでに分解反応で添加した分のアルコール成分が副生成物として生じる ことになる。

1.6.2

酵素触媒によるケミカルリサイクル

省エネルギー型のケミカルリサイクルを指向し、リパーゼを用いた脂肪族ポリエステルのケ ミカルリサイクルへのアプローチが行われている。これは、リパーゼによるエステル交換反応 の可逆的な性質を利用し、モノマー

À

ポリマー間の重合と分解を制御することにより行われ る。リパーゼによる脂肪族ポリエステルのケミカルリサイクルの特徴を以下に記す。

1.

従来法と比べて温和な条件下で行われる省エネルギー型ケミカルリサイクル

2.

基質濃度を変化させることで重合と分解を制御することが可能

3.

分子内エステル交換反応によるポリマーの環状体オリゴマー化

4.

リパーゼの特徴を活かした環状オリゴマーの再重合

当研究室で、リパーゼを用いたポリエステルの環状オリゴマー化リサイクルについて検討が 行われており、様々な脂肪族ポリエステル及び脂肪族ポリカーボネートが環状オリゴマーに変 換されることが見出されている。ポリ乳酸(

PLA)

39)、ポリ(

²-

カプロラクトン)(

PCL

)40–43)、 ポリ(ブチレンサクシネート)(

PBS

)44)、ポリ(ブチレンアジペート)(

PBA

)44)、ポリ(ブ チレンサクシネート

/

アジペート)(

PBSA

)44)、ポリ(ヒドロキシブチレート)(

PHB)

、45–47) 及びポリ(トリメチレンカーボネート)(

PTMC

)48)はリパーゼにより環状オリゴマー化され

(14)

ることが明らかにされている。

しかし、リパーゼによるポリマーの分解で得られる環状オリゴマーは必ずしも優れた再重合 性を有してはおらず、上記のポリマーのなかで、リパーゼにより元のポリマーと同程度の分子 量を有するポリマーにまで再変換されたものは

PCL

、

PBA

、及び

PTMC

に限られる。リパー ゼによる環状体の開環重合については、さらなる研究開発が望まれる。

1.7

本論文の研究内容

本研究では、バイオプロセスによるポリマー合成へのアプローチとして多種多様な酵素触媒 重合の開発を行い、得られたポリマーの酵素法によるケミカルリサイクル及び生分解について 検討を行った。これらの検討を通して、グリーンポリマーの創成に向けた研究開発を行った。

第

1

章及び第

2

章では水溶性ポリマーについて研究を行い、ポリ(グリシドール)及びポリ

(アスパラギン酸)の酵素合成と生分解について検討を行った。第

3

章及び第

4

章では循環型ポ リマーについて研究を行い、ポリ(カーボネート

-

ウレタン)及びポリ(エステル

-

ウレタン)の 酵素触媒によるケミカルリサイクルについて検討を行った。

各章の概要を以下にまとめた。

第

2

章 酵素触媒によるポリ(グリシドール)の合成と生分解性評価

ポリ(グリシドール)は側鎖に水酸基を有するので、非イオン性界面活性剤の親水基などの 工業分野や化粧品分野での利用が期待されている。比較的低分子量のポリ(グリシドール)は 生分解性を有することが期待される。そこで、エポキシドヒドロラーゼ活性を有する菌体及び リパーゼを触媒に用いた酵素法によるグリシドールの新規開環重合を行い、ポリ(グリシドー ル)の合成と重合挙動の解析を行った。さらに、得られたポリグリシドールの生分解性の評価 を行った。

第

3

章 酵素触媒によるポリ(アスパラギン酸)の合成と生分解性評価

ポリアクリル酸塩は金属イオン封鎖剤、分散剤、合成洗剤のビルダーなどに用いられている が、難分解性であるので水質汚染を引き起こすことが懸念されている。ポリアクリル酸塩の代 替としてポリアスパラギン酸塩が注目されているが、従来の熱重合法によって合成されるポリ

