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第 1 章 わが国地方自治体資金管理内部統制の現状と課題

2 新地方公会計と企業会計における有価証券会計基準の違い

(1) 債券等有価証券の区分および期末貸借対照評価額の会計基準の違い

特筆すべき点は、図表1-17が示すように統一的な基準による地方公会計(以下「新 地方公会計」という。)の有価証券の分類および期末貸借表価額の会計基準が異なってい ることである。

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図表1-17 債券等有価証券に係る会計基準の比較

出所:統一的な基準による地方公会計マニュアル、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」

および会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」を参照して筆者作成。

有価証券の区分に関しては、新地方公会計は満期保有目的有価証券と満期保有目的以 外の有価証券の2分類であり、企業会計は満期保有目的債券、その他有価証券および売 買目的有価証券の3分類である。新地方公会計「満期保有目的有価証券」と企業会計「満 期保有目的債券」に関しては、区分に違いは認められず、期末貸借評価額は両者とも償 却原価額とするため、大きな違いは認められない。新地方公会計「満期保有目的以外の 有価証券」と企業会計「その他有価証券」の大きな違いは、債券の期末貸借対照表価額 において前者は時価(洗い替え方式)であり、後者は償却原価であることであるが。こ のことから、両者が異なった債券を対象としていることが推測される。新地方公会計「満 期保有目的以外の有価証券」と企業会計「売買目的有価証券」の違いは、貸借対照表価

○新地方公会計

区分 期末貸借対照表価額

満期保有目的有価証券

①償却原価法によって算定された価額

②強制評価減(下落率30%以上かつ回復する見込みが認め  られない場合)

満期保有目的 以外の有価証券

①時価-洗い替え方式

②評価差額(純資産変動計算書)

③強制評価減(下落率が30%以上かつ回復する見込みが認め  られない場合)

○企業会計

区分 期末貸借対照表価額

満期保有目的債券

①償却原価法によって算定された価額

②強制評価減(下落率50%以上、または、下落率30%以上  かつ回復する見込みが認められない場合)

その他有価証券

①時価-洗い替え方式

②債券:償却原価法を適用し、償却原価と時価の差額を評価  差額として処理

③評価差額:原則は全部純資産直入法、継続適用を条件に  部分純資産直入法(評価益は純資産に直入、評価損は当  期損益に計上)

④強制評価減(下落率が50%以上、または、下落率30%以上  かつ回復する見込みが認められない場合)

売買目的有価証券 ①時価

②時価差額は当期の損益に計上

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額における時価(洗い替え方式)と時価方式の違いおよび評価差額における純資産変動 計算書直入と当期損益計上の違いがあるため、「満期保有目的以外の有価証券」には「売 買目的有価証券」が含まれないことが認められる。

地方公共団体が保有する国債等有価証券が、新地方公会計で「満期保有目的有価証券」

と「満期保有目的以外の有価証券」のどちらに区分されるかで、償却原価法適用の有無 が生じてくる。また、企業会計「その他有価証券」に分類されるべき債券を地方公共団 体が保有している場合、地方公会計の区分では分類できない有価証券が存在するという 問題が起こることになる。資金管理において大きな影響を及ぼす会計基準であるため、

次項において、新地方公会計の有価証券区分および期末貸借対照価額に関する考察を行 う。

(2) 新地方公会計「有価証券区分」と地方自治体の有価証券保管形態の違い 新地方公会計「満期保有目的有価証券」および企業会計「満期保有目的債券」におけ る「満期」の定義は、下記「資産評価及び固定資産台帳作成の手引き92」および「金融 商品に関する会計基準16」においてなされている。それぞれの基準における「満期まで 保有する意図をもって保有している債券」および「満期まで所有する意図をもって保有 する社債その他の債券」の定義は類似の債券を示している。

資産評価及び固定資産台帳作成の手引き92.

満期保有目的債券は満期まで保有する意 図をもって保有している債券をいいます。

金融商品に関する会計基準16.

