3.75 実務上、比較可能性分析に当たっては、複数年度データを用いた検討が有益
であることが多いが、これは一律に要求されるものではない。複数年度データは、そ れにより移転価格算定分析に価値を付加する場合に使用されるべきである。複数年度 分析の対象年数について規範的な指針を定めることは適切ではないだろう。
3.76 関連者間取引を取り巻く事実と状況を完全に理解するためには、一般に、調 査対象年度のデータ及びそれより前の年度のデータを検討することが有益であろう。
これらのデータを分析することにより、移転価格の算定に影響を与えたと思われる
(又は影響を与えたはずの)事実が判明することがある。例えば、過去数年度のデ ータを利用することにより、ある取引に関して納税者が申告した損失が、類似する 取引の一連の損失の一部であったのか、前の年度における特別な経済状況によって コストが増加したことによるものか、それとも、ある製品がライフサイクルの終わ りにあったという事実を反映しているのか、といったことが判明する。このような 分析は、特に取引単位利益法を適用する場合に有益であろう。損失の状況について の調査における複数年度データの有用性に関するパラグラフ 1.131参照。また、複数 年度データによって、長期契約に関する理解を向上させることができる。
3.77 また、複数年度データは、比較対象の関連事業や製品ライフサイクルに関す
る情報の提供にも役立つ。事業や製品ライフサイクルにおける差異は、比較可能性 の判断において評価しなければならない移転価格算定上の条件に重要な影響を与え る場合がある。過年度のデータから、比較可能性を有する取引を行う独立企業が、
比較可能な経済状況の下で同様に影響を受けたか否か、あるいは、過年度における 様々な条件が、比較対象として使えないほどその価格や利益に重要な影響を与えた か否かが判明することがある。
3.78 また、複数年度データを利用すると、例えば、調査対象の関連者間取引にお
ける比較可能性の特徴との重要な差異を示唆しうる結果を把握し、場合によっては 比較対象の排除につながったり、第三者情報の異常性を検出することにより、非関 連者の比較対象の選定プロセスを向上できることもある。
3.79 複数年度データの使用は、必ずしも複数年度の平均を使用することを意味す
るわけではない。しかし、複数年度データと平均を使用することによって、幅の信 頼性を向上することができる場合もある。統計的手法に関する議論についてはパラ グラフ3.57-3.62参照。
C コンプライアンスの問題
3.80 比較可能性分析に当たり、納税者が比較対象候補とその詳細な情報を入手す
るためにどの程度の負担とコストを負うべきかという問題がある。情報収集に関す るコストは、特に中小企業にとって現実的な問題となっている可能性があるだけで なく、多くの国で極めて数多くの関連者間取引を行っている多国籍企業にとっても 問題となっている可能性がある。パラグラフ 4.28 及び第 5 章は、比較可能性の文書 化を合理的に適用する必要性について明確な認識を述べている。
3.81 比較可能性分析に当たっては、関連があるかもしれない情報ソースの全てを 網羅的に検索する必要はない。納税者と税務当局は、比較対象取引が合理的に信頼で きるか否かについて、判断を行うべきである。
3.82 取引の規模、その複雑性、関係するリスクの水準、それが安定した環境で行
われているか変化している環境かを踏まえ、移転価格を設定し、モニタリングし、
検証するプロセスを確立することは、納税者にとっての優れた慣行である。このよ うな実務的なアプローチは、実務的なリスク評価戦略又は慎重な事業経営の原則に 適合するものであろう。実務上、このことは、納税者が、相対的に多額又は重要で ない関連者間取引を裏付ける比較対象に関する情報を把握する場合、相対的に少な い労力を投入することが合理的かもしれないということを意味する。また、安定し た状況で行われかつその特徴が同一又は類似したものであり続ける単純取引の場合 には、詳細な比較可能性分析(機能分析を含む)を毎年度行う必要はないかもしれ ない。
3.83 中小規模の企業も、移転価格の分野に入ってきており、国境を越える取引の
数は増加し続けている。独立企業原則は、中小規模の企業及び取引にも等しく適用 されるが、移転価格算定に関する個々の事案への合理的な対応を見出すためには、
実務的な解決策が適切であるかもしれない。
第4章 移転価格に関する紛争の回避及び解決のための税務執行上のアプロ-チ
A 序
4.1 本章は、移転価格に関する紛争が、納税者と税務当局間及び異なった税務当 局間に生じる場合に、これらを極小化及び解決するために適用することができる 様々な執行上の手続を検討する。これらの紛争は、たとえ本報告の指針に従って独 立企業原則を誠実に適用しようと努力しても発生するかもしれない。いくつかの移 転価格問題は複雑であり、また、個別事案の状況の解釈及び評価の困難性を考慮す ると、納税者と税務当局は、調査対象の関連取引に係る独立企業間条件について異 なった判断に至る可能性がある。
