第 4 章 事例でみる国有企業における女性役員・管理職の登用の実態
4. 女性役員・管理職への登用要因の検討
本節では,中国国有企業における女性役員・管理職の登用制度の特徴,および前節で確認 した女性役員・管理職の登用要因について,企業における女性の「比率」「機会」「権力」の 側面から,検討を行うことにしたい。
第1に,女性であることが役員・管理職への昇進に影響を及ぼすことについて,現状分析 における女性管理職の割合は,S社が0人(管理職全体の0%),T社が2人(管理職全体の 33.3%)である。したがって,男性ばかりの取締役会のなかで,女性の価値が正確に認識す ることは難しいため,国有企業の取締役会における女性がゼロという「比率」は,今後の女 性取締役の登用に大きな阻害要因となる。
第2に,女性の役員・管理職への昇進の「機会」について,女性に関しての社会的認識,
職務の分類,昇進に関する法律・制度による影響を検討することにしたい。まず,社会的認 識について,S社の代表取締役の回答によると,女性に比べて,男性のほうが業務能力とと もに,接待などの能力も高いため,男性の役員・管理職に昇進の可能性の認識が強いと確認 できた。すなわち,取締役会における男性取締役の判断だけで,女性の能力が低く評価され たため,役員・管理職への昇進「機会」は少なくなった。そして,職務の分類について,T 社の取締役会における女性はふたりとも「会計士」であり,企業を経営・管理する専門知識 がないため,彼女たちの管理能力は企業における既存の管理層に認可される可能性が低い。
つまり,女性の職務分類の状況でみると,役員・管理職への昇進の可能性が低い。最後に,
女性の昇進にかかわる法律・制度において,S 社も T社も女性を特別に取り扱う登用制度 や考課項目がない。また,国有企業の改革に伴い,人事制度以外の福利厚生制度も,女性の 役員・管理職への登用に不利な影響をもたらすことがある。とくに,国有企業に株式化が導 入された以後,企業の経営コストをさげ,収益を黒字化に求めるため,あらゆる改革案を実 施していく方針が固まってきた。しかし,企業に関連する福利厚生制度が改善されていない ため,女性に過度な家庭的負担を担わせる。例えば,S社の下に所属する各福利施設は民営 化の推進とともに,本来,福利を目的とした保育園,幼稚園や病院は改革後,利益優先とい
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その結果,一部の女性は,役員・管理職への昇進が可能であっても,育児と介護の家庭責 任が徐々に増えていくため,その意欲を断念するケースもある。さらに,男女差別のある定 年制度の影響で,女性たちは役員・管理職への昇進「機会」は一層少なくなった。すなわち,
国有企業の改革に伴い,民営化された福利厚生の権限は,民営化されていない役員層・管理 層の人事の権限とともに,女性役員・管理職の登用に不利な影響をもたらす。
最後に,女性の役員・管理職への昇進と「権力」の関係についての考察を行うことにした い。本来,女性は企業の管理層に登用されるため,自身の努力や,同盟の支持などの方法を とおして,経営資源をとる能力,いわゆる権力を獲得する184。しかし,このような方法は,
中国国有企業に適用できない。なぜなら,企業の統治構造により,中国国有企業における登 用制度の支配者は個人ではないため,女性個人が支配する権力は,企業の組織を支配する
「権力」に比べて,非常に弱いものである。この「権力」の影響で,企業における役員・管 理職の登用の効果基準は,従来の個人能力から政治的身分に変わりつつある。極端にいうと,
党組織が持つこの「権力」は,企業の組織構造に浸入しており,女性の登用制度より強力な パワーである。さらに,このパワーは,先述した女性の役員・管理職登用にかかわる「比率」
と「機会」に対しても,絶対的支配力を有する。この「権力」が要求した条件を満たさなけ れば,女性が党組織に信用されず,企業の意思決定権のある組織に昇進・登用できない。す なわち,この見えない組織上のパワーは,女性の役員・管理職への登用を阻害するグラス・
シーリングである。
小括
本章では,中国国有企業における女性役員・管理職の登用実態について確認・検討を行い,
国有系企業における女性役員・管理職の登用割合が非常に低い現実を明らかにした。また,
中国国有企業の支配権は特有なガバナンスシステムによって「党組織」,「国有企業の親会 社」,「共産党出資機構」に分散されたため,女性たちは自身の努力をとおして S 社の内部 昇進制度を利用しても,その昇進・考課制度において女性の昇進を阻害する要件が存在する ため,女性の内部昇進の困難を把握することができた。
最後に,S社の事例から,現在多くの男性幹部には女性の能力と認識について,依然とし て偏見やギャップが存在している事実が確認された。彼らは,女性が細かい統制能力と高い
184 Rosabeth Moss Kanter(1977)(=1995, 高井葉子訳, pp.142-143)
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コミュニケーション能力を認識するにもかかわらず,女性が企業を代表する人間としては 認めていない。さらに,中国特有な背景を有する共産党員であることが昇進に及ぼす影響が 顕著である。S社とT社についての考察では,企業の管理層において,共産党員であること は,役員・管理職への昇進の重要な条件であるが,女性にとつては不利になるような影響を 及ぼす。
こうした差別意識や登用制度の影響で,S 社や T 社のような国有企業においての女性は 能力があっても,強い昇進意識を持っても,結局,企業の登用制度に潜在する「権力」に阻 まれるため,ミドル管理職までしか昇進できず,一生補佐的な役職にとどまっている傾向が 強い。
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