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研究範囲の焦点化と課題の抽出

第2章 保育における造形と音楽を結び付けた表現活動の位置付け

第1節 研究範囲の焦点化と課題の抽出

Ⅰ.保育における4つの表現領域

これまで見てきたように、複数表現領域を結び付けた表現活動には、音楽と造形の結び 付きや、音楽と踊りの結び付き等、様々な事例が認められる。そこで、本節では、保育現 場ではどのような結び付きに研究課題を見出せるかを検討する。2011年度の保育士養成課 程の改正では、養成校における『保育表現技術』の区分として、音楽、造形、言葉、身体 の4つの領域から、保育表現技術系教科目を配置するよう義務付けられた1)。子どもの表 現活動を促すための保育者が持つべき技術として、音楽領域、造形領域、言語領域、身体 領域が位置付けられていると言え、本節でもこの4つの表現領域に基づいて考察を進める

(以下、本節では「4領域」と表記)。4領域の様々な組み合わせの中で、学術的な課題が 認められるものを特定し、保育における複数表現領域を結び付けた表現活動に関する課題 を明らかにする。

Ⅱ.保育者の保育実践における4領域の様々な結び付き

上述した音楽表現・造形表現・言語表現・身体表現の4領域の組み合わせは、全部で11 通り考えられるが、この11通りの表現領域の結び付きについて、保育関係者に対する質問 紙調査を行う。実際に子どもと関わる専門職の意見を、現場の園から広く収集することで、

園の実態や現場目線の考え方に沿った研究成果を得ることができると考えられるためであ る。これによって、複数表現領域を結び付けた表現活動に関する保育者の認識や保育実践 の現状を把握し、研究範囲の焦点化と課題の抽出を試みる。

1.調査対象・方法・期間・倫理的配慮

岡山県内の私立幼稚園(16園配布,13園回収)に勤務する幼稚園教諭に対して、郵送に

1) 岡本拡子:『音楽・造形・言葉・身体 保育表現技術領域別 感性をひらく表現遊び―実習に役立つ活動例 と指導案―』,1頁,北大路書房,2013年.

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よる無記名の質問紙調査を行った。園長及び幼稚園教諭に向けた協力依頼文と返信用封筒 を同封し、質問紙の配布、記入、回収を依頼した。調査期間は、2014 年9月 17 日~9月 30日である。質問紙の回収率は81.3%(16園配布,13園回収)で、110名分の調査用紙を 回収した。

その中から、大幅な欠損値等の回答不備を除く 103 名を分析対象とした(有効回答率

93.6%)。分析対象者の属性としては、性別(男性1名,女性102名)、年齢(M=33.8,SD=12.0)、

保育経験年数(M=9.8,SD=9.5)であった。調査の倫理的配慮として、質問紙は無記名の ため個人が特定されたり、園や外部に漏洩する懸念は一切ないこと、回収した質問紙は厳 重に保管し、結果は目的以外には使用しないこと、研究終了後は調査用紙及びデータを速 やかに破棄することを文書にて説明した。倫理面への配慮は、日本発達心理学会(2000)2) 及び日本保育学会(2010)3) に準じて実施した。

2.調査内容

複数の表現領域を結び付けた表現活動について、音楽表現・造形表現・言語表現・身体 表現の4領域の組み合わせ11通りの保育実践に焦点を当てた。質問紙においては、回答は 無記名とし、属性を問う質問として、回答者の性別、年齢、保育経験年数、役職、勤務園 の種別、雇用形態(正規・パート・臨時・その他のいずれであるか)、担当クラス(何歳児 学級の担当であるか,担任・副担任・フリー・その他のいずれであるか)について尋ねた。

その上で、複数の表現領域を結び付けた表現活動について、「子どもは、音楽表現・身体 表現・言語表現・造形表現を別々に行わず、それらを組み合わせた表現を楽しんだりしま す(文科省,2008;厚労省,2008)。つまり、「友達の顔を絵に描く」「音楽に合わせて歌う」

というような活動ではなく、例えば、「音を聴いて(音楽)絵を描く(造形)」「物語を話し ながら(言語)身体を動かす(身体)」というような表現活動が当てはまります」と説明し た。

さらに、「次に挙げるのは、4つの表現領域(音楽・身体・言語・造形)の結び付きにつ いて、11 の組み合わせを示しています」と述べた。11通りの組み合わせとは、具体的に、

「音楽×身体」「音楽×言語」「音楽×造形」「身体×言語」「身体×造形」「言語×造形」「音 楽×身体×言語」「音楽×身体×造形」「音楽×言語×造形」「身体×言語×造形」「音楽×

2) 日本発達心理学会/監修:『心理学・倫理ガイドブック―リサーチと臨床―』,4-14頁,有斐閣,2000年.

3) 一般社団法人日本保育学会 倫理綱領ガイドブック編集委員会/編:『改訂 保育学研究倫理ガイドブック 子どもの幸せを願うすべての保育者と研究者のために』,49頁,78-83頁,フレーベル館,2010年.

