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狩猟技術推定のための計量的属性分析

第 4 章  石刃石器群の多様性と石器形態の関係

第4節  遺跡間比較のための機能形態学的分析 (1)

2. 狩猟技術推定のための計量的属性分析

 以下では狩猟痕跡の分析事例を踏まえて、石器の形態学的な分析を進める。研究史(第 1 章 2 節)で述べたように、石器の計量的属性をもって狩猟具としての機能を検討する方法は、

現在では多様な方法が存在する。本論では、それらの先行研究を参考に、石器横断面や重量 などの計量的属性と、それらの複合的な比較をもって東北地方の石刃石器群が組成するナイ フ形石器の形態と機能の関係の解明に臨む。

a. 石器横断面の分析と解釈

 石器横断面分析の研究史上の位置づけは先述した通りであるが、J.Shea らが複合的投射 技術に関する一連の研究に用いた時点を研究史上の契機とする見方もあり(佐野・大場 2014)、狩猟具に関する計量的属性の中でも重要な位置を占める。本論では石器横断面の値 がもつ様々な物理学的・空気力学的な意味(Hughes 1998、Lazuén 2014) に注目し、石器 群の内部や石器群間での差異を解釈する方法を取りたい。狩猟具としての脈絡において石器 横断面がもつ意味をまとめると、次のようになる。

① 空気抵抗、および対象獣への貫通力の指標

② 対象獣に与える傷口の広さの指標

③ 装着される柄の径を規定する指標

④ 投射法ごとに不向きな「サイズ」の指標

 これらに加えて、石器横断面は重量と比例関係にあることから、投射時・命中時の運動 エネルギーの指標ともなりえる。③も着柄された状態の重量と関連し、①や②が示す威力 や飛距離・速度などとも関係する(第 3.1 図)。このように、石器横断面や重量は複雑な作 用関係をもつ。狩猟石器の形態が長い経験をもとに「デザイン」された(安斎 2008、田村 2011)ものと考えれば石器横断面には空気力学的要請から、その「デザイン」の意図と呼 べるものが反映されている可能性が高いと考えられる。

b. ナイフ形石器の横断面分析 

 本論の対象資料の中で、最大幅と最大厚が計測可能な個体について、石器横断面の値

(TCSA: tip cross-sectional area, TCSP: tip cross-sectional perimeter)を算出した。石器組成 や調査経緯が明らかでないが、まとまった数のナイフ形石器の情報が得られる金谷原遺跡に ついては石器横断面の算出をし、分析に加えた。

 計測基準と計算方法は 2 通りの基準を用いる。一つは Sisk らの基準に従ったもの(Sisk and Shea 2009)であり、計測基準と計算方法は第 1.13 図に則る。これを TCSA・TCSP と 呼称する。TCSP の算出に際して、石刃石器群であることを踏まえて断面三角形の計算式を 適用した。

 二つ目は、第 1.18 図中に提示した計測基準と計算方法で算出したものであり、断面台形 などのより複雑な断面形状に対応している(熊谷 2015)。これを TCSA′・TCSP′(ダッ シュ)と呼称する。なお、本論では便宜的に、TCSA・TCSP をまとめて TCSV(tip cross-sectional value)と呼称する。TCSA′・TCSP′も同様の表記(TCSV′)とする。

 対象資料は乱馬堂遺跡 76 点、南野遺跡 25 点、お仲間林遺跡(慶應大学調査)11 点、お 仲間林調査遺跡(県調査)6 点、高倉山遺跡 48 点、太郎水野 2 遺跡 31 点、山屋 A 遺跡 9 点、

新堤遺跡 5 点、横前遺跡 9 点、金谷原遺跡 12 点、白山 E 遺跡 12 点、高瀬山遺跡 4 点、横 道遺跡 3 点、清水西遺跡 33 点、岩井沢遺跡 5 点、上ミ野 A 遺跡第 1・2 調査 21 点、上ミ野 A 遺跡第 3 調査 12 点の計 312 点を用いる。

 TCSV の値を第 4.15 図と第 4.16 図に提示する。TCSA の中央値で順番にグルーピングす ると、1 類としてお仲間林遺跡(県調査)と清水西遺跡が 150 ㎟を越え、突出して高い。次 点で横前遺跡・太郎水野2遺跡・南野遺跡・乱馬堂遺跡(2 類)が高く、お仲間林遺跡(慶 應大学調査)・高倉山・山屋 A・新堤(3 類)が続く。突出して低いのは横道・高瀬山・白山 E・

金谷原となり、4 類としておく。これらの値と Hughes(1998) の示した値(図中の破線)(第 1.3 表)を比較すると、上ミ野 A、白山 E・高倉山・お仲間林(慶應大学調査)の一部がダー トと投げ槍の範囲に当たり、最も低い領域で鏃に被る。次に 2 類・3 類はほぼ中央が投げ槍 と突き槍の閾値付近に位置し、突き槍の領域以上になる個体もある。1 類と 4 類は数値の開 きがあり、投射法の違いを想定しやすいが、そのほかの領域にある遺跡はこの段階で推定は 出来ない。

 続いて TCSV′の値を提示する(第 4.17 図・第 4.18 図)。横断面形状や資料の湾曲度合 いが異なることが影響し、補正前の TCSA・TCSP とは分布範囲が異なり、最終的な解釈も 変わってくる。TCSV から TCSV′への横断面値の低下傾向は、清水西遺跡・お仲間林・太 郎水野 2 などいくつかの遺跡で確認できる。これに対して変化に乏しい遺跡もあり(上ミ野 A 遺跡 1・2 次、高倉山遺跡)、TCSV の計算に影響する湾曲が弱いことが指摘できる。力学 的な安定と衝撃に対する耐性が求められる狩猟具先端にとって、これらの値は無視できない。

