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第 5 章 わが国地方自治体における資金管理(調達・運用)規程の分析

3 目的設定

資金の安全性、流動性および利回りを目的としている団体は 177団体(88%)で圧倒 的に多い。ただし、Ⅱ1(2)で示した、安全性および流動性を利回りに優先する方針で ある 151 団体(76%)のように、利回りを劣後目的としている自治体がある。債務残高 の抑制という観点を含んでいるのは、資金の安全性、流動性、利回、債務早期償還を目 的とする1団体と起債(臨時財政対策債を除く)抑制方針を目的とする2団体のみであ る。また、資金保護のみを規定する団体は9団体ある。なお、資金管理に関係する法令 遵守は地方自治法、地方財政法等を遵守する規定を53団体(26%)が保有している。

153 4 統制活動―方針を通じた展開

(1)資金管理規程のあり方

一般会計等と地方公営企業を共通の方針で統制する資金管理規程を制定することは、

ペイオフ対策、専門性および効率性の面で有効である。しかしながら、会計管理者保管 資金のみに適用する資金管理規程が138団体(69%)に対して、会計管理者管理資金と 地方公営企業資金の双方に適用する資金管理規程は62団体(31%)と少ない。

また、現金出納管理における資金繰りと資金運用の関係性および資金調達と資金運用 の相関関係を踏まえて、資金調達と資金運用を一体的な観点で統制することにより、効 果的な戦略策定と内部統制が可能になる。しかしながら、資金調達と資金運用の統一規 程は8団体(4%)制定するのみで極めて少なく、資金調達と資金運用の総合管理の認識 の欠如が伺われる。

資金管理は現金出納、現金保管、基金運用、短期資金調達、および長期資金調達の 5 つの活動で構成される複合体であり、さまざまな資金管理活動を包括的に1つの規程で 制定することは、全社的な視点で事象を識別し、部門を超えた総合的な戦略とリスクの 統制を行うのに有効である。しかしながら、資金調達、資金運用および現金不正防止を 1つの規程において定めた管理規程は皆無である。

資金管理規程を文書化することは、属人的な管理から脱却し、目的達成のための組織 的な統制を行うための必要条件である。しかしながら、資金運用に関係する規程を有す る178団体(89%)に対して、長期資金調達に関係する規程の制定は22団体(11%)と 極めて少ない。

資金管理に関わる規定が複数の規程に分けて制定されると、規程が錯綜するため、資 金運用方針の全体像が担当部門以外には周知されないという情報と伝達に関わるリスク が生じる。しかしながら、資金運用規程を基本規程、運用基準、債券運用規程、資金管 理連絡会議設置要綱等に分けている団体があり、92団体(41%)が複数の資金運用規程 を有している。

(2)統制活動―短期資金調達のリスク統制手続/資金運用との関係性

① 短期資金調達先の内部資金と外部資金の選択

資金繰りを内部資金とするか、外部資金とするかは、資金運用の利回りに影響を及 ぼす重要な事象であるため、方針を明らかにし統制すべきである。歳計現金等におけ

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る資金繰りを基金等内部資金で行うことは、基金等から長期運用できる資金を失わせ る資金運用のリスクである。資金繰りは内部資金利用が外部資金利用の2.6倍である というアンケート集計結果が出ている。

短期資金調達に関わる規定における内部資金と外部資金の選択については、資金繰 りの規定がない129団体(65%)が最も多い。次に、内部資金(=基金繰替運用、一 般当座貸越)優先54団体(27%)、一時借入利子と基金繰替運用利子の有利な方を選 択が15団体(8%)、一時借入利子と基金運用利子を比較して借入方法を選択する1団 体、金融市場金利を反映する調達方法が1団体である。グループファイナンスの手続 きを定めている団体は23団体(12%)と少ない。これは、一般会計と地方公営企業等 の間における短期資金の融通であり、低利調達のメリットはあると考えるが、一方で、

貸す側は長期運用資金が減るというリスクがあることに注意が必要である。資金調達 と資金運用を1つの事業としてとらえ、外部から短期資金を借りて低利で短期資金を 調達し、長期運用で利子を多く稼ぎ、収益が費用を上回れば良いという総合管理の視 点が必要である。

(3) 統制活動―長期資金調達のリスク統制手続

資金調達と資金運用の統一規程は8団体から提供があり、長期資金調達管理規程の提 供は14団体から提供を受けている。200団体のうち178団体は長期資金調達管理規程を 制定していない。

① 平均償還年限短期化と債務早期償還の規定および利子シミュレーションの手続 償還年限が同じであっても、据置期間短縮や元利均等を元金均等に変えるだけで、

平均償還年限が短縮できる。その結果、基準金利が下がり、債務が早期償還され、利 息負担が軽減される。据置期間を撤廃するだけで、債務は早期に償還されるので、金 利見直し方式の場合、金利が上昇しても金利変動にさらされる債務が少なくなるため、

