第 1 章 わが国地方自治体資金管理内部統制の現状と課題
2 資金管理における内部統制構築の必要性
前項で示したように、資金管理とは、財務継続性の維持を使命として、法令の遵守と 不正と誤謬の防止・発見に努めるとともに、最も確実かつ効率的な方法により管理すべ き事業である。そのために、公金と準公金を対象に、現金出納、短期資金調達、現金保 管および基金運用ならびに長期資金調達という5つの活動をマネジメントする必要があ る。
しかし、地方自治体では、資金管理はルーチンワークと考えられているため、政策、
施策を実現するための事業と認識されることや行政評価の対象事業とされることは少な い。また、資金管理における現金取扱による不正リスクの認識はあっても、金融取引に 対するリスクを統制して、成果をあげるという戦略的認識を自治体関係者が持つことは まれである。そして、長と会計管理者の指揮命令系統の分立による一元的な統括者の欠 如、地方債を債務でないとする認識、および縦割り的な組織風土等の資金管理の効果的 なマネジメントを困難にする要素が存在する。
地方自治体の資金管理におけるマネジメントが困難な状況を打破し、資金管理の目的 を追求する手法として、内部統制という新しいマネジメントが考えられる。地方自治体 が業務を行う上での基礎として、住民の信頼を確保するため、またマネジメント改革の 手法として、地方自治体に内部統制を求める新しい動きがある。総務省では、地方公共 団体における内部統制のあり方に関する研究会が設置され、2009年に『内部統制による 地方公共団体の組織マネジメント改革~信頼される地方公共団体を目指して~』(以下
「総務省内部統制研究会報告書」という。)が公表された。総務省内部統制検討会報告書 では、「業務の有効性及び効率性」を最重要として位置付け、「法令等の遵守」を前提に、
「財務報告の信頼性」および「資産の保全」を確保するために、地方公共団体の組織マ ネジメント改革を目指すものである26。内部統制の目的実現は、「統制環境」、「リスクの 評価と対応」、「統制活動」、「情報と伝達」、「モニタリング」、「ITへの対応」を基本的な 要素として、事業単位または活動単位でリスクの効果的な統制を行うことで、合理的な 保証を提供するものとされている27。
また、地方公共団体における内部統制の整備・運用における検討会(以下「総務省・
内部統制整備運用検討会」という。)が「地方公共団体における内部統制制度の導入に関
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する報告書」(以下、「総務省内部統制整備検討会報告書」という。)を2016年3月に公 表した。首長に内部統制体制の整備及び運用の責任があることの明確化、および、内部 統制制度の取り組み内容が段階的に発展し、段階的に広がることを企図して、具体的な 設計案を次のように示している。
① 財務事務執行リスク(財務に関する事務の執行における法令等違反、決算の信頼 性を阻害するリスク、財産の保全を阻害するリスク)を最低限評価するリスクとす る。その他のリスクについては、評価し対応を進めることは可能とすべきである。
② 大規模地方公共団体(都道府県や指定都市)は内部統制体制の整備及び運用に関 する基本的な方針(以下「内部統制基本方針」という。)を作成すべきである。
③ 内部統制基本方針および内部統制状況評価報告書を公表して、常に外部の目にさ らすべきである。
④ 長は内部統制状況評価報告書を監査委員の監査に付し、監査委員の意見を付けて、
議会に報告すべきである。
上記の『地方公共団体における内部統制制度の導入に関する報告書』における設計案 に沿った内容で、2017年に地方自治法が改正され、同法第150条に地方公共団体の内部 統制に関する規定が設けられた。その内容は2020年4月1日を施行日として、都道府 県知事および指定都市市長に内部統制に関する方針の策定および内部統制体制の整備を 義務付け、その他の市町村長は努力義務とするものである。内部統制の対象は「財務に 関する事務」とされ、その他の事務は市町村長が特に必要があると認めるものとされて いる。これらの事務の管理および執行が法令に適合し、かつ、適正に行われることを確 保するための方針を定め、体制を整備することが長に求められている。長が内部統制に 関する方針を定め、または、変更した場合、公表義務を負う。さらに、長は、年1回以 上、内部統制評価報告書を作成するとともに、当該報告書を監査委員の審査に付し、監 査委員の意見を付けて議会に提出しなければならず、当該報告書を公表する義務を負う ものとされている。
また、総務省内部統制研究会報告書では、「資産の保全」目的に関して、「遊休資産を 有効活用するといったストック面での検討を行い、債務の圧縮等を実施することが求め られている」ことや「不要資産の売却や遊休資産の活用に止まらず、資産が適切な手続 及び承認の下に、取得・運用・売却されるよう、あるいは、不適切な取扱いが行われた
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場合には、速やかに発見して対応が図られるよう、全ての行為について適切なプロセス 管理等が行われることが重要である」としている28。
資金管理における資金調達や資金運用は、まさにここで示されたような「資産の保全」
に関わる遊休資産の有効活用、債務の圧縮、資産運用等の適切なプロセス管理を通じて
「業務の有効性および効率性」を実現すべき事業である。また、資金管理は資金を取扱 うため、不正のリスクが高く、業務プロセスの適切な統制による管理が必要である。し たがって、資金管理における、総務省内部統制研究会報告書の枠組みを適用した内部統 制構築の有効性に関する検討が必要である。
