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分析結果の比較

第 4 章  石刃石器群の多様性と石器形態の関係

第 6 節 ナイフ形石器の三次元計測データの分析

2. 分析結果の比較

��yz+ yz+ yz−zy−zy−zy��

b=��y-y

+�z

-z

 設定した座標系において X 軸が 180°であることを利用して、S01・S02 の為す角と S04・S05 の為す角を求め、両者の差の絶対値を中央ねじれ角とした。

c. 湾曲

 Bretzke ら(2012)は石器の三次元計測データから湾曲(convexity)を算出するために、

長軸上を走り 30 に分割する標識点を設定し、その端点同士を結ぶ直線と最遠となる点との 間の鉛直距離を求めた(第 1.24 図)。また、渡邊らは独自に設定した端点を結んだ軸(これ 自体が座標軸として用いられる)と、重心からおろした垂線とモデルの交点までの距離(Y)

を湾曲として求めている(渡邊・佐藤 2016)。本論では、先述したように着柄時に柄の構造 と干渉する石器腹面の性状を重視し、前 2 者とは異なる方法をとった。

 第 4.38 図に示したように、モデルの X 軸の情報を捨象し、側面からみた平面を想定する。

先端点(S07)とバルブ上あるいは基部の端点(S14)を結ぶ直線と Z 軸とモデル腹面の接 点(S03)の三点が作る三角形について、その面積 S と底辺 b(S07・S14 間)の値を用いて S03 から直線におろした垂線の長さ(三角形の高さh)を算出した。これを本論では湾曲と して扱う。実数(㎜)であって最大長で割った湾曲率ではない。基部側の端点をバルブ上に 設定したのは、着柄時にもっとも軸と干渉するのはバルブの膨らみであるためである。

 

   P1= (y1, z1), P2= (y2, z2), P3= (y3, z3)   三角形の面積 S=0.5 ×底辺b×高さ h  

 

2. 分析結果の比較  

(1) 資料群間の比較  

 石刃石器群においては、石刃の製作技術(石質や割り手の熟練度も関係する)に応じてあ る程度の割合で「ねじれ」や「湾曲」が生じるため、搬出する際やトゥールへ加工される際 の選択性が遺跡間・遺跡内に表出する可能性が高い。また、使用痕研究によって推定された 機能との関係や、「ゆがみ」や「湾曲」を補正しようとした二次加工の意図などがより明ら かになることが期待される。

 資料群間の比較結果を第 4.11 表と第 4.39 図に示した。表の番号は各遺跡の遺物番号ある いは図版番号に対応する。

 まず、高倉山遺跡における端部ねじれ角の値の低さが注目に値する。同じ東山石器群であ る太郎水野 2 遺跡との差は大きく、分散の度合いも後者が広い。遺跡の性格に由来する選択 が働いただろうことが指摘できる。実験石器の分布は太郎水野 2 遺跡のそれに近い。清水西 遺跡の端部ねじれ角は平均値・中央値が低いものの、分布の幅が広いことが特徴として挙げ られる。杉久保型ナイフ形石器 3 点はグラフをまとめてあるが、ねじれ角は値・分散ともに 大きいといえる。

 中央ねじれ角についてみると、清水西遺跡から杉久保石器群に向かって徐々に値が低く なっていく傾向にある。副軸は最大幅にあたる側縁の点を結ぶ線に近似されるため、理論上 の中央ねじれ角は低く押さえられる。おおよそ端部ねじれ角とは負の相関関係にあることが 指摘でき、値としては 20°前後におさまる。二つのねじれ角の傾向が異なることには、ね じれの様相に両端が反対方向にねじれる螺旋型(twist)と、片端だけがねじれる傾斜型の 違いがあることが指摘できる(第 4.40 図)。両者は中央ねじれ角には影響しないが、端部ね じれの角度は螺旋型の方が相対的に高くなる。

 最後に湾曲の値をみてみよう。湾曲率は計測の際に算出した底辺 b(S07・S14 間の距離)

で湾曲の商を求めたものである(第 4.41 図)。湾曲率と実数を分けて示しているのは、着柄 構造が先にある場合、湾曲の度合いよりも台座やソケットに固定する際に発生する空隙の程 度が問題になるからである。遺跡ごとには大きな差はないが、太郎水野 2 遺跡では中央値で やや湾曲が強い傾向にあり、実験石器も同様の分布を示す。