相当の金利上昇が生じても固定金利方式より有利になることがある。長期資金調達に おいて、平均償還年限短期化措置および債務早期償還の規定があるのはそれぞれ2団 体のみである。

財政課がさまざまな借入条件を起債ソフトに入れて利息比較すれば、どの条件のと きにどの借入法式が有利かについて試算できる。利子シミューションは金融環境の変 化に対応して借入方式を更新するための重要な手続であるが、この統制手続が定めら

155 れているのは1団体のみである。

② 安定的な資金調達、起債発行時期の平準化・調達年限の多様化および起債残高抑 制の手続

安定的な資金調達を行うために、都道府県および政令市は市場公募満期一括償還地 方債の発行をしてきた。この調達方式は平均償還年限が長期化し、債務償還遅延と利 子負担増加を招くが、投資する側から見れば、利回りが高く売却益が得られるメリッ トがあるため需要があり、安定的な資金調達ができるとされてきた。しかし、第1章

Ⅶで述べたように、金融環境がオーバーローンから金余りに変化している状況を踏ま えて、定時償還方式の検討が必要である。起債残高抑制は、市場公募債発行団体のみ ならず、他の地方自治体においても、財政の継続性維持のために適正な水準に統制す ることは必要である。このことは、地方公共団体財政健全化法(平成19年6月22日 法律第94号)の健全化判断比率4指標のうち、実質公債費比率は標準財政規模と地 方債元利償還金が中核的な算定要素であり、将来負担比率は標準財政規模と地方債残 高等将来負担が主要な算定要素であることからも伺える。起債発行時期の平準化また は調達年限の多様化は金利変動リスク対応のため必要である。

安定的な資金調達および起債発行時期の平準化または調達年限の多様化の規定があ るのはいずれも3団体である。起債残高抑制の規定があるのは1団体のみであるが、

臨時財政対策債は抑制対象から除かれている。そして、これらの規定を有するのは市 場公募債発行団体のみである。

(4)資金運用のリスク統制手続

① 年次資金運用計画作成、取引先の財務健全性検証およびペイオフ対処の手続 年次資金運用計画は、金融市場の変化に応じた対応を可能にする、年次または随時 の資金運用計画を定める有効な手続であるが、規程があるのは42団体(21%)である。

なお、複数の団体の資金運用計画は、中期財政計画を基に作成されている。中期財政 計画における会計収支過不足は基金残高増減により調整される枠組みになっているが、

基金運用計画を中期財政計画の「基金残高見通し」に全面的に依拠することにはリス クがある。中期財政計画の実績評価を行って、計画の確実性を検証することが必要で ある。

信用リスクに対処するために必須の手続である「取引先(金融機関または証券会社)

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の財務健全性検証」は166団体(83%)が定め、ペイオフ対処手続は138団体(69%)

が定めている。

② 運用商品の制限、格付会社格付による投資制限、すべての基金一括運用

リスク統制手続として、リスク選好の考え方により、事業体が価値を追求するため に意図的に受け入れるリスクの量を定めて、運用商品の範囲を明確にすることは必要 な手続である。運用商品(※預金、貸付信託(元本保証)等を除く)制限は、国内公 共債に限定が155団体(78%)、制限の規定がない29団体である。預金以外運用商品 の格付会社格付による投資制限」20団体(10%)が定めている。

基金、特別会計および地方公営企業の目的による予期せぬ流動性リスクおよび基 金・会計による資金使途制約による流動性リスクは大きく、その統制手続として、一 括運用は流動性リスク共有によるリスク軽減として有効な手続きである。すべての基 金一括運用」は20団体(10%)が定め、地方公営企業および外郭団体の資金を含めた 一括運用は国東市のみが定めている。

③ 債券運用のリスク統制手続

企業会計では売却損益を通算することができるが、地方自治体ではそのような損益 通算という思考が浸透していないと考える。地方自治体において、債券満期保有原則 の運用が多いのは、個々の債券の損失は財産の棄損であるから回避しなければならな いという考えである。効率的な資金運用を実現するためには、資金運用における個々 の債券の損失は費用として運用収益と通算する企業会計的な思考が必要である。また、

保有債券の含み損失を早めに処理して損失の拡大を回避する場合等に、債券売却損失 処理が想定できる。債券売却損失処理は8団体(4%)が定めているが、非常に少ない。

市場金利の動向が不確実なため、購入時期の間隔をあけ、分けて購入することが、

金利変動リスクの統制手続になる。債券購入時期の分散は26団体(13%)が定めてい る。

国債等債券の既発債の購入においては引き合いを行う時間的な余裕がない等、取引 の種類ごとに引き合いと相対のいずれが有利か考えるべきである。債券取引の引き合 い規定は44団体(22%)が定めている。