5.7 納税者が、明確で説得力があり、一貫かつ的確な移転価格のポジションを求め られることで、移転価格文書化は、コンプライアンス文化の構築に資するであろう。
納税者の移転価格文書が入念に作成されたものであれば、税務当局は、納税者が税 務申告書に記載の税務ポジションを分析していること、入手可能で比較可能なデー タの検討を行っていること、移転価格のポジションが一貫していることの確信を得 るかもしれない。さらに、同時文書化の要請は、納税者のポジションの完全性を裏 付けし、納税者が自らのポジションを事後的に正当化しないようするのに資するで あろう。
5.8 このコンプライアンスの目的は、二つの重要な手段によってサポートされるだ ろう。第一に、税務当局は、移転価格の同時文書化を要求することができる。これ は、取引時点又は遅くとも取引が行われた事業年度の税務申告の作成・提出時まで に、移転価格文書を作成するということを意味する。コンプライアンスを促進する 第二の手段は、移転価格文書を迅速で正確に作成することによって報いられるよう な形で罰則制度を定め、納税者が移転価格のポジションを迅速、入念に検討するこ とへのインセンティブを設けることである。文書化に関連する提出要件及び罰則規 定については、D節で詳述する。
5.9 理想的には、納税者が、入念に作成した移転価格ポリシーの根拠を示す機会と して、移転価格文書を活用することが、文書化の重要な目的に適うのであろうが、
コスト、時間的な制約、人材の取り合いといった問題によってこうした目的が達成 されないこともあり得る。従って、最も重要な事項に集中できるよう、各国が文書 化要請を合理的、かつ重要な取引に絞り込むことが重要である。
B.2 移転価格のリスク評価
5.10 効果的なリスク把握・評価は、移転価格調査にふさわしい事案の選定や、重 要な論点の絞り込みに当たっての重要な初期段階である。税務当局のリソースは限 られていることから、調査のなるべく早い段階において、納税者の移転価格上の取 決めが、より詳細な検討や税務調査リソースの投入に値するのか否かを正確に評価 することが重要である。特に移転価格上の問題点(一般的に複雑な上、事実関係の 積み重ねである)に関しては、効果的なリスク評価が、対象を絞り込んだ効率の高 い調査を行う上で不可欠な前提となっている。移転価格リスク評価に係るOECDハン ドブックは、このようなリスク評価検討に当たっての有益なツールである。
5.11 税務当局が、移転価格リスク評価を適切に実施するには、早い段階において、
関連性・信頼性の高い十分な量の情報へアクセスできることが必要である。関連す る情報ソースは多数存在するが、移転価格文書は、重要な情報ソースの一つである。
5.12 納税者及び取引の移転価格リスクの把握・評価に使用される情報ツールや情 報ソースは、多数存在する。例えば、(税務申告書と共に提出される)移転価格報 告様式、特定のリスク分野に係る移転価格の義務的な質問票、納税者の独立企業原 則の遵守状況を示すのに必要な支援的な証拠を特定する一般的移転価格文書、税務 当局と納税者間の協調的な話し合いなどがある。いずれの情報ツールや情報ソース も、そもそもの同じ考え方に対応したものと思われる。すなわち、税務当局は、正 確で情報に基づいた移転価格リスク評価を行うため関係情報に早期段階で容易にア クセスできる必要があるということである。質の高い移転価格リスク評価が効率的 に、適切で様々な信頼できる情報に基づいて行われることを確保することは、移転 価格文書化ルールを設定する際の重要な検討要素の一つとなるべきである。
B.3 移転価格調査
5.13 移転価格文書化の第三の目的は、税務当局が詳細な移転価格調査を実施する ため、有益な情報が提供されることである。個々の移転価格調査においては、事実 関係の積み重ねが必要であり、複数の取引やマーケットの比較可能性について困難 な評価を伴うことが多く、財務情報、事実関係その他業界情報に関する詳細な検討
を必要とする場合もある。調査において様々な情報ソースから十分な情報を入手で きることが、関連者間取引の調査の促進と、税務当局による移転価格税制執行の上 で重要である。
5.14 適切な移転価格リスク評価により、移転価格上の問題点について、詳細な移 転価格調査が必要であると判断された場合、税務当局は、合理的な期間内に納税者 が保有する関係文書や関係情報を、全て入手する権限を有しなければならないこと は明らかである。これらの情報には、納税者の事業や機能の情報、関連者間取引を 行う各関連者の事業、機能及び業績に関する情報、内部比較対象取引を含む比較対 象候補取引の情報、比較対象候補となる非関連者間取引及び非関連者に関する事業 及び業績に関する文書が含まれる。このような情報が移転価格文書に含まれる限り、
特別に情報や文書を作成する手続きを避けられるかもしれない。しかし、調査に必 要となる可能性のある全ての情報を前提に、移転価格文書化を規定することは、行 き過ぎで負担が重く、非効率であることを認識しなければならない。その結果、税 務当局が移転価格文書に含まれていない情報を入手したいという状況は、必然的に 発生する。従って、税務当局による情報へのアクセスは、移転価格リスク評価にお いて依拠した移転価格文書のみに限定されるべきでも、当該文書によって限定され るべきでもない。各国は移転価格調査目的で特定の情報の保存を求めるが、それに 当たっては、税務当局による必要性と、納税者によるコンプライアンス上の負担と のバランスを考慮すべきである。
5.15 移転価格調査に必要な資料など情報が、調査対象の関連者ではなく、多国籍
企業グループの他のメンバーに保有されているケースはよくある。多くの場合、必 要な情報は、税務当局による調査実施国の国外に存在する。そのため、税務当局は、
直接又は情報交換などの情報共有により、国境を越えて拡がる情報を入手できるこ とが重要である。
C 移転価格文書化の三層構造アプローチ
5.16 B節に記載された目的を達成するために、各国は標準化された移転価格文書を
採用すべきである。本セクションでは、(i)多国籍企業グループのメンバー全体に 共通する基本情報を含むマスターファイル、(ii) それぞれの企業の重要な取引に 特化して記載されるローカルファイル、(iii) 多国籍企業グループの所得や納税額 のグローバルな配分状況、及び経済活動場所の指標に関する情報を含む国別報告書 から構成される三層構造の移転価格文書について記載する。
5.17 この移転価格文書に係る取組は、税務当局が効率的で確実に移転価格リスク
評価分析を行うための関連性・信頼性のある情報を提供するとともに、税務調査上
必要な情報を記載するプラットフォームを提供する。また、納税者に、重要な取引 に係る独立企業原則の遵守を有益に検討し説明するための方法やインセンティブを 提供する。