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第 3 章 わが国地方自治体資金管理における全社的リスクマネジメントの意義

3 資金管理における全社的リスクマネジメントの有用性

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実務に影響を及ぼして、預金以外の保管が行われることがない。基金運用においては、

第1章Ⅱ4が示すように、確実性と効率性という目的のバランスが統制できていない。

長期資金調達においては、第1章Ⅱ5が示すように、「世代間の公平」のための起債施設 耐用年数と償還期限の一致や効率性等の相矛盾する目的が混在している。

資金管理において、組織の使命に連動した戦略目的を設定することにより、さまざま な目的を明確に整序することができる。その結果、使命と戦略目的を起点として、資金 管理を取り巻く内外のさまざまな事象からリスクと機会を識別した、リスク・マネジメ ントが可能になると考えられる。

(3)事象の識別の有用性

ERMと内部統制のフレームワークの双方とも、目的達成を阻害する要因としてリスク をとらえ、事業体レベルのリスクは外部要因および内部要因から生じ、活動レベルにお いてもリスクは識別されなければならないと認識し、さらに、リスクの識別は包括的で なければならないとしている。

ERMフレームワークでは、内部統制における事象の識別の概念が拡大されて、事業機 会の識別および事象の相互依存による相関関係の評価が追加された。リスクとはある事 象が発生してそれが目的達成に悪影響を与える可能性として定義され、事業機会とはあ る事象が発生してそれが目的達成や価値の創造プラスの影響を与える可能性として定義 されている60。事業機会とは、ある事象が発生してそれが目的の達成や価値の創造にプ ラスの影響を与える可能性であることから、事業機会を表す事象は、戦略や目的設定プ ロセスにフィードバックされる 61。そうすることによって、事業機会を捉えるための行 動を明確に決めることが可能になる62。また、事象の多くは単独では発生せず、ひとつ の事象が他の事象を引き起こすこともあれば、複数の事象が同時に発生することもある

63。事象の相関関係を評価することにより、リスクマネジメントにおいて最も力を注ぐ 領域を決定することができるとされている64。事象をリスクと事業機会の両面から識別 すること、および事象の相互依存による相関関係を多面的に評価することにより、戦略 の策定等の目的設定プロセスおよびリスクの評価ならびにリスクの対応プロセスにおい て、有効なマネジメントが期待される。

資金管理は、外部環境である金融市場の動向や地方財政制度のあり方、組織のあり方、

ならびに権限と責任の付与や専門能力の育成等から、影響を受ける事業である。資金運

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用において、金利変動リスクは価格変動リスクと再投資リスクの相殺効果65による対応 が有効であるように、リスクと機会の双方を識別することが必要である。また、現金出 納管理、資金調達および資金運用は、相互に影響を及ぼす関係にあるが、長と会計管理 者の指揮命令系統の分立等により、業務プロセスを横断したリスクの識別と対応が行い 難い環境にある。

資金管理をERMの対象とすることは、内外の環境から広くリスクと事業機会を識別す ることで、内外の環境の変化に応じた迅速なリスク対応を行うこと、および、機動的な 戦略の変更を可能にする。また、業務レベルまたは取引レベルのリスクを識別すること は必要であるが、それだけでは、それぞれの業務プロセスにおける改善を超えることが できない。したがって、資金管理の成果を実現するためには、資金管理に対する全社的 リスクマネジメントの適用が有効であると考えられる。

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(注)

1 平成12・9・20大阪地裁第10民事部判決、平成7年(ワ)第1194号株主代表訴訟事件(甲事件)、平成 8年(ワ)第4676号株主代表訴訟(乙事件)、平成9年(ワ)第1939号株主代表訴訟(乙事件)、平成10 年(ワ)第8677号共同訴訟参加事件(乙事件)、平成10年(ワ)第9278号共同訴訟参加事件(甲事件)、

請求一部認容(控訴)。

2 会社法第326条第4項6号を受けて、会社法上施行規則第100条が制定された。ここでは、当該株式会 社および子会社等にかかる、情報保存・管理体制整備、損失の管理体制、取締役・使用人・監査役等 関係者の職務執行が法令および定款等に適合し、適正に執行されるための体制整備が規定された。

3 金融証券取引法第24条の4第1項および第193条の2第2項。

4 地方公共団体における内部統制のあり方に関する研究会『内部統制による地方公共団体の組織マネ ジメント改革~信頼される地方公共団体を目指して~』2009年、1-3頁。

