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女性役員・管理職への登用要因の検討

第 5 章 事例でみる民間企業における女性役員・管理職の登用の実態

3. 女性役員・管理職への登用要因の検討

以上のように,中国の民間企業における女性の役員・管理職への登用の特徴を確認した 女性役員・管理職の登用要因について,民間企業の権力機構はどのような役割を果たして おり,役員・管理職における女性登用の「比率」「機会」「権力」という三つの要因に影響 を与えたのか。つぎではこの点について検討を行う。

第1に,企業の役員・管理職における女性の登用の「比率」について,A 社が1人,B 社が2人,C社が2人,K社が1人である。登用人数だけみると,B社とC社の女性管理 職の割合は比較的に高い。しかし,B社とC社において,2人の女性取締役の1人は独立 取締役であるため,企業の最終的意思決定権を持っていない。その結果,本章で取り上げ た 4社の取締役会において,登用された女性は,いずれも 1人しかいない。したがって,

男性が多い取締役会において,女性がトークンとして取り扱われる可能性がある。一方,

民間企業における女性にとって,自分の能力を高めることと共に,いかに企業の取締役会 の信頼を得て昇進・登用の「機会」を増やすかが重要である。

第2に,企業の役員・管理職における女性の登用の「機会」について,女性に関しての 社会的認識と昇進・登用の促進に関する政策による影響を検討することにしたい。女性の 価値や女性の能力に対する認識について,A社の人事担当者および,B社,C社,K社の 取締役の回答によると,民間企業では,国有企業S社の代表取締役のように女性差別の意 識を持つ役員・管理職は少ない。すなわち,民間企業の役員・管理職が女性の能力や価値 を判断する基準は,国有企業でみられた身分や出身というものに比べて,公平であると言 える。しかし,民間企業において,国家が提唱した「綱要」などの女性役員・管理職登用 の促進政策は,企業の取締役に収益と直接関係していないものとして認識されたため,実 施せず放置される。つまり,国家が実行した福祉的特質のある女性役員・管理職登用の促 進政策は,競争主義に基づいた民間企業の登用慣習と矛盾しているため,女性の役員・管 理職への登用「機会」は,最終的に企業側の登用基準によりコントロールされる。

第3に,女性の役員・管理職への昇進と「権力」の関係についての考察を行うことにし たい。国有企業と同様に,中国の民間企業において,女性の登用を決定する権力は企業の 権力機構,すなわち取締役会に存在している。株主の持株率が株主の取締役会における支 配力を決定するものである。したがって,企業の所有形態は民間企業といっても,国家・

地方政府が企業に投資し,企業の主要な株主になった場合では,当該企業を国有企業のよ うに支配する可能性がある(A社の事例)。その影響で,企業における女性役員・管理職の

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登用基準は,すべて株主の国有企業に支配されてしまう。

国有資本のない民間企業における女性役員・管理職登用の選考基準について,企業の取 締役会により様々な選考方法があるが,最終的に,(1)候補者の女性は企業の収益に役立 つのか,(2)候補者の女性は信頼できる人間であるのか,という二つの条件は女性登用の 可否を決定する根本的な要因である。

B社とC社において,企業の資本の流出を防止し,経営管理を徹底するため,代表取締 役は,自分の配偶者や子ども,ないし親戚を取締役会に登用する方法を採用する。この場 合,女性の役員・管理職への登用に影響する「権力」は,代表取締役との人的ネットワー クであるといえる。女性の業務能力,政治的身分,企業に設置された党組織における職務 経験に関係せず,企業の代表取締役が最終的意思決定権を持つわけである。換言すると,

B 社やC 社では,女性が企業の所有者・支配者との家族関係・血縁関係の構築を通じて,

役員・管理職への登用「権力」を獲得した。しかしながら,このような「権力」は,企業 の支配者との家族関係・血縁関係がない女性の人材にとって,役員・管理職への昇進の大 きな阻害要因となる。

B社・C社に対して,K社の女性取締役K1は,自身の努力をとおして,K社における 昇進の信用を獲得した。また,K 社の役員・管理職の選考基準においては,性別,年齢,

身分・出身,血縁に関係なく,完全に能力主義による登用を行っている。このような登用 制度において,女性の役員・管理職への登用に影響する「権力」は,女性の昇進を阻害す るものではなく,女性の能力を引き出す有益な「権力」といえる。

小括

本章では,中国民間企業における女性役員・管理職の登用実態について確認・検討を行 い,民間企業における女性役員・管理職の登用率が低いこと,および,女性の登用人数が ほとんど2人以下であることについて明らかにした。

民間企業 A 社における登用制度についての考察をとおして,明文化されていない A 社 の役員・管理職の選考基準は,事実上,A社の最大の株主である国有企業により決定され たものであることがわかる。また,B社とC社において,取締役会が役員・管理職の登用 について最終意思決定権を持つが,実際の登用状況からみると,代表取締役との人的ネッ トワークのない女性の登用可能性が低いと判断できる。

第4章及び第5章の内容をとおして,筆者は中国企業における役員・管理職の登用プロ

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セスについて以下のようにまとめた。第1に,企業の事実的支配者,いわゆる企業の最大 の株主は,企業の取締役会における指導的な地位を獲得するとともに,役員・管理職の登 用の意思決定権を支配している。第2に,企業の支配者はそれぞれの登用基準に基づいて,

役員・管理職の候補者の信頼性を確認する。支配者は国家・政府の場合では,候補者の信 頼性を確認する基準は「政治的身分」「出身」「党組織における職務経験」などが挙げられ る。支配者は個人の場合では,「人的ネットワーク」,「家族関係」や「血縁関係」を採用す る民間企業が多いが,能力主義を採用する民間企業もみられる。第3に,企業の支配者は,

企業のガバナンスシステムをとおして,上述した役員・管理職の登用制度を実施するが,

実施の過程が公開されないケースもある。最後に,選出された候補者が企業の役員層,ト ップ管理職,あるいはミドル管理層に配置される。それについて,候補者の意思より,企 業の支配者の判断で職務に配置されることが多い。

これらの事例を総合すると,中国企業における女性役員・管理職の登用について,カン ターの理論を適用したのは民間企業のわずかな一部としかいえない。とくに,企業の最終 的意思決定権を持つ役員・管理職の登用の実際を見ると,企業の権力構造は女性の昇進・

登用の過程で大きな阻害要素として存在していることは否定出来ない。

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終 章

本研究は企業における「役員・管理職の登用制度」と国家が実施した「労働政策」という 二つのファクターを組み入れた女性役員・管理職の登用制度の分析枠組をもとに複数の企 業調査を実施し,企業の統治構造の特徴および女性の役員・管理職登用の実態を明らかにし た。以下,本研究の結論と今後の研究課題を述べる。