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身体×言語×造形」である。以上を設定した上で、次の点について回答を求めた。

第1は、11通りの表現活動に関する保育実践を行ったことがあるかという実践経験の有 無、そして、具体的な実践例についてである。質問項目は、「実践経験の有無の欄には、そ のような表現活動を、保育実践においてこれまで取り上げた経験があるかについて伺いま す。「ある」「ない」どちらかに○を付け、「ある」場合は、その具体的な活動内容を[ ] 内にお書きください」として、「ある」と回答した場合、具体的な表現活動の内容を自由記 述で求めた。

第2は、11 通りの表現活動に対する実践の自信度である。質問項目は、「実践の見通し の欄には、今後あなた自身が、そのような表現活動を保育実践すると仮定して、1~7の 数字(自信度)いずれかに○をつけ、その具体的な活動内容を[ ]内にお書きください。

何も思いつかない場合、[ ]内は空欄で結構です」である。1~7の数字(自信度)の回 答は、「非常に自信がある」(7点)、「かなり自信がある」(6点)、「やや自信がある」(5 点)、「どちらとも言えない」(4点)、「やや自信がない」(3点)、「かなり自信がない」(2 点)、「全く自信がない」(1点)の7段階による評定を求めた。

本節では、量的分析を行う際、統計解析ソフトウェアである「IBM SPSS Statistics 24」

を使用した。論中では、例えば音楽表現と身体表現を結び付けた活動を取り上げる場合、

「音楽×身体」と簡略化して表記した。

Ⅲ.11通りの表現活動に関する保育者の実践

下記に、3つの表と1つの図を取り上げながら、複数表現領域を結び付けた表現活動に 関する研究範囲の焦点化について述べる。

1.11通りの表現活動に関する過去の実践例

4領域(音楽・身体・言語・造形)の組み合わせに基づく11 通りの表現活動について、

保育者がこれまで行ったことのある実践例として回答したものを集計した。表1は、実践 例の代表的な回答を示しており、11通りの表現活動に関する具体的な保育実践の内容を確 認できる。

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- 65 - 表1.11通りの表現活動に関する保育の実践例

領域数 表現領域の 結び付き

実践例

2領域間 ①音楽×身体 ■ピアノやCD等の音楽に合わせて身体表現をする。

■音楽を聴きながら、動物になりきる等の身体表現をする。

■ほとんどの曲には、振り付けを加えている。

■運動会に向けて音楽に合わせて曲に合った振り付けをするダ ンス。

■音楽に合わせて踊ったりする。

■運動会に向けて曲に合った振りをするダンス。

②身体×言語 ■言葉のイメージで身体を動かしたり、何かに変身したりして 遊ぶ。

■「だるまさんが転んだ」で遊ぶ。

■言葉に合わせて身体を動かす。

③音楽×言語 ■ピアノに合わせて「は・あ・い」と返事をする。

■絵本の中に出てくる言葉や音に合わせて、その言葉を発しな がら手を叩くリズム遊び。

■発表会で子どもと一緒に歌詞を考え、曲にあてはめていった

(替え歌)。

■発表会等で音楽に合わせて歌をつくる。

④言語×造形 ■素話や読み聞かせからイメージを膨らませて絵を描く。

■絵本を読み、好きな場面を描いてみる。

■しりとりを絵と文字で表す。

■ひらがな遊びで、教師がひらがな1文字を共通に提示し、そ の文字から始まるものを幼児が考えて絵に描く。

■話を聞き、イメージや想像力を膨らませながら絵を描く

⑤身体×造形 ■身体を使って表現しながら、絵を描く。

■身体で動物等の動きを表現しながらその内容を絵に描く。

⑥音楽×造形 ■音楽(歌)を聴いてイメージを膨らませながら絵を描く。

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■「シャボン玉」や「チューリップ」等の歌を歌いながら、形 のイメージを膨らませて、紙に表現する製作活動。

■カエルの歌を歌っている時に、カエルを作ってみる。

■絵描き歌(歌からイメージして絵を描く)。

3領域間 ⑦ 音 楽 × 身 体

×言語

■「さつまのおいも」という絵本を読み、「いもほり」の歌を、

振り付けを加えながら歌った。

■音に合わせて動きを付けながらセリフを言ったり、替え歌を 歌ったりする劇遊び。

■リズムにあわせて歌いながら踊る。

⑧ 身 体 × 言 語

×造形

■運動会で経験した玉入れ等を思い出して言葉にしたり、実際 のポーズを取ったりして、玉入れの絵を描く。

■体を動かして遊んだことを言葉にしながら、関連する絵を描 く。

⑨ 音 楽 × 身 体

×造形

■シャボン玉の歌に合わせてシャボン玉に変身して動き、シャ ボン玉が飛ぶのをイメージして、シャボン玉から見える風景 を描く。

■絵本を用いながら、音に合わせて身体表現を行い、その後絵 を描く。

⑩ 音 楽 × 言 語

×造形

■リズムにのせて「おーちたおちた なーにがおちた ○○!」

と子どもに言いながら、造形へうながす。

■絵本や物語を読み、関連する音楽等をかけながら絵を描いた りする。

4領域間 ⑪ 音 楽 × 身 体

×言語×造形

■ミュージカルや劇遊び。

■共同作(1つのテーマから様々な遊びを展開)。

2.11通りの表現活動に関する保育者の実践経験の有無

11通りの表現活動について、保育者に見る実践経験の有無という観点で回答を集計した。

(1)実践経験の有無の比較

11通りの表現活動について、実践経験があると回答した人数と、実践経験がないと回答 した人数の間に差があるかを検証する。無回答を除いて集計した結果、図1が示された(図