第 6 章 結論と今後の課題と展望
6.1 論文の結論
た。これに応じて機械に起因する死亡労働災害の発生件数も減少した。
b.機械に起因する死亡労働災害の発生件数は,平成元~14年から平成26~30年の間に37。
20%まで減少した。上記a.との差である27.60%の死亡労働災害は,技術的安全方策や安 全管理対策などによって純粋に減少した分と考えられる。
c.平成26~30年に発生した災害では,技術的安全方策の困難な危険点近接作業及び広大領 域内作業の割合が平成元~14年と比較して増加していた。したがって,今後は,機械の設 計・製造段階での本質的安全設計方策や技術的安全方策の適用を進めるとともに,残留リ スクに関しては,支援的保護システムの導入が効果的と考える。
第3章
第 3 章では,ISO12100で規定されているリスク低減方策における支援的保護システムの 位置づけについて検討した。まず,国内の機械を対象としたガイドラインに規定されている リスク低減方策である3ステップメソッドと支援的保護システムとの関係について述べた。
3 ステップメソッドのステップ 2 である安全防護の代替手段として支援的保護システムを 活用する場合,ICT機器には保護装置と同等の安全度水準が求められること,現状では各ICT 機器の組合せによる安全評価制度が存在しないという問題が生じるため,ステップ 2 とし て使用することは回避すべきであることを述べた。そして,支援的保護システムは3ステッ プメソッドを適用した後に残る残留リスクを対象として人の注意力に大きく依存しないリ スク低減方策としての位置付けとした。
第4章
IMS による生産ラインで,人の注意力に依存したリスク低減を行っている現場が少なくな い現状がある。そこで第 4 章では,このような作業現場で支援的保護システムが適用可能か 検証する実験を行った。各実証実験では,作業条件の異なる現場に合わせた3種類の支援的 保護システムを構築し,支援的保護システム適用前と後との不安全行動の発生率を検証す ることにより,構築した支援的保護システムのリスク低減効果を検証した。各実証実験の概 要と結果は以下の通りである。
a. 実証実験 1 では,作業者一人が制限された作業区域で一つのタスクを行う状況を想定し た支援的保護システムを構築した。本実験下では,支援的保護システムの構成要素である ICT 機器として RF タグとカメラを組み合わせ,作業区域への入退場が正確かつ安全に管 理できるかどうかを検証した。結果,作業者の入退場数が正確に把握可能であったことが 確認された。また,支援的保護システム導入前に存在した不安全行動,すなわち資格と権 限のない作業者が対象外の作業を実施した割合 6.49%,資格と権限のない作業者が作業 を実施した割合 1.45%,作業中の第三者による誤再起動の割合6.49%が,支援的保護シス
b.実証実験2では,1 人の作業者が複数のタスクを行う場合を想定した仕様の支援的保護シ ステムを構築した。本実験においては,作業区域を分割したタスクゾーンを導入した。こ れにより,作業しているゾーン内の機械のみが停止し,それ以外のゾーンは通常稼働する。
実証実験の結果,支援的保護システムは,作業者がゾーンをまたいで作業をする際にも安 全を確保することが確認された。実証実験 1 と同様,本実験においても支援的保護システ ム導入前に見られた不安全行動の発生率をすべて0%に低減することが確認された。
c.実証実験 3 では,複数の作業者が複数のタスクを複数のタスクゾーンで行う状況に適用 可能な支援的保護システムを構築した。その際には,タスクゾーンをまたいで作業を行う 状況におおける安全方策及び作業区域における作業者の位置検知の精度が重要となるた め,本実験においては位置検知に高い精度が期待される ICT機器を採用した。結果,作業 現場の電波遮蔽物等の設備による課題は残されたものの,ある程度の精度で位置検知が可 能であることが示された。また,他の実証実験同様,支援的保護システムに付随する ICT 機器により,支援的保護システム導入以前に見られたすべての不安全行動の発生率を0%
に低減することが可能になった。以上の実証実験の結果により,支援的保護システムは 様々な作業条件における IMS 特有のリスクに対して確定性の高い低減効果が得られるこ とが示された。
d.実証実験 4 では支援的保護システム導入後のシステムの停止時間は,支援的保護システ ム導入前に対して,46%となり稼働率は約 2 倍となった。また,支援的保護システム導入 後操作を4 回繰り返すことで,初回の操作時間に対して約30%の操作時間となることがわ かった。これは支援的保護システム導入前と比較してほぼ同じことから,既存システムに 後付けする支援的保護システムの作業効率もなれてくるとほとんど影響がないことがわ かった。
第5章
第 5 章では,ISO/IEC の規格体系と JIS の関係を明確にした上で,ISO/TR22053:
Safeguarding Supportive System(支援的保護システム)をグループ安全規格(B 規格)とし て発行を目指していることを示した。また,同時に行っている ISO11161「統合生産システ ムの安全性」の改正作業についても,開発した支援的保護システムを付属書(Annex B)に追 加する形での完成を目指すとともに,日本国内では,今後 JIS や労働安全衛生規則への適用 も視野に入れた安全衛生活動について論じた。
第6章
第 6 章では,本論文の結論として各章で得られた結果をまとめた。また今後の課題とし て,以下の項目の必要性を述べた。
d.3 ステップメソッドのステップ2 における保護装置は,単体の装置として安全性評価方 法しかない。そこで,ICT機器を組み合わせた安全性評価手法を確立すること。
e. 現在のリスクの定義に,人の資格と権限に関するリスク要素を追加して,期待されるリ スク低減効果の確実性を向上させること。
f. ダイナミックリスクアセスメント手法を構築し,安全性と生産性を両立するリスク低減 方策を確立すること。
支援的保護システムは,単体の機械と IMS における非定常作業である危険点近接作業を 対象にしたリスク低減方策である。しかし,機械と人が共存・協調する現在の作業形態にお いては,機械の可動部と人の作業領域の共通化が進められており,定常作業でも支援的保護 システムは有効な安全手段となる。そのため,今後は支援的保護システムを定常作業にまで 拡大した活用方法を提案し,現場の労働災害防止に貢献していくつもりである。