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(注)
1 学校給食法第11条の経費負担に関する規定により、多くの地方自治体では給食食材費は私費として、
PTA等による学校給食会計で管理している。学校給食法第11条では、学校給食の実施に必要な施設お よび設備に要する経費ならびに学校給食の運営に要する経費のうち政令で定めるものは、義務教育諸 学校の設置者の負担し、それ以外の学校給食に要する経費は、学校給食を受ける児童または生徒の保 護者の負担とするとしている。
2 地方財務研究会『六訂 地方財政小事典』ぎょうせい、2011年、482頁。
3 成田頼明『注釈地方自治法<全訂>』第一法規、2000年、4,780頁。
4 松本英昭『新版逐条地方自治法第9次改訂版』学陽書房、2017年、598頁。
5 平成24年度大分県都市会計職員事務研修会(2013年2月8日開催)の研究課題「現金取扱い事故 防止」の課題作成に際して、筆者は各市に対して、会計課等が「出納員その他会計職員」が設置され た長の内部組織を訪問して、現金取扱い事務を監督・指導しているかに関して電話で問い合わせたが、
実施団体はなかった。
6 都市監査基準(平成28年8月25日改訂)第7条。ここでは、「監査委員は、監査等の対象に係る リスクを考慮して、効果的かつ効率的に監査等を実施しなければならない。なお、その場合のリスク の重要度については、必要に応じて内部統制の整備及び運用状況の有効性を評価した上で総合的に判 断しなければならない」と定められている。
7 地方交付税制度研究会『平成29年度地方交付税のあらまし』地方財務協会、2017年、10頁。 ここ では、平成17年2月15日衆院本会議における小泉総理大臣の地方交付税改革における交付税の性格 に関する答弁が紹介されている。小泉総理大臣は、「地方交付税は、国税の一定割合が地方団体に法律 上当然帰属するという意味において、地方の固有財源であると考える」と答弁している。
8 『同上書』、76頁。
9 『同上書』。
10 鹿児島県「公債管理ダイジェスト2017」、
https://www.pref.kagoshima.jp/ab05/kensei/zaisei/kensai/documents/14550_20170206155420-1.pdf 、
(2017年4月8日閲覧)。
11 地方交付税制度研究会『前掲書』、82頁。
12 地方交付税法第6条(交付税の総額)。ここでは、所得税及び法人税の収入額のそれぞれ100分の
33.1、酒税の収入額の100分の50、消費税の収入額の100分の22.3ならびに地方法人税の収入額をも
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13 地方交付税制度研究会『前掲書』、97頁。
14 総務省自治財政局財務調査課「平成27年度地方財政状況調査表作成要領(都道府県分)」、39頁、
46頁。ここでは、満期一括償還地方債の償還財源に充てるため、減債基金に積み立てた額は「公債費」
として計上し、基金残高に計上しないこと、および、「平成27年度元利償還額」には、満期一括償還 に備えた減債基金の積立額も算入すること、すなわち、満期一括償還地方債と減債基金積立金を純計 するとされている。
総務省自治財政局財務調査課「平成27年度地方財政状況調査表作成要領(市町村分 一部事務組合 分)」、40頁、46頁。ここでは、満期一括償還地方債の償還財源に充てるため、減債基金に積み立て た額は「公債費」として計上し、基金残高に計上しないこと、および、「平成27年度元利償還額」に は、満期一括償還に備えた減債基金の積立額も算入すること、すなわち、満期一括償還地方債と減債 基金積立金を純計するとされている。
15 総務省通知「今後の地方公会計の整備促進について」(平成26年5月23日付総務大臣通知総財務 第102号)。
16 総務省通知「統一的な基準による地方公会計の整備促進について」(平成27年1月23日付総務大 臣通知総財務第14号)。
17 企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準[平成11年1月22日企業会計審議会]」(最終改正 成20年3月10日)、68項。ここでは、債権の取得において債権金額と取得価額が異なる場合があ り、この差異が金利の調整であると認められる場合には、金利相当額を各期の財務諸表に反映させ ることが必要であるとされている。
18 地方債協会「公募団体別年間発行計画」、http://www.chihousai.or.jp/、(2017年4月10日閲覧)。 19 「特別区銀行等引受債の事務取扱について」(平成28年3月1日企画・財政担当部長会決定)。 20 「地方債の総合的な管理について(通知)」(総財地第115号平成21年4月14日、各都道府県総務
部長、各指定都市財政局長宛、総務省自治財政局地方債課長)」 2 地方債の償還について(1)減債基金の積立及び活用
②満期一括償還地方債に係る積立ルールの標準化。ここでは、満期一括償還地方債の元金償還に充 てるための減債基金への積立については、実質公債費率の算定上、毎年度の積立額を発行額の 30分
の1(3.3%)として設定していることを踏まえ、適切に対応されたいこととされている。
21 地方交付税法第15条第1項では、特別交付税は、基準財政需要額の算定方法によっては捕捉されなか つた特別の財政需要があること、基準財政収入額のうちに著しく過大に算定された財政収入があること、