4.2 二以上の税務当局が独立企業の条件の判断において異なった立場を取った場 合には、二重課税が発生するであろう。二重課税とは所得が異なった納税者の手中 にある場合(関連者間の経済的二重課税)、又は所得が同一の法人格の手中にある場合 (恒久的施設に対する法的二重課税)において、当該同一の所得が、二以上の税務当局 によってその課税標準に取り込まれることを意味する。二重課税は望ましいもので はなく、可能な限り排除されるべきである。なぜなら、それは貿易や国際投資の流 れの発展に対して潜在的障壁をつくるからである。一以上の法的管轄の課税標準に 所得が二重に含まれるのは、必ずしもその所得が実際に二回課税されることを意味 するものではない。
4.3 本章では移転価格の調整によって引き起こされた紛争の解決や二重課税の 回避のためのいくつかの税務執行上のアプローチを検討する。B 節では税務当局に よる移転価格の遵法的行動にかかる施策、特に、調査方法、挙証責任及び罰則につ いて検討する。C 節では対応的調整(OECD モデル租税条約第 9条第 2項)及び相互協 議(同第 25条)について検討する。D節では二つ(又はそれ以上)の税務当局が移転価格 問題(及びその他の国際的な課税問題)の把握認識、手続及び解決を促進するために同 時調査を活用することについて述べる。E 節及び F 節では納税者と税務当局との間 の移転価格紛争を極小化するためのいくつかの可能性について述べる。E 節では特 定の納税者のためのセーフハーバーを開発することについて述べ、F 節では事前確
認(APA)を扱い、ここでは納税者が特定の関連者間取引について適用する移転価格
算定方法や条件を事前に決定することの可能性について述べる。G 節では国家間の 移転価格紛争を解決するための仲裁の利用について簡単に考察する。
B 適切な移転価格の算定を確保するための対応
4.4 租税の遵法的行動の施策は各加盟国においてその国内法及び国内執行手続に 基づいて開発され、実施されている。国内における多くの租税の遵法的行動の施策 は次の三つの主要な要素からなっている。a)非遵法の機会を減少させること(例えば、
源泉徴収及び情報申告を通じて)、b)遵法的行動を積極的に支援すること(例えば、教 育及び手引の刊行を通じて)、c)非遵法的行動に対してマイナスのインセンティブを 与えること。主権の問題及び多様な租税体系の特殊性に適合するための結果として、
租税の遵法的行動の施策は各国の域内にとどまる。しかしながら、独立企業原則を 公平に適用するには、納税者の十分な保護を保証して、過度に厳格な手続上の規則 を有する国へ税収が移動しないことを確実にするような明確な手続上の規則が求め られる。しかし、ある国で調査を受けている納税者が多国籍企業グループのグルー プメンバー一員である場合には、納税者を調査している国の国内での租税の遵法的 行動の施策は他の税務管轄に影響をもたらすこととなる。移転価格問題の場合は特 にこのことがいえる。というのは、移転価格は関連者間取引に関与する関連者の税 務管轄において徴収される税と密接な関係を持つからである。同じ移転価格が他の 税務管轄で受け入れられない場合、多国籍企業はパラグラフ 4 パラ.2 で説明される ように二重課税を被るかもしれない。このため、税務当局は、国内的な租税の遵法 的行動の施策適用の際に、独立企業原則及び移転価格の遵法的行動規則の、他の税 務管轄に対する潜在的な影響を意識すべきであり、かつ、税務管轄間での公正な所 得配分と納税者に対する二重課税の防止に努めるべきである。
4.5 本節では税務管轄が納税者及び他の税務管轄に対して公正である形で、移転 価格規則を執行することを助けるために、特別な考慮を受け入れるべき移転価格の 遵法的行動の三つの側面について述べる。その他の租税の遵法的 行動の施策は OECD 加盟国において共通して用いられている(例えば、税務当局が求めることがで きる情報が提供されない)場合に、訴訟上及び証拠上の制裁を用いる一方で、これら の三つの側面は、他の税務管轄に存在する税務当局が相互協議にどのようにアプロ ーチするのか及び当該税務当局が自国の移転価格規則に対する遵法的行動を確保す ることに関して、どのように執行上の対応を決定するかについてしばしば影響を与 えることとなる。その三つの側面とは、調査の実施、挙証責任及び罰則制度である。
これら三つの側面の評価は、それぞれの租税制度の性格に応じて必然的に異なるの で、全てのケースに当てはまる画一的な原則あるいは問題を述べることは不可能で ある。このため、これに代わり、本章は、発生するかもしれない問題の類型につい