第 6 章 わが国地方自治体における資金調達内部統制の現状と課題
2 現金出納にかかる歳計現金等のひっ迫要因
歳計現金・歳入歳出外現金(以下「歳計現金等」という。)のひっ迫は、短期資金調達 の直接の要因であるとともに、現金保管および基金運用の効率性のリスクであることの 認識が必要である。歳計現金等がひっ迫する要因は、財政状況悪化による財政収支ひっ 迫を除けば、①構造的要因による一時的な支払資金不足、②中小企業振興制度融資に係 る預託金による資金不足、③土地先行取得システムの破たんが考察される。
(1)構造的要因による一時的な支払資金不足
歳計現金等の特筆すべき点は、図表6-6の国東市の事例が示すように、日々平均残 高は資金余剰であるが、一時的に資金不足が生じることにある。国東市の2015年度歳計 現金等平均残高(一時借入を含まない)は約20億円であるが、2016年2月22日から3 月31日までは資金不足であり、特に3月25日から3月27日までは日々約14億円の多
①内部資金(=基金繰替え運用、一般当座貸越)優先 54団体(27%)
②一時借入利子と基金繰替え運用利子の有利な方を選択 15団体(8%)
③一時借入利子と基金運用利子を比較して、借入方法選択 1団体(0.5%)
④金融市場金利を反映する調達方法の選択 1団体(0.5%)
⑤ない 129団体(64.5%)
計 200団体(100%)
①会計間の相互資金融通 7団体(4%)
②一般会計等から地方公営企業へ貸付 5団体(3%)
③地方公営企業から一般会計等へ貸付 11団体(5%)
④ない 177団体(88%)
計 200団体(100%)
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額な資金不足が生じていた。このように、地方自治体の歳計現金等は、1 年を通じて資 金が余っているが、一時的に支払資金が不足する時期がある。それは、地方自治体の事 業等は、3 月末までに完成して支払いが行われるが、国庫支出金や起債等は完成後の出 納整理期間中に遅れて収納されることが要因である。
このことは、第4章Ⅳ6(3)の次のアンケート結果が示している。2014年度歳計現金 等平均残高(団体平均)は、都道府県888億円、政令市281億円、中核市・旧特例市83 億円、特別区104億円、一般市26億円、町村7億円、団体平均149億円と巨額である。
その資金状況で歳計現金等を預金等短期・中期運用に限定する理由に関して「年度内に 歳計現金不足時期がある」と回答したのは235団体(75%)である。これは、日々平均 残高は資金余剰であるが、一時的に資金不足が生じるため、長期運用できないことを示 すものである。
図表6-6 2015年度 国東市歳計現金等平均残高の推移
注 :歳計現金等平均残高は日々の平均。
出所:国東市会計課提供資料。
(2)「中小企業制度融資」に関わる預託金による支払資金不足
中小企業制度融資に関わる金融機関への多額な預託金が歳計現金をひっ迫させる要因 となっている。この制度は、中小企業向けの制度融資における金融機関からの貸出金利 軽減及び信用補完を目的として、地方自治体の預託金の拠出と信用保証協会の債務保証
4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 年 最大値 37 25 46 29 25 40 21 36 29 23 22 1 46 最小値 14 4 13 20 14 13 10 11 15 15 ▲ 3 ▲ 14 ▲ 14 平均値 25 14 35 25 19 32 16 28 24 20 11 ▲ 6 20
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が行われてきたものである。中小企業制度融資に関わる預託は、1951年に京都府で創設 され全国に広まったものであり、ペイオフの一部解禁を契機に公金保護のため、預託金 方式から利子補給方式に切り替えた地方自治体があった 3。中小企業制度融資にかかわ る預託は4月1日に歳出予算で預託金を支出し、翌年3月31日に歳入予算で返済金を受 け入れることを毎年繰り返すため、預託額の大きな団体の歳計現金は恒常的な資金不足 になる。
図表6-7 大分県および県内市町村における中小企業制度融資に関わる預託金
(単位:百万円)
出所:預託額は筆者の電話取材(2014年8月26日)による。
標準財政規模は総務省「決算カード」から転記。
http://www.soumu.go.jp/iken/zaisei/pdf/1018-15-14_44.pdf、(2016年8月11日閲覧)。
図表6-7が示すように、大分県における300億円、大分市における30億円の制度融 資に関わる預託額は歳計現金のひっ迫要因であると想定できるが、他市町村は預託額が 少額のため影響は比較的小さい。県の制度融資とそれを補完する比較的少額の市町村の 融資制度があり、市町村により、中小企業支援策に大きな差が見られる。
このことは、第4章Ⅳ6(4)の次のアンケート結果が示している。中小企業制度融資 団体 a.2013年度
標準財政規模
b.2013年度又は 2014年度預託額
b/a 標準財政規 模対預託額割合
大分県 323,674 30,000 9.3%
大分市 68,689 3,000 4.4%
佐伯市 28,249 170 0.6%
別府市 24,766 150 0.6%
中津市 24,020 30 0.1%
日田市 22,603 578 2.6%
豊後大野市 17,125 30 0.2%
宇佐市 16,847 47 0.3%
国東市 13,130 0 0.0%
臼杵市 11,858 41 0.3%
竹田市 11,238 0 0.0%
杵築市 10,819 30 0.3%
由布市 10,509 0 0.0%
豊後高田市 9,227 53 0.6%
