第4章 研究の総括と今後の課題
第3節 保育実践における造形と音楽を結び付けた表現活動の可能性
Ⅰ.造形と音楽を結び付けた表現活動の実践案
第3章第1節(本論の 121-139 頁)では、保育者が考案した「造形×音楽」表現の実践 案を明らかにした。保育者から実践モデルを広く収集することで、様々な実践の類型化を 行ったり、取り組みやすい実践を特定したり、独創的な実践を探すことができると考える。
そこで、上述した岡山県内にある全ての公立及び私立幼稚園(304園配布,171園回収)に 対する無記名の自記式質問紙調査を基に検討した結果、次のことが判明した。
第1に、考案された「造形×音楽」表現の実践案が、具体的に、どのような造形側の活 動と音楽側の活動を結び付けたものであるかを明らかにした。具体的には、音楽側の活動 として、「音楽全般」である「①音楽・曲」、「歌詞のある音楽」である「②歌」「③保育で 用いられる歌・童謡」「④絵描き歌」、「純粋な音イメージによる音楽や音」である「⑤歌詞 のない音楽」「⑥自然音や効果音」「⑦リズム」に分類された。また、造形側の活動として、
「造形全般」である「Ⓐ造形」「Ⓑ音楽や歌詞の内容と関連した造形」、「絵・描画」である
「Ⓒ絵・描画」「Ⓓ音楽・音・歌詞の内容と関連した絵」「Ⓔ自由画」「Ⓕ抽象的な描画」「Ⓖ
フィンガーペインティング・ボディーペインティング」、「写真・映像」である「Ⓗ写真・
映像」、「工作」である「Ⓘ工作」「Ⓙ音楽や歌詞の内容と関連した工作」、「粘土造形」であ る「Ⓚ粘土造形」「Ⓛ音楽や歌詞の内容と関連した粘土造形」、「その他」である「Ⓜその他」
に分類された。これらを様々に組み合わせることで、実現可能な多様な実践案を生み出す ことができると示された。
第2に、「造形×音楽」表現における造形活動と音楽活動の順序について検討した。つま り、「歌から得た印象を絵に描く」という順序なのか、あるいは、「絵のイメージから音楽 を連想して歌う」という順序であるのかという疑問である。すると、子どもに対して造形 活動を先に提示した後、音楽活動へと活動を展開することは、保育者にとって実践イメー ジを持つのが難しく、実現可能性の低い内容であると示された。一方で、造形活動と音楽
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活動を同時に行う実践案、あるいは、先に行う音楽活動に関連付けながら造形活動へと移 行させる実践案は、実践イメージを持ちやすいと示された。保育者が考える「造形×音楽」
表現の実践イメージにおいて、造形活動が活動の出発点となることは稀であり、一般的に は、「音楽から着想を得て想像した絵を描く」というように、活動の到達点として造形を位 置付ける方が、現実的に実践しやすいと考えられる。
研究上の課題としては、本論は、「造形×音楽」表現について保育者の経験や知識に基づ く保育実践を取り上げたが、今後は、子どもに対する実際の保育の事例研究を行うことで ある。「造形×音楽」表現を園において展開する中で、子どもが具体的にどのような姿を見 せ、表現活動の豊かさや楽しさがどのように具現化して表れるのか、検証が求められると 言える。
Ⅱ.造形活動及び音楽活動それぞれの実践自信度への着目
第3章第2節(本論の140-148 頁)では、造形・音楽それぞれに対する表現指導の自信
(造形自信度及び音楽自信度として表記)が、「造形×音楽」表現に対する実践意欲や実践 の見通しと、どのような関連性を持つのかについて検証した。その際、造形自信度あるい は音楽自信度の得点の低群・中群・高群の3群に分けて検討した。上述した岡山県内にあ る全ての公立及び私立幼稚園(304園配布,171園回収)に対する無記名の自記式質問紙調 査を基に量的分析を加えた結果、次のことが判明した。
第1に、「造形×音楽」表現の実践案を考案できるかどうかは、その保育者の造形自信度 の程度と高い関連性があると考えられた。造形活動が得意な保育者は、「造形×音楽」表現 の実践案をイメージできる割合が高い傾向にあるが、一方、音楽表現が得意な保育者には、
同様の傾向が認められなかった。「造形×音楽」表現は、造形活動及び音楽活動によって成 り立っているが、その際、造形が得意な保育者と音楽が得意な保育者の間に、「造形×音楽」
表現を行う上での意識に違いがあるのではないかと考えられた。
第2に、「造形×音楽」表現を実践できる実現性が高い保育者は、実践の見通しの得点が
「実践経験なし群<あり群」であることから、「造形×音楽」表現の経験がない人物より経 験がある人物であると考えられた。また、実践の見通しの得点について、造形自信度要因 では「造形自信度の低群<中群<高群」である一方、音楽自信度要因では「音楽自信度の 低群<中群=高群」となっていた。つまり、保育者は、造形活動に対する自信度が高いほ
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ど実践の見通しを高く持っているが、音楽活動に対する自信度が高い保育者と中程度の保 育者は、どちらも「造形×音楽」表現に対する実践の見通しが同程度であった。これは、
