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第 3 章  「基部加工尖頭石器」の刺突実験

5. 記録方法

 実験の様子はビデオカメラおよびデジタル一眼レフカメラ 2 台(Nikon D3000、D700)

で撮影した。刺突後、ゼラチン塊に残った損傷の度合い(侵入角・幅・破片の残存など)や ウシの肩甲骨に残る刺突痕跡(カットマーク・破片の貫入・貫通など)をそれぞれ撮影とス ケッチで記録した。実験時に破損し飛び散った石器の破片は、ゼラチン塊の内部に残ったも のを含めて可能な限り回収した。その際、大きく飛んだものに関しては被験者・対象物との 位置関係を記録した。

第 3 節 実験結果の分析

1. 実験後の操作

 実験では、計 22 回の刺突が実施された。これは一回目で対象から外れるなどの理由で 2 回刺突された実験石器(BP17・BP20)があるためである。BP20 は一回目の刺突で着柄が 外れたため、記録を取ったのち、その場で結縛し直して刺突した。

 実験後の実験石器は一時、継柄に装着したまま保管した。その後、着柄の脱落やズレの写 真記録を取り(第 3.18 図)、基部側や側縁の破損を確認しながら継柄から実験石器を外した

(第 3.19 図)。後述するように実験石器の基部側(着柄部)に大きな衝撃剥離や破損は認め られなかったが、台座との衝突による微小な割れが複数個体に発生していた。

 着柄から外した実験石器は付着したゼラチンや膠着材を洗浄したのち、実験前の記録(実 測・写真・3D 計測データ)と比較しながら実測・写真による記録化を行った。

2. 衝撃剥離の観察

 本論では各実験石器に観察される刺突による破損のうち肉眼で観察可能なものを衝撃剥離

(impact fracture: IF)として捉え、佐野(2009・2011b)が提示した基準(第 3.20 図)を参 考に分類した。衝撃剥離は 20 点のうち 18 点に確認され、刺突による衝撃で高い頻度で発 生したことが分かる。これは刺突実験単一の結果であり、石器の投射実験において投射速度 に応じて衝撃剥離の発生頻度と規模が増大するという先行研究の結果と矛盾するものではな いが、一方で刺突の速度であっても高い頻度で衝撃剥離を発生させうる何らかの要因が予想 される。

(1) 衝撃剥離の分類

 衝撃剥離の類型として、A 類を縦溝状剥離(flute-like fracture)とし、器軸方向と平行か つ器体平面とも平行して伸びる剥離を分類した。B類を彫刀面状剥離(burin-like fracture)

とし、器軸方向と平行かつ器体平面とは直交し、石器の側縁を取り込む剥離を分類した。し たがって、今回の実験で特徴的に生じた、先端から伸びて片方の側縁を薄く取り込むが器体 平面と直交しない剥離はA類に分類している。C類は器体を横断する折れを分類し、折れ方 向に発生する剥離面がフェザー・エンドとなるもの(C1)、外反剥離となるもの(C2)、

階段状剥離を呈するもの(C3)、スナップを呈するもの(C 4)に細分される。D類は他 の衝撃剥離や折れ(C類)から副次的に発生したものを分類した。器体の両面に発生するも の(D1)、片面に発生する 6 ㎜以上のもの(D2)、片面に発生するが 6 ㎜以下のもの(D 3)に細分される3.3)

 また、高倉山遺跡出土ナイフ形石器の使用痕分析(鹿又・佐野編 2016)などで用いられ ている衝撃剥離の分類として、先端部の潰れ(CR:Crushing)も同様に分類した(第 3.21 図)。複数の微小な剥離から構成される潰れであり、出土資料にみられる場合は衝撃剥離と 判断するのは難しい痕跡と考えられるが、今回の刺突実験では数多く確認されている。

(2) 実験条件と衝撃剥離発生パターン

 本論では以上のような基準に則って衝撃剥離を分類した結果、指標的・非指標的を併せて 計 42 か所の衝撃剥離が確認された(第 3.5 表、第 3.22~3.24 図)。指標的と判断できるもの に限れば 22 点となる。C 2、C3、D 2 類は分類されなかった一方、全体の傾向としてA類 と CR 類が多く発生している。発生した面でみると、腹面に発生した数がもっとも多く、特