(アスパラギン酸)分子中には、イミド構造や分岐など酵素分解性の低下を引き起こす構造が含 まれる。そこで、温和な条件下、プロテアーゼを触媒に用いたL

-

アスパラギン酸エステルの重 縮合を行うことによって、分子構造の制御されたポリ(L

-

アスパラギン酸エステル)の合成を 行うことを試みた。得られたポリ(L

-

アスパラギン酸エステル)のけん化によりポリ(アスパ ラギン酸塩)を調製し、その生分解性の評価を行った。

第

4

章 酵素触媒によるポリ(カーボネート

-

ウレタン)のケミカルリサイクル

(15)

1.7

本論文の研究内容

9

ポリウレタンはソフトセグメントとハードセグメントから構成され、各セグメントの種類や 比率の組み合わせによって、目的の物性に合わせた分子設計を行うことができる。一般に、ポ リウレタンは難分解性であることが知られているが、酵素分解性の結合をポリウレタン分子鎖 中に規則正しく導入することにより、ポリウレタンに酵素分解性が付与されることが期待され る。そこで、ハードセグメントがカーボネート結合によって連結された新規ポリ(カーボネー ト

-

ウレタン)(

PCU

)を分子設計し、リパーゼによる合成、分解、及び再重合を行った。

PCU

の合成は、脱イソシアネートを志向し、環状カーボネートとジアミンからほぼ定量的に得られ るジウレタンジオールとジエチルカーボネートの重縮合により行った。

PCU

の分解は、希釈 条件下で反応を行うことにより環状モノマーにまで変換することを試みた。さらに、分解生成 物を基質に用いた再重合を行い、

PCU

のケミカルリサイクルの構築を行った。

第

5

章 酵素触媒によるポリ(エステル

-

ウレタン)のケミカルリサイクル

ポリウレタン分子鎖中の酵素分解性部位として、発酵法による大量供給が可能なコハク酸や アジピン酸を導入し、再生可能資源を有効利用した新規ポリ(エステル

-

ウレタン)(

PEU

)を 分子設計し、リパーゼによる合成、分解、及び再重合を行った。

PEU

の合成では、まず、リ パーゼを用いてジウレタンジオールとアルキレンジエステルから環状モノマーを調製した。次 いで、リパーゼによる環状モノマーの開環重合を行うことによって高分子量の

PEU

の合成を 行うことを試みた。また、ポリマー分子鎖中のジウレタン部位及びジエステル部位に含まれる アルキル鎖の長さを変化させることにより、計

13

種類のポリ(エステル

-

ウレタン)を合成し、

それらの熱特性と酵素分解性について比較した。

第

6

章 総括

本研究で得られた結果をまとめ、今後の展望について記した。

(16)
(17)

11

第

2

章

酵素触媒によるポリ(グリシドール ) の合

成と生分解性評価

2.1

緒言

2.1.1

はじめに

エポキシドは合成中間体として、またポリマー合成のためのモノマーとして広くその利用が 図られている。これまでに、エポキシドを加水分解し、ジオールを与えるエポキシドヒドロ ラーゼが高等生物から菌類まで広く普遍的に存在していることが明らかにされている49, 50)。近 年、エポキシドヒドロラーゼの基質特異性や活性部位の触媒機構について多数報告されている

51–54)。エポキシドヒドロラーゼの活性部位で、二つのチロシン残基がエポキシ環の酸素原子に

配位することによってエポキシ環の分極が促進される。そこへ、ヒスチジン残基により活性化 された水が求核攻撃を行うことによりエポキシドが加水分解される。また、分極したエポキシ 環にアスパラギン酸残基が求核攻撃を行い、エポキシ環が開環してエステル結合が形成された 後に、ヒスチジン残基により活性化された水が求核攻撃を行うことによりエポキシドが加水分 解される反応機構も提唱されている51, 55)。