津久見市 5,679 12 0.2%
日出町 5,974 0 0.0%
玖珠町 5,034 0 0.0%
九重町 4,176 0 0.0%
姫島村 1,313 0 0.0%
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に関わる預託金(該当団体)平均額は、都道府県616億円、政令市192億円、中核市・
旧特例市31億円、特別区18億円、市3億円、町村0.4億円、団体平均104億円である。
大規模な団体は預託金額が巨額であるため、歳計現金をひっ迫させる要因となっている ことを示している。中小企業制度融資制度融資の預託金が巨額な団体は、歳計現金等の 資金不足に陥りやすく、それを補填するための歳計現金等の預金での保管や基金からの 繰替運用が、長期運用資金の捻出を困難にする。
(3)土地先行取得システムの破たんによる支払資金不足
歳計現金等をひっ迫させるリスクが土地先行取得システムの破たんである。土地価格 インフレに対処するため、土地を先行取得するための土地開発公社と土地開発基金がつ くられた。土地価格の急激な下落により、先行取得した土地を取得価格では売却できな くなった。そのため、土地開発公社は返済できない債務を抱えて、土地開発基金は遊休 化することになる。土地開発公社を支援するために一般会計等が貸付けた場合、その貸 付金が歳計現金等のひっ迫要因になる。
① 土地先行取得システムの意義
地域政策研究会は、「わが国の高度経済成長(1954年~1973年)は、地価の高騰を 招き、市街地価格は1955年を基準とした場合、1972年は全国では約20倍、九大都市 区域では約24倍強になった。(略)地方自治体が、地域づくり、街づくりを計画的に 進めるにあたっての最大の課題は、地価の高騰と土地利用の混乱による公共用地の取 得難であり、地価高騰は、用地費に事業費の相当部分が充当されるため、投資効率を 著しく低下させることになったのである。このような時代背景の中で、地方自治体に おける公共用地の先行取得システムとして、土地開発公社や土地開発基金の設置が進 められた4」と述べている。
土地開発公社は、地方自治法の予算制約や議会議決を不要にすることで、地価急騰 に対応できる機動的な土地取得を可能にするものである。それは、①起債の許可や議 決は不要であり、民間の金融機関から自由に資金借り入れができること、②長期にわ たる土地の先行取得ができること、③用地未確定の土地についても、将来の事業のた め確保しておくことができ、値上がり前に取得が可能であること、④交換代替用の土 地の確保もでき、事業予定地の周辺の土地も取得することができるため周辺の地域整 備、開発利益の吸収がしやすいこと、⑤土地の取得手続が機動的、弾力的にできるこ
173 とである5。
土地開発基金は1969年に創設されたものであるが、国は土地開発基金の積立財源を 地方交付税措置することで、基金造成を推進した。当初は都道府県、指定都市および 人口が10万人以上の市等のみであった6。しかし、地価急騰による用地取得難がさら に深刻な状況になったため、国は1991年に全国の地方自治体に対する基金造成財源を 地方交付税措置し、土地開発基金の造成を進めた7。土地開発基金の特質は、①一般 会計を通さず基金から直接、土地取得を行うことができる、②土地取得に対する予算 議決、予算執行に対する会計管理者審査等が不用である、③土地開発公社又は土地取 得特別会計への直接貸付が可能であるということである。これは、会計を通さずに基 金が直接取引できる定額運用基金として制度化することで、機動的な土地取得の機能 が生まれたものと考察される。
② 地価下落による土地先行取得システムの破綻
図表6-8が示すように、2000年全国市街地価格を100とした場合、1991年147.8%
をピークに下落に転じ、2014年51.9に至るまで23年間一貫して下落が続いている。
ピークの1991年147.8はその20年前の1971年35.3の約4.2倍であり、2014年51.9 はその約40年前の1973年50.1と同水準である。地価は急激な騰貴と下落をたどって きた。不動産市場が土地不足から土地余剰の需給構造に変化したことを示している。
土地開発公社や土地開発基金は早く土地を取得しなければ、取得そのものができず、
地価の上昇に予算が追いつかない時代背景で作られた土地先行取得システムである。
しかし、1992年以降は、地価下落により含み損が発生するように市場環境が反転して いる。土地開発公社や土地開発基金における公共用地先行取得という歴史的使命は終 焉を迎えたことを直視し、環境変化に応じたリスク対応が必要である。
図表6-8 全国市街地価格指数(全国市街地全用途平均)の推移
出所:総務省統計局「第64回日本統計年鑑平成27(2015)年」第17章物価・地価を参照して筆者作 成。
1971 1972 1973 1974 1975 1976 1977 1978 1979 1980 1981
35.3 40.0 50.1 61.6 58.9 59.4 60.7 62.3 65.2 70.7 76.9
1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992
82.3 86.2 89 91.5 94.1 99.2 109.1 117.4 133.9 147.8 145.2
1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003
137.2 130.9 126.1 120.5 115.6 111.5 106.1 100 93.7 87.4 81.2
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
74.4 69.1 65.7 64.4 63.9 61.4 58.5 56.1 54.2 52.7 51.9