第 4 章 統合生産システムにおける「支援的保護システム」を適用した実証
4.4 実証実験 3:可搬式作業台自動洗浄ラインにおける支援的保護システムの実証実
4.4.6 実証実験結果と考察
作業者の行動を解析してみると,作業者は3 日間でA1 からA3 領域で22%,B1 からB3 領 域で51%の不安全行動を行おうとしたことがわかった。
以下に①A1 からA3 領域,②B1 からB3 領域での実証実験結果を述べる。
① A1から A3 領域での不安全行動の発生確率
表4-35にA1 からA3 領域でのイベント回数と不安全行動の割合を示す。作業開始登録か ら,全員の作業終了登録までを 1 つのイベントとし,各イベントでのセンサの動作結果を集 計した。作業登録なしの場合は,実際に人が進入してから最後の人が退出するまでを 1 イベ ントとした。3 日間で 121回のイベントがあり,作業者が当該機械に対して資格・権限を持 つ作業は89 回,登録のみを行い実際の作業を行わなかった回数は5 回であった。不安全行 動である①登録無しで作業を行おうとした回数は5 回,②資格・権限無しで柵内への侵入を 試みた回数は 18回,③すでに柵内で作業を行っている時に,資格・権限がないにも関わら ず追加の作業を行おうとした回数は3 回,④柵内に作業者がいるにも関わらず,第三者によ る再起動操作があった回数は1回であった。以上 4つの不安全行動の発生割合は22%であ った。
表4-35 A1 からA3 領域でのイベント回数と不安全行動の割合
② B1から B3 領域での不安全行動の発生確率
表4-36にB1 からB3 領域でのイベント回数と不安全行動の割合を示す。作業開始登録か ら,全員の作業終了登録までを 1 つのイベントとし,各イベントでのセンサの動作結果を集 計した。作業登録なしの場合は,実際に人が進入してから最後の人が退出するまでを 1 イベ ントとした。3 日間で65 回のイベントがあり,作業者が当該機械に対して資格・権限を持 つ作業は25 回,登録のみを行い実際の作業を行わなかった回数は7 回であった。不安全行 動である①登録無しで作業を行おうとした回数は2 回,②資格・権限無しで柵内への侵入を 試みた回数は26 回,③すでに柵内で作業を行っている時に,資格・権限がないにも関わら ず追加の作業を行おうとした回数は4 回,④柵内に作業者がいるにも関わらず,第三者によ る再起動操作があった回数は1回であった。以上4つの不安全行動の発生割合は 51%であ った。
表4-36 B1 からB3 領域でのイベント回数と不安全行動の割合
本実証実験を行った自動洗浄ラインは過去に重篤な災害が発生していないことから,現 場で実施しているリスクアセスメント結果でも,作業標準を作成し,管理を徹底することで リスクを低減していると判断されていた。ところが今回の実証実験は3 日間で A1 からA3
10⽉25⽇ 10⽉26⽇ 10⽉27⽇ 合計
33 34 54 121
登録無しで侵入を試みた 4 0 1 5
資格・権限無しで侵入を試みた 5 9 4 18
追加作業権限なしで侵入を試みた 0 1 1 3
第三者による再起動操作 1 0 0 1
登録のみで実作業なし 3 0 2 5
資格・権限有りでの作業 20 24 48 89
不安全行動の割合 30% 29% 11% 22%
イベント回数
10⽉25⽇ 10⽉26⽇ 10⽉27⽇ 合計
27 23 15 65
登録無しで侵入を試みた 1 0 1 2
資格・権限無しで侵入を試みた 7 15 4 26
追加作業権限なしで侵入を試みた 2 1 1 4
第三者による再起動操作 0 0 1 1
登録のみで実作業なし 1 3 3 7
資格・権限有りでの作業 16 4 5 25
不安全行動の割合 37% 70% 70% 51%
イベント回数
実験で構築した支援的保護システムを利用することで,これらの不安全行動の発生件数を ログにより確認できることと,不安全行動の発生率を0%にできることが確認された。