本章では、エポキシドヒドロラーゼ活性を有する酵素を用いることで、温和な条件下、エポ キシドの開環重合を行い、酵素法によるエポキシドの新規開環重合について検討を行った。

2.1.2

エポキシドヒドロラーゼ活性を利用したエポキシドの開環反応

エポキシドヒドロラーゼを触媒に用いたエポキシドの不斉加水分解が多数報告されている

56–62)。エポキシドヒドロラーゼをラセミ体のエポキシドに水溶液中で作用させると、基質特異

性のために不斉加水分解が進行し、光学活性なジオールが生成し、光学活性なエポキシドが未 反応物として回収される。

Mischitz

らによりに

Rhodococcus sp. NCIMB11216

からエポキシ ドヒドロラーゼが単離され、これを用いたエポキシドのエナンチオ選択的な加水分解により、

光学活性なジオールが得られている57, 58)

(Scheme 2.1 a)

。

(18)

R1 O R2

R1 O R2

R1 OH

R2

OH Epoxide hydrolase

+

R1 = n-C5H11, n-C7H15 R2 = CH3

a) Hydrolysis of epoxide into a chiral diol using an epoxide hydrolase from Rhodococcus sp.

PPL

b) Ring-opening reaction of epoxide with amine into amino alcohol using PPL

c) Ring-opening oligomerization of epoxide with aliphatic ester using PPL H2N

H2O

+

+ PhO

O

PhO

O

PhO

OH HN toluene

C7H15 O

O

O

OH OPh

OPh m m = 1 - 4 PPL

C7H15COOMe

Scheme 2.1: Enzymatic ring-opening reactions of epoxide

57, 63, 64)

.

エポキシドヒドロラーゼの他にも、脂質加水分解酵素であるリパーゼがエポキシドヒドロ ラーゼ活性を有することが明らかにされており、各種起源のリパーゼが入手容易であることか ら、有機合成化学分野でエポキシドの不斉加水分解への利用が試みられている。さらに、リ パーゼは水分量制限下でも活性を示すことが知られており、加水分解以外のエポキシドの開環 反応への応用が期待される。

Kamal

らにより、

porcine pancreas

、

Candida cylindracea

、及

び

Mucor miehei

由来のリパーゼが、水分量制限下、トルエンなどの有機溶媒中、求核試薬と

して

2-

プロパノールアミンを用いることによってグリシジル

=

フェニル

=

エーテルの位置選択 的な開環反応を触媒し、

(S )-

プロパノールアミンが得られている63, 65)

(Scheme 2.1 b)

。

本研究室でも岡本により、無水条件下、

porcine pancreas

由来リパーゼを用いることにより、

グリシジル

=

フェニル

=

エーテルの開環重合が進行し、側鎖にフェニル基を有するオリゴマー が低収率ながら得られている64)

(Scheme 2.1 c)

。この反応では、まずオクタン酸メチルが基 質となり、アシル酵素中間体へグリシジル

=

フェニル

=

エーテルのエポキシ環の酸素原子が求 核攻撃を行い、エポキシ環が開環する。次いで、この生成物の末端水酸基がグリシジル

=

フェ ニル

=

エーテルのエポキシ環を求核攻撃することによって開環重合が進行し、オリゴマーが生 成する。リパーゼの活性部位での触媒機構に関与するアミノ酸残基はエポキシドヒドロラーゼ のものと異なり、リパーゼの活性部位のアミノ酸残基がエポキシドの加水分解活性にどのよう に関与しているかは未解明である。

(19)

2.1

緒言

13

これらの例から、水分量制限下、リパーゼのエポキシドヒドロラーゼ活性を利用することに より、エポキシドの開環重合が進行することが期待される。各種起源のリパーゼは入手容易で 大量供給が可能であることから、リパーゼの新たな機能を引き出すことで、有機合成や高分子 合成分野で新たなツールとなることが期待される。

