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第 5 章 新たな性犯罪者対策の提唱(まとめにかえて)

第 1 節 警察段階での処置

検証した通り、小児性愛等は性犯罪の中でも繰り返し行われる傾向が強く、はじめは軽微 な事案でも、強制性交等(強姦)罪・強制わいせつ罪といった重大な事案となる可能性が高 い。よって、前兆事案を起こした時点で強制的措置を伴う再犯防止措置を講ずる必要性があ る。そこで、軽微な事案でも性的動機に基づく事件を起こした者に対しては、警察段階とい うかなり早い時期び、以下のような対策を行う必要性がある。

従来の刑事政策では、刑罰制度による犯罪対策が主とされていたが、犯罪の事前予防が重 要な課題となっている現代社会では、犯罪予防のための行政的措置も大きな役割とされるよ うになってきている。そのため、強制性交等罪(強姦)罪・強制わいせつ罪といった明確に 刑事司法手続きの対象となる性犯罪への対策は検察段階・裁判段階において対策を行い、軽 微な性犯罪の他、前兆事案や性に関する問題行動といった刑事司法手続きの対象とはならな いが重大な性犯罪にエスカレートする可能性の高い事案に対しては、警察段階において重大

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な性犯罪に発展させないための行政的措置を行うことが重要であると考えられる。そこで警 察段階では、前兆事案を繰り返す者に対する行政的措置としての性犯罪再犯防止講習の受講 義務付け及び、行政的措置である精神保健福祉法に基づく措置入院の性犯罪者(性嗜好障害 を持つ者)への適用範囲の拡大を提言したい。

1 、前兆事案を繰り返す者に対する性犯罪再犯防止講習

1

)前兆事案対策の必要性

前兆事案とは、法令等には明確な定義は存在していないが、「子どもや女性に対する声か け、つきまとい、公然わいせつ、盗撮、卑わい行為等の性犯罪に発展するおそれのある事案

350」で、各都道府県迷惑防止条例・軽犯罪法・刑法の公然わいせつ罪等に該当する行為であ る。前述のとおり、性嗜好障害といった精神疾患を持つ者は、同じ軽微な性犯罪を繰り返す 者だけでなく、窃視から強制性交等(強姦)罪や強制わいせつ罪といったより重大な性犯罪 にエスカレーとしていくケースも確実に存在する。また、この前兆事案は声掛け等の不審者 遭遇情報と性犯罪の発生とのつながりを実証的に検証した科学警察研究所の研究 351により、

性犯罪と空間的・時間的に近接していることも立証されている 352。よって、前兆事案に対 して実効的な措置を取ることにより、性犯罪の被害者を効果的に減少させることが出来るも のと考えられる。

この前兆事案の摘発には、京都府警が始めた、犯罪の発生した時間・場所・種類を地図上 に落とし込み、警察力を重点配置する「予測型犯罪制御システム」が有効と考えられる 353

(システムの詳細については、本章第

5

節1「犯罪地理学を使用した犯罪多発地点(ホット スポット)への警察力の重点配置」の項目を参照されたい)が、現在の警察の取り組みにお いては特別な措置の取れる法令が存在しないため、発見・行為者の確保が出来たとしても、

有効な再犯予防措置が取れないため、ここで前兆事案を検挙した際の再犯予防措置について 提言を行いたい。

2

)性犯罪再犯防止講習の義務づけ

前兆事案に対する早期対応の必要性を鑑みて、前兆事案を起こした行為者を確保した際に は、口頭で注意や指導で終わらせることなく、性犯罪再犯防止講習を義務付ける制度を提言

350 警視庁子ども・女性の安全対策に関する有識者研究会提言書、前掲注(19)、Ⅲ頁。

351 菊池城治=雨宮護=島田貴仁=齊藤知範=原田豊「声かけなどの不審者遭遇情報と性犯罪の時空間 的近接性の分析」、前掲注(109)、159頁。

352 山村俊貴=樋野公宏=上杉昌也=雨宮護「前兆事案の発生と都市空間特性の関係性に関する基礎的 検討」都市計画報告集№16 200頁(日本都市計画学会、2017年)。

353 上田幸則「京都府警察における「予測型犯罪制御システム」について」日本市民安全学会平成30

(2018)年628日京都・神戸大会報告資料。なお、筆者が京都府警察本部刑事部の担当者に伺った ところ、前兆事案も地図に落とし込んでいるとのことであった。

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する。但し、近年は一部過剰な不信感から、挨拶をされただけで通報するなどの事案も見ら れることから、

2

度目か

3

度目の前兆事案による行為者の確保の際に行うことが現実的であ る。

現在、前著事案に対する罰則を定めたものとして、奈良県の「子どもを犯罪の被害から守 る条例」が有名である。これは、保護者等が近くにいない

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歳未満の子どもに対し、公共 の場所で、ひわいな発言をすることや体をつかむ行為、つきまとう行為を行うことを禁止し た条例であり、違反すると

