第 3 章 性犯罪対策の現状と課題 ― 現状で不足している性犯罪対策の探索 ―
第 1 節 警察段階・検察段階・裁判段階における性犯罪対策
1 、警察段階・検察段階における対策
治安の維持活動は警察組織の役目であり、不審者への職務質問やパトロールなど行政警察 活動及び事件が起きた際に犯人を捕まえるという司法警察活動の両面から、街の安全・安心 を守っている。これは性犯罪に関しても例外ではない。また警察が逮捕した性犯罪者を取り 調べ、証拠を集めた上で起訴し裁判にかける役割を持つ検察も、性犯罪者に対する適正な処 遇を行うための重要な役割を担っている。しかし、性犯罪者に対する再犯予防措置や治療的 処置を行うといった処遇は警察・検察段階では行われていない。それは警察・検察段階では 逮捕した被疑者が実際に犯罪を行ったかどうかがまだ確定していないため、処遇を施すよう な段階ではないとされているからである。警察段階における取り調べにおいては、捜査官が 自白をした被疑者に対し被害者の状況等を説明し反省を促すといったこと 138は考えられる が、それは制度として確率されたものではない。よって性犯罪加害者への再犯予防措置を行 うことは不可能であるが、現在行われている取り組みでも次の被害者を生まないための施策 は存在する。それが被害者が訴え出やすい環境を作ることである。そこで、本項では警察の 性犯罪に対する事前予防のための取り組み、性犯罪被害者保護のための取り組み、性犯罪者 に対する捜査段階における取組について確認を行っていきたい。
(
1
)警察の役割と性犯罪への取り組み警察の役割には大きく分けて、犯罪を事前に抑止し公共の安全を守る行政警察の役割と、
発生した犯罪の捜査や被疑者の逮捕などを行う司法警察の役割が存在する。平成
6
年(1994
年)に構造改革が行われ、犯罪の予防及び市民生活の安全の確保のために生活安全局が設置 された頃より、犯罪の事前予防が警察における最も重要な任務の一つとなった 139ことは本 研究の背景で述べたところであるが、とりわけ子どもが性犯罪被害者となるという重大な犯 罪が散見される現代では、性犯罪事件を含め犯罪の事前予防策への期待は非常に大きい。以下では、行政警察活動としての性犯罪への取り組みを検証した後、刑事警察として性犯 罪被害者が訴え出やすい環境整備について見ていきたい。
138 川出敏裕=金光旭『刑事政策 Criminal Policy[第2版]』137頁(成分堂、2018年)。
139 島田尚武「生活安全局の設置について」警察學論集第47巻第10号108-121頁(1994年、警察大 学校)。犯罪防止のための生活安全局は警察組織の筆頭局として位置づけられるなど、国民の高い期待 を受けて誕生した。
53
(
2
)行政警察活動として行われている性犯罪対策(
a
)警察による性犯罪者の再犯防止措置制度警察では、子どもを対象とした強制性交等や強制わいせつといった暴力的性犯罪を起こし、
服役後刑事施設から出所した者について法務省から情報提供を受け、所在の確認や面談を行 うなどして再犯の防止に取り組んでいる140。
この制度は、まず警察庁が法務省から子どもを対象とした暴力的性犯罪を行った者の出所 者情報を得て登録の後、帰住予定先となる都道府県の警察本部長に通知をする。通知を受け た本部長は、帰住予定先を管轄する警察署を再犯防止措置実施警察署に指定し、その警察署 で実施体制を整える制度となっている 141。再犯防止措置の内容は以下の通りとなる。まず 対象者が出所後に帰住予定先に居住しているかを確認し、確認が取れた場合にはその後も当 該住居に居住しているかを定期的に確認する。更に所在確認をする際には、本人の同意を得 た上で面談を行うといった再犯防止のための対応が実施されている。この所在確認は、前兆 事案に対する情報活用による犯罪の未然防止や、性犯罪事件が発生した際の捜査担当部門へ の情報の共有、対象者が保護観察に付されていた場合には、保護観察所との連携などにも活 用されている 142。なお、確認が取れなかった場合には再犯防止措置実施警察署長は、警察 本部長・警察庁に報告を行い継続的に調査を行うことになっている 143。但し、仮釈放者で あるならば、地方更生保護委員会によって対象者の居住地は正確に特定されているが(更生 保護法第
39
条第3
項)、性犯罪受刑者の約半数を占める満期釈放者の場合には、帰住予定 地は出所する際の自己申告に基づくものであるため、申告した居住地に帰住する義務はなく、曖昧な帰住予定地であったり虚偽の帰住予定地を申告された場合には、所在確認は事実上大 変困難なものとなる 144。この居住確認は平成
17
年(2005
年)から実施されており、同意
140 出所した性犯罪者の所在確認は2005(平成17)年の通達「子ども対象・暴力的性犯罪の出所者に よる再犯防止に向けた措置の実施について」(警察庁丙企発第48号、丙地発第10号、丙刑企発第26 号、丙捜一発第11号、平成17年5月19日、警察庁生活安全局長・警察庁刑事局長通達)により2005
