第3章 保育者から見た造形と音楽を結び付けた保育実践
第1節 造形と音楽を結び付けた表現活動に関する実践案
Ⅰ.園における設定保育への着目
第2章では、子どもの自由遊びにおける「造形×音楽」表現の実態を明らかにした。自 由遊びの時間帯以外で、子どもが園生活の中で表現活動に触れるもう1つの機会は、保育 者が子どもの集団に対して行う「設定保育」と呼ばれる保育実践である。子どもの「造形
×音楽」表現をより豊かにするためには、保育者による「造形×音楽」表現の保育実践の 在り方が、大きく影響すると考えられる。それでは、「造形×音楽」表現は、保育現場にお いて、どのような実践として保育者によって展開され得るのだろうか。この観点を取り上 げた先行文献は非常に少なく、保育者から「造形×音楽」表現の実践の案を集めることは、
現場の実態に即した実践内容を探る上で有効であると考えられる。また、保育者による実 践案が、「造形×音楽」表現に対する実践上の意欲とどのような関連性を持つのかについて も、本節で検討する1) 。
Ⅱ.設定保育の保育実践に見る造形と音楽との結び付き
1.調査対象・方法・期間及び調査の倫理的配慮
岡山県内の公立・私立幼稚園(304園配布,171園回収)に勤務する幼稚園教諭に対して、
郵送による無記名の質問紙調査を行った。園長及び幼稚園教諭に向けた協力依頼文と返信 用封筒を同封し、質問紙の配布、記入、回収を依頼した。調査期間は、2015 年8月 11 日
~9月4日である。質問紙の回収率は56.3%(304園配布,171園回収)で、842名分を回 収した。その中から、大部分の質問項目に回答がないものを除き、分析の対象とする 538 名分を抽出した。分析対象者の属性としては、性別(男性22名,女性516名)、年齢(M=34.4,
SD=10.7)、保育経験年数(M=10.5,SD=8.9)であった。そこから各質問項目毎に、欠損値
1) 本節は、以下の論文を加筆・修正した。髙橋慧:「造形と音楽を結び付けた子どもの表現活動に関する保育 者の実践案と量的分析に基づく現状把握」,『美術教育学』38,283-295頁,2017年.
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等の回答不備を除いたデータを分析対象とした。調査の倫理的配慮として、質問紙は無記 名のため個人が特定されたり、園や外部に漏洩する懸念は一切ないこと、回収した質問紙 は厳重に保管し、結果は目的以外には使用しないこと、研究終了後は調査用紙及びデータ を速やかに破棄することを文書にて説明した。倫理面への配慮については、日本発達心理 学会(2000)2) 及び日本保育学会(2010)3) に準じて実施した。また、この質問紙調査は、
岡山大学大学院教育学研究科研究倫理委員会による審査によって承認されたものである
(2017年10月16日通知,課題番号11)。
2.調査内容
本節では、保育現場で保育者によって展開される「造形×音楽」表現の設定保育に焦点 を当てる。質問紙においては、回答は無記名とし、属性を問う質問として、回答者の性別、
年齢、保育経験年数、役職、勤務園の種別、雇用形態(正規・パート・臨時・その他のい ずれであるか)、担当クラス(何歳児学級の担当であるか,担任・副担任・フリー・その他 のいずれであるか)について尋ねた。
その上で、複数の表現領域を結び付けた表現活動について、「子どもは、五感で感じたこ とや自分なりのイメージを、造形表現・音楽表現・言語表現・身体表現などで自由に表現 します。その際、子どもは、造形表現や音楽表現などの単独の表現方法ではなく、いろい ろな表現を結び付けることがあります(文部科学省,『幼稚園教育要領解説』(2008)参照)。
例えば、「絵を描きながら(造形表現)その内容に関連したイメージを言葉(言語表現)や 動作(身体表現)で表現する」「物語を話しながら(言語表現)身体表現をする(身体表現)」
などの活動が当てはまります。このような表現は、さまざまな表現方法が組み合わさって 行われるところに特徴があります」と説明した。
以上を示してから、「造形表現と音楽表現を結びつけた表現活動を、今後あなたが設定保 育で行うとしたら、どのような活動を考えますか?」と尋ね、自由記述による回答を求め た。これによって、第1に、保育者がどのような「造形×音楽」表現の保育実践を行い得 るのか、具体的な実践の案について明らかにする。本節では、「実践案」と表記した。第2 に、「あなたは、造形表現と音楽表現を結び付けた保育実践を、今後やってみたいと思いま すか?」と示しながら、具体的に、「実践に対する意欲・関心の度合いは?」と尋ね、0~
2) 日本発達心理学会/監修:『心理学・倫理ガイドブック―リサーチと臨床―』,4-14頁,有斐閣,2000年.
