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第 1 章 わが国地方自治体資金管理内部統制の現状と課題

1 地方自治体における資金管理マネジメントの困難

本章第Ⅲ節において、地方自治体資金管理の使命、目的、対象、ならびに活動に関し て、筆者は次のように考察した。

財政の継続性維持を使命として、現金出納、短期資金調達、現金保管および基金運用 ならびに長期資金調達において、公金および準公金を対象に、法令の遵守と不正と誤謬 の防止・発見に努めるとともに、最も確実かつ効率的な方法により管理するべきもので ある。

ここに挙げた資金管理を構成する諸活動は相互に深い関連がある。たとえば、「現金出 納」により受け入れた現金を保管するプロセスが「現金保管」であり、「現金出納」の支 払資金不足に対応するプロセスが「短期資金調達」である。「短期調達」した資金は、歳

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1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014 2016

1年 5年 10年 15年 20年

1996 … 2001 …2006 … 2011 2012 2013 2014 2015 2016 1年 0.48% 0.04% 0.54% 0.13% 0.09% 0.09% 0.09% △ 0.03% △ 0.19%

5年 2.04% 0.51% 1.28% 0.38% 0.20% 0.25% 0.25% 0.03% △ 0.29%

10年 2.96% 1.35% 1.77% 1.06% 0.79% 0.70% 0.79% 0.29% △ 0.05%

15年 3.35% 1.77% 2.02% 1.55% 1.32% 1.14% 1.32% 0.65% 0.16%

20年 3.56% 2.02% 2.18% 1.82% 1.67% 1.57% 1.76% 1.03% 0.41%

年度 国 債 の 年 限

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計現金と一体的に「保管」される。「短期資金調達」の原資を基金等内部資金に依存すれ ば、長期運用資金が失われて「現金保管」および「基金運用」に関わる利回りが低下す る結果を招く可能性がある。「現金保管」および「基金運用」は資金運用という共通性が あり、「短期資金調達」および「長期資金調達」は資金調達という共通性がある。資金運 用は貸すことであり、資金調達は借りることであることから、金融活動の両面として相 関関係にある。また、「現金出納」は現金取扱いプロセスがあることから特に不正リスク が高まるが、他の活動も資金に関わるため不正リスクに着目する必要がある。

また、現金出納は現金を取り扱うため、資金管理の目的の「法令遵守」や「不正と誤 謬の防止と発見」に影響を及ぼすリスクがある。そのため、現金出納に対する内部統制 を厚くする必要がある。長の内部組織(福祉、税務、産業振興、教育部門等、出先機関 および施設等)に設置された出納員等は会計管理者から離れているため、現金取扱いに 関わる不正リスクが高まる。したがって、長の内部組織の出納員等においても、会計課 等と同じ現金取扱い基準を維持するために、内部統制を厚くする必要がある。さらに、

地方自治体には、準公金として分類される資金がある。これは、地方自治体が管理する 学校給食会計等の地方自治体以外の法人等に属する資金であるが、会計管理者等の公会 計の内部統制が及ばないため、現金出納において最もリスクが高いと考えられる。長は 準公金を管理する長の内部組織に対して、長の「会計を監督する」権限を内部機関のラ インを駆使して重点的に発揮すべきである。

しかしながら、長と会計管理者に指揮命令系統が分立しているため、会計管理者の長 の内部組織の出納員等に対する指揮監督権が十分認識されず、発揮されない恐れがある。

準公金に関しては、公金ではないため、責任外の資金としてとしてモニタリングが行わ れず、主管課が独任的に取り扱っている。現金出納・保管は、地方自治体組織が行うは 点では共通であるが、出先機関や準公金等に見られるように取り巻く環境の違いにより リスクの重要度の違いが生じることを認識して、モニタリングが行われる必要がある。

以上のように、わが国地方自治体において、資金管理を1つの事業として、その使命 と目的を明確にして、資金管理の諸活動の相関関係のみならず、組織と指揮命令系統、

地方財政制度、会計基準、金融環境等の内外の環境との相関関係からリスクと機会を評 価してマネジメントする事例は少ないものと考察される。そして、Ⅶで示したように、

金融環境は貸手優位のオーバーローンの時代から借手のない金余りの状況に重大な変化 を遂げているが、地方自治体では資金需給が逼迫していた時代での安定的資金調達の戦

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略である満期一括償還債発行にとらわれ、資金調達戦略の見直しを行う地方自治体は少 ない。このことは、環境の変化に応じた資金管理のマネジメントがなされていないこと を示している。

