第 6 章 わが国地方自治体における資金調達内部統制の現状と課題
3 地方債の効率性を阻む要因
181 出所:国東市提供資料を参照して筆者作成。
大蔵は地方公営企業の資金調達のあり方について、「民間は長くても10年で、多くは 数年以内の借入である。一方、自治体は10年が基本で、長ければ20年、30年もある。
(略)期間が長いこと、金融市場環境変化がダブルで効いて、平均金利が 3%前後、す なわち水道料金の15%位が利払いという信じられない事態が生じている10」と言及して いる。
他の地方自治体においても、国東市の過去の地方公営企業と同様に利子負担削減の視 点が欠落した資金調達が行われている可能性がある。地方自治体において、起債におけ る利回り削減と債務早期償還という財政の継続性維持に関わる重要な認識が欠落してい るとすれば、憂慮すべき状況である。
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「世代間の公平」の観点からは、施設利用者の受益と公債費負担を一致させるために、
償還期限と建設した施設の耐用年数の一致を勧めるものである。しかしながら、利回り は一般に償還期間に正比例して高くなるため、償還期間長期化は調達利回り上昇と元本 償還の遅延を招くことになる。「世代間の公平」実現のための償還期限と耐用年数の一致 は、利子負担軽減と債務早期償還に対して逆機能となるものである。これに関連して、
第4章Ⅳ4では、資金管理アンケート結果から、借入において重視している視点に関し て、「世代間の公平」回答が219団体(68%)あることを示している。地方自治体におい て、起債における世代間の公平が一般的に受け入れられていることは、憂慮すべき状況 である。
(2)償還期限および据置期間の誤解
Ⅳ2(2)で示したように、資金調達において利子負担軽減と債務早期償還を達成する ために、償還期限と据置期間を短くするという戦略が有効であると考えられる。筆者は 2013年12月5日から45地方自治体の資金管理の視察を受入れ、電話やメール等での質 問に毎週のように対応してきた。その際に、財政担当者に対して起債の償還期限と据置 期間の考え方に関する質問を行ったが、多くは借入先の基準に合わせるという回答であ った。
その要因の1つが、公的資金における償還期限と据置期間に対する誤解である。図表 6-17 は財政融資資金における起債対象事業別の償還期限および据置期間の基準を示し ている。たとえば、公共事業(農業農村整備・道路事業)に関して,償還期限15年、同 左のうち据置期間3年とされている。これを既定のものとして、償還期限15年、据置期 間3年で借入するのである。しかし、この基準の留意事項では、償還期限を5年まで短 くすることは地方自治体の裁量に任され11 、据置期間はゼロでも認められるていること が、地方自治体関係者に広く理解されていない。
また、図表6-18は、地方共団体金融機構資金の償還期限および据置期間に関する基 準を示している。ここでは、償還期限および据置期間の基準は上限であり、その基準内 の期間設定は、地方自治体の裁量であることが明らかにされている。これらのことは、
地方自治体の起債担当部門に周知されているかについて筆者は存知しないが、償還期限 および据置期間の短期化が資金調達効率化の戦略として認識されていないこと、および、
利子負担や債務早期償還に関する組織としての関心が薄いことを示している。
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図表6-17 財政融資資金 償還期限および据置期間
出所:地方債制度研究会編『平成28年度地方債の手引き』地方財務協会、2016年、673-674頁 を参照して筆者作成。
図表6-18 地方公共団体金融機構 償還期限および据置期間
出所:地方債制度研究会編『平成28年度地方債の手引き』地方財務協会、2016年、675頁を参照して 筆者作成。
筆者は視察に来た地方自治体の財政部門職員に対し、起債の据置期間を借入先の上限 とする現状を改めて、据置期間を撤廃して利子負担軽減を図るべきではないかと質問し たときに、据置期間の撤廃は、数年間公債費負担が前倒しになり、財政収支の平準化が できなくなるからできないと答えられたことがある12。これに関連して、第4章Ⅳ4で は、資金管理アンケート結果から、借入において重視している視点に関して、「公債費の 平準化」回答が216団体(67%)であることを示している。地方自治体の財政関係者は、
事業及び施設 償還期限 同左のうち 据置期間 1 公共事業(農業農村整備・道路事業) 15年 3年
2 公営住宅建設 25年 3年
3 災害復旧事業(小災害過年分除く) 10年 2年
4 義務教育・高等学校施設 25年 3年
5 過疎対策事業(利率見直し方式) 12年(30年) 3年(5年)
6 水道業 40年 5年
7 港湾整備事業(埠頭用地) 40年 5年
8 病院事業(機械器具) 10年 1年
9 病院事業(病院等) 30年 5年
10 下水道事業 40年 5年
11 臨時財政対策債利率 見直し/県・指定都市 30年 3年
事業及び施設 償還期限 同左のうち
据置期間
1 公共事業(道路) 20年以内 5年(以内)
2 公営住宅建設 25年以内 3年(以内)
3 災害復旧事業(火災害・小災害除く) 10年以内 2年(以内)
4 義務教育・高等学校施設 25年以内 3年(以内)
5 合併特例事業 30年以内 5年(以内)
6 社会福祉施設整備事業 20年以内 3年(以内)