3) 一般社団法人日本保育学会 倫理綱領ガイドブック編集委員会/編:『改訂 保育学研究倫理ガイドブック 子どもの幸せを願うすべての保育者と研究者のために』,49頁,78-83頁,フレーベル館,2010年.
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100点で記入するよう求めた。この質問項目は、「造形×音楽」表現の保育実践に対する保 育者の意欲の程度を測定するものであり、その回答内容を、上述した実践案と関連させて 論述した。本節では、「実践意欲」と表記した。
3.分析方法
本節では、保育者による「造形×音楽」表現の実践案について、KJ法4) に準じた方法で、
類似する見解を統合しながら全体像のカテゴリー化を図った。具体的には、「造形×音楽」
表現の実践案を、音楽活動に含まれる表現活動(以下、音楽側の活動)と、造形活動に含 まれる表現活動(以下、造形側の活動)とに解体し、音楽側あるいは造形側の活動として、
それぞれ類似するものをカテゴリー分けして名称を付け、各カテゴリーの活動内容の特徴 を示した。カテゴリー化が難しい事例においては、研究協力者との合議の後、いずれかの カテゴリーに分類した。研究協力者は、岡山県内の保育者養成校に勤務する、10年以上の 保育経験を有する元幼稚園教諭1名であり、保育現場で実践を重ねた元教諭の指摘からは、
様々な観点から有用な示唆を得ることができると考えられる。また、造形側あるいは音楽 側の活動としてカテゴリー分けされた項目毎に、回答数をカウントした。例えば、「音楽を 聴いて絵を描く」という実践案を述べた回答があった場合、音楽側の活動として「音楽」、
造形側の活動として「絵」を抽出し、回答数としてそれぞれ1つずつカウントした。
また、実践意欲の得点に関する数量表記による回答については、統計解析ソフトウェア である「IBM SPSS Statistics 24」を使用した量的分析を行った。
Ⅲ.保育者による造形と音楽を結び付けた表現活動の実践案
1.実践案に見る音楽側の活動
(1)音楽側の活動における具体的内容
273 名によって考案された「造形×音楽」表現の実践案は、具体的に、どのような音楽 側の活動と造形側の活動を結び付けたものなのであろうか。そこで、全ての実践案を音楽 と造形それぞれの活動に解体し、類似するものをカテゴリー分けし、音楽側の活動を集計 して表1を作成した。表1における名称の欄には、1~3の大まかなカテゴリーと、①~
⑦の具体的な活動を示した。内容の欄は、各活動の特徴や性質について簡潔に示した。回
4) 川喜田二郎:『続・発想法―KJ法の展開と応用』,48-62頁,中公新書,1970年.