音楽が得意な保育者が、「造形×音楽」表現の実践の見通しを高く持つとは言えないことも 示しており、したがって、音楽に対する自信の程度ではなく、造形に対する自信の程度か ら、「造形×音楽」表現の実践の見通しのある保育者を判断するのがより望ましいと考えら れた。造形活動が得意であると自認し、「造形×音楽」表現の実践経験がある保育者は、全 体の約5%であり、それらの保育者が該当した。
第3に、造形自信度の低群と音楽自信度の低群で、実践意欲の得点が「実践経験なし群
=あり群」であった。また、造形自信度の中群・高群と音楽自信度の中群・高群で、実践 意欲の得点が「実践経験なし群<あり群」となっており、実践経験あり群において、実践 意欲の得点が「造形自信度の低群<中群=高群」及び「音楽自信度の低群<中群=高群」
であった。これらのことから、「造形×音楽」表現を行った経験があり、さらに造形活動ま たは音楽活動に対する自信度が高い保育者及び中程度の保育者は、「造形×音楽」表現の意 欲を相対的に高く持っている状況が認められた。それは同時に、実践経験があっても、造 形活動または音楽活動に対する自信度が低い保育者は、「造形×音楽」表現の意欲が相対的 に低いことを示している。したがって、実践経験あり群に属する造形自信度の中群・高群
(計94人)、または、実践経験あり群に属する音楽自信度の中群・高群(計88人)の該当 者は、双方とも全体の約20%の割合であるが、それらの保育者が「造形×音楽」表現の実 践に意欲を見せている点で注目に値すると考えられた。
第4に、「造形×音楽」表現の実践経験がない保育者に焦点を当てると、実践経験なし群 における実践意欲の平均値について、「造形自信度の低群<高群」となっている一方で、「音 楽自信度の低群=中群=高群」であった。実践経験がない保育者集団において、造形活動 に対する自信度が高い保育者は、低い保育者より実践意欲を高く持つため、「造形×音楽」
表現の実践は、造形が苦手な保育者より得意な保育者が行う方が望ましいと考えられた。
一方で、音楽活動に対する自信度が低い・中程度・高い保育者のいずれも、「造形×音楽」
表現の意欲は同程度であるため、音楽が苦手であっても得意であっても、「造形×音楽」表 現の意欲に変わりはないと言えた。このことから、「造形×音楽」表現の実践経験のない保 育者では、音楽に対する自信の程度ではなく、造形に対する自信の程度から、「造形×音楽」
表現の実践への意欲のある保育者を判断することができると考えられた。全体の約80%に 当たる、「造形×音楽」表現の実践経験がない多数派の保育者に、この傾向が当てはまると
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一方で、研究上の課題としては、「造形×音楽」表現の実践経験のない保育者において、
なぜ、音楽自信度の高低が実践意欲や実践の見通しに大きな影響を与えないのか、特に実 践意欲の得点では、音楽自信度の低群・中群・高群に差が見られない理由は何であるか、
というような疑問の解明が求められる。1つの示唆としては、第3章第1節の成果として、
保育者が考える「造形×音楽」表現の実践イメージでは、造形活動が活動の出発点となる ことは稀であり、一般的には、「音楽から着想を得て想像した絵を描く」というように、活 動の到達点として造形を位置付ける方が非常に多いことから、実際の作品として残る造形 活動の得意・不得意の方が、実践意欲や実践の見通しに影響を及ぼすのではないかと推測 される。今後は、このような課題をさらなる調査等によって明らかにすることが求められ る。
Ⅲ.保育実践を展開する上での諸条件
第3章第3節及び第4節(本論の 149-178頁)では、保育現場で「造形×音楽」表現を 実践展開するための条件を整理した。上述した岡山県内全ての公立及び私立幼稚園(304 園配布,171 園回収)に対する、無記名の自記式質問紙調査を基に、量的・質的分析を行 った結果、次のことが判明した。
第1に、「造形×音楽」表現を行う上で求められる保育実践上の条件について、2つの上 位カテゴリーにおける8つの要素に大別できた。それは、上位カテゴリーとしては、「子ど もに関する事項」と「保育者に関する事項」が示された。下記カテゴリーの8つの要素と して、「①興味・関心(キーワード:興味,関心)」は、「造形×音楽」表現を実践する以前 に、子どもが興味・関心を持っている活動が何であるかについて把握する必要性を示すと ともに、「造形×音楽」表現における活動内容そのものが、子どもの興味・関心を触発する 内容でなくてはならないと考えられた。「②発達(キーワード:発達,発達過程,年齢)」
は、子どもに対する保育を行う際に、子どもの発達や年齢に応じた実践を考えることが保 育の常識であるが、それは、造形と音楽を結び付ける表現活動を取り上げる上でも基本原 則として当てはまる。「③楽しさ(キーワード:楽しい,楽しむ,楽しめる)」には、子ど もが活動を楽しく経験できるかどうかを重要視する保育観が反映されていた。「④活動に向 けた基礎的な経験(キーワード:基礎)」では、「造形×音楽」表現を行う以前に、その基