満期まで所有する意図をもって保有する 社債その他の債券(以下「満期保有目的の債 券」という。)は、(略)

そして、下記「金融商品に関する実務指針69」では、満期保有目的債に関して「企業 が償還期限まで保有するという積極的な意思とその能力に基づいて所有することをいう」

としている。そのため、当該実務指針では、「保有期間をあらかじめ決めていない場合、

または市場金利や為替相場の変動等の将来の不確定要因の発生いかんによっては売却が 予想される場合には、満期まで保有するとは認められない」としているが、「満期保有ま で保有するとは認められない有価証券」は、下記「金融商品に関する会計基準18」では、

「その他有価証券」に区分されている。

30 金融商品に関する実務指針69.

「満期まで保有する意図をもって保有す る」とは企業が償還期限まで保有するとい う積極的な意思とその能力に基づいて所 有することをいう。保有期間が漠然と長期 であると想定し、保有期間をあらかじめ決 めていない場合、又は市場金利や為替相場 の変動等の将来の不確定要因の発生いか んによっては売却が予想される場合には、

満期まで保有するとは認められない。

金融商品に関する会計基準18.

売買目的有価証券、満期保有目的の債 券、子会社株式及び関連会社株式以外の有 価証券(以下「その他有価証券」という。)

(略)

わが国地方自治体における企業会計「その他有価証券」に類する国債等債券の保管形 態は、東京都や大分県国東市の資金管理方針で規定されるような、売買保有目的でもな く、満期保有目的でもないそれらの中間的な運用目的の債券である。

下記「東京都公金管理ポリシー」(制定平成27年3月26日26会管公第1117号、会計 管理局長決定)は、満期まで持ち切ることを原則としているが、含み益を実現するため 等の条件があれば売却を行ってよいとしている。また、下記「国東市財務活動管理方針」

(平成25年3月21日、国東市告示第7号)のように満期保有の定めがない団体もある。

これらのような途中売却の可能性がある国債等債券を「満期保有目的有価証券」に区分 することは実態を反映していないことになる。

東京都公金管理ポリシー 第3 1 保管及び運用の原則

保管及び運用にあたっては、当該商品を 満期又は期限まで持ち切ることを原則と する。ただし、次の(1)から(3)までの 場合に限り、運用中の預金の解約又は債券 等の売却を行うことができる。

(1)公金の安全性を確保するために必要 な場合

(2)流動性を確保するためにやむを得な い場合

(3)安全性を確保しつつ、効率性を確実 に向上させるため、当該商品の入替えを 行う場合

国東市財務活動管理方針 第Ⅱ3 保管の原則

(2)預金の解約又は債券売却、次場合に 行うものとする。

①資金の安全性を確保するために必要な 場合

②流動性を確保するために必要な場合

③収益性向上 のために、金融商品の入れ 替えを行う場合

(3)新地方公会計「満期保有目的以外の有価証券」における償却原価法非適用の課題

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前項で考察したように、地方自治体には企業会計の「その他有価証券」および「売買 目的有価証券」として区分すべき保管形態が存在する。償却原価法適用とは、債権の取 得において債権金額と取得価額が異なる場合があり、この差異が金利の調整であると認 められる場合には、金利相当額を各期の財務諸表に反映することにより17、発生主義を 実現するということである。しかし、新地方公会計では償却原価法が適用できるのは、

「満期保有目的有価証券」のみであるため、「満期保有目的以外の有価証券」に区分され れば、発生主義は実現できない。また、地方自治体がオーバーパー債券を取得すれば満 期に償還損失が発生するために、オーバーパー債券取得を回避するようになり、債券運 用の自由度を阻害することになる。

(4)新地方公会計「償却原価法」適用における会計処理の課題

わが国地方自治体において、オーバーパー債券取得回避は実務的に一般的に見受けら れる。その要因は、償却原価法を適用しないことで、債券簿価が額面金額を超過した状 態が満期まで解消されず、満期償還損失が発生することになるためであると考えられる。

官庁会計においては、複式簿記の仕訳をそのまま適用することはできないが、償却原価 法適用は可能である。また、地方自治体の有価証券の存在形態は、①公有財産としての 有価証券、②歳計現金の保管としての有価証券、③基金の運用商品としての有価証券の 3 つに区分される。それぞれの区分ごとで、償却原価法適用の手続が異なるため、それ ぞれの区分に応じた処理手続が必要である。なお、地方公会計マニュアルでは官庁会計 における償却原価法適用の手続が示されていないため、償却原価法適用の手続きを示す ことが必要である。