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ポリ(カーボネート‐ウレタン)の熱特性

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第 4 章 酵素触媒によるポリ(カーボネート‐ウレタン)のケミカルリサイクル 95

4.4 結果・考察

4.4.3 ポリ(カーボネート‐ウレタン)の熱特性

第4.4.2節で得られたPCU (3,4)、PCU (3,5)及びPCU (3,6)を再沈殿により精製し、それ らの熱特性をDSCを用いて解析した。DSCチャートをFig. 4.20に示す。

Temperature (oC)

Heat flow (mW)

0 100 200

a) PCU (3,4) (second heating)

b) PCU (3,5) (first heating)

c) PCU (3,5) (second heating)

d) PCU (3,6) (second heating)

Fig. 4.20: DSC curves of PCU (x,y)s.

ポリマー試料を昇温(first heating)して溶解し、急冷後、再び昇温(second heating)する ときに検出されるガラス転移温度(Tg)、結晶化温度(Tc)及び融解温度(Tm)を測定した。

PCU (3,4)のDSC曲線では、102℃に融解前駆現象とみられる発熱ピークが検出された。こ

のピークは一度目の昇温時には検出されなかったことから、急冷後の昇温過程で形成された結 晶構造に由来すると考えられるが詳細は不明である。PCU (3,5)では、二度目の昇温時ガラス 転移点は検出されたが結晶化及び融解ピークは検出されなかった。PCU (3,5)は一度目の昇温 時に融解ピークが検出されていることから、ポリマー試料を調製したときには結晶化している 確認されているが、DSC測定中に融解し、急冷した後の昇温過程では結晶化されないことか ら、PCU (3,4)及びPCU (3,6)と比較して結晶化されにくいポリマーであることが示された。

Fig. 4.20より検出されたTgTc及びTmを各ポリマーの分子量及び分子量分布と併せて Table 4.11に示す。3種類のポリマーのガラス転移温度は7 〜 9 ℃で同程度であった。PCU (3,4)及びPCU (3,6)の結晶化温度はそれぞれ73及び66 ℃に検出されたが、PCU (3,5)の結 晶化ピークは検出されなかった。ジウレタン部位のアルキル鎖中のメチレンの数(y)が偶数の ときに結晶化しやすく、奇数のときに結晶化しにくい傾向が観察された。融点でもジウレタン 部位のアルキル鎖中のメチレンの数による差がみられ、メチレンの個数が偶数個のときは奇数

4.4 結果・考察 153

Table 4.11: Thermal properties of PCU (x,y)s.

Entry PCU (x,y) Mw Mw/Mn Tg a)/℃ Tc a)/℃ Tm a)/℃

1 PCU (3,4) 14,000 1.9 9 73, 102 113

2 PCU (3,5) 20,000 1.5 7 – 87, 98b)

3 PCU (3,6) 22,000 2.3 8 66 117

a) Tg,Tc and Tm were collected in a second heating. b) Tm of PCU (3,5) was collected in a first heating because of no melting peak in a second heating.

個のときと比較して高融点になることが示された。なお、PCU (3,4)及びPCU (3,6)の融点は 二度目の昇温過程で検出された値であるが、PCU (3,5)の融点は二度目の昇温過程で検出され なかったので一度目の昇温過程で検出された値を用いて比較した。PCU (3,4)及びPCU (3,6) の一度目の昇温過程で検出された融点はそれぞれ116℃及び117℃であり、二度目の昇温過程 で検出された融点とは最大でも3 ℃の差しかない。したがって、ここでは何度目の昇温過程で 検出された融点であるかどうかは、3種類のポリマーの融点を比較する上で支障はない。

ポリマー分子の繰り返し構造中のアルキル鎖のメチレン数により融点が変化する傾向は、ポ リチオエステル175)

ポリアミド176)、ポリエステルアミド177, 178) 及びポリウレタン179–181)でもみられ、アルキ ル鎖のメチレン数が偶数系列のポリマーは、奇数系列のポリマーと比較して高融点を有するこ とが報告されている。同様の傾向は飽和脂肪酸の融点でもみられ、メチレンの数が偶数系列の 飽和脂肪酸の融点は奇数系列のものと比べて高融点となることが報告されている182)。一般に、

平面ジグザグ構造が折りたたまれた高次構造を形成する脂肪族ポリエステルなどのポリマーの 融点は、分子鎖の充填密度の影響を受けることが知られている。平面ジグザグ構造を形成した 場合に互いに逆方向を向いてカルボニル基が繰り返される偶数系列のポリマーは、同じ方向を 向いてカルボニル基が繰り返される奇数系列のポリマーと比較して、隣り合う分子鎖が配向し やすいために分子鎖が密に充填され、より安定な結晶構造を形成するので高融点になる。また、

アミド結合やウレタン結合を含むポリマーの融点は、分子鎖間で形成される水素結合の割合が 増加するにつれて高融点になることが知られている179)。ポリマー分子鎖中のカルボニル基と ウレタン結合のアミンが水素結合を形成しやすいように配向する一次構造を有している場合に、

分子鎖間で形成される水素結合の割合が増加すると考えられている179)

本研究で合成したPCU (3,y)に関しても、融点はポリマー分子鎖間で形成されるC=O · · · H-N水素結合の影響を受けることが推察される。ジウレタン部位のメチレン数(y)がポリマー 分子鎖間の水素結合に及ぼす影響については、次項で言及する。

