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東山石器群の器種分類

第 2 章  東北地方の後期旧石器石刃石器群の検討

第 3 節  東山石器群

1. 東山石器群の器種分類

 本節で検討する東山石器群については、基本的に同様の基準で石器器種の分類が可能であ る。本論では最新の調査成果である高倉山遺跡の出土石器(第 2.31 図)とその分類(鹿又・

佐野編 2016、佐野ほか 2013)を基準に、以下のように分類および欠損資料の扱いについて 明示する。また、遺跡ごとに特殊な分類操作を行なった場合は、それぞれ明示する。

①石刃:平行する側縁と 1 本以上の先行する石刃剥離に由来する稜線を持ち、器長が幅の 2 倍以上となる形状のもの。いわゆる「石刃技法」による連続した石刃の剥離を目的とした種々 の痕跡を有している。打面の残存と主要剥離の末端の確認をもって完形の石刃とみなすが、

欠損あるいは折損している個体で、長幅比の条件を満たさない個体についても二側縁の関係 や稜線のあり方から石刃とみなす。二次加工のある石刃のうち、以下のトゥールに該当しな いものを二次加工ある石刃として別に分類する。

②剥片:側縁が平行せず寸詰まりであり、長幅比が石刃の要件を満たさないもの。打面の残 存と主要剥離面の終点を以って完形の剥片とみなすが、欠損した個体についても上記の特徴 によって剥片と判別する。二次加工のあるもののうち、以下のトゥールに該当しないものを 二次加工ある剥片として別に分類する。

③ナイフ形石器:素材の打面部両側ないし片側に刃潰し状の二次加工(ブランティング)が 施され、それ以外の刃部・先端部を素材形状のまま残すことで「基部」が作り出された形態 のもの。先端部を尖鋭化させる加工があるものとないものがある。研究史上で東山型ナイフ 形石器とされたものを含むが2.2)、その定義に沿うもの資料が過半数を超える遺跡は存在し ない。

 高倉山遺跡のナイフ形石器を分類した先行研究(佐野ほか 2013)を参考に、以下のよう に細分する(第 2.31 図)。

Ⅰ類:入念な二次加工で基部を撥状に整形する。

Ⅱ類:基部加工のみが施される。

Ⅲ類:基部加工に加え、先端部加工が施される。

Ⅳ類:基部加工が施されるが、先端部が欠損し、先端部加工の有無が不明のもの

Ⅴ類:基部加工に加え、一側縁(Ⅴ a)あるいは全周(Ⅴ b)を加工が覆うもの。

Ⅵ類:二次加工(基部加工)が主要剥離面側に施される。

 Ⅱ類は先端形状が先鋭なもの(Ⅱ a 類)と対向剥離によって平刃・斜刃を呈するもの(Ⅱ b 類)に分ける。Ⅱ b 類はいわゆる東山型ナイフ形石器の定義にもっとも近い。Ⅲ類は最大 長と最大幅の比 が 4 以上のもの(Ⅲ a 類)と、それ以下(Ⅲ b 類)として細分した。

④エンドスクレイパー:素材の末端に連続的な二次加工を施して刃部を作出した石器を、エ ンドスクレイパーとして分類した。形態や製作技術はかなり定型的といえる。片方の末端の みに刃部がある単刃(Ⅰ類)、両端や側縁にも刃部が作られる複刃(Ⅱ類)に分けられる。Ⅰ・

Ⅱ類は基部加工の有無で a・b に細分し、明らかな破損品(Ⅲ類)と微弱な加工のもの(Ⅳ類)

を分けた。一部には、刃部の反対側の端部に彫刻刀面をもつ複合的な石器が存在する。

⑤彫刻刀形石器:素材周縁に二次加工を施すか、あるいは折断することによって打面を用意

し、側縁に器軸と平行する刃部(彫刻刀面)を作出したものを彫刻刀形石器として分類した。

また、彫刻刀面作出の際に剥離されたと考えられるものを彫刻刀スポールとして分類した。

彫刀面作出のために稜形成が行われることは稀である。形態的・技術的特徴から、いわゆる

「角鑿型彫刻刀」(大塚・戸沢編 1996)、「小坂型彫刻刀形石器」(高橋 1963、加藤 1965)と されるものを主体とする。本論では彫刀面再生加工や打面作出などの技術・頻度を指標に、

以下のように類型化を試みる。なお、双面彫刻刀形石器や転用の可能性があるものなどは、

特殊例(Ⅴ類)に分類した。

 

Ⅰ類:素材の打面を彫刀面打面に利用するもの

Ⅱ類:素材の折断面をそのまま彫刀面打面とするもの

Ⅲ類:素材を二次加工によって切断し、彫刀面打面を作出するもの

Ⅳ類:素材の折断面に調整を施し、彫刀面打面とするもの  

⑥船底状石器:断面がほぼ正三角形を為す分厚い石刃に、両側縁および端部の腹面側への加 工を施したものを「船底状石器」(大友ほか 1977)として分類した。南野遺跡・お仲間林遺 跡などに類例がある。

