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素材の製作技術

第 4 章  石刃石器群の多様性と石器形態の関係

第 2 節  石器製作技術の多様性

1. 素材の製作技術

 対象遺跡における石刃(剥片)の製作に関わる技術をまとめると、第 4.6 表のようになる。

原石の獲得から石核の整形、石刃(剥片)剥離、トゥール製作の各段階が遺跡ごとに差異と 濃淡をもって存在している。一方、製作技術の要素はかつて指摘されたように「技術基盤」

としてのまとまりを形成し、基本的にはその共通性と差異を軸とした比較が可能である。以 下では、①石核素材の選択・整形、②打面調整と頭部調整、③石刃の背面構成などの要素か ら対象遺跡の技術基盤を明らかにする。

(1) 石核素材の選択・整形

 各対象遺跡において石核や接合資料が出土している場合は、それらから石核の素材となる 原石の選択や整形の方法を検討した。

 特徴的なのは岩井沢遺跡にみられる原石を複数に分割し、それぞれの分割面を打面として 石刃(縦長剥片)を剥離する方法である。若干の石核整形(胴部調整)を伴うことが指摘さ れる(加藤ほか 1973)が、多くの場合は分割礫の形態を活かした形で剥離を進め、作業面 の長さとほぼ同じ長さの石刃を量産している。残核の形態もそれに倣い、円錐形から半円錐 形など多様な様相を呈する。対して、米ヶ森型台形剥片の製作には、大型の剥片や分割礫の 一部を石核に用いて求心状に剥離する方法を基本としている。岩井沢遺跡と懐ノ内 F 遺跡 では、大型剥片の背面を打面に設定し、腹面の打瘤(バルブ)の高まりと背面の為す角度を 利用して台形剥片を数枚剥離する共通した工程がみられる。清水西遺跡や懐ノ内 F 遺跡で は石刃核の出土や石核整形の痕跡がないため直接的に比較は難しいが、台形剥片を含めた剥 片剥離における石核素材の選択と剥離方法は類似しているといえる。

 東山石器群の段階ではお仲間林遺跡にみられるように、あらかじめ集積しておいた原石か ら適した形のものを選び、分割して作業面・打面になる面を作出した角柱状のブランクを作 る。あるいは原石の礫面を除去し、長大な石刃が剥離可能な縦長の石核が準備される。剥離 の進行と打面再生の回数に応じて石核のサイズは変わり、また剥離の進行方向も背面の礫面 に向かう一方向(タイプ B)から全周に回るようになる(タイプ A) ことが指摘される(第 2.56 図)。高倉山遺跡の表採資料や、乱馬堂遺跡で報告されている石核は背面に礫面をもつタイ プ B の石核である。

 杉久保石器群でも同様に、原石の原礫面を除去し、中身を石核に整形した痕跡が残ってい る(第 2.68 図)。横道遺跡・高瀬山遺跡では背面に礫面を残す分割礫素材の石核や、円柱状 石核、小型石核の作業面再生剥片などの剥離の進行度が異なる石刃関連資料が出土する。白 山 B 遺跡でも原礫面を除去して石核を整形する様子や、小型の原石に対して石刃技法を適 用して縦長の剥片を剥離しようとする様子が観察される。また、白山 E 遺跡などでみられ

る極めて小型・細身の石刃は板状の剥片素材石核から剥離されたものと考えられ、特有のね じれと湾曲を有する。杉久保石器群においては、いずれの遺跡でもナイフ形石器の素材とな るような石刃、あるいはさらに小型の石刃を剥離した石核(おそらく剥片素材の板状石核な ど)は遺跡に残されないことが注目に値する。

(2) 石核の打面転位・稜形成・打面再生

 石核の作業面調整・稜形成などは「真正の石刃技法」、あるいは石刃技法Ⅱ群(藤原 1983)の要素として捉えられる。石核が消費されていくなかで適宜行われる調整であると 考えられ、剥離された石刃や剥片を観察することで痕跡が確認できる。

 岩井沢遺跡・懐ノ内 F 遺跡では、石刃(縦長剥片)およびナイフ形石器に打面の転位お よび稜形成の痕跡をもつものが存在せず、稀に打面再生に類した剥離や石核の底部を取り込 んだ厚手剥片(縦長剥片)の剥離によって作業面を再生することが報告されている(加藤ほ か 1973)。一方、清水西遺跡では完形石刃 33 点中 3 点(9.0%)に対向剥離が残り、ナイフ 形石器では完形 28 点中 7 点(25%)が対向剥離をもつ。ナイフ形石器の場合は先端部の片 側あるいは両側に対向剥離が入り、尖鋭な先端を構成している。石核の底部を取りこんだ剥 片(作業面再生剥片)はみられない。