30

万円以下の罰金または拘留、科料が科される 354。この条例に ついては、住民に不安を与える前兆事案に対して、罰則を定めた法令を施行した点は非常に 画期的であると思われるが、実際に条例で拘留されることは少なく、罰金を科したのみでは 再犯予防効果はほぼないように思われる。更に、性嗜好障害を持つ者の場合は、どんな事情 であっても実行するため、法による一般予防効果はあまり期待出来ないように思われる。よ って、前兆事案からエスカレートした重大な性犯罪まで全て予防するためには、全て単なる 罰金等の罰則ではなく、性犯罪がエスカレートする徴候を少しでも改善するような、積極的 な再犯予防措置が必要であると考える。そこで、前兆事案起こした者には性犯罪のエスカレ ートする傾向から離脱させることを目的とした、トレーニングをさせるため、性犯罪再犯防 止講習を義務付けたい。裁判で有罪判決が下っていない者に強制的な義務付けを行うことは 容易ではない。しかし、ここでは自転車を使用中、信号無視や一時停止違反などの危険行為 を行った場合に、警察段階で「自転車運転者講習」が命じられるなどの罰則を課している「改 正道路交通法」の規定を参考に、前兆事案を繰り返した者に対する性犯罪再犯防止講習の検 討を行いたい。平成

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2015

)年に施行された改正道路交通法では、スマートフォンを使 用しながらの運転(安全運転義務違反)や酒酔い運転等の

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項目の法律に定められた行為 を、自転車乗車中に行った場合、各都道府県での「自転車運転者講習」が命じられる。講習 を義務付けられる者は、

3

年以内に

2

回以上違反を行った運転者であり、従わなかった場合 は、

5

万円以下の罰金が科せられる。自転車運転者講習の内容は、

3

時間の講習時間で、交 通ルールの理解度を測る小テスト、事故被害者の体験談や自転車に関わる交通法規について の講義、視聴覚教材による危険性の疑似体験、感想文を作成等が行われている355

そこでこの自転車運転者講習を参考に、前兆事案を繰り返した者への法令の作成を規定し たい。まず、犯罪の転移を防ぐ意味でも日本全国の統一基準とする法律による対策が望まし いため、「性犯罪再犯防止法」といった特別法を制定する。性犯罪再犯防止法において、子 どもや女性に対する声かけ、つきまとい、公然わいせつ、盗撮、卑わい行為等を前兆事案と して、法律に明確に定める。次に、該当行為を行った者は警察庁のデーターベースに登録さ れ、

1

年以内に

2

回以上摘発された者は、性犯罪再犯防止講習の受講義務が科されるという

354 奈良県警察本部ホームページ「子どもを犯罪の被害から守る条例」

(http://www.police.pref.nara.jp/0000000836.html, 2018104日最終閲覧)。

355 内閣府ホームページ「自転車運転者講習制度の施行状況について」

(http://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/h29kou_haku/zenbun/genkyo/topics/topic_09.html, 201810 4日最終閲覧)。

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制度設計としたい。危険性の判断としては、複数回前兆事案を行った時点で、再犯のおそれ ありと判断するものとする。従わなかった場合は命令違反として、科料といった罰則を受け るという形が制度の実効性を確保出来るものと考えられる。講習の内容としては、認知行動 療法に基づく認知の歪みを修正する講習で、

1

180

分の講習を

2

回受けることを義務付 けたい。講習の内容は、刑事施設や保護観察段階で行われている性犯罪者処遇プログラムの 内容に準ずるものとする。

2 、警察官通報による性嗜好障害を持つ性犯罪者の措置入院

1

)軽微な性犯罪事件を刑事手続きから外した上で精神医療に回す制度 前述の通り、強姦罪・強制わいせつ罪だけでなく性的動機に基づく犯罪は全て微罪処分の 対象となっていない。この点について、性的動機に基づく犯罪のうち、強制性交等(強姦)

罪・強制わいせつ罪等の重大な事件で、確実に刑事施設等での改善指導が行われるものにつ いては、従来通りの刑事司法手続きによる矯正処遇が妥当と思われる。しかし、そうでない 軽微な強制わいせつや前兆事案のうち窃視等の事件性の低いものについては、刑事司法手続 きから外した上で、精神保健福祉法に基づき性犯罪者の治療が可能な精神病院に措置入院さ せるべきであると考える。検証のとおり、性嗜好障害を持つ者が精神保健福祉法第

5

条の定 義する精神障害者とされていない現行制度では、性嗜好障害であるという理由で措置入院の 対象とすることは出来ない。しかし、性嗜好障害は前述のとおり国際疾病分類(

ICD

10

) の障害の一つとして含まれており(

F6

:成人のパーソナリティおよび行動の障害)、精神保 健福祉法第

5

条の「精神病質」が近年は「人格障害」として取り扱われている以上、性嗜好 障害が精神病質の中に含めることは無理のない解釈であると思われる 356。更に、性嗜好障 害を持つ者が性的問題行動を起こす際には、解離性障害(

F4

)が伴うため、精神保健福祉法 の対象とする自傷他害のおそれのある精神障害者に含めることは不可能ではないと考えら れる。

また、性嗜好障害の対象者が措置入院となった際には、入院・通院決定に加えて、性嗜好 障害治療専門のプログラムを対象者に課す決定を行うことが必要である。

2

)精神医療側の性犯罪者を受け入れるための体制構築

そこで、精神保健福祉法の措置入院の対象者として性嗜好障害を持つ者を含めるように制 度を改制したいが、従来措置入院の制度では、性嗜好障害の患者に対し十分な機能が期待で きないため、性嗜好障害を持つ者を措置入院させる場合には、以下のような制度としたい。

精神保健福祉法では、第

23

条において、警察官は、異常な挙動やその他の事情から他人 に危害を加える可能性のある者を発見した場合には、直ちに都道府県知事に通報しなければ

356 精神保健福祉研究会 監修『四訂 精神保健福祉法詳解』77頁(中央法規、2016年)。