• 検索結果がありません。

第 5 章 事例でみる民間企業における女性役員・管理職の登用の実態

2. 本研究の結論

本研究の結論は以下のとおりである。

第1に,女性役員・管理職の登用要因および登用制度の形成について,「国家の労働政策」

と「企業の登用制度」という二つのファクターを組み入れた分析枠組をもとに体系的に解明 できたことである。

これまで,女性役員・管理職の登用に関する先行研究では,図6の外円における国家の雇 用促進政策の部分を検討したものが多い。しかし,既存の女性雇用の促進政策は一般従業員 を対象としたものであり,企業の役員・管理職むけの女性登用の促進政策「女性発展綱要」, 女性の雇用とかかわる定年制度や福利厚生制度に対する検討は十分に行われていない。筆 者は,この点を指摘し,経済システムの移行や企業制度の変革とともに,不備のある社会政 策や雇用制度も女性役員・管理職の登用を阻む要素になっていることが明らかになった。ま た,本研究は外円における「労働契約制」の形成の歴史的背景に着目したことによって,国 家の労働政策は,直接女性役員・管理職の登用に影響を与えることではなく,企業の登用制 度をとおして効果を果たすというプロセスを明らかにした。換言すると,女性役員・管理職 の登用を促進する「女性発展綱要」が,企業の登用制度に採用されていないため,企業で働 く女性は役員・管理職として登用する「機会」を獲得することができず,そのうちに,役員・

管理職への昇進意欲も低下するようになる。

127

図6. 女性役員・管理職の登用制度の形成

(出所)筆者作成

一方,企業の登用制度の先行研究では,図6の中円における「企業の所有形態」の検討が 多いが,筆者は,それ以外に,企業における党委や工会などの党組織の重要性を指摘し,ま た役員・管理職の考課制度・選考基準における資格要件も明示した。本研究は中円である「管 理職考課制度・選考基準」を合わせて検討することによって,企業の権力機構がどのように して女性役員・管理職の登用に影響を与えたかを解明した。国有企業の場合,「管理職考課 制度・選考基準」の資格要件には主に「政治的身分の制限」,「党組織における勤務の経験」,

「党組織における職位」がある。国有資本のない民間企業の場合,「管理職考課制度・選考 基準」の資格要件には主に「取締役との人的ネットワーク」,「家族関係」,「血縁関係」があ

公司法 企業の所

有形態

労働契 約制度 一人っ

子政策 男女別定

年制度 女性発

展綱要

雇用促

進政策 党の指

導方針

党幹部育 成制度

共産党 章程

工会法

企業の 構造的 要因

管理職考 課制度・

選考基準

比率 権力 機会

128

る。また,数少ない民間企業において,女性役員・管理職の登用に積極的な影響を与える要 因である「能力主義」という登用制度が企業の取締役会に採用され,女性は企業の経営者と の「交渉」という形をとおして,役員・管理職として登用された。

中国の経済システム,社会政策,労働制度の変化にともない,企業の所有形態がかわり,

企業における女性の役員・管理職への登用の決定権が国家から企業に委譲されていく。この ように,「女性の役員・管理職への登用要因」,「企業の登用制度」,「国家の労働政策」とい う三者は内円-中円-外円という包括的な関係であるといえる。

第2に,「女性発展綱要」などの女性管理職登用の促進政策が女性の役員・管理職への登 用にどのような役割を果たしているかである。役員層・管理層における候補者の確保という 視点から,中間管理職の女性や外部の女性役員・管理職を積極的に登用することが必要であ る。しかし,筆者が調査したすべての企業において,実際にはこのような政策だけでは実効 性がなく,あるいは政策の具体的な内容は現場に取り入れられていない状況である。一方,

一部の国有企業の取締役は女性の役員・管理職への登用について,依然として偏見があり,

彼らの女性を消極的に登用する姿勢・意識により,女性の役員・管理職への登用が一層難し くなっている。

第3に,企業の役員・管理職の登用制度において「構造的要因」が存在する点である。企 業の統治構造に関する従来の研究において,女性が役員・管理職の対象として取り扱われて いないため,企業に存在する男性中心の登用制度が女性に不利であるという「構造的要因」

が看過されている。中国における少数の経済学者は,企業の支配権と企業の統治構造の関係 について検討しているが,女性の役員・管理職への登用の阻害要因が企業の統治構造との関 係,すなわち,「構造的要因」にあるという視点は言及していない。そのため,「構造的要因」

は企業のどのような組織により形成されたのかについての検討と,役員・管理職の登用制度 のどの段階でどのように影響を与えているのかについての分析が必要となる。

先行研究では「構造的要因」は企業のエリート層に存在していることが指摘されているが,

その具体像が明示されていない。本研究の結論としては,この「構造的要因」はまず,役員・

管理職の選考基準にあり,候補者の信頼性の形成に影響を与える。一方,「構造的要因」は 役員・管理職の考課制度にもあり,候補者の能力の評価に影響を与える。例えば,企業によ っては「交流(配置)の期間」を役員・管理職の登用制度の一環とした場合,5年間の単身 赴任が難しい女性候補者が実際に役員・管理職層への登用を排除されている(例えば,T社)。 また,意図的に女性を役員・管理職に登用しないという制度がないにもかかわらず,役員・

129

管理職の決定権は,女性の能力に偏見を持つ取締役に支配され(例えば,S社),あるいは 女性との縁故関係などがある取締役に支配される(B 社とC 社)ため,このような影響に よって,実際に女性の公平的な登用が制限されてしまう。

第4に,上記の「構造的要因」における組織の権力は,先行研究のなかでカンターが指摘 した女性登用の「機会」「比率」「権力」という要因に対して,支配的なものである。K社以 外の企業において,女性役員・管理職の登用「機会」と「比率」が企業の権力機構に支配さ れる点に注目すべきである。企業の株式化や新権力機構は現行の登用制度にある「構造的要 因」を回避するための存在であるが,旧権力機構が実際に企業の人事管理の最終的意思決定 権を持つ限り,「構造的要因」という阻害要因は今後も続くであろう。

つまり,中国企業の統治構造が資本主義国家の企業と異なるため,カンターが指摘した組 織の「権力」という要因の機能,役割,形と中国企業との間に大きな差が存在している。本 研究で明らかにした二重構造の中国企業のガバナンスシステムは,カンターの分析枠組み の空白領域を補填し,中国企業における女性の登用問題に新たな研究方法を示唆している。