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権力機構による人事管理制度への影響

第 2 章 中国国有企業の統治構造と女性雇用

4. 企業の権力機構と女性雇用

4.2 権力機構による人事管理制度への影響

中国の会社法のなかで,共産党委員会などの共産党組織の活動内容や役割についての規 定は明記されていないが,「企業は,中国共産党章程に従って中国共産党の組織を設立し,

党の活動を行うべきである。企業は,党組織の活動に必要な条件を提供するべきである152」 という表現によって,党組織の企業における支配地位が示される。ところで,共産党章程 では,国有企業において企業内党組織は政治的中心の役割を発揮し,党と国家の方針・政 策の徹底的な執行を保証・監督し,企業の重大問題の決議に参加することなどを規定して いる153。そのほかにも,「中国共産党章程」では,「企業,機関,学校,研究機構,軍隊や 市町村などのすべての組織で,中国共産党員が3人以上いれば,党の基層組織を作るべき

150 盧美芬・兪徳鵬・方燕・徐燕萍(2002) 前掲書 p.113

151 同上

152 「中華人民共和国公司法」総則 第十九条

153 「中国共産党章程」第三十二条

76 である154」と明確に定められている。

このように,中国共産党は,中国本土の企業に対し,共産党組織の設置により企業の経 営管理を監督し,共産党の指導力を強制的に押し付ける慣行が社会主義計画経済時期の企 業から社会主義市場経済の企業に継続されている。とくに,近年中国の社会主義市場経済 化や国有企業の改革に伴って,ますます顕著化しつつある労使間の摩擦を緩和するため,

中国共産党は企業の工会組織や工会会員の大幅な増加をとおして,企業における一般従業 員に対しても,共産党の指導力を一層強化していく姿勢がみられる。つまり,中国企業の 権力行使の基本方針について,「会社法」と「中国共産党章程」が並行する一方,中国企業 の権力行使の権力機構について,旧権力機構は新権力機構を支配するという特徴が窺える。

(2)管理層の人事制度に対する党組織の権力

つぎに,党組織が企業管理層の人事制度に対する支配の状況についてみることにしたい。

第2節で取り上げた「中華人民共和国全人民所有制工業企業法」および「中共中央組織部 関与加強股分制企業中党的工作的幾点意見155」(株式制企業における党活動の強化に関す るいくつかの意見)によると,取締役会が登用予定の中間管理層の幹部の人選に対し検討 を行い,推薦意見や採用意見を党組織に報告するという規定がみられる。しかし,党組織 がどのような基準で登用予定の幹部を評価するのか,そして,規定されていない取締役や 監査役などの管理層幹部についてどのような方針・基準で評価や選考を行うかを一切明文 化していない。

会社の管理層の人事の意思決定に対する党組織の影響力について検証するデータが極め て少ない。上海証券取引所の調査では,250社の役員・管理層に対して党組織の役割につ いて調べている。党組織は企業の経営管理においてどの分野で意思決定権を持っているか という質問に対する回答は表2-4のとおりである。

表2-4 党組織はどの分野で役割を発揮するか (単位:%)

発揮していると思う 発揮していないと思う

経営上の意思決定 98.8 1.2

人事の登用 99.7 0.3

取締役や経理に対する監督 99.5 0.5 従業員のモチベーションを上げる 99.9 0.1

154 「中国共産党章程」第二十九条

155 1994423日公布

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管理層と従業員層の関係を調節する 99.8 0.2

(出所)上海証券取引所(2000)「上場企業の企業統治に関するアンケート156

(出所)「中華人民共和国工会法」,中華全国総工会ウェブサイト,中華人民共和国中央政 府ウェブサイトおよび筆者の企業調査資料より筆者作成

したがって,このような統治構造により,党組織は企業の重要な問題に関する意思や決 定を会社の新権力機構に伝達し,新権力機構の考え方や最終的な行動を党組織が向かう方 向と一致させることができる。

小括

以上,中国国有企業の統治構造,そして企業の権力機構は女性雇用に与える影響につい ての説明・考察を行ってきた。

本章の第2節では,中国の経済システムの移行と中国国有企業の改革過程に伴い,改革 後から現在までおよそ 20年間の企業制度,統治構造の状況を 3期に分けて概観し,企業 における女性従業員の割合が企業経営権の委譲とともに低下したことを確認できた。そし て,社会主義市場経済時期における国有企業の統治構造の特徴を考察し,女性たちは企業 の管理層への登用が容易ではないことを認識した。女性の雇用状況に影響する各段階の企 業の統治構造を見ていくと,以下の諸点が明らかになった。

①改革開放の初期段階(1978年12月~1984年4月)では,国有企業は「放権譲利」政 策のより一部の経営権を持つことになったが,企業の統治構造が社会主義計画経済時期の 国有企業のままで続けられる。

②社会主義商品経済の段階(1984年5月~1992年6月)では,「経営者請負責任制」の 導入により,企業は経営上の責任を負うことになったとともに,従業員を雇用・解雇する 決定権を持つことになった。

③社会主義市場経済体制の初期段階(1992年7月以後)では,株式制度の国有企業への 導入に伴い,国有企業において,「共産党委員会」「従業員代表大会」「工会」という旧権力 機構が株式制度に基づいた「株主総会」「取締役会」「監事会」という新権力機構と並存す ることになった。この二重化された企業の統治構造により,女性たちが自分の能力や業績

156 人民網 (201623日)参考

78 をとおして管理層に入る「機会」が少なくなった。

第3節では,企業における新・旧権力機構について,それぞれの特徴を説明し,新権力 機構の権力は旧権力機構の支配により無力化されたことを示した。

第4節では,中国の国有企業における就業制度の変遷を概観し,企業における女性の登 用比率は女性個人の意思や能力に比べて,企業の登用制度の重要性を明らかにした。 本 章をとおして,女性役員やトップ管理層女性の登用に阻害する制度的要因をまとめる。

まず,中国企業発展の各段階におけるほとんどの明文化されている登用制度は,企業の 中間管理層幹部の登用を対象としたものである。企業側は,中間管理層までの人事登用を 決定する権力があるが,企業の役員や管理層の登用についての意思決定権がない。

つぎに,明文化されていない登用制度について,管理層人事の決定権を持つ党組織にと って,企業の役員・管理職は党幹部の要件を満たすことで,信頼感が高い人間と認められ るため,人事権力者により評価されやすくなる。

近年,中国政府は,様々な政策をとおして女性の就業および女性の社会福祉の改善を努 める結果,企業における一般従業員の女性の就業率や職業的地位が改善されつつある。こ れらの成果からみると,中国政府の権力,あるいは企業における党組織の権力は一般従業 員の女性の雇用を促進する効果があると評価すべきである。その一方,企業の役員層やト ップ管理層における女性の登用において,国家の男女平等政策や就業促進政策の実施によ る効果がなかなか見えない理由も,企業の登用制度が存在するからである。つまり,二重 化された中国企業の統治構造は,女性従業員や女性の中間管理職への採用・登用を促進す るとともに,女性のトップ管理職への登用を排除してしまう傾向があるといえよう。

次章では,データをとおして中国上場企業の女性役員・管理職の登用問に関する制度的 要因を見ることにしたい。

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