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幼児教育・保育における表現領域の結び付き

Ⅰ.乳幼児期の複数表現領域を結び付けた表現活動の事例

幼児教育・保育における複数表現領域を結び付けた表現活動について、子どもの事例や 保育者の側に焦点を当てた研究に、どのようなものが認められるのであろうか。この研究 主題に関する資料は少ないが、下記に先行研究を概観する1)

1.音楽表現と身体表現の結び付き

名須川(1998)は、幼児の遊びにおける音楽表現の事例を取り上げながら、音楽と動き の融合したものが、最も幼児の実際の音楽表現活動に近いものであると指摘している2)。例 えば、子どもが、ゆらゆらした身体の動きに合わせて声やリズムを変え、それに節も付ける ような事例が紹介されている。幼児における拍節的動きの見られる音楽表現について、感じ とったものを自分の身体で体験し、声にも表している表現活動であると述べ、自然に幼児自 身の奥底から生み出された表しであると指摘している。

細田(2001)は、子どもに見る音楽表現と身体の動きの関連性について、「歌、ことば、

動きの表現が相互に関係しつつ、子どもたちが日々成長していっている様子がよくわかる。

(中略)うたい始めの時を迎える以前には、身体の動きの発達が大きく関わっている」3) と 述べている。

小野・細田(2001)によると、乳児期の1歳3か月の K 児は、『たこ焼きマンボ』の歌 を好んで繰り返し聴いていたある日、踊りながら「マーボ、マーボ」と言葉を出して歌い 出した4)。K児は、歌を何度も聴くうちに、「マーボ」という言葉を使って歌うことを習得

1) 本節は、以下の論文を加筆・修正し、再構成した。髙橋慧:「乳幼児期からの複数領域を結び付ける表現活動 の可能性と感覚間協応に基づく理論的説明」,『美術教育学』36,265-278頁,2015年. 及び、髙橋慧:「保育実践 の造形分野における共感覚的表現に関する研究の動向と課題」,『美術教育学研究』47,175-182頁,2015年.

2) 名須川知子:「幼児の音楽表現における身体の動きの意味」,『保育学研究』36(1),52-58頁,1998年.

3) 細田淳子:「ことばの獲得初期における音楽的表現―子どもがうたい始めるとき―」,『東京家政大学研究紀 要』41(1),107-113頁,2001年.

4) 小野明美・細田淳子:「ことばの獲得初期における音楽的表現(4)―身体表現の発達―」,『日本保育学会大会 研究論文集』54,356-357頁,2001年.

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しただけでなく、踊る行為も付け加えた。これは、K児が『たこ焼きマンボ』の歌を、聴 覚器官である耳 だけで なく、身体的に も感じ 取っていたこと を意味 してい る。Fisher

(1973/1979)が、「音楽は、深部に潜む身体的感覚機構を根底から揺り動かす」5) と述べ るように、音楽を聴くと身体を動かす欲求が呼び起こされる事例と言える。同様の現象は、

成人にも当てはまるが、その起源は、既に1歳3か月の乳児期に見られるものである。こ の内容と逆の現象、すなわち、耳から入ってくる音楽的なリズムが身体表現を表出させる 事例もある。小野・細田(2001)によれば、音楽表現は、身体を動かす表現欲求を引き出 したり、豊かな身体表現を発展させる上で重要な役割を果たす6)。その報告では、1歳8 か月のM児が、保育者による『さんぽの歌』を聴いている最中に、肩を揺らしてリズムに 合わせながら歌い出した。保育者による歌を聴いたことがきっかけとなり、M児は、リズ ムに合わせて肩を揺らす身体表現を見せたと言える。Fisher(1973/1979)の見解によれば、

「音楽は、身体的体験への影響力という点で他のすべての創造的作品を上まわっている」7) ものであり、音楽を聴くことで踊りという身体表現が誘発されるように、身体感覚は音楽 によって強く触発される。M児に見られたように、身体的な表現活動は音楽と結び付くこ とで、より表出しやすくなると言える。

細田(2003)は、「乳児がまだうたい出す前の幼い頃から、音楽の楽しさを全身で受け止 め、音楽に反応し表現していることが分かった。そしてその動きは6つのカテゴリーに分 類することができた。その動きの現れに一応の順序性は見られたものの、子どもひとりひ とりの好きで得意な動きがあることも分かった」8) と報告している。

2.音楽表現・身体表現・言語表現の結び付き

芹澤(1998)は、子どもの自発的な遊びの中で、言葉や動きや音が様々に結び付いて展 開された事例を紹介した。「幼児の表現活動を「音楽」という観点から観察していると、多様 な表現媒体が融合していることが多いことに気づく。例えば、リズミカルな言葉を唱えなが らとび跳ねたり」9) するような活動である。芹澤(1998)は、子どもの音楽表現について、

5) Fisher,S.(1973): Body Consciousness You Are What You Feel. p.134, Prentice-Hall Inc, New Jersey.(村山久美子・

小松哲/訳:『からだの意識』,204頁,誠信書房,1979年.)

6) 小野ほか・前掲書4)

7) Fisher, op.cit., p.134,前掲訳書5),204頁.

8) 細田淳子:「乳児は歌をどのようにうたい始めるか―音楽的刺激に対する身体反応」,『東京家政大学研究紀 要』43(1),79-84頁,2003年.

9) 芹澤美奈子:「幼児の音楽表現に関する一考察―オルフ・シェールヴェルクの可能性をめぐって―」,『保育 学研究』36(1),75-81頁,1998年.