(平成17)年6月1日から実施され始めた。その後、再犯防止措置の見直しが行われ、担当警察官が 再犯防止措置対象者と面談を行うこととなり、2011(平成23)年の通達「子ども対象・暴力的性犯罪 の出所者に対する再犯防止に向けた措置の実施について」(警察庁丙企発第2号、丙地発第3号、丙刑 企発第1号、丙捜一発第1号、平成23年1月13日、警察庁生活安全局・警察庁刑事局長)により平成
23(2011)年4月1日から新しい再犯防止措置制度として対象者に同意を得て面談を行っている。
141「子供対象・暴力的性犯罪の出所者による再犯防止に向けた措置の実施について」(警察庁丙生企発 第71号、丙地発第9号、丙刑企発第50号、丙捜一発第7号 平成29年7月13日 警察庁生活安全局 長・警察庁刑事局長通達)2-3頁(警察庁、2017年)
142 同上、3-4頁。
143 同上、4頁。
144 太田達也「性犯罪受刑者の釈放と再犯防止―保護観察以外の取組みを中心として」慶応法学第31号 112頁(慶應義塾大学、2015年)。
54
を得た上での面談は平成
23
年(2012
年)から行われている 145。(
b
)子ども女性安全対策班による性犯罪予防活動この他、子ども女性を対象とする性犯罪に対し予防的に対処するため、平成
21
年(2009
年)から警視庁及び道府県警察本部にJWAT
(Juvenile and Woman Aegis Team
)という 子ども女性対策班が置かれている 146。JWAT
は、強制性交等(強姦)罪や強制わいせつ罪 などの重要犯罪に発展する恐れがある「声かけ」や「付きまとい」といった前兆事案に対し て、情報の収集・分析によって行為者を特定し、検挙又は指導、警告等といった性犯罪予防 のための先制的措置を専門的行っている 147。この他、子どもや女性に防犯意識を高めても らうための広報活動や、防犯知識を身につけてもらうための防犯講習会・防犯教室を行って いる148。(
3
)司法(刑事)警察活動として行われている性犯罪対策第
2
章で見た通り、性犯罪被害者の多くは被害を捜査機関に訴え出ることなく諦めてし まっている。理由は、捜査機関において詳細に被害状況を聞かれることへの不安や、裁判で 自らの被害を詳細に多くの他人の前で語らなくてはならないことへの負担であると考えら れる。これは別の視点から見れば、性犯罪被害者が訴え出なければその被害者を襲った性犯 罪者を逃がすことになり、性犯罪者は再び別の性犯罪を起こし、他の性犯罪被害者を生む結 果に繋がる。また、刑事司法機関への訴えは負担が多いという認識が広まれば、被害者の諦 めは増えていき、潜在的性犯罪者からは性犯罪は実行しても罰せられない、という風潮が生 じるおそれがある。もっとも性犯罪被害者の気持ちを考えれば、訴え出ることが出来ないの も納得出来るものがあり、性犯罪被害者が訴え出ないことについて落ち度はない。そうであ るならば、性犯罪被害者が訴え出やすい環境を整備し、それを世間に広めることによって被
145 国家公安員会・警察庁 編「平成29年版警察白書」107頁(国家公安員会・警察庁、2017年)。「性 犯罪、出所者を登録・通知―警察庁、来月から、再犯防止、管轄本部に。」日本経済新聞2005年5月 19日大阪夕刊18頁。警察庁平成17年5月19日通達、前掲注(140)。警察庁平成23年1月13日通 達、前掲注(140)。
146 国家公安員会・警察庁「平成29年版警察白書」、107頁。
147 警視庁ホームページ「さくらポリス Safety of kids and Ladies」
(http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/smph/kurashi/anzen/anshin/sakurapolice.html, 2018年7月4 日最終閲覧)、北海道警察本部ホームページ「子供と女性を犯罪被害から守る「JWATほくと」」
(https://www.police.pref.hokkaido.lg.jp/info/seian/jwat-hokuto/04_jwat-hokuto.html, 2018年7月4 日最終閲覧)等。
148 岡山県警察本部ホームページ「子ども・女性を守るために」
(http://www.pref.okayama.jp/page/detail-73593.html, 2018年7月4日最終閲覧)、愛媛県警察本部ホ ームページ「子ども・女性安全対策室」(https://www.police.pref.ehime.jp/seiki/jwat/index.htm, 2018 年7月4日最終閲覧)、長野県警察本部ホームページ「子供・女性安全対策課」
(https://www.pref.nagano.lg.jp/police/kenkei/seian/jwat.html, 2018年7月4日最終閲覧)等。