4.4.7 3 つの実証実験によるリスク低減効果の総括
3つの IMS を対象とする実証実験の目的は,支援的保護システムの構築とリスク低減効果 の検証である。また,検証対象となるリスクとして以下の4つのリスクを設定した。リスク の見積もり方法は加算法とし,リスク要素区分とリスク評価区分は表4-37に示す。
表4-37 リスク要素区分とリスク区分
①重篤度の区分と評価点数
②発生の可能性の区分と評価点数
③危険性または有害性の暴露頻度の区分と評価点数
④リスクの評価表
重篤度 点数 災害の程度
致命傷 10 死亡、失明、手足の切断等の重篤災害
重傷 6 骨折等長期療養が必要な休業災害及び障害が残る怪我 軽傷 3 上記以外の休業災害(医師による措置が必要な怪我)
軽微 1 表面的な障害、軽い切り傷及び打撲傷(赤チン災害)
可能性 点数 内容の目安
確実 6 かなりの注意力を高めていても災害になる 可能性高い 4 通常の注意力では災害につながる
可能性低い 2 うっかりしていると災害になる ほとんど無し 1 通常の状態では災害にならない
頻度 点数 内容の目安
頻繁 4 毎日、頻繁に立ち入ったり接近したりする 時々 2 故障、修理・調整等で時々立ち入る ほとんど無い 1 立ち入り、接近することはめったにない
リスク 評価点 評価内容 取扱基準
Ⅳ 12〜20 直ちに解決すべき問題がある
(受け入れ不可能なリスク) 直ちに中止または改善する
Ⅲ 9〜11 重大な問題がある
(低減対策を要するリスク) 優先的に改善する
Ⅱ 6〜8 多少問題がある
(低減対策を要するリスク) 計画的に改善する
Ⅰ 5以下 必要に応じたリスク低減を実施する 残っているリスクに応じて
①実証実験 1:大型モータ製造工場における支援的保護システムの実証実験 (実験条件:一人の作業者が単一作業)
表4-38に実証実験 1 で支援的保護システム適用前後のリスク評価結果を示す。3つのリ スクに対して,規則を守ることでリスク低減したが,実際には不安全行動が発生していたた め,リスクは低減していなかった。対して支援的保護システム適用後はリスク評価と同等の 低減効果が得られることを確認した。
表4-38 大型モータ製造工場のリスクアセスメント結果
②実証実験 2:自動車用バンパ組立ラインにおける支援的保護システムの実証実験 (実験条件:一人の作業者が複数作業)
表4-39に実証実験2で支援的保護システム適用前後のリスク評価結果を示す。4つのリ スクに対して,規則を守ることでリスク低減したが,実際には不安全行動が発生していたた め,リスクは低減していなかった。対して支援的保護システム適用後はリスク評価と同等の 低減効果が得られることを確認した。
表4-39 自動車用バンパ組立ラインのリスクアセスメント結果
③実証実験 3:可搬式作業台自動洗浄ラインにおける支援的保護システムの実証実験 (実験条件:複数の作業者が複数作業)
表4-40に実証実験3で支援的保護システム適用前後のリスク評価結果を示す。5つのリ スクに対して,作業者が規則を守ることでリスク低減したが,実際には不安全行動が発生し
重篤度 危険状態発 生の頻度
危害に至 る可能性
リスク
レベル 重篤度 検証後の 重篤度
危険状態発 生の頻度
検証後の危険 状態発生頻度
危害に至 る可能性
検証後の危害 に至る可能性
リスク レベル
検証後のリ
スク 重篤度 危険状態発 生の頻度
危害に至 る可能性
リスクレ ベル
①作業開始の札をかけないで柵内
に入り作業を行うリスク 6 4 4 Ⅳ 6 6 1 4 1 4 Ⅱ Ⅳ 6 1 1 Ⅱ
②資格・権限のない作業者が作業
を行うことによるリスク 6 2 4 Ⅳ 6 6 1 2 1 4 Ⅱ Ⅳ 6 1 1 Ⅱ
③柵内に作業者がいるにも関わら
ず第三者が再起動を行うリスク 6 2 2 Ⅲ 6 6 1 2 1 2 Ⅱ Ⅲ 6 1 1 Ⅱ
リスク低減方策適用前の評価 支援的保護システム適用後の評価
対象リスク