 全体的には、TCSV のときの所見と変化はない。遺跡間でいくつかのまとまりと偏差、そ して遺跡内で変異が確認できる場合があり、その理由のひとつには遺跡における機能や投射 法の違いが想定可能である。

c. 石刃の横断面分析

 素材の選択性にも関連して、石刃の石器横断面とナイフ形石器の横断面の比較をおこなう。

石刃に関しては一部の遺跡について断面形状の分類や湾曲の測定など TCSV′の算出に必要 な情報が得られなかったため、TCSV のみを算出した(第 4.19 図、第 4.20 図)。

 ナイフ形石器の TCSV でみられたグループ分け(1~4 類)は、石刃の場合では異なる分 類が可能である。お仲間林と乱馬堂が突出するほか、高倉山・南野・清水西などがやや高く、

ほかの東山石器群と岩井沢が続く。また、高瀬山・横道遺跡と、白山 E 遺跡の間にも若干 の相違がみられる。このような状況は、ナイフ形石器の TCSV の状況とは別個に、遺跡の 性格に帰することができるだろう。お仲間林・乱馬堂などの製作遺跡から、南野・高倉山な どの拠点的な遺跡、太郎水野 2 遺跡などの活動の最小単位といえる遺跡にかけて、石刃の「サ イズ」と点数は徐々に小規模になっていることが分かる。石刃がこれらの遺跡間を移動した ことを想定すると、その間に複数回の選択がなされた結果、石刃を携帯する効率性および トゥールへの適合性がより高まっていると考えられる。

 さらに、高瀬山・横道と、白山 E の間の値の差も同様に製作遺跡と消費遺跡という構造 で説明が可能であろう。あるいは、白山 E 遺跡には狩猟活動により破損したナイフ形石器 が持ち帰られているとすれば、それらを補充するためにはナイフ形石器に適した「軽めの石 刃」(ペリグラン・山中 2016)が必要になったと考えられる。

(2) 石器重量の分析 a. 石器重量の分析と解釈

 ナイフ形石器の重量について筆者自身で計測できたものと報告書に記載されている遺跡に ついて分析した。対象は完形のナイフ形石器であり、高倉山遺跡 29 点、太郎水野 2 遺跡 17 点、お仲間林遺跡(慶應大学調査)7 点、お仲間林(県調査)5 点、白山 E 遺跡 2 点、高瀬 山遺跡 2 点、横道遺跡 1 点、清水西遺跡 33 点を用いる。

 計量した値を図示する(第 4.21 図)。結果は石器横断面と同様の傾向にあり、両者の相関 関係がうかがえる。お仲間林遺跡(県調査)が突出する傾向にある点と、杉久保石器群に属 する 3 遺跡がともに低い値を示す点、そして東山石器群に属する遺跡が少しずつ異なる分布 を示している点が注目される。

 これらについて Hughes の作成した狩猟具の属性における重量を比較すると、図中の破線 のようになる。本論の分析資料はほぼ全点が投げ槍の範囲にあり、突き槍はグラフの範囲よ り更に重いものが想定されている(227 g)。ただし、投げ槍の想定範囲は非常に広い(0-156 g)ため、推定基準としては用いにくい。高倉山や太郎水野 2 遺跡、清水西遺跡などについ ては、むしろ矢羽付ダートの範囲に大部分が属し、また軽量なものは矢羽無ダート・弓矢の 範囲にも属する。高瀬山・白山 E・横道遺跡はおおよそ矢羽無ダート・弓矢の範囲に収まる。

矢羽無ダートと弓矢の重量範囲は大部分が重なるため、これらの識別は困難である。むしろ 石器横断面分析と同様に物理学的・力学的な意味を重視する立場からは、様々な民族事例か ら導出した「閾値」よりも、遺跡内・遺跡間での偏差に注目した方がよいと考える。

 

b. 着柄前・着柄後の重量と投射速度の関係

 複合的投射技術(投槍器・弓矢)の利点のひとつに、その投射速度の向上があげられる(安 斎 2008)。そして、各投射法には投射速度に明確な違いがあることが民族誌の研究から判 明している(Hughes 前掲)(第 4.9 表)。速度と重量の関係性として、最も簡単な指標に運 動エネルギー(KE)があげられる。狩猟具としての単純な威力を表すと考えることができ、

本論では次式を用いて算出する。

 KE (J) = 1/2 × MV2 (1/2 ×重量×速度 2)

 出土資料ごと・投射法ごとに KE を算出すると(第 4.22 図)、弓矢・投槍器・投げ槍の順 に KE が高く算出された。投げ槍と投槍器の KE はさほど差がなく、弓矢になるとすべての サンプルにおいて高い値になる。これらは単純な比例関係にあるが、石器単体の重量が投射 物としての運動エネルギーに与える影響について示唆している。

 続いて、Hughes の集成した民族資料を参考に、狩猟具が着柄されるシャフトの重量(平 均値)を第 4.10 表に示す。これらと本論の対象資料の重量(平均)を足し、KE を算出した

(第 4.23 図)。特筆すべきは投げ槍の KE の高さである。投げ槍の場合、運動エネルギーは、