2.1.3

化学法によるグリシドールの開環重合

側鎖に水酸基を有するグリシドールの開環重合によって得られるポリ(グリシドール)は、

耐加水分解性を有する水溶性ポリマーであり、比較的低分子量のものは非イオン性界面活性剤 の親水基などの工業分野、トイレタリー、及び化粧品分野での利用が期待され、且つ生分解性 を有することが期待される。

従来法によるポリ(グリシドール)の合成は、低温又は高温条件下、有機金属触媒又は酸触 媒を用いたグリシドールのカチオン開環重合により行われる。

Penczek

らにより、塩化スズや 三フッ化ホウ素エーテル錯体などのルイス酸を用い、

-15

℃の低温条件下、グリシドールの開 環重合を行うことによって、数平均分子量

2500

〜

6000

のポリ

(

グリシドール)が得られてい

る66–68)。また、

Sunder

は、カリウムメトキシドを用い、

95

℃の高温条件下、グリシドールの

アニオン開環重合を行うことによって、数平均分子量

1200

〜

6500

のポリ

(

グリシドール)が

得ている69–72)。開環重合及びアニオン重合の場合も、得られるポリマーの主鎖構造中にはグ

リシドールの開環位置の違いによるに二種類の繰り返し構造と分岐構造が含まれる。

O

OH

SnCl2 or BF3OEt2

O OH O

OH

y x

+ Branched structure Glycidol

Poly(glycidol)

Scheme 2.2: Cationic polymerization of glycidol

66, 67)

.

本研究では、環境調和型プロセスの開発を目的とし、酵素のエポキシドヒドロラーゼ活性を 利用することにより、温和な条件下、グリシドールの開環重合によるポリ

(

グリシドール

)

の合 成を行った。これまでに酵素触媒によるエポキシドの開環重合は知られていないが、水分量制 限下でエポキシドヒドロラーゼ活性を有する酵素をグリシドールに作用させた場合には、水の 代わりにグリシドールの側鎖の水酸基が求核剤として働き、重合反応が進行することが考えら れる。

(20)

2.1.4

ポリエーテルの生分解

ポリ(グリシドール)の生分解についての報告例はないが、ポリエーテルの代表例であるポ リエチレングリコール

(PEG)

の生分解はポリマー主鎖中のエーテル結合が切断されるのでは なく、ポリマー末端の水酸基が酸化されることによって分解が進行し、末端のグリコール単位 で切り出され、資化されるエキソタイプの分解機構であることが知られている。ポリマー両末 端の水酸基をブロックしたものに微生物を作用させた場合には、微生物の生育が全く認められ

ない。

Kawai

らにより、

PEG

代謝酵素として

PEG

脱水素酵素及びグリコール酸脱水素酵素

が精製され、

PEG

の生分解に関与する酵素が特定されている73–76)

(Scheme 2.3)

。ポリマー 末端の水酸基が

PEG

脱水素酵素によりアルデヒドへ変換され、さらにアルデヒド酸化酵素に よりカルボン酸へ変換された後に、グリオキシル酸が切り出され、これが資化される。このよ うに、ポリエーテルはポリマー末端から分解されるので、その生分解性はポリマーの分子量の 影響を受ける。一般に、分子量

4000

以上の

PEG

の生分解に関与する微生物は限定されている が、分子量

20000

のものを分解する微生物も報告されている76)。側鎖にメチル基を有するポ リプロピレングリコール

(PPG)

も

PEG

と同様にエキソタイプに生分解される。

ポリグリシドールは側鎖に水酸基を有するので分解の開始部位が多いと考えられ、その生分 解性が期待される。

HO CH2CH2O CH2CH2OH n

HO CH2CH2O CH2CH2OH n-1

HO CH2CH2O CH2CHO n

HO CH2CH2O CH2COOH n

CHOCOOH Glyoxylic acid PEG dehydrogenase

PEG-aldehyde dehydrogenase

PEG-carboxylate dehydrogenase

Scheme 2.3: Biodegradation mechanism of PEG and metabolic enzymes

73–76)

.

