第6章 韓国の大学での事例: ミレ先生の事例
2.2 コンフリクトを乗り越える
2回目の3CFの後、G高校とE大学は夏休みを迎えて「ピア・サポート」は休止期に入 り、2012年9月から再開された。再開の前に、ミレ先生は2012年8月に筆者宛のメール に「来学期からは会話のクラスは担当しなくなって10年もやってきている初級の読解ク ラスを担当することになった。初級の読解クラスは慣れきっていてわざわざ変える必要
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性を感じないから、共同研究(『ピア・サポート』のこと)から抜けたい」との連絡をし てきた。筆者は戸惑いを感じながらも「クラスは違っても教える人は同じなのだから、
共同研究を続けたら、きっと改善のためのいいヒントが得られるかもしれない。せっか く一緒にやってきたのだから続けましょう」と正直な気持ちで「ピア・サポート」の継 続的な遂行を促した。その後、ミレ先生は「せっかく始めたのだから、やりつづけまし ょう」という決断を下し、「ピア・サポート」は中断されることなく、無事に再開され ることとなった。
2012年9月16日に行われた3回目の3CFで対象となったミレ先生の実践は、同年9月11 日実施のものであった。この2012年9月から11月まで「ピア・サポート」の対象となっ たミレ先生の実践は、1週間に1回、2コマ120分の読解授業で、典型的な構造シラバス の教科書の使用が指定されていた。この教科書は、1980年代に執筆され、その後、何 回の改定はあったものの、内容は「文法事項と文型の提示」、「本文の訳読」、「練習 問題(韓国語の日本語訳と日本語の韓国語訳)」の順で進めるようになっていた。そのた め、この科目は、必然的に誰が担当してもオーディオ・リンガル・アプローチに近い教 授法を使って教師主導の文法積み上げ式の授業にならざるを得なかった。ちなみに、20 12年9月11日のミレ先生の実践では、「『ます形』+ください」がメインの文法事項と して提示されていた。以下に授業の様子を紹介する。
2012年9月11日の授業で、ミレ先生は同年5月同様、授業を開始すると同時に小テス トを学生に受けさせていた。小テスト実施後は、教科書で学習内容の「~てください」
について文法の説明をしていた。文法の説明の後は、絵カードを学生に提示し、提示さ れた絵を見て「~てください」という文を作らせていった。絵カードによる文法練習の 後は、本文のCDでモデル音声を学生に聴かせ、ついて読む流れで進めた。その後は、
学生1人ひとりに本文を読んでもらい、韓国語で訳す流れで進めていった。
授業の後半は、図26のように、学生たちをペアにして、ミレ先生自作のプリントを見 ながら、「~てください」を使って質問・応答する活動に移った。このペア活動では、
学生たちは他のペアの活動の様子を集中して見ており、時々笑い声も上がっていた。ミ レ先生も終始笑顔で授業の雰囲気は非常に
和やかであった。ペア活動の後は、教科書 に戻り、文型練習の文を学生に読んでもら い、韓国語に訳す流れで進めていき、最後 は日本語の文は韓国語の文に、韓国語の文 は日本語の文に訳す練習問題に移り、学生 に教室の前に出てもらって板書させる形で 進めていた。学生に書いてもらった文には、
ミレ先生が1つひとつにフィードバックをし
ていく形で進めて終了となった。 図26 ペア活動による文型練習
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上記のミレ先生の実践を対象として2012年9月11日当日にナ先生と筆者とで行った2C Fの内容の一部を以下に紹介する。
★よかった点<教材・教具利用の面で>★
・5月に比べ、絵カードとCDのネイティブの音声を利用した点は素晴らしかったです。
授業が単調にならず、学生たちの集中力も続いていたと思います。<崔>
・本文の内容が確認できるようにプリント(本本と練習問題がA4用紙に書かれていた もの)の利用も授業時間中に復習ができるという点で素晴らしかったです。<崔>
