第 5 章 事例でみる民間企業における女性役員・管理職の登用の実態
2. 民間企業における役員・管理職登用制度の実際
2.1 調査対象企業の概要と選定理由
本章において,A,B,C,K四社を事例として取り扱う理由は,表5-1をとおして説明 する。
表5-1 民間企業の女性役員・管理職の登用状況(2011,2016)
国有資本の割合 取締役男女計 女性取締役
(2011年)
女性取締役
(2016年)
A社 20% 6人 2人 1人
B社 なし 7人 2人 2人
C社 なし 9人 2人 2人
K社 なし 3人 1人 1人
(出所)各社の資料により筆者作成
第4章で示したように,中国政府は2011年から,「中国女性発展綱要(2011-2020年)」
(以下「綱要」と略す)を実施したが,2016年の上場企業における女性役員・管理職の登 用状況は 2010年に比べて逆に悪化した。とくに,女性取締役を 5人以上登用した一部の 企業は,現在女性取締役の登用が1人ないしゼロ人であることがわかった。民間企業であ るA社は,上述した状況と同様に,2016年における女性取締役の登用数が2011年と比較 して減少したことを示している。
企業の所有形態が国有企業と異なるわけであるにも関わらず,A社はなぜ国有企業と同 様な動きがあるのであろうか。A 社において女性取締役はどのようなルートで登用できた のか。また,企業の出資者についてのデータ調査から,A社が発行した株式のなかで,地 方の民間企業E社は26.3%,国家・地方政府の投資機構F社は20%の株を所有している ことを確認できた。すなわち,民間企業として上場したA社の株主のなかで,国家の地位 を無視できない。A社において女性取締役の登用は投資者とどのような関係があるのか。
ここでA社における女性取締役の登用プロセスの実態を明らかにすることは,中国民間企 業の女性役員・管理職の登用の阻害要因を検討する際に重要な示唆を与えうると考えられ る。以上の理由から,本研究ではA社を選定した。
それに対して,B,C,K三社の株主はすべて国家の資本を持っていない民間企業や個人 により構成されることを確認できた。B社は,A社と同じ旧国有企業により再編・改革を
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とおして設立された企業であるため,企業の代表取締役は,もとの旧国有企業出身の男性 により担当されることが一般的である。そのため,A社とB社の代表取締役が女性の価値 に対する認識について,前章で述べたS社の男性代表取締役と同じ態度を持つはずである。
C社は,旧国有企業の整理・再編を経て上場した企業ではなく,完全に個人の投資によ り設立・上場した株式会社である。そのため,C社のガバナンスシステムについて,株式 制度に基づいた「株主総会」「取締役会」「監事会」が主な権力機構である。一方,B 社と C社において,「党支部」や「党委」などの共産党の基層組織が存在しているが,国家はB 社とC社の株を持っていないため,共産党組織は党組織をとおしてこの二社の取締役会を 支配することができない。また,B 社とC 社において,工会という組織も設置されたが,
工会に入るメンバーは企業のミドル管理職の数人しかいない。つまり,国有資産のない民 間企業において,党組織による支配は少ないため,工会や党委は形式的な組織として存在 している。そのため,B社とC社の役員・管理職の登用制度は党組織による影響が少ない と考えられる。このようなガバナンスシステムの下で,一体,この二社における役員・管 理職の登用制度の最終的意思決定権が誰に握られるか。そして,女性の登用と企業の権力 機構・権力者との関係はどのようになっているのか。これらの点を明らかにするために,
B社とC社を選定した。
また,K社は,C社と同様に,民間資本により設立された民間企業であるが,K社の登 録地は,中国本土ではなく,香港であるため,厳密でいうと,K社は中国本土における外 資系企業である。今まで,中国の外資系企業を取り上げて,女性取締役についての調査・
研究は存在していないため,K社における女性取締役の登用の実態を明らかにすることは,
中国の外資系企業の女性役員・管理職の登用制度を検討する際に重要な示唆を与えうると 考えられる。また,K社を含む外資系企業にとって,女性管理職の登用に影響をあたえる 要因は「綱要」など中国政府の法令であるか,あるいは企業の権力機構・権力者であるの かについて明らかにするために,K社を選定した。
各社に対してのインタビュー調査の実施日について以下のとおりである。
A 社について,筆者はA社の人事担当者と面会し,約2時間のインタビューを行った。
C社とK社について,筆者はそれぞれの女性取締役と打合せ,約1時間の半構造的インタ ビュー調査を実施した。B社について,筆者はB社の本社に訪問し,男性の取締役に約2 時間のインタビュー調査を実施した。
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表5-2 国有企業の調査概要
国有資本 の割合
取締役 男女計
女性取締役
(2011年)
女性取締役
(2016年)
女性「管理職」
(2016年)
A
社 20%185 6人 取締役1人
独立取締役1人 独立取締役1人
総会計士1人
副総経理兼党支部186書記1人 副総経理兼部長2人
B
社 なし 7人 取締役会秘書1人 独立取締役1人
取締役会秘書1人
独立取締役1人 なし C
社 なし 9人 取締役1人 独立取締役1人
取締役1人
独立取締役1人 なし K
社 なし 3人 取締役1人 取締役1人 なし
(出所)各社の資料により筆者作成
つぎに,A社,B社,C社,K社それぞれの企業の概要として,企業の設立年,全従業 員数,国有資本の割合,取締役の登用状況および女性取締役・「管理職」の職務を表5-2の とおりにまとめた。各社の特徴は,以下のとおりである。
(1)A社は,2009年8月から2013年の8月まで,女性取締役1人と独立取締役1人,
合計2人の取締役を登用していたが,2013年8月以降の取締役会においての女性は,
独立取締役1人しかいないことになった。また,企業のガバナンスシステムについて,
A社において,株式制度に基づいた「株主総会」「取締役会」「監事会」という新権力 機構が「共産党委員会」「従業員代表大会」「工会」という旧権力機構と並存している。
(2)B社は,A 社と同様に,旧国有企業G社により株式化・民営化された醸造機械を製 造・販売する株式会社である。B社の男性代表取締役がもとのG社において中間管理 職であったが,1990年代後半の国有企業改革・株式制度の導入にともない,G社から
分離したB 社の31.6%の株を購入し,現在B 社の最大の株主となっている。B 社の
取締役会におけるすべての役員と管理職は旧国有企業G社の出身者である。
(3)C社は機械を全国で生産・販売する民間株式会社である。C社の株式はすべて個人で 所有している。取締役会にはドイツの大学院修了者(男性独立取締役 1 人)もいた。
(4)K社は,香港籍の華人投資の医療機械の販売・保守サービスを提供する企業である。
185 ここの「割合」とは,国家の投資機構の直接出資比率である。
186 党支部とは,共産党の基層組織の一種類である。「中国共産党章程」第五章の規定によると,中国本 土における企業,学校,軍隊,研究機構などすべての組織のなかで,共産党員三人以上が存在する 場合には,党支部などの共産党の基層組織を設立するべきである。党支部は上級「党委」により指 導を受けて共産党の企業における活動を行う。また,国有企業との合弁による合弁会社や外資系企 業においても,その設立当初から党支部が会社内に設置され,党支部が共産党指導により各種の活 動を行っている場合がある。一方,中国の会社法は,党組織活動に対する支援を会社に対して求め ており,党支部の設立・活動は,会社の運営とも関係することになる。
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