(21)

2.1

緒言

15

2.1.5

酵素触媒によるグリシドールの新規開環重合とポリグリシドールの生分解性評価

本研究の目的は以下にまとめた。

1.

酵素触媒によるグリシドールの新規開環重合の開発

2.

グリシドールの酵素触媒重合機構の解析

3.

ポリ

(

グリシドール

)

の生分解性評価

本研究で検討を行った酵素触媒によるグリシドールの開環重合と生分解の概要について

Figure. 2.1

に示す。

O

OH O

OH O

OH

y x

+ Branched structure Glycidol

Poly(glycidol) O

OH

Microbes Enzyme

CO2 + H2O

Biodegradation Ring-opening polymerization

Fig. 2.1: Novel enzymatic ring-opening polymerization of glycidol and biodegradation of poly(glycidol).

エポキシドヒドロラーゼを有する菌体、エポキシドヒドロラーゼ活性を有するリパーゼを触 媒に用いることにより、従来法に代わり環境調和型のグリシドールの開環重合について検討を 行った。各種起源のリパーゼは入手容易で大量供給が可能であることから、リパーゼの新たな 機能を引き出すことで、有機合成や高分子合成分野で新たなツールとなることが期待される。

さらに、酵素触媒の特徴である位置選択的な反応を行うことができれば、生成ポリマーの分子 構造を制御したグリシドールの開環重合が進行することが期待された。

非イオン性界面活性剤の親水基などの工業分野、トイレタリー、及び化粧品分野での利用が 期待されるポリ(グリシドール)は、使用後に回収することが困難であるため、生分解性を有す ることが望まれる。そこで、下水処理場から採取した活性汚泥を植種源として用い、ポリ(グ リシドール)の生分解性について評価を行った。

(22)

2.2

試薬・機器

2.2.1

試薬

本章で用いた酵素を以下にまとめた。各種酵素は、五酸化二リン存在下、常温で

6

時間減圧 乾燥してから反応に用いた。

Table 2.1: List of enzymes.

酵素 略号 製造会社

Candida antarctica

由来固定化リパーゼ

CA Novozymes Japan Ltd.

(7,000 PLU/g)

Candida rugosa

由来リパーゼ

CR Sigma Chem. Co., Inc.

(500 U/mg)

Porcine pancreas

由来リパーゼ

PPL Sigma Chem. Co., Inc.

(41 U/mg protein)

Pseudomonas fluorescens

由来リパーゼ

AK

天野エンザイム(株)

(20,000 u/g protein)

Pseudomonas sp.

由来リパーゼ

PS

天野エンザイム(株)

(Activity = 30,000 u/g)

本章で用いた菌株を以下に記した。

菌株 保存期間

Rhodococcus sp. NCIMB11216 NCIMB Ltd.

(23)

2.2

試薬・機器

17

本章で用いた試薬を以下にまとめた。

Table 2.2: List of reagents.

試薬名 製造会社 等級

グリシドール

Aldrich Chem. Co., Inc. 96%

プロピレンオキシド 東京化成工業(株) 試薬特級

1,2-

ブチレンオキシド 東京化成工業(株) 試薬特級 グリシジルメチルエーテル 東京化成工業(株) 試薬特級

n-

ブチルグリシジルエーテル 東京化成工業(株) 試薬特級 グリシジルフェニルエーテル 東京化成工業(株) 試薬特級

メタノール ゴードー溶剤(株) 業務用

N,N-

ジメチルホルムアミド 関東化学(株) 一級

重水

Isotec Inc.

重メタノール

Isotec Inc.

Peptide calibration standard Bruker Daltonics Inc.

   

(1000-4000 Da)

α-Cyano-4-hydroxy-cinnamic acid Sigma Chem. Co., Inc.

2,4-Dihydroxybenzoic acid Sigma Chem. Co., Inc.

