第6章 韓国の大学での事例: ミレ先生の事例
2.1 自分の目指すものが揺さぶられる
2012年1学期のミレ先生の実践は、E大学において必修単位となっている第二外国語 科目の1つである日本語科目であり、ゼロ級から学習をスタートする学習者を想定した クラスである。E大学においては、1つの第二外国語科目を卒業年限まで8単位を取得し ないと卒業ができない(2012年当時)。開設されている第二外国語科目は、英語、日本語、
中国語などの11ヶ国語であるが、E大学の在学生は、上記の11ヶ国語のうち、1ヶ国語 を選択し、卒業まで8単位を必ず取得しなければならない。日本語は、その選択可能な 第二外国語のうち1つである。ミレ先生が2012年5月に担当していたそのような第二外 国語科目群の1つである。
簡単に2012年1学期のミレ先生の担当クラスについて説明する。このクラスは、1週 間に3コマが割り当てられている。そのうち、2コマは読解授業を、1コマは会話授業を
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行うことになっている。教科書は読解授業用の文法・本文・練習問題が中心となってい るもの1冊とその文型が使用された会話文が中心になっている会話授業用のもの1冊で、
計2冊の教科書を使用するように指定されている。ミレ先生は、この中で会話の教科書 を使用して進める会話の授業の改善に困難さを抱えていたため、「ピア・サポート」に 参加していた。
次は、具体的に授業の様子について述べる。2012年5月14日実施の初回の3CFでは、
2012年5月8日実施のミレ先生の会話の授業を対象としていた。対象となったミレ先生 の授業では、動詞の「ます形」を学習項目とする内容になっていた。まず、ミレ先生は、
授業開始とともに小テストを実施していた。先週の復習のためのものであった。成績に は反映されず、復習とウォームアップのためのものであるとミレ先生は3CFで説明して いた。学習たちが小テストを受ける際にミレ先生は出席を取っていた。学生が小テスト を受ける間に、ミレ先生は、教室前面に配置されているホワイトボードに会話文に使用 されている文法を板書しておき、小テスト終了後、その文法項目について説明をしてい った。この文法項目の説明は、2012年5月8日の授業では非常に冗長で、授業の中盤ま で続いていた。授業の中盤過ぎになって、学生たちを移動させてペアにしたが、授業が 終わるまでペア活動は無く、文法の説明が続いていた。学生たちに、誰一人も退屈な気 配は見られず、教師の説明を集中して聞い ていた。
2012年5月8日のミレ先生の授業は、教 師の説明が中心になっており、学生たちの 発言は教師についていくつかの文を読む以 外に無かった。しかも、この授業は「会話 の授業」であったのである。会話の授業に もかかわらず、学生たちが会話をする場面 は全く見られず、完全に文法の授業になっ ていた。これは、「ピア・サポート」開始 前に実施したインタビューからも分かった ように、ミレ先生は「文法が分からないと会話はできない」、「会話の原理としての文 法を教えることで、学生は難しがらない」という信念が実践にそのまま現れていると言 える。つまり、2012年5月8日の会話の授業で、ミレ先生は文法項目を丁寧に説明して から、ペア活動で勉強した文法項目を使って会話の練習をさせようと思っていたが、文 法の説明が冗長になりすぎて、結局、予定どおりに授業が出来なかったと推察できる。
2012年5月10日に同年5月8日のミレ先生の授業を対象としてナ先生と筆者で行った2 CFでは、ミレ先生のこの文法の授業になってしまった会話の授業について以下のよう なことを語り合っていた。以下に2012年5月10日のナ先生と筆者とで行った2CFを筆者 がまとめた資料の一部を紹介する。
図23 ミレ先生担当の会話クラスの授業の様子
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★よかった点★
・タスクについて丁寧にフィードバックをして、既習内容を随時確認する点。<ナ+崔>
・教師が権威的ではない点<ナ+崔>
・感心してしまうほど、学生たちがまじめでいい子ばっかりでした。韓国の高校と日 本の大学でもこれほど授業に集中してまじめに臨んでいる学生たちはいないかもしれ ないと思いました。<ナ+崔>
★考慮すべき点★
・会話の授業なのに板書が多すぎて、しかも板書に時間がかなり費やされていて、そ の間に学生たちは特にやることが無かったような印象でした。板書する内容はあらか じめパソコンを利用して準備できたのでしょう。<ナ>
・この日の授業を見た限りでは、学生たちの会話力の向上にどれほど役に立つか気に なりました。会話の授業というより講読か文法の授業に近い印象を受けました。<ナ>