★よかった点<授業運営の面で>★
・授業後半にペア活動を取り入れて学習内容の練習時に集中度が上がった点がよかっ たです。何よりも、ペア活動を通して1人ひとりにクラスメートとの交流と練習がで きた点が「教室コミュニティ」のような感じにしてくれる役割を果たしたと思いまし た。<崔>
・ペア活動の時に、単語の形を変えさせる練習ではなく、文全体で練習させた点がよ かったです。<ナ>
・5月に比べ、明らかに教師の硬直さが減って、授業の雰囲気がより和やかになった と感じました。 <ナ+崔>
★考慮すべき点★
・絵カードの使用目的と使い方に違和感がありました。<ナ>
↓
・絵カードを使って学生に練習させたいものが「基本形→て」、 「~てください」
だったと思います。それなら、絵カードに「基本形を書いておかないと」いけなかっ たのはないでしょうか。基本形を学生が見て「~てください」に変えられるようにな ってはじめて絵カードの使用目的に合った活動になると思われます。せっかく絵カー ドを導入したのだから、教師の意図が学生に伝わるものであればよかったというとこ ろは残念でした。<ナ>
[質問]
・授業運営において5月に比べてかなり柔軟になって硬直さもなくなったことが肌で 感じられました。もし、この共同研究の影響はあるのでしょうか。あるなら、どんな 影響ですか。<主に崔+ナ>
<2012年9月11日の2CF紙媒体の資料から>(日本語訳)
ミレ先生の授業は2012年5月に比べ、非常に和やかでありながらも躍動感のあるもの になっていた。文法中心の授業ではあるが、絵カードの利用やペア活動の導入などで学
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生たちに発言させる工夫がされており、同年5月のようにほとんど教師1人で発言する形 からかなり変化していたのである。むしろ、2012....
年. 5.
月の会話の授業に比べ、同年.............
9. 月.
1. 1.
日の読解の授業のほうが会話の授業................
に.
見えたほどであった.........
。3ヶ月間の休止期があった にもかかわらず、ミレ先生の実践は、担当科目は変わっていても、2012年5月の「ピ ア・サポート」初期から大きく変わっており、「分かりやすいかつ楽しい文法マスター のための授業」の実現のために進化していたとも評価できる。以下の3回目の3CFでの 対話からミレ先生の実践改善の理由が一目瞭然に分かる。
トピック<日本語3-2>から(日本語訳) 崔:あ、これの説明は(ナ)先生が…
ナ先生:ああ、その時、そのう…「立つ、立ってください(日本語で)」、学生たちが…、
教えてから、このう…「読んでください(日本語で)」って教えたじゃないですか。その時、
僕もこういうことを考えてたんですけど、あっち(崔)もそういうことを考えてたみたいな んですけど、どういうふうに…、その…「立つ、読む(日本語で)」が出てきたんだから、
そのう…「立って読んでください」、こういうのも導入していたらどうだったのかと考え てたんです。<中略>
ミレ先生:うん…ですから、最初にこの「~てください(日本語で)」をする時に、こうい うふうに教室でできることがたくさんあって、さっき、そのう…、私が文脈を提示してさ せる練習もあったし、すごく「~てください(日本語で)」と関連してたくさんあったんで すよ。で、それを全部は導入できないから、どうしようかなと思ってたんですけど、もし 最初から語法説明の時にこれ(~てください)を入れて、教室で使えるものを入れてやって たらよかったのに、私が単語の説明もできずに、語法説明に使う単語には何を入れようか を…ちょっと……具体的にこれを入れてやればよかったまで考えず、語法説明をいつもの ようなやり方で、思い浮かぶ単語でやってたから、「う・つ・る、む・ぶ・ぬ(日本語 で)」だけを説明してたから出来なかったと思います。これを次回にやるときは、もうち ょっと教室内で使えるものを入れて説明をすると、もうちょっと…活用的なことをやるの だからいいと思います。はい、次回から必ずやらなきゃいけないと思います。