トリフルオロ酢酸 東京化成工業(株) 特級 アセトニトリル 純正化学(株)

HPLC

用

メタノール 純正化学(株)

HPLC

用

クロロホルム 純正化学(株)

HPLC

用

アニリン 和光純薬工業(株) 試薬特級

リン酸二水素カリウム 和光純薬工業(株) 試薬特級 リン酸水素二カリウム 和光純薬工業(株) 試薬特級 リン酸水素二ナトリウム二水和物

Merck Ltd.

特級

塩化アンモニウム 純正化学(株) 試薬特級

無水塩化カルシウム 関東化学(株) 特級

硫酸マグネシウム七水和物 純正化学(株) 純正一級

水酸化カリウム 純正化学(株) 純正一級

塩化ナトリウム 関東化学(株) 試薬特級

硫酸鉄

( )

七水和物 小宗化学薬品(株) 試薬特級

(24)

試薬名 製造会社 等級 塩化鉄

( )

六水和物 和光純薬工業(株) 試薬特級 塩酸チアミン 和光純薬工業(株) 試薬特級 硫酸銅

( )

五水和物 純正化学(株) 試薬特級 粉末酵母エキス 極東製薬工業(株)

ペプトン 極東製薬工業(株)

普通寒天培地 極東製薬工業(株)

D(+)-

グルコース 純正化学(株) 試薬特級

寒天粉末 純正化学(株) 純正一級

グリシドールは以下に記す方法により精製を行った後、実験に使用した。

グリシドール  

グリシドール

25 g

に対してモレキュラーシーブス

4A

を薬さじ

1

、

2

杯分加え、一日放 置して予備乾燥を行った後、濾別し、減圧蒸留

(87

℃

/4 mmHg)

を行った。

(25)

2.2

試薬・機器

19 2.2.2

機器

サイズ排除クロマトグラフィー

(SEC)

ポンプ

: PU-1580

日本分光(株)

検出器

: RI-1530

日本分光(株)

デガッサー

: DG-980-50

日本分光(株)

レコーダー

: 807-IT

日本分光(株)

カラムオーブン

: CO-1565

日本分光(株)

カラム

: TSK-Gel α-3000 (7.8 mmø

×

300 mm)

東ソー(株)

検量線用標準試料

: Polyethylene glycol standard

創和科学(株)

M

w

= 18000, 6250, 1065

Hexaethylene glycol (F.W. 282.3) Aldrich Chem. Co., Inc.

Diethylene glycol (F.W. 106.1) Aldrich Chem. Co., Inc.

試料溶液

: 0.1% DMF

溶液

溶離液

: N,N-

ジメチルホルムアミド(特級) 関東化学(株)

測定条件

:

温度

= 40

℃

:

流速

= 0.8 mL/min :

注入量

= 100 µL

その他の機器

FT-NMR : JOEL JNM-LA300

日本電子(株)

: Varian NMR300 Varian, Inc.

MALDI-TOF MS : Bruker Proflex Bruker Daltonics Inc.

mass spectrometer

ガラス電極式水素イオン濃度計

: HM-20E

東亜電波工業(株)

オートクレーブ滅菌器

: SD-30N

東亜電波工業(株)

BOD

テスター

: 100F

タイテック(株)

クールユニット

: CL-150

タイテック(株)

振とう培養機

:

江戸川理化学製作所(株)

分光光度計

: UV-160

(株)島津製作所

テストチューブミキサー

: TM-251

岩城硝子(株)

遠心機

: H-103N

(株)コクサン

小型微量遠心機

: HF-120

トミー精工

(

株

)

(26)

