1.139 パラグラフ 1.110、1.112 及び 6.120 は、ビジネスを展開する地理的なマー ケット(市場)の特徴が、比較可能性及び独立企業間価格に影響を与えうることを 示している。地理的市場間の差異の評価及び適切な比較可能性の調整に当たり、難 しい問題が生じることがある。この問題は、特定の市場での事業活動上のコスト削 減に関するものである。これは、ロケーション・セービングと言われることもある。
その他、ロケーション・セービングには直接関係しない現地市場のメリット・デメ リットに関して、比較可能性の問題が生じることがある。
D.6.1. ロケーション・セービング
1.140 パラグラフ 9.126-9.131 では、事業再編を背景に、ロケーション・セービン
グの取扱いを論じている。これらのパラグラフで論じられている原則は、基本的に、
事業再編だけではなく、ロケーション・セービングが存在する全ての状況に適用さ れる。
1.141 パラグラフ 9.126-9.131 の指針に従い、ロケーション・セービングが複数の
関連者間でどのように配分されるかを決定する場合、以下の検討が必要になる。そ れは、(i)ロケーション・セービングが存在するか、(ii)ロケーション・セービ ングの金額、(iii)ロケーション・セービングがどの程度多国籍企業グループのメ ンバーに配分されるか、どの程度非関連顧客又はサプライヤーへ配分されるか、及 び(iv)ロケーション・セービングが非関連顧客又はサプライヤーに完全に配分され ずに残る場合に、類似の状況で、事業を行っている非関連者がこの残ったロケーシ ョン・セービングをどのように配分するかである。
1.142 機能分析により、顧客又はサプライヤーに配分されないロケーション・セ
ービングの存在が明らかになった場合、そして現地市場における比較可能な企業や
取引が把握可能な場合、現地市場の当該比較対象は、配分されずに残ったロケーシ ョン・セービングが複数の関連者間でどのように配分されるべきかに関して、最も 信頼し得る指標となる。したがって、信頼し得る現地市場の比較対象が存在し、独 立企業間価格の算定に利用可能である場合、ロケーション・セービングのためだけ の比較可能性の差異調整は特に必要ない。
1.143 現地市場において信頼に足る比較対象が存在しない場合、多国籍企業グル
ープのメンバー間におけるロケーション・セービングの存在や配分に関する決定、
ロケーション・セービングを踏まえた比較可能性の調整は、パラグラフ 9.126-9.131 に記載する、関連者の果たす機能、引受けるリスク及び使用する資産など関連する 事実関係全ての分析に基づくべきである。
D.6.2. その他現地市場の特徴
1.144 ビジネスを展開する現地市場の特徴は、関連者間取引の独立企業間価格に
影響を与えることがある。ロケーション・セービングは現地市場の特徴に起因する が、ロケーション・セービングに直接は関連しない比較可能性の懸念にも現地市場 の特徴に起因するものがある。例えば、特定の問題に関して行われた比較可能性分 析及び機能分析により、製品が製造又は販売される地理的市場に関する特徴、市場 の購買力や家計の製品選好、市場が拡大又は縮小するか、市場の競争度合や市場の 価格・利益率に影響を与えるその他の要因の度合が示唆されるかもしれない。同様 に、比較可能性分析及び機能分析により、現地国のインフラの相対的な利用可能性、
訓練又は教育を受けた労働者層の相対的な利用可能性、収益性の高い市場への近接 性、事業展開している地理的市場における類似の特徴によって、考慮すべき市場の メリット・デメリットが生じることが示されるであろう。比較可能性を向上させる ような信頼できる調整を特定できるのであれば、このような要因について、適切な 比較可能性の差異調整が、行われるべきである。
1.145 このような現地市場の特徴に対して比較可能性の差異調整が必要かを評価
する場合、最も信頼し得るアプローチは、類似する機能を果たし、類似するリスク を引き受け、類似する資産を使用する独立企業間の当該地理的市場における比較可 能な非関連者間取引に関するデータを参照することである。このような取引は関連 者間取引と同じ市場条件で行われていることから、現地市場における比較対象取引 が把握できる場合、現地市場の特徴に対する具体的な調整は不要とされるべきであ る。
1.146 合理的に信頼し得る現地市場の比較対象を把握できない場合、現地市場の