上記の対話におけるミレ先生の対話のパターンに注目しておきたい。ミレ先生は、
「1つの動詞だけにとどまらず、複数の動詞を使って『~て~てください』の練習も できたのではないか」というナ先生からのアドバイスに対して、自分の実践を綿密に 分析しながら答えている。ミレ先生は、「私が先に文脈を提示して学生に答えてもら う練習もあったが、用意してきた全部の文脈は導入できなかった」、「授業の最初の 文法説明の時に導入してから活動で利用すればよかった」、「単語の説明ができずに、
説明で使う単語を悩んでいた」、「いつものやり方で練習させていて、具体的な単語 の提示の仕方までは工夫できていなかった」、「次回からは練習時に使う単語を必ず
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考えてから授業に臨まなければならないと思う」と非常に具体的かつ綿密に自分の実 践を言語化すると同時に分析しており、次回の実践で変えたいと思う点まではっきり と述べている。このようなミレ先生の対話における「実践の言語化と分析」のパター ンは頻繁に見られている。しかも、実践の分析から「これからどうしよう」と悩むこ とはほとんどなく、「こういうことが分かったから、次回からはこういうふうに変え る」と「実践の再構築」にまで言及しているのである。一方、ナ先生の対話のパター ンでは、「実践の言語化」はあるが、「実践の分析」は少ないことからナ先生の実践 には変化が起きにくかったと推察できる。この対話のパターンと実践の改善の関係に ついては、第7章の2.2で「ピア・サポート」の2つ目の成果として詳述する。
また、ミレ先生の自分の実践に対する愛情と真摯さ、勤勉さも実践改善に大きく働 いていたと考えられる。以下の3回目の3CFでの対話を紹介する。
トピック<日本語3-2>から(日本語訳)
ミレ先生:(今学期)初日の授業をしていたら、どういうふうにすれば、学生たちともうち ょっと一緒に、なぜなら以前の読解授業は本当に…(「ピア・サポート」で対象とした)2 回目の授業の長いバージョンみたいなものだったんですよ、初日の授業で語法説明をした のは除いて、で、本当に…悩んだりしながら、たくさん悩んで考えたものからまたたくさ ん省いて、なぜならあまりにも行ったりきたりすると散漫になるから、また削るものは削 って、で…作り上げた授業だったんですよ。で、またこれから補うものは補っていくとい いんですけど、とにかくこの授業も相当たくさん考えたうえでやった授業だったんですよ。
ナ先生:このように常に…たくさん考えていらっしゃるから、先生は僕から見れば、限り なく成長できる可能性をたくさん持っていらっしゃると思うんですよ(笑)。
崔:前回、最初の、僕たち1回目の(3CF)で出てたコメントがそれだったんですね(笑)。
この対話からもミレ先生は、「ピア・サポート」の休止期にも絶えず、2012年5月の 授業の振り返りから2012年9月の新学期の授業の組み立てなおしについて悩みに悩んだ ことが分かる。「教師が一方的に発言するのではなく、学生と一緒に何かできることは ないか」、「そうするためには従来の授業の何と何と削ればいいのか」を悩みに悩んだ 末、2012年9月11日の授業を組み立てて実践を行っていたのである。ストイックという ほど、「よりよい」実践のためのミレ先生の努力には、筆者も、ナ先生も脱帽してしま い、「限りなく成長できる」と感嘆していた。ミレ先生には、実践に対する真摯さと勤 勉さ、実践を言語化して分析する能力と再構築に繋げる行動力があったのである。
時間が経ち、4回目の3CFは、2012年9月23日に行われた。4回目の3CFで対象となっ たミレ先生の実践は、2012年9月18日に実施した授業で、教科書には状態を表わす「~
ている/~てある」がメインの文法事項として提示されていた。ミレ先生は、この日の 授業では、前半の60分の1時間目に文法の説明を、後半の60分の2時間目にクイズ作り