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「身体の動きを媒介とした表現が最も自然であり、頻繁に行われることがわかった。しかし、

動きによる表現は、単独ではありえなかった。(中略)動きの表現は、音の表現でもあると いえよう」10) と述べている。そして、「子どもにとっての音楽を考えるには、「音」だけで なく、「身体の動き」や「言葉」などとのつながりを含める必要があるだろう」11) と指摘して いる。そして、子どもの表現に関わる保育者の資質として、「このような一見未分化な表 現を受容し、幼児にかかわっていく」12) ことが重要であると述べ、「言葉、動き、音、あ るいは他の表現媒体が結びついた即興表現が、自発的な遊びそのものの中で繰り広げられ るような環境を整える」13) 必要性に言及している。子どもの素朴な表現に保育者自身が気 付き、受け止める感性を持つ重要性に言及されており、「「これは音楽的だ」とか「今やって いるのは造形的だ」と、芸術として分化した表現活動の側から見て評価し、より高度なもの に導きがちである」14) 状況を問題視した見解であると考えられる。

白石・髙橋(2007)は、子どもが、自分のイメージするものを、言語表現や身体表現を 上手く調節しながら総合的に表出している状況を指摘した。例えば、「ババババ…と言いな がら、クレヨンで画用紙に強く、早く打ち付け」15) るという4歳児の表現行為は、発話、

描画、身体的動きの要素を含んでいる。また、描きながら歌う表現に関する事例、描いた ものからイメージをさらに膨らませ、ごっこ遊びに近い身体表現を絵画表現に連動させた 4歳児の事例が示されている16)。白石・髙橋(2007)は、最終的な絵画作品のみ分離して 考えるのではなく、製作途中の発話や身体表現も含めた一連の表現過程を総括して、1つ の表現活動と捉える必要性を指摘している。それによって、絵に表現された子どもの内面 世界の理解や、それに対する言葉掛け等の援助をより的確に行うことができると考えられ る。白石・髙橋(2007)は、保育者の言葉掛けによって、描画表現と言語表現の自然な結 び付きが活性化した場合と、逆に子どもの発話内容の単調性や活動の不活性さを生み出す 否定面に転じた場合を挙げ、保育者は発言内容を慎重に判断するよう喚起している17)

10) 芹澤・前掲書9) 11) 芹澤・前掲書9) 12) 芹澤・前掲書9) 13) 芹澤・前掲書9) 14) 芹澤・前掲書9)

15) 白石愛友・髙橋敏之:「絵本の読み聞かせ後の幼児にみる絵画表現と言語表現に関する事例研究」,『大学 美術教育学会誌』39,167-174頁,2007年.

16) 白石ほか・前掲書15) 17) 白石ほか・前掲書15)

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- 33 - 3.造形表現と言語表現の結び付き

Werner(1948/1976)による“Comparative Psychology of Mental Development”に、発話に よる言語表現と粘土造形が結び付いた結果、製作対象のイメージや想像力が豊かに広げら れた事例が報告されている。子どもの粘土遊びを観察する中で、ある3歳7か月の子ども は、サボテンを粘土で作っている時に、「刺すよ!いやなやつ!刺すお花、ナイフのお花だ よ!ちょっと待って見てて……粘土でとてもでっかいトゲを作るから」18) と言った。この 子どもは、粘土による製作過程でサボテンのことを「刺すお花」と表現し、そこから想像 が発展して、サボテンを「ナイフのお花」と呼んでいる。サボテンの棘もナイフも「刺す」

ことが共通する点が、連想の基になっているようである。「ナイフ」という言葉には、子ど もがサボテンに対して、独自のイメージを膨らませた過程が表れており、対象について感 じたことを言葉で表明することが、豊かな粘土造形を助けたと考えられる。

Gardner(1980/1996)は、子どもによる詩作及びその情景の描画について、ケイという 5歳女児の作品を挙げた19)。次の事例は、言葉の世界と絵画を組み合わせることで、子ど もの内面世界がより具体的に表出された状況を示しており、紙面に絵を描く描画行為と、

詩や物語等の言葉による創作活動とが一体となった子どもの表現を確認できる。ケイは、

『いちばんしたいこと』という題の自作の詩を創作し、その内容を大人に書き残してもら った。詩の内容は、「農場に住んでみたいな いっぱい動物のいるおもしろい所じゃなく 庭と 馬が少しいるだけ その馬で買い物に行く(後略)」20) という内容である。ケイ自 身と、彼女が強く関心を抱いていた馬が主題であり、彼女の叶えたい夢が語られている。

その後、ケイは詩の内容に挿絵を描こうと決めて、図1を描画した。絵は、10個の場面に 分かれており、詩の内容を断片的に具現化している。例えば、画面中央上に描かれた2本 の木がある場面は、広々とした開放的な自然の情景であり、詩に登場する「農場」であろ う。「友達がいて、庭より広い遊び場、広い広い遊び場、学校はなくて、毎日がお休み、誕 生日はとーっても楽しい(中略)何てすてきな所なんだろう 海のすぐそばって」という 様子を表すように、画面には5人の子どもと1人の成人と見られる人物描写がある。子ど もは、テーブルのようなものを囲むように集まっており、楽しそうな雰囲気が伝わってく る。ケイは、豊かな言語表現に重点を置きながら、造形表現へと活動の範囲を広げている

18) Werner,H.(1948): Comparative Psychology of Mental Development. p.74, International Universities Press Inc, New

York.(鯨岡峻・浜田寿美男/訳:『発達心理学入門』,74頁,ミネルヴァ書房,1976年.)

19) Gardner,H.(1980): Artful Scribbles: The Significance of Children's Drawings. p.118, Basic Books Inc, New York.

(星三和子/訳:『子どもの描画―なぐり描きから芸術まで』,149頁,誠信書房,1996年.)

20) Gardner, op.cit., p.118,前掲訳書20),149-150頁.