2.3

実験方法

2.3.1 Rhodococcus sp. NCIMB11216

の培養と休止菌体の調製

(1) Rhodococcus sp. NCIMB11216

の培養

Mischitz

らの方法57)に従い、下記の培養液を調製した。複合培養液

200 mL

を

500 mL

坂 口フラスコに移し、オートクレーブ滅菌器を用いて

120

℃、

15

分間滅菌を行った後、クリーン ベンチ内で常温になるまで放置した。これに

Rhodococcus sp. NCIMB11216

をスラントから 一白金耳量植菌し、ウレタン栓をして

30

℃の暗所で振とう培養を行った。

3

日程度で培養液は 赤褐色に濁り、目視により菌体の増殖が認められたので植え継ぎを行った。分光光度計を用い、

培養液の

660 nm

における吸光度

(Optical denciry, OD

660

)

を測定することにより、菌体の増 殖量を測定した。培養開始

4

日後の

OD

660値は

2.4

を示し、十分に菌体が増殖したことが確認 された。

培養液組成(

1 L

中)

:

リン酸水素二カリウム

6.0 g

塩化カルシウム

0.05 g

リン酸二水素カリウム

3.0 g

粉末酵母エキス

2.5 g

塩化ナトリウム

0.5 g

ペプトン

2.5 g

硫酸マグネシウム七水和物

0.5 g D(+)-

グルコース

10.0 g

硫酸アンモニウム

1.0 g

(2) Rhodococcus sp. NCIMB11216

休止菌体の調製

Rhodococcus sp. NCIMB11216

を

4

日間培養後、得られた培養液を遠心分離(

4

℃

, 12,000

rpm, 15,000 g, 15 min

×

2

)により菌体を沈殿させ、デカンテーションにより赤褐色の菌体を 得た。得られた菌体を

4

℃の蒸留水

20 mL

に懸濁し、予めドライアイスを入れて

-20

℃に冷 却しておいたアセトン

300 mL

中に滴下し、マグネチックスターラーを用いて

10

分間撹拌し た。この懸濁液を桐山濾紙を用いて素早く吸引濾過し、

-20

℃に冷却したアセトン

20 mL

、次 いで

-20

℃に冷却したジエチルエーテル

20 mL

により洗浄した。得られた残査を常温減圧下で

1

日間乾燥し、

Rhodococcus sp. NCIMB11216

のアセトンパウダー

78.5 mg

を得た。

図

Fig. 2.3: 75 MHz 13 C DEPT NMR spectrum of poly(glycidol) in CD 3 OD.
Fig. 2.4: 300 MHz 1 H NMR spectrum of poly(glycidol) after alkaline hydrolysis in CD 3 OD.
Fig. 2.7: MALDI-TOF MS of polyglycidol before and after hydrolysis using 1N NaOH.
Fig. 2.9: BOD-biodegradation of poly(glycidol) unig activated sludge at 30 ℃ for 28 d.
+7

参照

関連したドキュメント

実験内容 〈2・1〉 酸化チタン薄膜の作製

使用原料 使用原料 使用原料 使用原料 Table31 使用原料 原料 会社名 表示名所 ハイビスワコー 104 和光純薬工業株式会社

味の素製薬株式会社 アステラス製薬株式会社 エーザイ株式会社 小野薬品工業株式会社

( D-iso-BP ) ,フタル酸ジペンチル( DPeP ) ,フタル酸ジ ヘキシル(DHxP) ,フタル酸ジヘプチル(DHP) ,フタ

スタドルフ錠200mg スルトプリド塩酸塩 200mg1錠 共和薬工 スロンタクス錠100 セリプロロール塩酸塩 100mg1錠

モサプリドクエン酸塩錠2.5mg 「日医工」 日医工株式会社 後発品 山口県 山口県 溶出試験 局方 適 モサプリドクエン酸塩錠2.5mg 「日新」 日新製薬株式会

品 府県 試験法 結果 リセドロン酸Na錠17.5mg「ユートク」 大興製薬 8030001055058 後発品 静岡県 静岡県 溶出試験

 塩酸ヒドロキシルアミン(関東化学、試薬特級)3重量部、メタノール(和光純薬、試