7 水道事業固定金利(利率見直し) 30年(40年)以内 5年(以内)
8 病院事業 30年以内 5年(以内)
9 下水道事業固定金利(利率見直し) 30年(40年)以内 5年(以内)
10 臨時財政対策債(利率見直し・市町村) 20年以内 3年(以内)
11 臨時財政対策債 (利率見直し/県・指定都市) 30年以内 3年(以内)
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毎年の財政収支の平準化が望ましいという視点を持っている可能性がある。
また、繰り上げ償還は当該年度の公債費が増え、償還期限短期化および据置期間撤廃 を行えば、数年間公債費負担が増えるが、中長期的に見れば、債務残高が早期に減額さ れ、利子負担および公債費負担が削減されて、「財政の継続性を維持」に貢献する戦略に なる。財政運営は「財政の継続性を維持」するために「確実かつ効率的な方法」による 長期的戦略を実行すべきであり、財政収支の平準化のような短期的な視点による戦略は、
財政運営を危うくすると認識すべきである。
(3)起債にかかる据置期間撤廃リスクとしての予算厳密性の原則
国東市において、2013年に起債の据置期間撤廃の議論を行ったときに、財政課から据 置期間をなくすことに対しては強い抵抗があった。財政課の反対の理由は、据置期間を 撤廃すれば、償還元金の補正予算が発生する可能性があるからということであった。国 東市の場合、当初予算は2月初旬に編成を終えて、3月定例議会に提案するが、事業完 成を受けて出納整理機関の5月に起債する。そのため、当初予算に計上する当該起債償 還額の根拠が不正確であり、据置期間撤廃により次年度から元金償還を始めれば、補正 予算が必要になる可能性が高くなる。なお、会計課職員が据置期間撤廃による利子負担 削減効果を示すシミュレーションを作成し、財政課、上下水道課および市民病院等と協 議を続けた結果、起債の据置期間撤廃ルールが数ケ月かけて合意された。他の地方自治 体においても、起債の据置期間撤廃は、次年度の元金償還費の補正予算が必要になるも のと考えられる。
財政課が予算の補正を躊躇する理由は、補正予算の提出および予算不用額発生は当初 予算の見積もりが甘いとする予算厳密性の原則から来るものである。神野は厳密性の原 則について、「予算の編成にあたって、予算の収入と支出を、可能な限り正確に見積もる ことを求める原則である。この原則は見方を変えて表現すれば、予算と決算の乖離を可 能な限り小さくすることを求める原則だということができる13」と述べている。
起債の据置期間撤廃の目的は、利子負担の軽減と債務の早期償還であり、引いては、
財政の継続性の維持に貢献するものである。神野は、厳密性の原則成立の背景として、
「意図的に過小な収入を見込んだり、過大な支出を見込むことを許せば、行政府に財政 操作をする余地が生じ、議会による財政統制が有効に機能しなくなってしまう14」から であると述べている。起債の据置期間撤廃による補正予算を提出したとしても、予算編
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成における「厳密性の原則」の成立経過から照らせば、起債の据置期間撤廃による公債 費補正予算は、意図的に過小または過大な支出を見込んで財政操作や議会による財政統 制を機能させないことを意図したものでない。
予算編成の厳密性の原則をその成立背景(=成立目的)から切り離して絶対化するこ とは、まさに「手段の目的化15」である。長期資金調達を「最も確実かつ効率的な方法」
で行うことを通じて、「財政の継続性を維持する」という使命を忘れ、議会対応の円滑化 に重点を置くことはまさに「予算型組織の成果の喪失16」である。
(4)地方債を債務でないとする認識
わが国における地方財政支援の方法として、地方自治体に起債をさせて、その元利償 還金の一部を地方交付税で措置するという迂遠な方法を駆使して財政支援がなされてい る。第1 章Ⅴ1 で示したように、元利償還金に対する地方交付税措置のある起債が地方 債の過半を超える状況にある。そのため、地方自治体において、100%地方交付税措置の ある臨時財政対策債は債務でなく、他の起債においても地方交付税措置に対応する地方 債は債務ではないという認識を持つ状況に陥っている。
しかし、地方交付税法第6条第1項では、「所得税及び法人税の収入額のそれぞれ100 分の33.1、酒税の収入額の100分の50、消費税の収入額の100分の22.3並びに地方法人 税の収入額をもつて交付税とする」と定められているが、この規定は地方交付税が地方 自治体の固有財源であることを示すものである。地方債に対する地方交付税措置は、将 来の一般的な行政経費に対する地方自治体の固有財源を用いて、国が財政支援を行うこ とである。そのため、地方債元利償還金に対する地方交付税措置が増えれば、将来にわ たり一般的な行政経費に対する地方交付税が減る可能性、すなわち、地方交付税の空洞 化をもたらす可能性がある。
(5)資金調達職員に対する専門研修の欠如
第4章Ⅳ2(2)では、資金管理アンケート集計結果から、資金調達職員の専門研修が 324団体中278団体(86%)で実施されていないことを示している。なお、資金調達職 員に対する専門研修を行う46団体(14%)のうち、半日実施15団体(33%)、1日実施 15団体(33%)、2日実施10団体(22%)、3日以上実施6団体(13%)である。地方自 治体には、金融の専門研修が資金調達に必要な能力育成に必要であるという認識が欠如