 杉久保石器群の 3 点も、同程度の湾曲・湾曲率がある点に注意したい。ねじれの値も高い これらの石器は、その素材石刃の形態が強く反映されていると思われる。計測した杉久保型 ナイフ形石器 3 点について基部や先端がどのように加工されているかを三次元データ上で確 認すると(第4.42図)、白山E遺跡の119番や横道遺跡の資料は基部裏面に二次加工(インバー ス・リタッチ)が施されるが、白山 E 遺跡の 104 番には背面側のみに加工がある。資料の 観察から、これらの裏面加工は打瘤の除去とそれによるねじれの補正に対応していると考え られるが、湾曲の補正に対応する加工は認められない。杉久保型ナイフ形石器の素材石刃に ねじれや湾曲が特徴的にみられるのは既に指摘されている(山中・ペリグラン 2016)。こう した特徴を補正するための技術として東山石器群以前には多くない基部裏面の加工(あるい は二側縁加工ナイフ形石器を製作する技術の一部)(沢田 2006)が行われるようになったと 考えられるが、湾曲とねじれの間に対応の差があることは示唆的である。また、太郎水野 2 遺跡のナイフ形石器にはインバース・リタッチを施される個体が複数あり、今後はより多く の同様の資料について検討することで、技術要素がもつ背景を時期差や地域差以外の視点か ら理解できる可能性がある。

(2) 石器の機能とねじれ・湾曲の関係    

 清水西遺跡・高倉山遺跡・太郎水野 2 遺跡について、使用痕の観察されたナイフ形石器と 未検出のものの間に変異があるかどうか検討した。計測できた資料が限られている点を予め 注意しておく。

 第 4.43 図に清水西遺跡出土ナイフ形石器の端部ねじれ角と湾曲の箱ひげ図を示す。三次 元計測した清水西遺跡のナイフ形石器 15 点のうち、木の加工(カット)と推定されたもの が 3 点、皮の加工と推定されたものが 3 点、刺突痕の可能性があるものが 1 点ある(鹿又・

熊谷 2015)。このうち、4 点には着柄痕が確認されているため、重複するがグループ分けした。

ねじれ角には機能によってほとんど差がなく、湾曲に関しても同様といえる。刺突や木のカッ トでは湾曲が低い傾向にあるが、関連があるかは不明である。着柄痕が確認されたものを分 けてみても、明瞭な差はない。石刃には着柄痕が少ない(鹿又・熊谷 前掲)ことを考えれば、

着柄の要件は基部加工(打面側端部のごく短い範囲を逆台形状に加工する)のみで満たされ ていたことと、石刃のなかでもねじれや湾曲が少ないものが選択された結果である可能性が 想定できる。

 同様に高倉山遺跡のデータを第 4.44 図に示す。三次元計測した高倉山遺跡のナイフ形石 器 28 点のうち、狩猟痕跡が確認されたものが 12 点あり、このうち着柄痕とセットのもの が 4 点ある(鹿又・佐野編 2016)。端部ねじれ角をみると狩猟痕跡のあるものの方が比較的 に低い値にまとまるが、着柄痕のあるものは反対に値と分散が高いという特徴がある。これ は湾曲でも同様であり、基本的に狩猟痕のあるものはねじれと湾曲が小さいといえる。した がって高倉山遺跡でのナイフ形石器の使用に際して湾曲やねじれの選択が行われた可能性は 高く、遺跡間の比較においても高倉山遺跡が極端にねじれの値が低いことは示唆的である。

また、使用実験による検証が必要だが、湾曲やねじれの強い石器は着柄が不安定になり、柄 と石器の点的な接触が増える。その分使用や運搬時のズレなども増えることから、着柄痕の 検出率に影響している可能性はある。

 最後に太郎水野2遺跡出土ナイフ形石器の端部ねじれ角と湾曲の箱ひげ図を第 4.45 図に 示す。三次元計測した 12 点のうち、肉皮の加工が推定されるものが 5 点、刺突痕があるも の(推定機能は肉皮の加工)が 4 点、そのほか(軟質材料など)が 3 点ある(山田 2008a)。

高倉山遺跡と同様に、刺突痕がある資料のねじれ・湾曲がともに低い傾向にある。肉皮の加 工が示唆される資料と刺突痕のある資料の差は明瞭で、両者の選択的な使い分けが考えられ る。刺突痕は小規模だが、遺跡に至るまえに狩猟具として利用されたことを示すか、切り込 むように使う石器の形態が選択された可能性もあるだろう。

(3) 実験石器のねじれ・湾曲と破損パターンの関係

 実験石器 20 点はおおよそ太郎水野 2 遺跡と同程度のねじれ角と湾曲のバリエーションを もっている。こうした属性が着柄刺突具として使用された場合の破損に影響するかどうかを 検討するため、端部ねじれ角・湾曲の低い個体から高い個体へ順番に並べて個体ごとに最大 の衝撃剥離の長さ(IF 長)と発生数をグラフにとった(第 4.46 図)。

 結果、いずれの属性についても、衝撃剥離の発生数と長さは相関しない。TCSA4.11)の値 を加えて相関行列(ピアソンの相関係数)をとると(第 4.12 表)、TCSA と IF 発生数・長 さは負の相関があるといえる4.10)が、ねじれや湾曲とこれらの属性の間には無相関検定で有 意な相関がないという結果が出ている。