・説明中心ではなく、活動中心の授業にしていたら、もっと会話の授業としてよかっ たのではないかなと思いました。<ナ>
・会話の授業なのに、教師の発言がほぼ9割以上で、学生たちの発言は1割程度のよう な印象を受けました。<ナ>
[提案]
・授業で「個人化」と「文脈化」を導入したらどうでしょうか。{「個人化」と「文 脈化」については3者面談(3CFのこと: 筆者注)でお話します}<ナ>
・補助教材としてフラッシュカードや絵カードを活用するのはどうでしょうか。<崔>
★正確さ中心の授業について★
・正確さ中心の授業は、学生たちが間違いを恐れるようにしてしまって、自由な発話 の妨げになる恐れがあるのではないかと心配になりました。<ナ>
・正確さよりは、耳でいっぱい聴いて、話して、自然と覚えるという体で身につける やり方もいいのではと思いました。<ナ>
<2012年5月10日の2CF紙媒体の資料から>(日本語訳)
上記の2CF資料を見れば分かるように、2CFでナ先生も、筆者もミレ先生の授業はと ても会話の授業とは思えなく、文法の授業としか考えられないことを話し合っていた。
この話し合いで、筆者は、ナ先生がミレ先生の実践を理解しやすくするように、ナ先生 にミレ先生の目指す実践は「文法マスター」であることを伝えた。この2CF資料は、ミ レ先生に電子ファイルとして送られ、ミレ先生はこの2CFを読んで吟味してから、201 2年5月14日にナ先生と筆者と集まって初回の3CFを行った。2CFでもらったアドバイス と関連し、3CFで筆者は、なぜ会話の授業で文法項目の小テストを受けさせているのか についてミレ先生に問いかけた。それに対するミレ先生の語りである。
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トピック<教育1-3>と<教育1-4>から(日本語訳)
ミレ先生:<前略>私はいつも1時間の授業でも、2時間の授業でもその授業で勉強したも のを必ず小テストを受けさせてるんですよ。10問、たった10問(笑)、さっき読解風と言 ったように、ひらがなを漢字に3つ、漢字をひらがなに3つ、それから勉強した文型表現 から作文4つ、これをやるのだから、学生たちは(教室に)入ってすぐ教科書を見てたんで すね、授業始まる前に…。ですから、何も考えないで来るんじゃなくて、前の授業で勉強 したものをもう1回確認させるために、私がそれを、それは全然成績には反映されないん ですけど、学生たちには当然平常点に入るって言って促していて、それで来たらすぐ(テ スト用紙を)渡して受けされてるんです。<中略>で、「はい、交換してください、自分の じゃないものと交換してください」と言ってから、1問目から学生たちに、<中略>それを 10問目まで(解答を)全部書いた後、学生たちに(交換採点を)やらせながら、自分がもう違 うものを、自分の文章じゃないんだから学生たちが確認をするんですよ、「これって合っ てますか」って、(解答と)違うものが書いてあったら、<中略>そうして、全部学生たちで 1回は、自分がもう、よく間違えるものは皆間違えるんですよ、皆。で、皆、全部チェッ クができるんですよ。
まず、この語りからはミレ先生は自分の実践を綿密に言語化していることが分かる。
詳しいやり方からその目的と教師の意図が語られている。この語りから、ミレ先生は小 テストをウォームアップや復習のためのものとして位置づけており、小テストを実施し ているミレ先生の意図は、学生に多く見られる誤用を全体で確認させたいことにあるこ とが分かる。しかし、上記の語りと関連し、筆者は授業へのウォームアップや復習のた めのものとして必ず小テストという形を採る必要があるか、テストという形は学生にと って負担にならないかとミレ先生に問いかけた。これに対し、ミレ先生は「小テストの どこが、なぜ負担になるというのか。10問しかなく、しかも勉強したものをチェックす るだけのものなのにそれが負担になるとは思えない」と主張しており、ウォームアップ や復習のためのものとして「小テストという形」がいいと確信していることが分かる。
また、1回目の3CFで、ミレ先生は会話の授業における活動は散漫になってはならな いという発言を何回も繰り返していた。この発言に対して、ナ先生は活動が散漫になら ないことと自由に学生同士で話し合うことには相反する面があると判断し、以下のよう はことをミレ先生に問いかけている。
トピック<教育1-6>と<教育1-7>から(日本語訳)
ミレ先生:<前略>そうしてワークシートを作成して、会話…その勉強した文型を1回全部 やらせるんですよ。4つ(の文型)を勉強したなら、その4つについてのワークシートを作 成して学生たちに配って「全部、話してみてね」って、それで、それを、まあ、1、2人 ぐらい発表させたりして私が回収して、学生たちが作成したものをまた回収して、私がフ