資金管理におけるマネジメントを困難とする次の要因がある。

① 資金管理における統括者の欠如

一般会計等の資金に関しては、長が会計事務の命令(予算執行)機関として、会計 管理者が会計事務の執行(出納・保管)機関として、それぞれの補助組織を有して、

会計事務の内部けん制を機能させている。2 つの指揮命令系統が分立しているため、

資金管理の全体的な統括者がいないため、次のような課題が生じている。Ⅳで示した ように、長の内部組織に設置された出納員等に対する会計管理者の指揮監督不備、現 金出納・保管における資金管理の統合管理不備、短期資金調達における非効率、基金 運用おける基金所管課と会計管理者の運用権限の混乱である。そして、最大の課題は、

資金管理の全体に関して責任と権限を付与される統括者が欠如していることである。

それは、組織において、資金管理諸活動を共通の目的により一元的に統括する認識が 失われ、全体最適より部分最適が追求される可能性が生じる恐れがある。

② 地方債を債務でないとする認識

わが国の財政支援の方法として、地方自治体に起債をさせて、その元利償還金の一 部を地方交付税で措置するという迂遠な方法を駆使して財政支援がなされている。し かし、地方自治体の固有財源である地方交付税を通じた財政支援は、元利償還金に対 する地方交付税措置が増えれば、一般的な行政経費に対する地方交付税が減る可能性、

すなわち、地方交付税の空洞化をもたらす可能性があり、将来の一般的な行政経費に 対する財源を用いて、元利償還金に対する財政支援を行うことになりかねない。また、

元利償還金に対する地方交付税措置のある起債が地方債の過半を大きく超える状況 にある。したがって、地方自治体において、100%地方交付税措置のある臨時財政対策 債は債務でなく、他の起債においても地方交付税措置に対応する地方債は債務ではな いという認識を持つ状況に陥っている。ここでは、財政の継続性維持のために、地方 債を最も確実かつ効率的な方法によりマネジメントすべきであるという意識が、組織 から失われる可能性が生じている。

③ 地方自治体における省庁による縦割りの組織風土

わが国地方行政は、国、都道府県および基礎自治体の行政分野が重なるとともに、

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国が財源を持って、省庁が司令塔になり基礎自治体が実行部隊になる集権融合体制の 歴史を経てきた。省庁(国)、省庁と関連する県および基礎自治体の部門を1本の縦串 が貫き、基礎自治体は国、県の意向を伺い、県は国の意向を伺いながら、行政サービ スを行ってきた。また、特別交付税は、普通交付税の算定で補足されない特別の財政 需要等があった場合に、地方自治体に交付されるべきであるが 21、地方自治体に対し てその算定明細が示されないため、国家による強力な統制手段になっている。また、

R.K.マートンの「官僚制の逆機能としての手段の自己目的化 22」は、わが国地方自治

体にも当てはまるものであるが、使命や目的よりも手段を目的化する認識は、ガバナ ンスやマネジメントとは相容れないものである。

一方で、地方分権に向けた取組みは進んできた。地方自治法旧第158条(標準局部 例制)は都道府県の組織機構を国の省庁の縦割りに対応するように規制してきたが、

1991年に廃止された23。また、1999年の地方分権一括法成立により、地方自治法旧第 143 条等の機関委任事務に関する規定および地方自治法旧第 151 条等の国県の基礎自 治体に対する包括的指揮監督権を定めた規定が廃止された。新たに、地方自治法 245

条の 2(関与の法定主義)の制定により、国県の基礎自治体に対する関与は法令の根

拠がなければできなくなった24。また、小泉内閣の三位一体の改革により、2006年に 4兆円の国庫補助金・負担金の廃止・圧縮と所得税から住民税への3兆円税源移譲が 行われ、2012年に地方消費税率の引き上げが実現した25

しかしながら、地方自治体に歴史的に醸成された縦割り型の組織風土を変えるのは 時間を要する。Ⅳ3で示したように、自治事務次官通知[昭和33.6.14、自乙財発第4 号、各都道府県知事宛]では、「安全確実を絶対条件とし、かつ、当該地方公共団体の 支払いに即応できるような形において行われるべきものであるから、出納長等が行う 公金の保管の形式のうち最も適当と認められるのは預金の方法による」とする見解が 示され、地方自治体では預金による保管が一般的である。ところが、この見解は国債 市場がない時代のものであり、今日の預金運用利回りは不利な水準にあるため、地方 自治法第235条の4第1項「歳入歳出に属する現金は、政令によるところにより確実 かつ有利な方法により保管しなければならない」で規定される「有利な方法」に違背 するものである。この事例は、地方自治体においては省庁見解が法令のように遵守す べきものとなっていることを示している。地方自治体では、使命や目的を明確にして、

個々の業務プロセスを超えた全社レベルの観点を持ち、部門を超えた戦略策定や実行