徴的な様相を呈している(第 3.25 図)。被験者ごとにみると、個人によって発生数と長さに 大きな差が生じていることが分かる(第 3.26 図)。ただし、後述する他の実験条件や石器の 諸属性によって影響を受けていることが予想されるため、被験者の違いのみに衝撃剥離の発 生パターンの要因を求めることはできない。

 Heavy shaft に装着した 10 点と Light shaft に装着した 10 点との間には、有意な類型発生 頻度の差はない(Fisher's exact test, p=0.92818>0.05)( 第 3.6 表、第 3.28 図 )。各衝撃剥 離の発生長さを比較すると、Light shaft に装着した実験石器群のほうがやや高い分布を示す ことが分かる(第 3.27 図)。

 刺突の際に条件分けした刺突角(Horizontal と Vertical)のそれぞれでは、Vertical の方 が多くの衝撃剥離が発生し(17:24)、C4・D1・CR 類が増加している(第 3.28 図)。C4 と D1 の増加は、互いに関連するものと思われる。また CR 類は 2:7 の割合で Ventral が、A 類では 4:8 の割合で Horizontal の方が増加することが認められる。ただし、こちらも統計 的に有意と言えるほどの差はない(Fisher's exact test, P=0.4039>0.05)。発生した衝撃剥離 の長さは、Horizontal の方が中央値・最大値ともにやや大きい(第 3.26 図)。

 上述のような衝撃剥離に加えて、継柄の台座と接触する実験石器の基部(打面部)に、ご く微小な剥離が確認された個体がある(BP11・BP15)(第 3.29 図)。腹面の打点直下や基 部の二次加工の上に生じているため、刺突の衝撃で発生したものか、製作時の潜在割れが進 んだ結果か判断できない。いずれにしても、出土資料に同様の痕跡があった場合には認識が 難しいと思われる。

(3) 実験石器の諸属性と衝撃剥離発生パターン

 狩猟具先端(実験石器)のサイズ・形態・石材などの諸属性と衝撃剥離の発生頻度および 規模の関係があるかどうかは、出土資料との対比において重要な視点となる。先述したよう に、実験条件に設定した主軸の長さや重さ、刺突角などによって衝撃剥離発生パターンに有 意な差が見出しがたいこともあり、相対的に石器そのものに要因をみる必要性が増している といえる。

 実験石器 20 点を最大長・最大幅・最大厚・重量のそれぞれについて値が低い順に横軸に とり、対応する個体ごとの衝撃剥離の発生数と、個体中で最大値の衝撃剥離長(最大 IF 長)

を縦軸にとった(第 3.30 図、第 3.31 図)。結果、これらのサイズ属性の数値と衝撃剥離の 発生数と規模が反比例する傾向が確認できた。とくに最大厚・重量が顕著な傾向をしめし、

厚手で重量のある実験石器ほど衝撃剥離の発生が抑制されていることが分かる。

 石器の最大厚について衝撃剥離の類型との関係をみると、第 3.7 表のようになる。先述し たとおり最大厚が薄い個体ほど発生数そのものが多いが、それぞれの類型には出現パターン に差異が認められる。A 類・C 類・D 類はおおよそ最大厚の中央値より低い側に発生する傾 向があり、B 類は明瞭な傾向ではないが最大厚が厚い側に分布する。この中でも C 類(横 断折れ)が薄い個体に発生する傾向は顕著であり、D 類の中のいくつかはそれに付随する ものと考えられる。また、CR 類は最大厚の数値に関係しない出現パターンを示している。

 最後に、衝撃剥離が発生しなかった 2 個体(BP07・BP17)については、利用石材による 違いを指摘しておきたい。これらは黒色を呈する硬質な石質という点で他の実験石器と異な り、また相対的なサイズも大きいことが影響したと考えられる。