⑦裏面掻器:エンドスクレイパーに分類される石器のうち、刃部加工が腹面側に施されるも のを別個に「裏面掻器」(長沢・鈴木 1982)として分類した。

⑧砕片・調整剥片:剥片のなかで 2 0㎜以下のサイズのもの。打面・打点や末端といった剥 離の特徴が判別できない砕けた石片を含む。また、剥片のなかで石核の打面再生、打面調整 などによって剥離されたと判別できるものは調整剥片として分類した。

2. 山形県舟形町高倉山遺跡 (1) 遺跡の概要

 高倉山(たかくらやま)遺跡は山形県最上郡舟形町富田高倉山に所在する(第 2.32 図)。

最上川の支流である小国川によって形成された段丘上にあり、河川との比高は約 50m、標 高は約 91m をはかる。高倉山遺跡の存在は、山形県教育委員会によって 1962 年に実施さ れた埋蔵文化財包蔵地緊急調査に伴って確認された。その時点では大型の石刃と、石刃の打 面が折断されたエンドスクレイパーの 2 点のみが確認され、追加の調査は行われなかった(柏 倉編 1964)。舟形町史には後期旧石器時代の遺跡として紹介されている(大友ほか 1982)。

 東北大学考古学研究室では 2010 年から高倉山遺跡の踏査を行い、頁岩・玉髄製の石刃が 広範囲に渡って採集可能である事を確認した。それを受け、同研究室は東北大学総合学術博 物館と共同で 2010 年 11 月に第 1 次発掘調査(試掘調査)を実施した。第一次調査は遺跡 の範囲確認を目的とし、1m 四方あるいは 1m × 2m の試掘坑(TP)を 15 か所設定した。

結果、南西の沢沿いに旧石器時代の遺物包含層が残存している地点を確認している(佐野ほ か 2010)。翌 2011 年 8 月末から 9 月にかけて第 2 次調査、さらに 2012 年 8 月末から 9 月 にかけて第 3 次調査が実施された。第一次調査から第三次調査までに出土位置を記録した遺 物は約 2009 点あり、表土を除いた 2・3 層から旧石器時代の石器が 922 点出土している(第 2.33 図、第 2.2 表)。

 筆者は踏査・発掘調査に参加し、出土遺物の観察は報告書作成に際して行った。以下は基 本的に報告書(鹿又・佐野編 2016)をもとに記述するが、補足を行う場合は明記する。

 

(2) 発掘調査における層位・出土状況

 第三次調査における基本層序を第 2.34 図に示す。遺物は 1a 層から出土し始め、3 層まで 出土した。特に 2 層下部から 3 層で最も多くの石器・被熱礫・炭化物が出土している。1b 層は開墾時の削平により存在しない個所がある。4 層は南東に向かうに連れて薄くなり、南 東壁では存在しない。6 層は礫層で、 5 層も主に水成堆積物で構成される。4 層より上の層 は発掘区南側にある沢に向かって傾斜し、3 層も同様の傾斜を見せる。また 1a 層や 2 層で は土器や縄文時代のものと思われる石器も出土している。2 層では縄文時代に属する土坑が 複数基確認された。

 遺跡が立地する高倉山の段丘面上は調査地点を除いてほぼ全面が開墾により削平されてお り、それらの地点からも資料が表採されている。本来はより大規模な遺跡であった可能性を 考える必要がある。

 出土遺物と礫は取り上げ時に産状(走向・傾斜)が記録され、それをもとにした遺跡形成 過程の検討(ファブリック解析)が行われている(傳田・佐野 2012、傳田 2016)。傳田に よると高倉山遺跡の 2 層から 4 層にかけて、層ごとに礫と石器のパターンが異なるとされた。

とくに遺物包含層の中心である 3 層の石器は長軸方向に緩やかな優先的配列をもち、ここか ら湿乾による土壌の膨張・収縮、凍結・融解作用の影響が推定され、人為的な遺棄・廃棄の パターンとは異なることが指摘されている。ただし、人為的な状況でも偶発的に優先的配列 を現れることが実験的に確かめられていることから(傳田・佐野 前掲)、高倉山遺跡の空間 分布はある程度まで廃棄・遺棄状態を残している可能性があり、自然作用だけに形成要因を 求めることはできないとしている。

 上記のような形成過程の検討を踏まえて、旧石器時代資料の平面・垂直分布(第 2.35 図

~第 2.37 図)からは次のような特徴が言及される(鹿又・佐野編 前掲、村椿・熊谷 2015)。

①平面分布は遺物集中地点 1 と 2 に分かれる(第 2.35 図)。

②接合資料は集中地点ごとにまとまり、互いをまたぐ接合は少ないが、接合線は調査区   内の斜面方向と直交する(第 2.36 図)。

③窪み状遺構(SX01)の底面に大型の礫が存在し、これを境に被熱砕片・被熱礫が東西に 分かれて分布する(第 2.37 図) 。

④ナイフ形石器・彫刻刀スポールは窪み状遺構の周辺に集中するが、その他の器種は特定の