第 8 章 分析結果まとめと今後の方向性
第 1 節 分析結果のまとめ
6. 論文数シェアと論文生産性から見た日英大学システム
○ 日本には論文数シェアとしてはあまり大きくない第 4 グループの中に、生産性の高い大学が存 在している。一方、英国にはこの部分に対応する大学はほとんど存在していない。つまり、日本 には「小規模・高生産性」という、英国にはほとんど見られない種類の大学が存在している。
○ 英国では、日本に比べて第 2 グループの層が厚く、その中でもクラスⅡ~Ⅲにあるような比較的 生産性の高い大学が多い。
○ つまり、英国ではある程度の生産性を有する大学は規模(論文数シェア)も大きく、こうした大学 が英国全体の論文生産性に貢献しているものと考えられる。
第2節 今後へ向けた方向性
(1)第 1 グループに次ぐ厚みのある第 2 グループの形成
まず、英国は国の規模は日本より小さいにも関わらず、英国の大学のシステムはトップ 10%論文 では日本を上回っているというようなパフォーマンスを有している。その英国の論文生産は、第 2 グ ループ大学の寄与が大きい。一方日本の論文生産は第 1 グループ大学が牽引しており、第 2 グル ープは英国に比べて大学数も少なく、論文等のシェアも小さい、即ち、“層が薄い”状況にある。第 2 グループの層が厚く、30 程度の大学集団として論文生産を牽引する英国に比べて、日本では大 学の規模は大きいが数は少ない第 1 グループ大学が論文生産の量と質の両面を牽引しているとい う構図である(第 1-8-1 図)。
世界における知の大競争は加速化しており、BRICs を中心に論文量は急拡大を見せている。こ のような状況において、我が国が科学研究において国際的に一定の位置を保っていくためには論 文の量的拡大も重要である。このような量的側面の拡大を数少ない第 1 グループの大学が担うこと には限界があり、我が国の第 2 グループに入る大学が増加し、さらにこれらの大学が第 1 グループと 並ぶ牽引力を発揮していくことが必要である。また、第 1 グループの重要な役割としては、英国に比 べ日本がまだ少ないインパクトの高い論文をより多く生み出していくことが挙げられる。今後、このよ うな第 2 グループの層を一層厚くしていくことが可能となるような多様な機会を各大学に提供し、伸 びる大 学 が牽 引 することにより、日 本 全 体 の研 究 力 を引 き上 げるようなシステムが必 要 である(第 1-8-2 表)。
第 1 - 8 - 1 図 各グループにおける総事業費、論文数、トップ 10%論文数の関係【左:日本、右:英国】
3,723
6,229 0
200,000 400,000 600,000 800,000 1,000,000
0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000
総事業費(千ポンド)
論文数
第1グループ 第2グループ 第3グループ
第4グループ 第1グループ総計 第2グループ総計
面積:トップ 10%論文数 3,305
2,581
0 50,000 100,000 150,000 200,000 250,000
0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000
総事業費(100万円)
論文数
第1グループ 第2グループ 第3グループ
第4グループ 第1グループ総計 第2グループ総計
面積:トップ 10%論文数
(注 1)各 塗 りつぶされた円は大 学を表 し、中 心 点 は当 該 大 学 の論 文 数 と総 事 業 費 である。面 積 は当 該 大 学 のトップ 10%論 文 数を示 す。
(注 2)点 線 の円 は、第 1、2 グループの大 学 の総 計を表 し、中 心 点 はグループを構 成 する大 学 の平 均 論 文 数 と平 均 総 事 業 費 である。面 積 はグループを構 成 する大 学 のトップ 10%論 文 数 の総 計を示す。
第 1 - 8 - 2 表 論文数シェアと研究者 1 人当たり論文数により分類された大学(再掲)
東京大学 東京工業大学 東京農工大学 豊橋技術科学大学 京都薬科大学
京都大学 名古屋工業大学 長岡技術科学大学 星薬科大学
大阪大学 総合研究大学院大学 岐阜薬科大学
東北大学 北陸先端科学技術大学院大学
奈良先端科学技術大学院大学
九州大学 東京理科大学 電気通信大学 東北薬科大学
北海道大学 静岡大学 九州工業大学 豊田工業大学
名古屋大学 京都工芸繊維大学 大阪薬科大学
東京薬科大学 神戸薬科大学
帯広畜産大学 昭和薬科大学
広島大学 新潟大学 岐阜大学 京都府立医科大学 京都府立大学
筑波大学 大阪市立大学 大阪府立大学 兵庫医科大学 明治薬科大学
岡山大学 熊本大学 富山大学 埼玉大学 富山県立大学
千葉大学 長崎大学 山口大学 岩手大学 日本獣医生命科学大学
神戸大学 東京医科歯科大学 三重大学 和歌山県立医科大学 埼玉工業大学
金沢大学 信州大学 首都大学東京 東京海洋大学 共立薬科大学
徳島大学 横浜国立大学 目白大学
群馬大学 奈良女子大学
慶應義塾大学 鹿児島大学 東海大学
日本大学 近畿大学 山形大学
早稲田大学 愛媛大学 順天堂大学
北里大学 横浜市立大学
日本
クラスⅣ
(0.1~1件/人)
論文数シェア
研 究 者 1 人 当 た り 論 文 数
103大学 第1グループ(5%~) 第2グループ(1~5%) 第3グループ(0.5~1%) 第4グループ(0.05~0.5%)
クラスⅠ
(2件~/人)
クラスⅡ
(1.5~2件/人)
クラスⅢ
(1~1.5件/人)
(2)グループ間の変動がより多く起こり得るような競争的環境の整備
上記のような厚みのある第 2 グループが我が国で形成されるためには、第 3 グループからより多く の大学が第 2 グループに入ってくることが必要となる。各グループに属する大学リストのこれまでの 経年変化を確認したところ、日本の場合、一部の私立を除くと、グループ間の大学の移動があまり 見られないが、英国では第 2 グループと第 3 グループの間の移動がより多く認められる。即ち、英国 では、研究活動を強化した大学がより上位のグループに上がっていけるような競争的環境が存在し ている。我が国でも、競争的資金の拡大を初めとして、大学間の競争を促す環境が整備されてきて いるが、更に踏み込んで、英国のように第 2 グループと第 3 グループに属する大学が、大きく上昇す ることも可能となる機会を与えるような競争的環境を検討していくべきである。
特に、英国の場合、分野毎の各大学の総研究支出額を集計すると、第 2 グループに属する大学 の中には、第 1 グループの平均規模を上回る、あるいはこれに近い規模の資金水準を持つ大学が いくつか存在している。即ち、これらの大学は大学全体としての規模は第 1 グループの大学より小さ いが、このような特定の分野においては、第 1 グループの大学と充分競える基盤を有している。
