第 2 章 中国国有企業の統治構造と女性雇用
2. 国有企業の改革と女性雇用
2.1 改革後の国有企業における女性雇用と問題点
社会主義計画経済時代(1949年~1978年)の中国社会における男女平等意識は,当時 の中国を支配している毛沢東が提唱する「婦女能頂半辺天(女性は天の半分を支える)」と いうスローガンの影響を大きく受けている。一方,計画経済システムの下で市場や競争の 意識が存在せず,平均主義による就業政策を実施した結果,政治面とともに経済面におい ても女性の活用率および女性の地位が著しく改善された。このように,その時期の中国女 性の社会進出は,国家の支配者の「権力」によって改善され,女性の社会的地位が男性と 対等な位置に置かれたといえよう。また,当時の女性は国家の計画に基づいて統一雇用・
配分によって就業109しているため,当時女性は工場のワーカーから専門職・技術職まで,
あらゆる職種で社会に進出しており,女性の労働参加率も比較的に高かった。
ところが,1978年以後,改革開放政策の施行に伴い,中国の経済システムに市場経済を 取り入れることによって,中国では従来の「平等主義」や「平等意識」から「競争」とい う意識が徐々に増えてきており,中国の国有企業においても新たな管理制度が導入され,
108 金山権(2000) p.98
109 社会主義計画経済時期においての労働人口は,都市労働人口と農村労働人口の二つにわけられてい る。都市労働者は工業の発展に貢献するために,国有企業で働いており,農村労働者は農業の発 展,食料の生産を保障するために農作業をしなければならない。その計画的生産目標を達成する前 提として,都市と農村それぞれの労働人口を維持することである。そのため,都市人口と農村人口 間のお互いの移動も国家の計画によって実行される。都市労働人口が過剰になって国有企業に入れ なければ,国家の「上山下郷」政策により,農村部へ配分され,農業者の農業生産を支援させられ るが,逆に,農村人口の都市への移動が厳しき制限されている。したがって,社会主義計画経済時 期においてのすべての労働者は,このような地域別の統一雇用・配分政策によって働いていた。
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企業の改革が始まった。その影響を受けて,社会主義計画経済から社会主義市場経済への 移行過程で,従来の平等主義による安定した女性の就業状況は大きく変わっていったので ある。
企業の改革として具体的に実施されたのは,第1に雇用に対する改革である。特に採算 の悪い企業を中心に,企業内に抱えた大量な余剰労働力を整理することによって,企業の 合理化と効率化を図ろうことは政府の目的であった。この余剰人員の整理の過程において,
まず,「下崗」(レイオフ)の問題が現れてきた。例えば, 1994年に都市部でレイオフし た360万人の労働者における62%は女性であった110。すなわち,レイオフの対象となる女 性労働者の比率が男性より高くなるという問題がある。企業の改革に伴い,レイオフ政策 のように女性を差別した政策としては,男女別定年制度もあげられる。従来的に,女性が 50歳,男性が60歳,男性より女性のほうが,定年が10年早まるとなっているが,1990 年代半ば以降,多くの国有企業において,実際の定年年齢が女性40歳以上,男性50歳以 上とさらに引き下げげられた。また,社会主義計画経済期において,国有企業にいったん 就職すると終身雇用が保証される「固定工」といった雇用制度が実施されていたが,国有 企業の改革が開始後,「経営請負」制度の採用とともに,労働者の採用権限も従来の国家か ら経営者に渡された。換言すると,国有企業の活力を高めるために,中国はレイオフ制度 などの労働者向けの政策のみならず,「労働契約制」という経営者の経営的権限を強くする 雇用制度も導入した。「労働契約制」の導入の結果,経営者は企業の生産効率をアップする ため,女性より,出産・育児などの家庭負担の少ない男性労働者を好む一方,労働者が採 用されても一律に企業との間で3年~5年程度の有期の労働契約を結ばれなければならず,
社会主義計画経済時期の「固定工」雇用制度の姿が徐々に消えた。この影響で,国有企業 の改革過程でいったんレイオフされた多くの女性労働者は,もとの職場に戻っても以前の ように安定的に働いていく保障を失った。さらに,「契約制」で雇用される女性が享受する 年金,保険などの福祉制度においても正規雇用労働者に比べてランクダウンされたため,
これらの政策は女性の継続的就業にとって大きな阻害となる。
第2に,賃金に対する改革である。従来の国有企業では労働者の技能レベルや能力を区 別せず,「同工同賃」といった均一の賃金が支給されていたが,1980年代から,職責や能 力に応じて「同工別賃」といった差を付ける賃金制度を導入するとともに,従業員の能力・
110 何燕侠(2007)前掲書 p.439
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業績・貢献によってボーナスを支給することで従業員のモチベーションをあげようとした。
上述した雇用制度の改革に加えて,このような賃金制度の改革により,企業の経営者は従 業員の収入を決定する権力も持ち,経営的権限がさらに強化された。また,その最終的意 思決定権を握る企業の経営者は男性労働者に比べて,女性労働者の能力が低い,あるいは 企業に対する貢献が少ないという意識があれば,自らの判断で女性労働者の所得をカット する権限も持つことになった。
一方,政府がすべての企業に対して,十分な経営的権限を与えることではなかった。今 井・渡邉(2006)が1996年に中国の国有企業を対象として行った調査結果によると,(1)
37%の企業に「従業員の募集・採用」に関しての権限がない,(2)約75%の企業に「投資」
に関しての決定権がない,(3)76%企業に「資産の処分」に関しての権限がない,という 国家側が相変わらず,企業の人事と資産に関する最終的意思決定権をコントロールしよう とする傾向がみられる111。さらに,上述したレイオフの状況を改善するため,政府の労働 部門が,とくに大型の国有企業に対して,企業の所在地から一定数以上の従業員を雇用す ることを義務づけているというケースもあった112。要するに,政府側は,雇用・賃金政策 の改定によって国有企業における悪化した雇用情勢を改善するため,再度国有企業の雇用 活動に介入しているのである。
以上のように,国有企業の改革に伴い,政府側は一部の企業に経営の自主権を委譲し経 営者の権限を強める制度を実施していた。しかし,これらの改革手段をとおして,企業の 合理性と効率性が高められたとは言えない。この状況が続くと,企業は企業の経営と管理 に得意でない支配者の独断的性格に左右され,競争力と生産効率においての弊害が生じる かもしれない。また,国有企業が株式会社に変わって,そしてグローバル化された後,企 業における共産党組織の支配と,従業員代表大会による民主的管理との関係はどう変わっ ていくのかが従業員の死活に関わる問題である。したがって,企業における統治構造は,
中国の国有企業の経営状況のみならず,女性労働者の雇用状況に対してももっとも影響を 与える要素といえる。つぎに,経済の移行とともに,中国国有企業の企業制度の変遷およ び企業の統治構造はどのように変化してきたのかについて説明していきたい。
111 今井健一・渡邉真理子(2006)
112 上原一慶(1995)
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