 高倉山遺跡・お仲間林遺跡・太郎水野 2 遺跡では、完形石刃の背面構成および石核・関連 資料の観察から、180 度の両設打面をもつ石核・稜形成・二次的な稜形成・打面再生などが 基本的な調整技術として行使されていることが分かる。頻繁に行われていたと考えられる打 面の転位4.2)と同様、先行剥離の残したステップやヒンジを除去する目的で二次的な片側の 稜形成も適宜行われる。調整打面かつ広い曲面を呈する作業面を維持し石刃を剥離するため の調整技術の組み合わせと考えることができる。

 杉久保石器群でも、基本的には同様に発達した石核調整技術が共通して確認できるが、ペ リグランらが指摘したように(ペリグラン・山中 2016)、石刃の作り分けとそれに対応した 二つの技術(動作連鎖)が存在したと思われる。

(3) 打面調整と頭部調整

 各時期の石刃製作技術において打面調整と頭部調整はある意味でグループ外に排他的な特 徴を呈する。打面が確認可能な資料について、調整技術を A:打面調整のみ、B:頭部調整のみ、

C:打面調整・頭部調整の両方がみられるもの、D:無調整の 4 類型に分類して図示した(第 4.4 図)。岩井沢遺跡・清水西遺跡出土石刃はすべて無調整打面で、頭部調整のみが施されるも のが半数以上を占める。頭部辺縁をなめらかにする加工や打面直下の中央稜をステップ状に 除去する様子は両遺跡で類似し、懐ノ内 F 遺跡でも同様の調整技術の存在が指摘される(大 川 2001)。

 反対にお仲間林遺跡・太郎水野 2 遺跡・高倉山遺跡出土石刃は打面調整が施されるもの が 70% 以上となる。これらの資料は打面が複数の剥離に覆われ、打点を制御するための高

まりが残されるほか、前面と接する辺縁に微細な調整が施される例が多い点で共通している。

また、石刃以外の剥片について調整技術の観察ができた高倉山遺跡では、70 点中 18 点(25%)

となり、打面調整が基本的には石刃の剥離に伴う調整ということが分かる。

 白山 B 遺跡・白山 E 遺跡については打面が残存する資料が少ないこともあり、参考値と して示しておく。特徴的なのは打面調整と頭部調整の両方が確認されることであり、石刃を 剥離する一連の工程のなかでも選択的に表れている。頭部調整のみが施される石刃・二次加 工ある石刃は両遺跡において最大幅が低くまとまる傾向にあるが(第 4.5 図)、とくに白山 E 遺跡で顕著である。

2. トゥールの製作技術 (1) 剥片 - 石刃素材の選択性

 トゥールと素材の間には形状やサイズに選択性が働いていると考えられ、剥片素材か石刃 素材かのいずれかに限定される場合がある。一方で他の遺跡で石刃素材に限定される器種で も剥片素材でまかなうような行動が稀にみられる。これを剥片 - 石刃素材選択性と呼ぶ。

 森先一貴(2004)は東山石器群(乱馬堂型石器群)では掻器(エンドスクレイパー)の 素材石刃が厚手で一定の幅をもつ石刃に限定され(素材限定性)、これを集約的な石刃製作 の時点で優先的・目的的に製作されたものとした。一方で、杉久保石器群における彫器(彫 刻刀形石器)はそうした製作時の制約がない(素材柔軟性)ことを指摘し、両者の違いをリ スク管理や行動の計画性の面から説明している。本論で用いる素材選択性の概念は、森先の 考えにおおむね同意するものであるが、製作遺跡と消費遺跡という区分でみたときに表出す るより細かな差異を重視している。

 前提として、対象資料は時期を問わず基本的にトゥールの素材の大半を石刃に依存してい る。ただし、お仲間林遺跡などの石刃製作遺跡としての性格をもつ遺跡では、エンドスクレ イパーや彫刻刀形石器などを剥片素材で製作する場合がある。お仲間林遺跡では石核整形の 際に剥離された礫面付きの大型剥片などが、半円形の刃部をもったスクレイパーに整形さ れている。同様の剥片素材の彫刻刀形石器は、小石刃剥離のための石核としてみることも できるだろう。横前遺跡や山屋 A 遺跡では少量ながら石刃ではなく剥片が便宜的に剥離さ れており、これらにスクレイパーの刃部形成や不定形な加工を施して利用している(会田 1992・1993)。

 杉久保石器群では、彫刻刀形石器および二側縁加工ナイフ形石器の素材として石刃と剥片 が用いられる。このため、彫刻刀形石器の形態は彫刻刀面の作出方法に関わらず多様になっ ている。ただし、白山 E 遺跡で出土した彫刻刀形石器はすべて石刃素材であり、厚手幅広 の石刃と細身の石刃の両方を素材としている。上ミ野 A 遺跡から出土する二側縁加工ナイ フ形石器は、横長剥片・縦長剥片素材が混在している。いずれの場合も素材形状を大きく変 更して幾何学的な形態に整形する。そのほかの器種としてエンドスクレイパーやノッチなど があるが、これらは寸詰まりの剥片や石核整形に由来する礫面付きの剥片を素材としている。