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実現可能性の捉えから見た実践上の条件

第3章 保育者から見た造形と音楽を結び付けた保育実践

第4節 実現可能性の捉えから見た実践上の条件

Ⅰ 保育者の保育実践に求められる条件

第3章第3節(本論の 149-166 頁)では、現場保育者から見た「造形×音楽」表現に関 する実践上の条件として、「①興味・関心」「②発達」「③楽しさ」「④活動に向けた基礎的 な経験」「⑤時間」「⑥環境」「⑦教材研究」「⑧保育者の知識・技術・経験」の8要素を抽 出した。また、実践上の条件である8要素それぞれに関する保育者の回答内容を例示しな がら、各要素の特徴やその条件が求められる理由や背景を論じた。それでは、実践上の条 件である8要素について、実践の見通しが低い保育者と高い保育者の間に、回答内容の違 いや共通性は認められるのであろうか。そこで、8要素に言及した保育者の回答内容につ いて、実践の見通しの得点の高群と低群を比べながら質的に比較した。

Ⅱ.「造形×音楽」表現の実践上の条件

1.調査対象・方法・期間及び倫理的配慮

第3章第3節と同じく、岡山県内の公立・私立幼稚園(304園配布,171園回収)に勤務 する幼稚園教諭に対して、郵送による無記名の質問紙調査を行ったものである。園長及び 幼稚園教諭に向けた協力依頼文と返信用封筒を同封し、質問紙の配布、記入、回収を依頼 した。調査期間は、2015 年8月 11 日~9月4日である。質問紙の回収率は 56.3%(304 園配布,171園回収)で、842名分を回収した。その中から、大部分の質問項目に回答がな いものを除き、分析の対象とする538名分を抽出した。分析対象者の属性としては、性別

(男性22名,女性516名)、年齢(M=34.4,SD=10.7)、保育経験年数(M=10.5,SD=8.9)

であった。そこから各質問項目毎に、欠損値等の回答不備を除いたデータを分析対象とし た。調査の実施に当たっては、第3章第1節(本論の122頁)で述べた通り、倫理的配慮 に十分に留意した。

2.調査内容

第3章第4節

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本節では、第3章第3節に引き続き、保育者に見る「造形×音楽」表現の実践上の条件 に焦点を当てる。質問紙では、第1に、「あなたが造形表現と音楽表現を結び付けた保育実 践を行うには、どのような条件が必要ですか?」と尋ね、自由記述による回答を求めた。

これによって、保育者が「造形×音楽」表現の保育実践を行う際、実践を成立させる条件 としてどのような観点が必要であるかを明らかにする。第2に、「あなたは、造形表現と音 楽表現を結び付けた保育実践を、今後やってみたいと思いますか?」として、具体的に、

「現実問題として、実践を実現できる可能性は?」と尋ね、0~100 点で記入するよう求 めた。本節では、「実現の見通し」と表記した。

3.分析方法

実践の見通しの得点(0~100 点で回答)について、平均値±1標準偏差を群分けの基 準として設定し、実践の見通しの低群(0~26点)、中群(27~67点)、高群(68~100点)

の3群に分類した。このうち、実践の見通しの程度が大きく異なる低群と高群の保育者の 回答を取り上げ、実践上の条件について両者が述べる内容を比較する。

Ⅲ.実践の見通しの高群・低群に見る実践上の条件の比較

第3章第3節では、「造形×音楽」表現に関する実践上の条件について8つの要素を示し たが、その8要素が述べられている回答者数を、実践の見通しの低群(84名)と高群(85 名)でそれぞれカウントした。その際、例えば、「子どもたちが、自由に表現したくなるよ うな声掛けを考えること。また、ゆったりとした時間を確保すること」という回答が、「⑤ 時間」及び「⑥環境」の2つの要素に言及している、といった事例も確認できたため、同 一回答者が複数の要素に言及した場合は、それぞれを1つずつカウントした。

そして、実践の見通しの低群・高群毎にカウントした8要素の回答者数を、両群の母数 である84名と85名でそれぞれ割り、群内の何%がその要素について取り上げているかの 出現率を算出した。その結果を、図1に示す。例えば、「①興味・関心」を見ると、実践 の見通しの低群の 4.8%の保育者、高群の 14.1%の保育者が、それぞれ実践上の条件とし て挙げていることが読み取れる。

1.高群・低群に見る出現率の違い

第3章第4節

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図1.実践の見通しの低群・高群から見た実践上の条件8要素に対する回答者の出現率(%)