我が国の第 2、第 3 グループの大学からも、このような姿を目指すものが出てくるようにすべきであ る。即ち、大学全体としての規模のみでなく、分野ごとの研究能力を含めた多重の競争が行われ、
その結果分野毎に異なる大学が上位で競い合うような環境である。これにより、各大学がそれぞれ の強みを持つようになり、日本の大学システム全体としての機能分化が自発的に実現することにな るであろう。もう一つ重要 な点は、このような環境が形成されることは、我が国の研究の多様性を一 層高めることにも通じると考えられる点である。
今後は、研究評価に、このような変革を誘発する機能を持たせることを検討すべきである。この際、
分野別の論文量、被引用数、トップ 10%論文数等の定量的外形的情報も充分活用される必要が ある。特に、量的な面のみでなく質的な面での評価を行っていくことが、今後より望ましい大学間の 競争環境を実現していく上で重要である。
第 1 - 8 - 3 表 英国の各研究分野における総支出額の高い大学リスト (単位:千ポンド)
大学名 期間D D. 2004-2006 大学名 期間D D. 2004-2006
Imperial College of Science, Technology and Medicine 第1グループ 65613 Imperial College of Science, Technology and Medicine 第1グループ 10767 The University of Cambridge 第1グループ 31410 The University of Cambridge 第1グループ 11084 The University of Oxford 第1グループ 36028 The University of Oxford 第1グループ 12669 University College London 第1グループ 77397 University College London 第1グループ 8748 The University of Birmingham 第2グループ 30931 The University of Edinburgh 第2グループ 8234 The University of Edinburgh 第2グループ 36482 The University of Manchester 第2グループ 11372 The University of Manchester 第2グループ 45217 The University of Warwick 第2グループ 5150
大学名 期間D D. 2004-2006
Imperial College of Science, Technology and Medicine 第1グループ 13206 大学名 期間D D. 2004-2006 The University of Cambridge 第1グループ 16313 Imperial College of Science, Technology and Medicine 第1グループ 4837 The University of Oxford 第1グループ 16375 The University of Cambridge 第1グループ 2410
University College London 第1グループ 6176 The University of Oxford 第1グループ 0
The University of Edinburgh 第2グループ 12683 University College London 第1グループ 2549 The University of Glasgow 第2グループ 15804 The University of Birmingham 第2グループ 3700
The University of Leeds 第2グループ 13979 The University of Leeds 第2グループ 3485
The University of Manchester 第2グループ 22336 The University of Manchester 第2グループ 6945 The University of Nottingham 第2グループ 16432 The University of Newcastle-upon-Tyne 第2グループ 3418
大学名 期間D D. 2004-2006 大学名 期間D D. 2004-2006
Imperial College of Science, Technology and Medicine 第1グループ 6103 Imperial College of Science, Technology and Medicine 第1グループ 12768 The University of Cambridge 第1グループ 7274 The University of Cambridge 第1グループ 2047
The University of Oxford 第1グループ 10491 The University of Oxford 第1グループ 0
University College London 第1グループ 3956 University College London 第1グループ 3824
The University of Bristol 第2グループ 6066 The University of Glasgow 第2グループ 5019
The University of Edinburgh 第2グループ 5774 The University of Liverpool 第2グループ 5031 The University of Leeds 第2グループ 8066 The University of Manchester 第2グループ 7252 The University of Manchester 第2グループ 10402 The University of Sheffield 第2グループ 8131 The University of Nottingham 第2グループ 6298 The University of Southampton 第2グループ 7459
The University of York 第2グループ 6551 The University of Surrey 第2グループ 6964
Total Expenditure_12 Physics
Total Expenditure_17 Chemical engineering
Total Expenditure_20 Electrical, electronic & computer engineering Total Expenditure_01 Clinical medicine
Total Expenditure_10 Biosciences
Total Expenditure_11 Chemistry