(2) PCU分子鎖間で形成されるC=O · · ·H-N水素結合についての解析

赤外フーリエ変換分光計を用いてPCU (3,y)の赤外吸収について解析を行い、ジウレタン部 位のメチレン数(y)が水素結合の形成に及ぼす影響について比較した。PCU (3,y)の赤外線 吸収スペクトルの一例として、PCU (3,6)のFT-IRスペクトルをFig. 4.21に示す。

3329

1747

1686 3800 3400 3000 2600 2200 1900 1700 1500 HN C

O O

HN C O

O O C

O O

Wavenumber (cm-1) CH2

2865 - 3055

Fig. 4.21: FTIR spectrum of PCU (3,6).

Tangらの報告162, 183)を参考にスペクトルの同定を行った結果、1686、1747、2865 - 3055

及び3329 cm−1に検出された吸収帯は、それぞれウレタン結合のC=O伸縮振動、カーボネー

ト結合のC=O伸縮振動、アルキル鎖のCH伸縮振動及びウレタン結合のN-H伸縮振動に帰属 された。PCU (3,4)、PCU (3,5)及びPCU (3,6)のウレタン結合のN-H伸縮振動、カーボネー ト結合のC=O伸縮振動及びウレタン結合のC=O伸縮振動に由来する吸収帯のピークトップ の波数値をDSC測定で検出された融点と併せてTable 4.12に示す。

Table 4.12: FTIR absorption bands of PCU (3,y).

Entry PCU (3,y) Tm (℃) Peak top (cm−1)

N-H C=O of carbonate C=O of urethane

1 PCU (3,4) 113 3323 1748 1688

2 PCU (3,5) 87, 98 3336 1748 1697

3 PCU (3,6) 117 3329 1747 1686

Table 4.12より、比較的高融点を有するPCU (3,4)及びPCU (3,6)のウレタン結合のN-H 伸縮振動及びウレタン結合のC=O伸縮振動に由来する吸収帯のピークトップの波数値は、比 較的低融点を有するPCU (3,5)の相当する波数値と比較して約10 cm−1低波数側にシフトす ることが示された。ウレタン結合のN-H及びC=Oに由来する吸収帯の低波数側へのシフトは C=O· · ·H-N水素結合の形成に起因することから、PCU (3,4)及びPCU (3,6)はPCU (3,5)

4.4 結果・考察 155 と比較してウレタン結合間の水素結合の割合が大きいことが示された。水素結合を形成してい ないウレタン結合のN-Hに由来する吸収帯は3380 - 3400 cm−1 付近に検出されることが報 告されていることから162, 183)、3336 cm−1にN-Hに由来する吸収帯を有するPCU (3,5)は、

PCU (3,4)及びPCU (3,6)には劣るものの、分子鎖間で水素結合が形成されていることが考え られる。しかし、ウレタン結合のC=Oの波数値は、水素結合していないウレタン結合のC=O に由来する1700 cm−1付近に検出されたことから、PCU (3,5)は水素結合を形成しているウ レタン結合を含むものの、その割合は小さいことが推察される。

ウレタン結合のN-H及びC=Oに由来する赤外線吸収帯の波数値の比較により、ジウレタン 部位のメチレン数(y)が偶数系列のPCU (3,4)及びPCU (3,6)では、C=O· · ·H-N水素結合 の形成に起因する低波数側へのシフトが示され、ウレタン結合間の水素結合の割合の増加がポ リマーの融点を上昇させる一因であることが明らかにされた。Fig. 4.22に示すように、PCU

(3,y)分子中のジウレタン部位のメチレン数(y)が偶数系列の場合には、奇数系列の場合と比

較して隣り合う分子鎖が水素結合を形成しやすいように配向するために分子鎖が密に充填され、

より安定な結晶構造を形成するので高融点になると考えられる。

O N

H

HN O O

O

O N

H O

NH O O

O N

H O

N H

O O

O N

H

H

N O

O

O

Number of CH2 -units: y = 5 (odd)

Number of CH2 -units: y = 6 (even)

Hydrogen bonding

Hydrogen bonding Non-hydrogen bonding

Fig. 4.22: Formation of hydrogen bonding at diurethane moieties in PCU (x,y)s.

カーボネート結合のC=O伸縮振動に由来する吸収帯のピークトップの波数値は、3種類の PCU (3,y)とも約1750 cm−1に検出され、いずれのPCU (3,y)もほぼ同一の値を有すること が観察された。ウレタン結合を含まないポリカーボネートであるポリ(トリメチレンカーボ ネート)分子中のカーボネート結合のC=Oに由来する吸収帯の波数値は1750 cm−1である。

ポリ(トリメチレンカーボネート)分子中のカーボネート結合は水素結合を形成しないことか

ら、PCU (3,y)分子中の水素結合を形成していないカーボネート結合のC=Oに由来する吸収

帯は1750 cm−1に検出されると考えられる。したがって、約1750 cm−1にカーボネート結合 のC=Oに由来する吸収帯を有する3種類のPCU (3,y)は、カーボネート結合-ウレタン結合 間で水素結合をほとんど形成しないことが示された。

4.4 結果・考察 157

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