実践の見通しの高群は、「③楽しさ」を除く全ての要素において、低群よりも出現率が 高かった。実践の見通しが高い保育者集団は、見通しの低い保育者集団よりも、実践上の 条件をより多く挙げることができると言える。

2.高群・低群に見る実践上の条件に関する具体的内容

上述した実践の見通しの高群・低群における実践上の条件について、図1を参照しなが ら、回答内容を項目立てて具体的に取り上げる。線で囲った枠の中に、保育者の代表的な 回答を挙げた。

① 興味・関心

「①興味・関心」に関しては、高群における「子どもの興味・関心の把握」、低群におけ る「子どもの発達・興味を捉える」の回答のように、子どもが日頃から興味を持っている 事柄を把握する必要性に言及されていた(表1)。あるいは、「子どもが興味を持ち、表現 してみたいという気持ちになるような動機付け・意欲化」という回答のように、「造形×音 楽」表現に対する興味の持たせ方の工夫にも言及されていた。記述された回答内容に、両 群で大きな違いはないと考えられる。

第3章第4節

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表1.「興味・関心」に関する保育者の代表的回答(実践の見通しの高群・低群別)

高群の代表的回答

■子どもの興味・関心の把握。

■子どもたちの興味があることに着目しておく。

■興味の持たせ方、方向性が大事。

■幼児の興味・関心にぴったりとくる題材を選ぶ。

■子どもが興味を持ち、表現してみたいという気持ちになるような動機付け・意欲化。

低群の代表的回答

■子どもの発達・興味を捉える。

■題材に幼児が興味を持っている。

■絵本等での導入により興味を持たせる。

② 発達

「②発達」に関しては、「造形×音楽」表現の実践内容について、子どもの発達に即した ものにする必要性が述べられており、その点で両群に顕著な違いは見られなかった(表2)。

発達過程や年齢を考慮しながら実践を進めることは、保育の基本的な姿勢であり、「造形×

音楽」表現の条件としても重要と考えられる。

表2.「発達」に関する保育者の代表的回答(実践の見通しの高群・低群別)

高群の代表的回答

■発達過程を踏まえたテーマや活動内容。

■クラスの実態と発達年齢、発達課題。

■子どもの表現能力の発達の道筋や現在の状態を捉えて、保育内容にうまく組み込むことが 大切。

■発達に合ったもので、少し簡単にできる造形活動。じっくり考えないでもできること。

低群の代表的回答

■幼児の発達過程の把握。

■年齢が高いこと。

■ある程度、年齢が上の学年。

第3章第4節

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③ 楽しさ

「③楽しさ」に関しては、「「楽しいことが始まるよ」というワクワクした気持ちを持て るようにする」「幼児全員が楽しいと思える活動内容」という回答のように、子どもが「造 形×音楽」表現に対して楽しいと感じることができる活動内容を実践することが、両群と も実践上の条件として挙げられていた(表3)。

表3.「楽しさ」に関する保育者の代表的回答(実践の見通しの高群・低群別)

高群の代表的回答

■「楽しいことが始まるよ」というワクワクした気持ちを持てるようにする。

■子どもが楽しめるような保育内容。

■子どもの心がはずむものであること。

低群の代表的回答

■幼児全員が楽しいと思える活動内容。

■子どもが喜んで、イメージを持ちながら楽しめること。

■活動が心踊るものであること。

■楽しめる内容を考える。

④ 活動に向けた基礎的な経験

「④活動に向けた基礎的な経験」に関しては、両群に、次の共通点が挙げられた(表4)。

第1に、子どもが自由な発想や豊かな感性を働かせながら表現活動を行う体験を、事前に 積んでおく必要性への言及である。高群では、「いろいろなアイデアを出すおもしろさを味 わったことがある」「思ったことを自由に表現する機会を積む」という回答が該当し、低群 では、「いろいろな感じ方のできる、感性豊かな子どもを育てておくこと」「のびのびと表 現できる力を身に付けること」が該当する。先述したように、「造形×音楽」表現は、主に 音楽から表現上の閃きを得て造形活動への結び付ける等の表現過程を経ながら、子どもが 想像力を働かせ、自由に表現する機会となる。したがって、「自由な発想を表現できること」

が、活動の基礎体験として準備されていることが求められると考えられる。

第2に、子どもが様々な音楽活動を体験することが、「造形×音楽」表現の基礎になると 考えられる点でも、両群は共通していた。例えば、高群では、「クラシック等歌のない音楽 を聴いて想像する経験」「音楽を楽しめる心、いろいろな歌を知っていくこと」「身近なも