5 会計検査院『会計検査院法第30条の2の規定に基づく報告書 都道府県及び政令指定都市における国 庫補助事業に係る事務費等の不適正な経理処理等の事態、発生の背景及び再発防止策について』、2010 年。

6 地方公共団体における内部統制のあり方に関する研究会『前掲書』、3頁。

7 企業会計審議会『財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の 評価及び監査に関する実施基準の設定について(意見書)』(平成19215日公表)3頁。ここで は、「COSO報告書の内容を基本的に踏襲しつつも、わが国の実情を反映し、CCOSO報告書の3 の目的と5つの構成要素にそれぞれ1つずつ加え、4つの目的と6つの基本的要素としている」とさ れている。

8 地方公共団体における内部統制のあり方に関する研究会『前掲書』、29頁。ここでは、内部統制の 目的として、「住民の税を基本として住民サービスを実施する性格を踏まえると、業務の有効性及び 効率性の追求が重要であり、その前提として、公平性・公正性が求められることから、法令等の遵守 に基づく合法性や合規性の確保がその基礎となる。また、住民サービスの財政的な裏付けとなる財務 報告の信頼性や資産の保全を適切に確保することが重要となる」とされている。

9 『同上書』、8頁。

10 『同上書』、23頁。ここでは、基本的な考え方を整理するに当たって、「米国のCOSOのフレーム ワークをベースに制度化された『基準および実施基準』の内容を基本として検討することとした」と されている。

97 11 「同上書』、29頁。

12 『同上書』 13 『同上書』

14 『同上書』、29-30頁。

15 『同上書』、30頁。

16 『同上書』 17 『同上書』 18 『同上書』 19 『同上書』、31頁。

20 『同上書』 21 『同上書』 22 『同上書』 23 『同上書』 24 『同上書』 25 『同上書』 26 『同上書』 27 『同上書』、32頁。

28 『同上書』 29 『同上書』 30 『同上書』、35頁。

31 『同上書』 32 『同上書』、36頁。

33 『同上書』、39頁。

34 『同上書』 35 『同上書』、41頁。

36 『同上書』、42頁。

37 『同上書』、43頁。

38 『同上書』 39 『同上書』、44頁。

40 『同上書』、45頁。

98 41 『同上書』

42 地方公共団体における内部統制の整備・運用に関する検討会「参考資料集」、52-58頁。

http://www.soumu.go.jp/main_content/000287829.pdf\ 、(2017年5月16日閲覧)

43 静岡市「内部統制」ホームページ。http://www.city.shizuoka.jp/000_001259.html、(2017516 日閲覧)

44 地方公共団体における内部統制の整備・運用に関する検討会『地方公共団体における内部統制制度 の導入に関する報告書』20144月、7頁。

45 地方公共団体における内部統制のあり方に関する研究会『前掲書』、1-3頁。

46 『同上書』、3頁。

47 総行第125号、総行市第45号、総行経第41号、総財公第81号、平成29年6月9日、総務大臣通知「地 方自治法等の一部を改正する法律の公布及び施行について(通知)」。

48 地方公共団体における内部統制のあり方に関する研究会『前掲書』、31頁。

49 『同上書』、25-27頁。

50 『同上書』、62-69頁。

51 『同上書』、60-62頁。

52 企業会計審議会『前掲書』、8-9頁。

53 The Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission, Internal Control

Integrated Framework-▶Executive Summary ▶Framework ▶Reporting to External Parties Addendum to Reporting to External Parties”, AICPA, September 1992, pp.43-44. 鳥羽至英訳『内部統制の統合的枠組 み(理論編)』白桃書房、1996年、71頁。

54 The Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission, Enterprise Risk Management - Integrated Framework、▶Executive Summary▶Framework, AICPA, September 2004, p.19.

八田進二監訳/中央青山監査法人訳『全社的リスクマネジメントフレームワーク篇』東洋経済新報社、

2006年、25頁。

55 Ibid., p.20.『同上書』。

56 Ibid., p.20.『同上書』、26頁。

57 Ibid.『同上書』。

58 Ibid., p.19.『同上書』、24頁。

59 Ibid., p.35.『同上書』、47頁。

60 Ibid., p.47.『同上書』、65頁。

99 61 Ibid.『同上書』。

62 Ibid.『同上書』。

63 Ibid.『同上書』。

64 Ibid.『同上書』。

65 大田智之『新・債券運用と投資戦略(改訂版)』金融財政事情研究会、2003年10月、106-107頁。

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