第 4 章 事例でみる国有企業における女性役員・管理職の登用の実態
2. 女性役員の登用が進んでいる中国企業の登用現状
2010年第5期の『中国企業家』では,中国A株に上場している企業のなかでは,女性役 員あるいは女性管理職がいる会社は 1107 社であり,全体の企業の約 67%を占めている一 方,登用されていた女性役員・管理職は1980人にとどまった。そして,職位が公開された 776人の女性のなかで,経営意思決定権を有する「取締役兼総経理」は10名(1.29%),「取 締役」は54名(6.96%),合計64名(8.25%)となっている。一方,女性役員・管理職の 登用を業種別でみると,女性役員・管理職を登用している最も多い業種は,「不動産」93社
(8.4%)であることがわかった179。
表4-1によると,2010年において,取締役会の女性が5人を超えている上場企業は7社 であった。企業を業種別でみると,そのうちの6社は,サービス業であり,とくに不動産業 に集中している特徴がみられる。また,企業の所有形態をみると,民間企業が6社,国有企 業が 1 社となっている。全体的に民間企業のほうが女性役員の登用率が高いといえるが,
国有投資機構が最大の株主として民間企業に進出することは無視できない。
2011年以後,「綱要」の実施に伴い,中国企業における女性役員・管理職の登用が推進さ れるはずであるが,一体,当初女性役員の登用が進んでいる上位 7 社の登用現状はどうな っているか。ここでは,2010年に取り上げられた女性役員比率のもっとも高い7社の上場 企業について,最新のデータ(表 4-1)をとおして,女性役員の登用の変化をみてみよう。
表4-1 女性役員が最も多い上場企業の登用現状(2010,2016)
179 施星輝・曾蘭(2010)pp.92-94
180 2016年6月16日に確認された最新の結果である。企業の意思決定権にかかわらず,取締役会につく すべての女性を対象として取り扱う。
181 この取締役は,意思決定権のある取締役を指す。「独立取締役」,「外部取締役」,「取締役会秘書」,
「施行役員」,「監査役」などの企業の意思決定権を持たない職務は含まれていない。
(現在名) 企業名
2010年取 締役合計(人)
2010年女 性取締役(人)
2016年女 性取締役
180(人)
2016年 実際の女性取締役
181(人) 注
深セン世紀星
源 15 6 5 代表取締役1人 取締役2人 西安開元
(国際医学) 9 5 4 代表取締役1人
副代表取締役2人 外国キャリア女性役員 2名
青島双星 9 5 1 0 独立取締役
(会計士)
101
(出所)『中国上場企業統計年鑑』(2010),巨潮資訊ウェブサイト,鳳凰財経ウェブサイト より筆者作成。
第1に,女性役員の登用数の変化について検討することにしたい。2010年の「女性取締 役」の数は7社合計で36人であったが,2016年では,その6割にも達していない20人ま でに減ってきた。ハルビン工大以外のすべての企業における女性役員の人数は,2010年に 比べて減少している。とくに,上海聯華合繊(国新能源)は,5人から0人,青島双星とST 華控は5人から1人,という女性役員の激減現象が目立つ。この結果によると,中国企業 における女性役員・管理職の登用状況は,国家の促進政策の施行にかかわらず,現実では急 速に悪化しているといえる。
第2に,女性役員の職位についての検討を行うことにしたい。20人の女性役員のうち,
意思決定権のある取締役は11人,意思決定権のない独立役員や財務責任者は9人となって いる。上述した女性役員が激減した 3 社において,意思決定権のある女性取締役が存在し ていない。すなわち,女性が役員層に登用しても,企業の意思決定権を持つというわけでは なく,意思決定権のない職務,例えば監査役などに就く可能性がある。
第3に,企業の所有形態により女性役員の登用の変化をみてみると,2010年女性役員5 人以上を登用する国有企業は 2社であったが,現在では 1社しかない状況となっている。
国有企業は本来,国が推進する様々な政策を積極的に実行しなければならないが,現実から みると,かえって国有企業が女性役員の登用政策を違反・無視しているのである。この問題 が起こった原因として,一つ目は,国有企業において,誰がどのような基準に基づいて女性 の役員・管理職の登用を判断するという登用制度が明確されていないため,女性がこの不透 明,かつ差別のある基準により落とされるからである。二つ目は,「綱要」のなかで,目標 だけ明示され,ペナルティーについての規定がないため,女性役員・管理職の推進政策が企
上海聯華合繊
(国新能源) 11 5 0 0 国有企業
ハルビン工大 9 5 5 取締役3人
銀川新華百貨 9 5 4 取締役2人 独立取締役2人は女性 役員外国留学・キャリ ア経験がある。
ST華控 9 5 1 0 独立取締役
(会計士)
102 業の管理層に重視されていないからである。
第 4 に,企業の取締役会における女性取締役と企業の統治構造との関係について検討を 行うことにしたい。
(1)政治的身分を重視する企業
表4-1で示したように,現在,7社のうち,意思決定権のある女性役員は合計11名であ るが,少なくとも6人が共産党員の政治的身分を有している。また,共産党員の女性を役員 として登用した 2 社の民間企業は,いずれも社会主義計画経済時期の国有企業の改革をと おして設立した株式会社であるため,企業の統治構造は従来の旧国有企業のままで,企業側 は共産党員という政治的身分を前提として役員を登用した可能性が高い。
(2)キャリア・能力を重視する企業
上述のように,女性たちは企業の取締役会に登用する際,政治的身分という要件が重要で あるが,一方,その基準を採用せず,役員のキャリアや能力に基づいて女性役員を登用する 1 社の民間企業182もある。例えば,「西安開元」の現役取締役 A は,アメリカ企業 ALL
LIFE.INC,香港企業EAST MILE INVESTMENT LIMITEDにおいてキャリア経験をし
たゆえに,「西安開元」社の代表取締役として登用された。また,共産党員でない「銀川新 華百貨」の女性独立取締役C(1987-1991年立教大学の経済学修士学位を取得している)及
び M(イギリスのバーミンガム大学の会計学修士学位を取得している)のケースから,中
国のほとんどの企業において,個人能力やキャリア経験で取締役会に入ることが可能であ る。
上記の分析によって,中国の上場企業における女性役員の登用の促進要因について,以下 の諸点にまとめることにした。第1に,国家が推進する政策は,ミドル管理職においての効 果はあるが,意思決定権の役員層においての効果はない。第2に,能力主義に基づいた一部 の民間企業の登用基準は,技術者の女性を独立取締役として登用する可能性は高いが,意思 決定権の取締役として登用する可能性は低い。第 3 に,企業の意思決定権を持つ女性役員 にとって,政治的身分が重要である。第4に,国有企業,あるいは国家資本がある民間企業 の支配権は,国家にコントロールされるため,明文化されていない役員・管理職の登用制度 が党幹部の登用基準に強く影響される。つぎでは,中国の国有企業における女性役員の登用 の実態について,実際のインタビュー調査をとおして説明・明らかにすることにしたい。
182 「西安開元」の株主は,すべて民間企業や個人である。
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