特徴に対する適切な比較可能性の差異調整の決定に当たっては、関連する事実及び
状況を全て検討するべきである。信頼し得る現地市場の比較対象を把握できない場 合、ロケーション・セービングと同様、以下について検討する必要がある。(i)市 場のメリット・デメリットが存在するか、(ii)他の市場において把握された比較対 象の売上、原価又は利益と比較した場合の、現地市場における売上、原価又は利益 の増減額は、市場のメリット・デメリットに起因するか、(iii)現地市場の特徴に よる便益又は負担がどの程度非関連者の顧客又はサプライヤーへ配分されるか、
(iv)現地市場の特徴に起因する便益又は負担が存在し、非関連の顧客又はサプライ ヤーに完全には配分されずに残る場合、類似の状況で事業活動を行う非関連者がこ のような残った便益又は負担を非関連の顧客及びサプライヤー間でどのように配分 するかである。
1.147 合理的に信頼し得る現地市場の比較対象を描写できない場合、複数の異な
る文脈において、現地市場の特徴に関する比較可能性の差異調整が求められるかも しれない。場合によっては、市場のメリット・デメリットが関連者間で譲渡される 商品又は提供される役務の独立企業間価格に影響を与えることがある。
1.148 また、関連者間の事業再編又は無形資産の譲渡によって、一方の取引当事
者が現地市場のメリットを享受するかもしれないし、事業再編又は無形資産の譲渡 がなければなかったデメリットを負担することになるかもしれない。このような場 合、予期される現地市場のメリット・デメリットが、事業再編又は無形資産の譲渡 に関する独立企業間価格に影響を与えることがある。
1.149 移転価格分析に当たり、現地市場の特徴(無形資産ではない)と、市場で
のビジネスに必要な契約上の権利、政府の許認可あるいはノウハウ(無形資産にな り得る)との区別は重要である。場合によっては、この種の無形資産は、第 6 章に 示した移転価格分析に当たって、考慮されるべき重要な価値を有しているかもしれ ない(なお、第 6 章 B では、無形資産の開発に関する機能、資産及びリスクの対価 に関する指針を示している)。契約上の権利及び政府の許認可がライバル企業の市 場への参入を制限し、その結果、取引当事者間で配分される現地市場の経済的成果 に影響を与える場合もあれば、市場に参入するための契約上の権利又は政府の許認 可が、多くの又は全ての市場参入希望者に開放されている場合もある。
1.150 例えば、ある国では、投資マネジメントビジネスの展開にあたり、規制許
認可が必要であり、このような許認可を付与する外資系企業の数を制限していると する。比較可能性分析及び機能分析により、許認可取得の際には、適切な政府機関 に対して、ビジネスを展開する事業者の経験及び資本が適切な水準であることを、
信頼に足る方法によって証明する必要があることが示されている。このような許認 可を要する市場は、独自の特徴を持つ市場でもある。例えば、年金や保険契約の仕
組みにより大規模な資金プールが生まれる市場では、国際的な投資分散が必要であ り、質の良い投資マネジメントサービスと海外金融市場の知識に対して、大きな需 要が生まれることから、ここでのサービス提供には非常に高い収益性が見込まれる。
さらに現地市場のこのような特徴が、一定の種類の投資マネジメントサービスの対 価と利益率に影響を与えることが比較可能性分析によって示されている。こうした 場合、許認可保有者は、規制要件がない場合に比べて、対象無形資産(つまり、投 資マネジメントサービスを提供するための規制許認可)によって、現地市場独自の 特徴から得られる便益を含めより大きな便益を得ることができるだろう。しかし、
第 6 章 B で述べるとおり、個別の事案で規制許認可の影響を評価するに当たっては、
許認可取得に必要な能力の提供における、現地市場における現地のグループのメン バーと現地市場外における他のグループのメンバーの両方の貢献を検討することが、
重要かもしれない。
1.151 また、比較可能性分析及び機能分析により、地理的市場で特定の役務を提
供する前提条件として、政府の事業許認可が必要と示されることがある。しかし、
このような許認可は適格な申請者であれば簡単に取得できるため、市場における競 争相手の数を制限する効果はない。この場合、許認可要件は市場への重大な参入障 壁ではないため、このような許認可を保有しても、現地市場ビジネスから生じる便 益の独立企業間での配分に何の影響も与えないだろう。