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- 124 - 表1.「造形×音楽」表現における音楽側の活動
名称 内容 回答数(件)
1. 音楽全般 ①音楽・曲 音楽のジャンルや歌詞の有無に関する言 及はなく、大まかに音楽や曲と回答され たもの
108 108
2. 歌詞のある音楽 ②歌 大まかに歌と回答されたもの 56 149
③保育で用いられ る歌・童謡
保育現場でよく歌われる童謡や季節の歌 等
48
④絵描き歌 絵の描き方が歌詞になっており、歌詞の 指示通りに描いていくと自然と絵が完成 する歌
45
3. 純粋な音イメー ジによる音楽や音
⑤歌詞のない音楽 クラシック音楽やピアノ曲等 7 27
⑥自然音や効果音 波や風等の自然の音
動物や虫等の生物による鳴き声 効果音等
9
⑦リズム 音楽におけるリズムの要素に言及された もの
11
合計(件) 284
答数の欄は、保育者による回答の合計を示した。「歌を聴きながら絵を描いたり、音楽に合 わせて何か作ったりして遊ぶ」というように、1人の保育者が複数の回答を記述した場合 があったため、回答者数は273名であるが、回答数は284件になっている。
① 音楽・曲
音楽側の活動として、音楽や曲と回答したものが、108 件確認できた。これらは、音楽 の種類や、歌詞の有無の区別等について具体的に言及されていなかった。
② 歌
具体的な曲名の言及がなく、大まかに歌と表記された回答が、56件確認できた。音楽に 歌詞を伴うことが示されている点が特徴であるが、具体的な歌の種別や曲名は示されてい なかった。
③ 保育で用いられる歌・童謡
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保育現場でよく用いられる歌や童謡を取り上げた回答が、48件確認できた。音楽のジャ ンルや曲名の言及もあり、例えば、『あめふりくまのこ』『森のくまさん』『とんぼのめがね』
等の特定の童謡、「きのこの歌」「花火の歌」「クリスマスの歌」等の季節の歌、あるいは「リ ズミカルな歌」「手遊び歌」等であった。
④ 絵描き歌(えかきうた)
絵描き歌とは、絵の描き方が歌詞になっており、歌詞の指示通りに描いていくと自然と 絵が完成する歌を指すが、該当する回答が45件確認できた。このうち1件は、「カタツム リの絵描き歌」という曲名が示されていたが、その他は、曲名に関する言及はなかった。
絵描き歌とは、保育現場でよく用いられることから、曲名を挙げていない回答者も、乳幼 児の生活に関連する内容を想定しているであろう。
⑤ 歌詞のない音楽
これまで取り上げてきた音楽活動は、歌詞を含むか、もしくは歌詞の有無が判別できな いものであったが、歌詞のない音楽であることが示された回答は、7件確認できた。これ らは、音楽としての様式を持ち作曲されたもので、歌詞を伴わない点が特徴であり、「クラ シック音楽」「歌詞のないハワイアンな曲」「歌詞のない抽象的な曲」等であった。
⑥ 自然音や効果音
自然の音や効果音を取り上げた回答が、9件確認できた。歌詞を伴わず、また、創作さ れた楽曲でもない点が特徴である。例えば、「風、雨、雷等の自然の音」「深海を連想させ る音」「海や波を連想させる音」等の自然の中で聞こえる音や、「セミの鳴き声やすず虫の 鳴き声」といった動物や虫等の生物による鳴き声に注目したもの、あるいは、大まかに「抽 象的な音」として回答されたものであった。また、「色々な効果音(ふわふわ、カンカンと いった音)」というように、人工的な効果音に言及した回答も確認できた。
⑦ リズム
音楽におけるリズムの要素に着目した回答が、11 件確認できた。例えば、「音楽を聴い て、そのリズムを表現して描く」「音やリズムを聴いてイメージしたものを描く」というよ うに、音楽や音を聴く体験の中で、特にリズムに着目している点が特徴である。
(2)音楽側の活動の特徴
音楽側の活動において、「1. 音楽全般」「2. 歌詞のある音楽」「3. 純粋な音イメージによ る音楽や音」の実践案の回答数は、108:149:27(件)であった。したがって、保育者が
「造形×音楽」表現の実践を考える際、音楽側の活動として最も身近なものは、「2. 歌詞