リスク低減方策(規則を守る)適用後の評価(期待値)と実験検証結果
重篤度 危険状態発 生の頻度
危害に至 る可能性
リスク
レベル 重篤度 検証後の 重篤度
危険状態発 生の頻度
検証後の危険 状態発生頻度
危害に至 る可能性
検証後の危害 に至る可能性
リスク レベル
検証後のリ
スク 重篤度 危険状態発 生の頻度
危害に至 る可能性
リスクレ ベル
①作業開始の札をかけないで柵内
に入り作業を行うリスク 6 4 4 Ⅳ 6 6 1 4 1 4 Ⅱ Ⅳ 6 1 1 Ⅱ
②資格・権限のない作業者が作業
を行うことによるリスク 6 2 4 Ⅳ 6 6 1 2 1 4 Ⅱ Ⅳ 6 1 1 Ⅱ
③追加で資格・権限のない作業を
行うことによるリスク 6 2 2 Ⅲ 6 6 1 2 1 2 Ⅱ Ⅲ 6 1 1 Ⅱ
④柵内に作業者がいるにも関わら
ず第三者が再起動を行うリスク 6 2 2 Ⅲ 6 6 1 2 1 2 Ⅱ Ⅲ 6 1 1 Ⅱ
支援的保護システム適用後の評価 リスク低減方策(規則を守る)適用後の評価(期待値)と実験検証結果
対象リスク
リスク低減方策適用前の評価
と同等の低減効果が得られることを確認した。
表4-40 可搬式作業台自動洗浄ラインのリスクアセスメント結果
実証実験では,従来の保護装置(ライトカーテン,ビームセンサ)だけでは確認できない 作業者の資格と権限の確認や,リアルタイムな作業者の作業導線の確認が,支援的保護シス テムを追加することにより確認できることを明らかにした。IMS で発生している労働災害の 多くは,
(1)資格や権限のない作業者が作業を行うこと
(2)作業区域に他の作業者が存在することに気がつかないこと
ことに起因している。これらに起因する労働災害を防止するためには,人の注意力や管理体 制の強化のみでは対応が難しいのが現状である。
そこで,人の判断や行動に含まれる不確実な部分を支援するための支援的保護システム を採用することにより,国際規格ISO 12100及びJIS B 9700(機械類の安全性-設計のため の一般原則)で示されているリスク低減方策(本質的安全設計方策,安全防護方策および付 加保護方策,使用上の情報提供)採用の後に残留するリスクに対して,より確実性の高いリ スク低減効果を得ることが可能となることがわかった。
なお,今年度採用した支援的保護システムによる実証実験結果では,危険側故障(人がい るのにいないと判断する)が一部発生したが,これは,センサ取り付け位置の不備(監視エ リアの一部に不感帯あり),設置場所の不備(センサを取り付けた場所が振動等の影響でず れた),受信アンテナの数の不備(受信アンテナの数が足りず正確な位置が把握できず),ソ フトのバグ等による影響であることがわかっており,支援的保護システム構築の際には事 前に十分検討する必要がある。
重篤度 危険状態発 生の頻度
危害に至 る可能性
リスク
レベル 重篤度 検証後の 重篤度
危険状態発 生の頻度
検証後の危険 状態発生頻度
危害に至 る可能性
検証後の危害 に至る可能性
リスク レベル
検証後のリ
スク 重篤度 危険状態発 生の頻度
危害に至 る可能性
リスクレ ベル
①作業開始の札をかけないで柵内
に入り作業を行うリスク 6 4 4 Ⅳ 6 6 1 4 1 4 Ⅱ Ⅳ 6 1 1 Ⅱ
②資格・権限のない作業者が作業
を行うことによるリスク 6 2 4 Ⅳ 6 6 1 2 1 4 Ⅱ Ⅳ 6 1 1 Ⅱ
③追加で資格・権限のない作業を
行うことによるリスク 6 2 4 Ⅳ 6 6 1 2 1 4 Ⅱ Ⅳ 6 1 1 Ⅱ
③追加で資格・権限のない作業者
が作業を行うことによるリスク 6 2 2 Ⅲ 6 6 1 2 1 2 Ⅱ Ⅲ 6 1 1 Ⅱ
④柵内に作業者がいるにも関わら
ず第三者が再起動を行うリスク 6 2 2 Ⅲ 6 6 1 2 1 2 Ⅱ Ⅲ 6 1 1 Ⅱ
対象リスク
リスク低減方策適用前の評価 リスク低減方策(規則を守る)適用後の評価(期待値)と実験検証結果 支援的保護システム適用後の評価